- 1. 砥部焼の特徴と魅力
- 使い勝手のよさが魅力
- 伝統的なデザインは白地に青の染付
- 手仕事ならではの品質の高さと窯元ごとの独創性
- 2. 砥部焼の歴史
- 砥石が地名の由来
- 砥部の焼き物のはじまりは陶器から
- 現在の砥部焼の祖=試行錯誤ののち完成した磁器
- 陶石の発見が、ブランド力を高める
- 明治以降は海外輸出が盛んに
- 民藝運動の提唱者により再び脚光を浴びる
- 3. 「砥部焼まつり」の楽しみ方(毎年4月第3土・日曜に開催)
- 窯元が一堂に会する砥部焼の祭典
- 「砥部焼まつり」第1会場の見逃せないイベント
- 「砥部焼まつり」第2会場の見逃せないイベント
- 2024年砥部焼まつりの開催概要
- 4.「秋の砥部焼まつり」の楽しみ方(毎年11月第1土・日曜に開催)
- 60軒以上の窯元が集い展示即売 秋の恒例陶器市
- いつ行っても楽しめる!イベント盛りだくさんのステージ
- 2023年秋の砥部焼まつりの開催概要
- 春・秋の砥部焼まつりへのアクセス
- おわりに
愛媛県の県央部・中予地方に位置する砥部町(とべちょう)は、「砥部焼」の生産地として知られています。
砥部焼といえば、200年以上の歴史があり、伝統的工芸品にも認定されている格式ある焼き物。春と秋には「砥部焼まつり」が開催され、毎年多くの人で賑わうほど、ファンが多い焼き物でもあります。
この記事では、まず砥部焼の特徴や歴史などをご説明した後、春・秋の「砥部焼まつり」について、ご紹介していきたいと思います。
TOP写真:砥部焼の器(写真提供 愛媛県観光物産協会)
Special Thanks:梅山窯
※本記事は2024年2〜3月時点の情報をもとに制作しています
1. 砥部焼の特徴と魅力
使い勝手のよさが魅力
砥部焼は磁器の中では厚みがあるため、丈夫で割れにくいのが特徴。頑丈なので食洗機でも使え、金彩・銀彩など金属系の釉薬を使っていなければ、電子レンジでも使えます。磁器なので、水に長時間浸けてもOK。台所用漂白剤で浸け置き洗いもできますよ。
器に熱が伝わりにくいため、持っても熱くないのに、料理が覚めにくいという特徴もあります。縁が丸くなってこぼれにくい「玉縁鉢(たまぶちばち) 」など、実用的な器が多めなのも砥部焼の特徴。
日用雑器中心で値段が手ごろなので、普段使いしやすい焼き物です。
梅山窯(ばいざんがま)の玉縁鉢。梅山窯は、現存する砥部焼の窯元の中ではもっとも古い窯元です(写真提供:梅山窯)
伝統的なデザインは白地に青の染付
白地に呉須(藍色の顔料)の染付が、砥部焼の基本スタイル。手描染付による表情豊かな線が特徴です。
自然をモチーフにした文様が多く、代表的な唐草文(からくさもん)は、つる植物がモチーフ。現存する最古の砥部焼窯元である「梅山窯(ばいざんがま)」の陶工が、昭和40年代に生み出しました。
ほかの代表的な絵柄としては、太陽文、なずな文、十草(とくさ)文、赤絵三つ葉文などがあります。
梅山窯の丸皿。左上:唐草文 右上:太陽文 左下:なずな文 右下:十草文(写真提供:梅山窯)
手仕事ならではの品質の高さと窯元ごとの独創性
砥部焼は、職人の高度なろくろ技術や絵付け技術が光る焼き物です。
家族単位や小・中規模の窯元が多く、作家名よりも窯元名で活動することが多いです。伝統を追求する窯元や、若手作家や女性作家による斬新でモダンな作品を発表する窯元など、窯元ごとに個性があります。
2. 砥部焼の歴史
砥石が地名の由来
砥部という地名は、もともとこの場所が砥石の産地だったことが由来。奈良県・東大寺の正倉院に保管されてきた「正倉院文書」には、砥部周辺でとれた砥石「伊予砥」に関する記述があります。
砥石が採掘されていた砥石山(写真提供:砥部町)
砥部の焼き物のはじまりは陶器から
江戸時代中期、1740(元文5)年に書かれた『大洲秘録(おおずひろく)』という本には、砥部町の大南(おおみなみ)と北川毛(きたかわげ)の特産物として「陶茶碗之類ヲ造リ出ス、トベヤキトイフ」という記述があります。陶器がこの頃から作られ、「トベヤキ」と呼ばれていたことがわかります。
現在の砥部焼の祖=試行錯誤ののち完成した磁器
江戸時代中期、安永年間(1772~1781年)に、大州(おおず)藩主・加藤泰候(かとう やすとき)の命により、杉野丈助(すぎの じょうすけ)が責任者として磁器の製造を開始。肥前(現在の佐賀県と長崎県)の陶工の指導を受け、磁器の焼成に成功したのが、砥部焼の始まりとされています。
大州藩主・加藤泰候が磁器の製造を始めようと思い立った理由はいくつかあります。ひとつは新しい産業をおこすことで国を豊かにしようと考えたから。もうひとつは、砥石の採掘の際に出る砥石屑が川に流れ、近隣住民から苦情が出ていたからでした。
こうして加藤泰候が奉行・加藤三郎兵衛に磁器作りを命じると、加藤三郎兵衛は大阪の砥石問屋から、九州の方で砥石屑を原料にして磁器を作っているという話を聞きます。
加藤三郎兵衛はさらに杉野丈助に磁器作りを任せ、杉野丈助が実質的な責任者となって磁器作りの試みが始まります。杉野ははじめ、磁器の焼成に何度も失敗しました。しかし、筑前上須恵窯の釉薬を使ったことで、磁器の焼成を成功させることができました。
その後、三秋(みあき、伊予市)で釉薬の原料石を発見したことで、釉薬が安定的に供給されることになります。
「陶板の道」の途中にある「陶祖ヶ丘」。磁器づくりに成功した杉野丈助はじめ、砥部焼を支えてきた人物を称える碑が建てられています(写真提供:愛媛県観光物産協会)
杉野丈助が窯を開いた五本松(現・砥部町五本松)の町並み。今も多くの窯元があります(写真提供:砥部町)
陶石の発見が、ブランド力を高める
1818(文政元)年には、向井源治(むかい げんじ)が砥部町の川登(かわのぼり)で陶石を発見。砥石屑の代わりに使用することで、より白い磁器を作れるようになり、砥部焼の名を広めるとともに、生産額も増やしました。
1825(文政8)年には、亀屋庫蔵(かめや くらぞう)が藩から選ばれ、肥前で錦絵の技法を習得し伝えることで、砥部焼は新たな領域に。歴代藩主の奨励・庇護により生産された砥部焼は、四国・中国地方に販路を拡大します。
伏見(京都)~大阪間を運航する三十石船の中では、砥部焼の「くらわんか茶碗」も使われました。「くらわんか茶碗」は高台が高く安定するため、船の中でも食事できる優れモノです。
梅山窯のくわらんかの飯碗(写真提供:梅山窯)
明治以降は海外輸出が盛んに
1878(明治11)年、伊藤五松斎(いとう ごしょうさい)が有田から陶工を招き、型絵・染付を広めます。また、2代目向井和平(むかい わへい/向井源治の曽孫)は伊達幸太郎(だて こうたろう)を京都に派遣し、西洋彩画を学ばせました。
向井は、1880(明治13)年から京焼風の絵付け作品を作るようになり、1885(明治18)年、砥部焼を初めて清国へ輸出。1890(明治23)年には淡黄磁(たんおうじ)を製作開始し、1893(明治26)年にシカゴ博覧会で1等賞を受賞します。
第1次世界大戦(1914~1918年)中は、「伊予ボール」という名の型絵染付茶碗中心に砥部焼の輸出が盛んとなり、生産量の約8割を輸出品が占めるまでになりました。
1881(明治14)年、向井和平作の「色絵金銀彩花蝶文瓶(いろえきんぎんさいかちょうもんへい)」(出典:国立博物館所蔵品統合検索システム|色絵金銀彩花蝶文瓶)
民藝運動の提唱者により再び脚光を浴びる
大正末から昭和の初めにかけては、新しい技術を導入しなかったため、砥部焼の生産や販売が落ち込みます。
その流れを変えたのは、1953(昭和28)年、民藝運動を提唱した柳宗悦(やなぎ むねよし)や浜田庄司(はまだ しょうじ)らの砥部訪問でした。砥部では手仕事の技術が残っていることが評価されたのです。1956(昭和31)年には、同じく民藝運動に関わる富本憲吉(とみもと けんきち)が砥部焼の近代的デザインを後押しし、砥部焼はさらに再評価されるようになりました。
1976(昭和51)年には、陶芸品としては全国で6番目の、国の「伝統的工芸品」に選ばれています。
3. 「砥部焼まつり」の楽しみ方 (毎年4月第3土・日曜に開催)
窯元が一堂に会する砥部焼の祭典
2024年で39回目を迎える「砥部焼まつり」。毎年4月の第3土・日曜に開催されるイベントです。第1会場の「砥部町陶街道ゆとり公園」と第2会場の「砥部焼伝統産業会館」および「砥部町商工会館」で同時開催されます。
「砥部焼まつり」第1会場の見逃せないイベント
第1会場の体育館で開催される「砥部焼大即売会」は、砥部焼まつりのメインイベント。約70軒の窯元の作品約10万点が勢ぞろいします。平台に窯元別に展示されている商品を、手に取りながら選べますよ。
食器や美術工芸品などが通常よりもお得に購入できるので、人気の商品は売り切れてしまう可能性大。お目当ての窯元さんがある方は、早めの来場がおすすめです。
砥部焼まつり・第1会場のようす(写真提供:砥部町商工観光課)
6000円ごとのお買い上げで砥部焼の「記念品」プレゼントという特典もありますよ。(各日先着1000個)
第1会場ではほかに、
●体育館2階を会場に郵送での受け取りも可能な「絵付け体験」の実施
●県内物産即売会
●砥部町イメージキャラクター「とべっち」などのご当地キャラが会場内を散策
●お好みの砥部焼のマグカップを選び、ドリンクと焼き菓子を楽しめる「カフェEBOT(エボット)」
などのイベントが開催されます。
「砥部焼まつり」第2会場の見逃せないイベント
第2会場のメインイベントは、若手作家からベテラン作家までの作品をお得に購入できる「砥部焼チャリティーオークション」です。
砥部焼伝統産業会館で開催される「砥部焼新作展」は、「砥部焼まつり」開催日は受賞者が作品解説を行い、入場も無料になります。
第2会場ではほかに、
●餅まき
●県内物産即売会
●砥部焼の里スタンプラリー
などのイベントが開催されます。
2024年砥部焼まつりの開催概要
●名称:第39回 砥部焼まつり
●日程:2024年4月20日(土)・21日(日)
●時間:
第1会場……20日 9:00〜20:00/21日 9:00〜17:00
第2会場……両日 9:00〜17:00
●会場:
第1会場……砥部町陶街道ゆとり公園(愛媛県砥部町千足400)
第2会場……砥部焼伝統産業会館(愛媛県砥部町大南335)
砥部町商工会館(愛媛県砥部町大南394)
●関連サイト:第39回砥部焼まつり|愛媛新聞ONLINE
●駐車場:約1200台(第1会場と第2会場の3カ所合計)
※第1会場は[砥部町陶街道ゆとり公園]と[砥部町役場]、第2会場は[砥部焼伝統産業会館第2駐車場]が最寄りの駐車場です
2024年・第39回 砥部焼まつりのポスター(画像提供:砥部町商工観光課)
4.「秋の砥部焼まつり」の楽しみ方(毎年11月第1土・日曜に開催)
60軒以上の窯元が集い展示即売 秋の恒例陶器市
「秋の砥部焼まつり」の開催期間は、毎年11月第1土曜・日曜。60軒以上の窯元さんが秋の新作を含めた作品を展示即売します。会場は「砥部焼まつり」と同じく、砥部町陶街道ゆとり公園です。
「秋の砥部焼まつり」では、窯元ごとに、屋外に設置されたテントに作品を並べて展示即売します。棚にディスプレイしたり、テーブルに平積みしたり、器の並べ方でもお店ごとの個性が感じられます。
秋の砥部焼まつりの様子(写真提供:砥部町商工観光課)
出展者さんが対面販売を行うので、直接お話ししながら買い物できるのが魅力のひとつです。
通常よりも感謝価格で販売されるので、ぜひ掘り出し物を探してみてください。
いつ行っても楽しめる!イベント盛りだくさんのステージ
アナウンサーが司会進行をつとめるステージでは、餅まき、ジャズをはじめとした様々なジャンルのライブ、郷土芸能の獅子舞、砥部焼オークション、お楽しみビンゴ大会など、1日中イベントが開催されます。ひと息つきたいときに、立ち寄ってみるのもいいですね。
秋の砥部焼まつり・ステージでの餅まきの様子(写真提供:砥部町商工観光課)
「秋の砥部焼まつり」ではほかに、町産品販売やグルメ、絵付け体験などのイベントも楽しむことができますよ。
なお、11月第1日曜には、砥部町陶街道ゆとり公園から南に約25kmの砥部町ひろた交流センターで「広田ふるさとフェスタ」も同時開催。郷土芸能や歌謡ショー、景品付き餅まきなどのイベントもあるので、お時間がある方は立ち寄ってみてはいかがでしょう。
2023年秋の砥部焼まつりの開催概要
●名称:秋の砥部焼まつり
●日程:2023年11月4日(土)・5日(日)
●時間:4日 9:00〜17:00/5日 9:00〜16:00
●会場:砥部町陶街道ゆとり公園(愛媛県砥部町千足400)
●関連サイト:-
●駐車場:普通車約1000台(砥部町陶街道ゆとり公園)
※このほか砥部町役場にも駐車できます
春・秋の砥部焼まつりへのアクセス
バスでのアクセス
【砥部町陶街道ゆとり公園へ】
①伊予鉄[松山市駅]より伊予鉄バス・砥部線(大街道経由)に乗車。[砥部町役場西バス停]で下車、徒歩約15分。
②JR[松山駅]よりジェイアール四国バス・久万高原線に乗車。[砥部町中央公民館前バス停]で下車、徒歩約15分。
【砥部焼伝統産業会館へ】
①伊予鉄[松山市駅]より伊予鉄バス・砥部線(大街道経由)に乗車。[砥部焼伝統産業会館前バス停]で下車、徒歩約1分。
②JR[松山駅]よりジェイアール四国バス・久万高原線に乗車[砥部バス停]で下車、徒歩約15分。
●伊予鉄バス・砥部線の時刻表はこちらから:路線図・時刻表|伊予鉄
●ジェイアール四国バス・久万高原線の時刻表はこちらJRから:久万高原線|JR四国バス
車でのアクセス
【砥部町陶街道ゆとり公園および砥部焼伝統産業会館へ】
①松山市街から国道33号線を高知方面に約30分、松山自動車道[松山I.C.]から国道33号を高知方面に進み、約10〜15分で到着
●砥部町観光サイト内、町の所在地と交通案内ページも併せてご確認ください
おわりに
砥部焼の歴史や特徴と魅力、陶器市などについてご紹介してきました。
陶器市のシーズンは窯元が一堂に会するので、器を見比べながら選ぶことができます。また、通常よりもお得に買い物することもできますよ。
「秋の砥部焼まつり」では、窯元や職人さんと直にお話しできるかも。
初めて砥部町を訪れる方は、ぜひ陶器市の日に予定を合わせて出かけてみてくださいね。
Text:柿生亜実
WEBライター。神奈川県出身。コンピューターメーカーに15年勤務した後、フリーライターに。旅行関連の執筆が得意。旅、ママチャリでのサイクリング、海外ドラマ・アート・音楽鑑賞が趣味。海外は22カ国、国内は30数都道府県に訪れた経験あり。図書館司書の資格を活かしたリサーチ力が武器。『さんたつ』公式サポーター。執筆業の傍ら、絵を描くことも。2007年にはノートで知られるイタリアの製紙会社・モレスキンによる旅行記コンペ「モレスキン・トラベルブック・コンペティション」にて優秀賞を受賞するなど、絵描きとしての実績もあり。
Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考書籍/webページ/動画:
大石慎三郎監修『江戸時代 人づくり風土記38 愛媛』(農山漁村文化協会)
神崎宣武著『47都道府県・やきもの百科』(丸善出版)
陶工房編集部編『やきものの教科書』(誠文堂新光社)
愛媛県高等学校教育研究会地理歴史・公民部会編『愛媛県の歴史散歩』(山川出版社)
JTBパブリッシング 旅行ガイドブック 編集部編『るるぶ愛媛 道後温泉 松山 しまなみ海道'24』(JTBパブリッシング)
『砥部焼』パンフレット(砥部町発行)
下中邦彦編『やきもの事典』(平凡社)
砥部焼の誕生その1|砥部町
砥部焼とは|砥部焼陶芸館
砥部焼の歴史|砥部町
中予ってどんなところ?|中予地方局
「砥石」のまちから「やきもの」のまちへ -陶石原料からみる砥部焼の歴史とこれから|株式会社白青
梅山窯の器について|梅山窯
データベース『えひめの記憶』 ※「愛媛県史 地誌Ⅱ(中予)(昭和59年3月31日発行) 四 砥部焼(1)」、「愛媛県史 社会経済3 商工(昭和61年3月31日発行)1砥部焼の発展」、「愛媛県史 芸術・文化財(昭和61年1月31日発行)四 伊予の陶磁器」、「砥部町 向井和平(1842~1904)」参照
有限会社 伊予鉱業所
砥部焼専門店/砥部焼の浜陶
秋の砥部焼祭りに参加してきました|明朗社
砥部焼の通販|砥部工房 からくさ
コトバンク
にっぽん ぐるり ひめDON!「“餅まき”のディープな世界徹底調査|NHKアーカイブス
【愛媛】2023春/第38回砥部焼まつり/会場レポ&購入品紹介【砥部】|vlog(振り向けば柴)
【税理士の休日】~砥部焼まつりに行きたい!~(えひめの良いとこ発掘ちゃんねる)
231104愛媛県;砥部焼きまつり第360話:2023砥部焼きまつり開催>世界でひとつの貴方の焼き物を探してね!(どらじいチャンネル)
各種パンフレットほか