日本でも注目されている「リノベーションビル」
鹿児島市に誕生した注目のリノベーションビル「レトロフトチトセ」
本の小径が続く「古書リゼット」
直火焙煎・ハンドドリップのコーヒーが人気「KISSACOミツタ」
自家製ソーセージのホットドック「Hananoki Farmlab」
隠れ家のようなギャラリー「カベレフト」
有機野菜農園が直営する「農園食堂 森のかぞく」
「レトロフトチトセ」が誕生したワケは?オーナーの想いとは
まとめ

鹿児島市役所の近く、昭和の街並みが色濃く残る「名山町(めいざんちょう)」に、一軒の雑居ビルが佇んでいます。ビルの名前は「レトロフトチトセ」。パッと見は古さを感じるビルですが、その中に広がるのは、古書やアートが詰まった個性的な空間です。

今回は、今、海外からの旅行者からも注目されるリノベーションビル「レトロフトチトセ」の魅力に迫ります。レトロフトチトセ誕生の経緯や、ビルに入るテナントの特徴はもちろん、ユニークなビルを運営するオーナー夫妻の想いを紹介します。

日本でも注目されている「リノベーションビル」

海外、特にヨーロッパの街並みには、古い建物が多いといいます。実際、東京の中心地は比較的新しいビルが目立つのに対し、パリやロンドンといった街には築100年以上の建物が多く、しかもいまだに現役で利用されているのだそう。

これは日本とヨーロッパで、そもそも建物に対する認識が違うから。採用する工法ももちろん異なりますが、ヨーロッパの国々では、家すらも、「何世代にも渡って住める家」を造ることが一般的なんです。

ヨーロッパの街並み

古い建物を生かした海外の街並み

もちろん古い建物を利用し続けるには、定期的な補修や、必要に応じたリノベーションが不可欠。ヨーロッパの古い建物も、時代や住む人に合わせたリノベーションを繰り返しながら今日まで生き延びてきました。

日本でも昨今、歴史を刻んできた古民家や古いビルといった建物を残しつつ、リノベーションをして新しい価値を生み出すという活動がさかんに行われています。特に人口が減りつつある地方では、市町村がリノベーションを積極的に行っているケースも。

レトロな外観はそのままに、内部を全く新しいものへと造り変える大掛かりなリノベーションを、新たな観光資源に。そんな動きのもと誕生したのが、今回紹介する鹿児島市のリノベーションビル「レトロフトチトセ」です。

鹿児島市に誕生した注目のリノベーションビル「レトロフトチトセ」

レトロフトチトセ入り口

レトロフトチトセ入口

今回紹介する「レトロフトチトセ」は、鹿児島市役所に近い大通り沿いにあります。市電の「朝日通り電停」から徒歩2分、さらに通りを挟んだ反対側には空港と市内を結ぶシャトルバスの停留所があるなど、アクセスも良好。

1966年に建てられた鉄筋5階建てビルは、建築から数十年に渡って店舗や倉庫(1・2階)、アパート(3〜5階)として利用されてきました。リノベーションによって現在の姿になったのは2012年のこと。

レトロフトチトセの外観は、一見するとどこにでもありそうな古いビル。しかしその内側は、「本の回廊」が続く古書店をはじめ、自家焙煎のカフェ、ホットドックスタンド、写真家のギャラリーやデザイン事務所などがひしめき合う個性的な空間です。

現在は、リノベーションされた1階部分を中心に、ユニークな店舗が集まっているのだそう。それではレトロフトチトセの中を覗いてみましょう。

本の小径が続く「古書リゼット」

古書リゼット

壁一面を本が埋め尽くす「古書リゼット」

レトロフトチトセのコンセプトは「ブックパサージュ」。

「passage(パサージュ)」はフランス語で「小径」という意味ですが、その言葉通りフロア全体がまるで「本に囲まれた小径」や「回廊」のようです。人ひとりがやっとすれ違えるほど細い通路の両側には、天井まで本がびっしり詰まっています。

古書リゼットの回廊

さまざまなジャンルの古書が並ぶ

2つの通路が設けられたこの空間は、「古書リゼット」という古書店。それぞれ10mほどの長さがあり、左右は全て本で埋め尽くされています。

通路をつなぐ回廊にも絵本や洋書などがディスプレイされており、置かれている本は、児童書から小説、学術書、鹿児島の郷土史などさまざま。一般の本屋ではまず見かけないような大型の洋書なども置かれているので、気の向くまま、目についた本をパラパラめくってみるのも楽しいですよ。

本で埋め尽くされた店内

絵本や洋書などマニアックな本が見つかるかも

気に入った本が見つかったら、鉛筆書きの値札を確認してからカウンターへ。思わぬ掘り出し物が格安で手に入る(かもしれない)のも、古書ならではの魅力です。

直火焙煎・ハンドドリップのコーヒーが人気「KISSACOミツタ」

KISSACOミツタ

「KISSACOミツタ」の入り口

本棚の途中にポッカリと開いた入り口。その奥にあるのが直火焙煎・ハンドドリップが自慢のカフェ「KISSACOミツタ」です。コーヒーの専門店ですが、実はインドカレーなどのカレーメニューも有名。店内にブックパサージュの本を持ち込むのもOKだそう。

自家製ソーセージのホットドック「Hananoki Farmlab」

Hananoki Farmlab

「Hananoki Farmlab」のカウンター

ブックパサージュの端に構える店舗「Hananoki Farmlab(ハナノキファームラボ)」は、自家製ソーセージが自慢のホットドックスタンド。

ソーセージだけでなく、パンやケッチャップまで大隅半島にある福祉農場「花の木ファーム」で手作りしているそうです。噛みごたえたっぷりのソーセージは、まるで「肉の塊」を食べているような感覚。肉好きにはたまらないですね。

隠れ家のようなギャラリー「カベレフト」

カベレフト

壁一面を自由に使った「カベレフト」

「カベレフト」は、ブックパサージュの突き当りに広がるミニギャラリー。

真っ白い壁に、鹿児島在住のカメラマン「安藤アンディ」さん撮影の写真がディスプレイされています(人物写真が多め)。基本的にカメラマン本人は不在ですが、代わりに撮影依頼用の連絡先が置かれていました。

有機野菜農園が直営する「農園食堂 森のかぞく」

森のかぞく

「森のかぞく」の入り口

1978年から有機農業に取り組む「園山農園」直営のカジュアルなレストラン。

野菜たっぷりのヘルシーなプレートや「ビビンバ」などのランチメニューと、数量限定のお弁当を販売しています。入り口はブックパサージュとは別で、古書店からではなく、外から入るスタイル。ブックパサージュの隙間から厨房の様子がちらりとうかがえました。

ブックパサージュからのぞく森のかぞく

ブックパサージュの一角から厨房が見える

ほかにも気になる空間がいっぱい

レトロフトチトセ地下部分

レトロフトチトセ地下のイベントスペース「リゼット広場」

ここまで紹介したテナントはすべてレトロフトチトセの1階にあります。

このほかにも、2階には貸しギャラリー「レトロフトMuseo」、地下にはデザイナーの事務所やイベントスペースの「リゼット広場」、野菜やお弁当などを販売する「森かぞストア」など、レトロフトチトセには気になる空間がいっぱい! ちなみにイベントのスケジュールはFacebookで告知しているそうなので、レトロフトチトセに訪れる前にぜひチェックしてみましょう。

【レトロフトチトセ 基本情報】
住所:鹿児島市名山町2-1 レトロフト千歳ビル
電話:099-223-5066
営業時間:11:00〜18:00 ※日曜は〜16:00
定休日:月曜、第2・4日曜 ※店舗により異なる場合あり

「レトロフトチトセ」が誕生したワケは?オーナーの想いとは

個性的な空間とテナントが魅力のレトロフトチトセ。実は今の形になるまでには、さまざまな葛藤や試行錯誤があったそうです。オーナーの永井明弘さんと友美恵さんに、レトロフトチトセが誕生した経緯とレトロフトチトセの「これから」について伺いました。

レトロフトチトセオーナー夫妻

レトロフトチトセオーナーの永井夫妻

ーーレトロフトチトセはもともとどのようなビルだったのですか?

明弘さん:私の父が「千歳商店」という靴の卸売商をしていて、1966年に自社の店舗兼倉庫、そしてアパートとしてこのビルを建設しました。その後1階と2階はテナント貸しをしていたそうですが、2000年に私がビルを受け継いだときには1階にカメラ屋さんが入居していただけで、2階はほったらかし状態でした。

ーー最初から今の形にリノベーションする予定でしたか?

最初からリノベーションしようと思っていたわけではなく、正直なところこのビルをどうしようかと途方に暮れていました。とりあえず空き室の目立ったアパート部分と空き店舗だった2階部分をなんとかするため、2005年にアパートをリノベーションして「若いアーティスト」向けの居住スペースを、2009年には2階フロアに、ギャラリー「レトロフトMuseo」をつくりました。

レトロフトMuseo

レトロフトチトセ2階のギャラリー「レトロフトMuseo」

ーーなぜギャラリーを作ったのでしょうか?

ひとつには、アパート部分に入居してくれた若いアーティストたちに「発表の場」を提供したいと思ったからです。加えて、県外や海外のアーティストを鹿児島に呼びたいという想いもありました。そのために、レトロフトMuseoの奥にはベッド、ミニキッチン、シャワーを備えた簡易宿泊スペースも設けています。

ーー1階のブックパサージュについておうかがいします。こちらはどんなこだわりを持って造られたのでしょうか?

2011年に1階フロアのテナントが退去し、そこからリノベーションを開始しました。ブックパサージュのコンセプトは、パリにあるブックカフェがベースになっています。友人からもらったブックカフェの写真が気に入り、そこから設計士さんと相談しながらイメージを膨らませつつ、細部を決めていきました。たとえば本棚は、実は何種類かの「箱」を組み合わせて作っています。そうすることでいろいろなサイズの本に対応できますし、見た目の変化も生まれるので…。表の部分はあえて凹凸を出して、奥行きを表現しました。

奥行きに変化をつけた本棚

大きさ、奥行きに変化をつけた本棚

友美恵さん:色にもこだわっています。実は本棚の青い色は、「ローマのナヴォーナ広場にある文房具屋さんの包み紙」の色なんですよ。もちろん色見本帳にはありませんから、ペンキ屋さんに何度も調合をお願いしました。

壁の色にもこだわる

「色」にもこだわりが

ーー入居テナントはどのような基準で選ぶのですか?

明弘さん:「古書店に合うかどうか」が基準になっています。そういう意味でどなたでも受け入れているわけではありませんし、無理にテナントを埋めるつもりもありません。逆にレトロフトチトセのコンセプトに合えば、起業したてでお金がないという方でも、3年間テナント料を割り引いて入っていただくこともあります。

レトロフトチトセのテナント

レトロフトチトセのテナント選びの基準は「古書店に合うかどうか」

ーー今後「入ってほしいテナント」などはありますか?

ぜひ、花屋さんに入ってほしいですね。それと現在、おいしいコーヒー屋さんがあるので、コーヒーと合うパン屋さんがあると素敵かなと思います。それとは別ですが、近いうちに購買部のような常設の店舗をつくる予定です。

ーーその他にレトロフトチトセとして目指していることはありますか?

友美恵さん:「文化の発信拠点」でありたいと思っています。2階の「レトロフトMuseo」や1階の「リゼット広場」でイベントを企画したり、個展を開きたいアーティストに場を提供したり…鹿児島にはギャラリーが少ないので、特に若い人にチャンスを提供することも狙いのひとつです。

明弘さん:ただの物販施設ではなく、「ここに来れば何かある」と思ってもらいたいですね。

おしゃれでユニークな「レトロフトチトセ」に迷い込んでみよう!

鹿児島はもちろん、全国的にもあまり類を見ないリノベーションビル「レトロフトチトセ」。

古本を中心としたユニークなコンセプトや個性的な空間に惹かれ、鹿児島県内だけでなく県外から訪れるリピーターも多いのだとか。少しでも興味を感じたら、ぜひレトロフトチトセに実際に足を運んでみてください!