この休暇にはどこへ行こう…せっかくの長い休みだし、普段なかなか行けない場所に行きたい…
日々の疲れを癒すために、都会から離れた大自然の中でのんびりと過ごしたいと考えたことはあるのではないでしょうか。
そんな時に旅行先としておすすめなのが、「世界自然遺産」。見たこともない絶景と生命力溢れる大自然に身を委ねれば、日頃の悩みや疲れが吹き飛ぶこと間違いありません。
今回は世界自然遺産に登録された日本国内の大自然の数々をご紹介します。ここを訪れれば、きっとあなたも壮大な景観と不思議に満ちた生態系に魅了されるはず。
世界自然遺産ってそもそもどうやって決まるの?
日本の世界自然遺産の一つ、小笠原諸島のクジラ
世界遺産は、国際連合の専門機関の一つであるユネスコが、人類全体のための遺産として保護、保存を行っている文化遺産及び自然遺産のこと。世界遺産条約は1972年に採択され、その20年後には日本も締結、国際協力と援助体制の構築に貢献してきました。
国際的に価値があると判断された遺産は学術的な審査を受け、世界遺産委員会にその価値が認められれば、世界遺産へと登録されます。
2021年時点で世界遺産の数は1,154件に上り、そのうち日本にあるものは25件。25件中5件の遺産が、世界自然遺産に登録されています。
自然遺産の数が5件、と言われると少ないようにも感じますが、実はそうでもないんです。日本の世界自然遺産の数は世界ランキング10位に入っており、国土面積の世界ランキングでは61位に入っていることを踏まえても、他国と比較して少ないということは全くありません。
では、日本の自然遺産についてもう少し詳しくご紹介しましょう。
未知の宝庫、世界自然遺産について
世界自然遺産に登録されるには厳しい審査を通過する必要がある
まず世界自然遺産に選ばれるためには、厳しい条件があります。例として、「『自然美』、『地形・地質』、『生態系』、『生物多様性』のいずれかを満たすこと」のような条件があり、これらを満たすことで唯一無二の価値を有する重要な地域として世界自然遺産に認められます。
このような審査を経て日本の世界自然遺産に登録されたのが、白神山地、屋久島、知床、小笠原諸島、奄美大島の5ヶ所です。
日本国内で楽しめる絶景として非常に人気のある世界自然遺産。数ある観光地の中でも一生に一度は訪れてみたい場所としても有名で、一年を通して国内外を問わず観光客が訪れます。
ここからはそれぞれの遺産の魅力と、世界自然遺産に登録された経緯についてもご紹介します。
【白神山地】世界最大級のブナ原生林
白神山地のブナ原生林は世界最大級
白神山地は、秋田県北西部から青森県南西部にまたがる広大な山地帯。多種多様な動植物が生息し、特に有名なのは世界最大級の原生的なブナ林。
その地理的機能性や美しさは高く評価されており、人の手が入らず貴重な生態系が保たれていることから、1993年12月に世界自然遺産に登録されました。
白神山地を訪れる時期は、特に4月から11月がおすすめ。春になると山開きが行われ、夏にかけて新緑が次第に深い緑色へと変化していきます。白神山地の最大の見どころであるブナ林の新緑が楽しめる4月中旬から5月が、メインシーズンの間でも特に観光客の多い時期だと言われています。
白神山地の秋のブナ原生林
10月頃になると森が紅葉によって色づき、秋の訪れを実感できることでしょう。夏の緑豊かな森から様変わりした白神山地は、まるでカラフルな絨毯に覆われたかの様。ゆっくりと歩くだけで満足のいく美しい風景が、訪れる者を虜にします。
広大な原生林はトレッキングスポットとしても人気があり、白神山地内の絶景を結ぶように原生林の間を通るトレッキングルートは、山歩きの初心者からも人気。白神山地を訪れた際には絶対に立ち寄っておきたいスポットを紹介します。
青池
実際よりも深いと錯覚させる青さ
白神山地の西側、青森県深浦町に位置する「青池」。
魅力的な観光スポットの多い白神山地の中でも、特にその神秘的な雰囲気からフォトスポットとしての人気もあります。訪れた誰しもが驚くのはやはりその青さ。その青さは、実際の水深よりも深いと錯覚させるほどです。
本来水は、赤い色を吸収し青く見える性質がある液体。青池の高い透明度と水の性質が組み合わさって、この様な色に見えていると考えられています。太陽の日照角度によっても色が変わり、特に4月から8月が見頃です。
十二湖と呼ばれる周辺一帯には、白神山地に点在する33の湖を繋ぐようにトレッキングコースが整備されています。青池までは休憩所として親しまれる「森の物産館 キョロロ」から歩いて10分ほど。季節と共に変わりゆく、青池を含む白神山地の木々を楽しみながら散策してみてはいかがでしょうか。
岳岱(だけだい)
岳岱自然観察協育林にそびえる巨木
秋田県藤里町に位置し、天然林を有する標高約620mの山、「岳岱」。正式名称は「岳岱自然観察協育林」と言い、白神山地内の世界遺産に指定されている地域に隣接する原生ブナ林で有名なスポットです。
ウッドチップなどで歩道が整備されており、一時間半ほどでコースを周れることから登山初心者でも歩きやすい山となっています。
岳岱の見どころは、苔むした巨岩と樹齢数百年のブナ林が埋めつくす緑色の世界。ブナだけでなく、イタヤカエデ、ヤチダモ、ホオノキ、サワグルミなどの大木を間近で見ることができ、秋には紅葉で色づく世界を楽しむことが出来ます。
世界遺産に登録された白神山地中心部とほぼ同様の自然環境であるため、水の透明度や生物種の豊かさも素晴らしく、時期によってはモリアオガエルの池に生息する黒サンショウウオを観察することができます。
特に観光客に人気なのは年に一度開かれる自然観察会。一帯を知り尽くしたガイドによる解説を聞けば、1人では気づかないような生物や植物を発見できるかもしれません。
岳岱の天然林の見ごろは5月下旬から10月下旬。白神山地へ新緑と紅葉の時期に訪れた際には必見の観光スポットです。
日本キャニオン
白い岩肌が特徴的な日本キャニオン
青池からほんの少しだけ離れたところにある「日本キャニオン」は、日本では珍しい凝灰岩でできた断崖です。その名前はアメリカ合衆国アリゾナ州にあるグランドキャニオンからヒントを得て命名されたのが由来。
展望台からは剥き出しになった白い岸壁が見え、その特異さが一目ではっきりと分かります。その白さから、青森県の日本海側を航行する船舶の目印にもなっているんだとか。
崖側に近寄って谷底に降りると、別の世界に迷い込んでしまったかのような独特な空間を味わうこともできます。その他にも周辺の通りからも白い岸壁を眺めることができ、別角度からの光景も楽しめるのが日本キャニオンの魅力とも言えるのではないでしょうか。
十二湖庵
十二湖庵のそばで湧き出る沸壺池の清水
白神山地の十二湖の一つ、「落口の池」の目の前にある茶屋、「十二湖庵」。散策で疲れた観光客を無料の抹茶と和菓子でもてなしてくれる、自然の中の休み処です。
茶屋のすぐそばには平成の名水100選にも選ばれた「沸壺池(わきつぼのいけ)の清水」が湧き出ており、茶屋で頂ける抹茶はその名水で点てられています。
十二湖を眺め、沸壺池から流れる湧き水の音を聞きながら、和菓子を頂く時間はまさに至福のひと時。
くろくまの滝
秋には紅葉がくろくまの滝の周囲を彩る
くろくまの滝は、青森県西津軽郡にある日本の滝百選に選ばれた滝です。源流が白神山地にあり、落差85mと青森県最大級。上流や支流には遊歩道があり、紅葉の時期には木々の彩りと合わせて写真に収めようと白神山地の難所を超えて訪れる観光客は少なくありません。
滝から流れ落ちる水の形が観音菩薩が合掌している様に見えることから、古くより信仰の場所とされてきました。
駐車場からは徒歩で15分。白神山地に生息する数多くの野生動物が共存する、ブナやミズナラ、カツラの林を抜けた先に待ち受ける荘厳なくろくまの滝は、秘境の中の絶景。あなたを包み込むように放たれるマイナスイオンで、心身ともに癒されること間違いありません。
見入山(みいりやま)観音堂
断崖絶壁の岩場に建てられた観音堂
青森県西津軽郡深浦町に境内を構える、「見入山観音堂」。洞窟の中に建てられた舞台造りのお堂で、津軽三十三霊場の第9番、札所の中でも難所として知られています。
創建は不詳ですが、一説には平安時代の高僧の智証大師(ちしょうだいし)によって開かれたのが始まりとされています。その後何度かの再建が行われ、その貴重さから1974年に深浦町指定名勝に指定されました。
観音堂に向かう参道の入口の鳥居をくぐるとさっそく急な坂と階段が。途中には所々に観音像が参拝客を見守るように立っています。更に進み、先に現れる不動堂の中に待ち構える不動明王のそばを通ると、ついに観音堂が見えてきます。
観音堂は断崖絶壁の岩屋にはめ込まれるような形で建てられており、建造当時の困難を感じられるほどです。山頂ではないため開けた景色を見ることは出来ませんが、静けさの中香る線香と眼下を流れる追良瀬川(おいらせがわ)の景色は道中の疲れを癒してくれるでしょう。
都心から離れた白神山地の周辺でも特に秘境と呼ばれる見入山観音堂。深い緑に囲まれた、長い歴史を持つ霊場に興味がある方には絶好のスポットです!
千畳敷(せんじょうじき)海岸
日本の夕日百選にも選ばれた千畳敷海岸
青森県西津軽郡深浦町にある千畳敷海岸は、白神山地周辺を訪れた観光客に人気のあるスポットです。
その昔、殿様が千畳の畳を敷いて酒宴を行ったとのいわれがあるほど広い岩棚は、地殻変動の影響によって隆起した段丘の一つ。その風変わりな形の岩と合わせ、観光客からは夕日が岩影の後ろに隠れていく光景が特に人気となり、千畳敷海岸は「日本の夕日百選」に選ばれました。
「日本の水浴場55選」に選ばれるほど、夏場には海水浴を楽しみに訪れる観光客も多い千畳敷海岸。イカがずらりと並んで干されているお食事処や民宿など、白神山地にはないレジャーを満喫できる人気スポットです。
千畳敷駅を通過する五能線普通列車と氷のカーテン
毎年1、2月になると、千畳敷駅の付近に冬の風物詩である「氷のカーテン」が現れます。高さは約20m、長さは約100mにも及ぶ氷のカーテン。12月ごろから次第に大きくなり始め、見頃の厳寒期には迫力ある姿を見せてくれます。
【屋久島】縄文杉だけじゃない!屋久島の魅力
日本初の世界自然遺産に登録された屋久島
屋久島は鹿児島県から南南西に約60km離れた海上に位置する島。屋久杉自生林を含め島の面積の約21%が1993年に世界自然遺産に登録されました。
世界的に特異な樹齢数千年の屋久杉や絶滅の恐れのある動植物を含む生態系を有し、海岸部の亜熱帯性気候から標高2,000m付近の亜高山帯まで幅広い植生の分布が見られることが高く評価され、日本で初めての世界自然遺産となりました。
洋上に位置していながら1,800m以上の山々が連なることから、「洋上のアルプス」とも呼ばれる屋久島。またひと月に35日雨が降る、と言われるほど降雨が多く、「水の島」、「虹の島」などの別名も持っています。
屋久杉に積もる雪
降雨量が多いだけでなく、海岸部と山頂部の気温差が激しいことも屋久島の特徴。屋久島全体の年間平均気温は約19度であるのに対し、山頂付近では冬季の平均気温がマイナス5度以下になることも。
そのため標高帯によって観光のベストシーズンが異なり、春先から秋の終わりにかけてバラエティに富んだ屋久島の魅力を味わうことができます。
ここからは屋久島内の特色ある自然を体感できる観光スポットをご紹介します。
縄文杉
屋久島の歴史を感じさせる縄文杉
屋久島に生育するスギの木の中で最大と言われるのが、この世界遺産内の中心である「縄文杉」。樹高25m、推定樹齢2,000~7,200年を誇るこの巨樹は、日本を代表する大樹の一本と言っても過言ではないでしょう。
隆々と枝を伸ばした縄文杉は、屋久島の厳しい自然を生き残ってきたことを証明するかのように太く、激しい凹凸が見られます。そのため、縄文杉の名前の由来は縄が巻き付いたような凹凸の装飾がされた縄文土器からなのではないか、といった説もあるのだとか。
生命力溢れるこの古木は古来より、見るものを圧倒するような迫力を剥き出しにしています。
登山者の踏圧によって縄文杉の根が傷まないよう、九州森林管理局は、1996年に展望デッキを設置。また2009年より通年車両乗入規制が行われ、荒川登山口から往復で10時間程の本格的な登山コースが人気となっています。
九州地方有数のパワースポットとしても人気のある縄文杉。屋久島観光に訪れた際には必見の名スポットです。
屋久杉自然館
自然館では屋久島の歴史や自然を学ぶ事ができる
屋久杉自然観は、屋久島について余す事なく展示している博物館。屋久島の自然や屋久杉と島民との関わりなどを主題にしており、屋久島について知るには絶好の場所です。
博物館本館には、特別展が開催されるギャラリーや、屋久杉の歴史や森林植生について上映されるシアタールームなどがあり、展示品、模型、パネル、映像など、飽きる事なく屋久島を知る事ができます。
また、別館には屋久杉工芸の展示室や体験教室などが行われるクラフト室の施設があります。
館内の展示物の中でも「いのちの枝」は必見。平成17年に積雪の重みで落ちてしまったこの枝は非常に太く大きく、縄文杉のたくましさを感じさせます。
海亀の訪れる浜辺
屋久島はウミガメのウミガメの産卵地としても重要な地域
ウミガメの生息地と言われると、多くの人が南国の海をイメージすることでしょう。しかし、実は日本は世界でも有数のアカウミガメの産卵地であり、また北太平洋で唯一の産卵地でもあります。
屋久島ではアカウミガメに加えてアオウミガメも産卵。特に屋久島の北西部に位置する永田浜には日本全体の30〜40%ものアカウミガメが上陸します。この事から永田浜はアカウミガメの保護において非常に重要な地域とされ、平成14年には国立公園に認定されています。
しかしながら、残念なことにウミガメは世界的に絶滅の危機に瀕しており、永田浜にはウミガメ保護のための規則が定められています。そんな中、永田浜では毎年ウミガメ保護利用専門部会によるウミガメ観察会が開催され、ウミガメの生態や接し方を伝えるイベントが行われています。
ウミガメに悪影響を与えないため、自然保護を目的とした活動が行われている永田浜。国内でも指折りの観光地ですが、ウミガメの保護のためのルールをしっかりと理解した上で訪れることが、最大限楽しむための準備となるのではないでしょうか。
白谷雲水峡
『もののけ姫』のモデルにもなった白谷雲水峡
屋久島にある数々の観光スポットの中でも、観光客から一、二を争う人気を誇る白谷雲水峡。ここは人と森林のふれあいの場として、1979年に林野庁により選定された白谷川流域の自然休養林です。
苔むし、濃密でひやりとした風が肌を撫でるこの森は、スタジオジブリの宮崎駿監督が手掛けた長編アニメーション映画『もののけ姫』の舞台のモデルとしても有名。
白谷雲水峡の何百何千種類もの植物と美しい水の流れは、はるか昔から時が止まっているかのような森の神秘を五感で味わせてくれます。
白谷雲水峡のトレッキングコースは初心者でも気楽に散策できるため、初めて屋久島を訪れる方にも人気。見どころも多く、春頃に山桜と新緑が見渡すことのできる太古岩や、写真スポットとして人気のくぐり杉など、普段の生活では絶対に目にすることのできない光景が次々と飛び込んできます。
トレッキングコースは1時間で往復できるものから半日楽しむことができるものまで複数あり、体力と予定に合わせて回ることができます。
雄大な大自然を堪能するにはピッタリの白谷雲水峡。歩いてたどり着いた先に広がる絶景が、登山者を待っています。
千尋(せんぴろ)の滝
岩壁が千尋ほどもあることから名付けられた「千尋の滝」
千尋の滝は、一枚の巨大な花崗岩でできた山肌を流れ落ちる落差60mほどの滝。壮大なV字形に割れた岩谷の景観と合わせ、屋久島内にいくつもある滝の中でも特に人気のある滝の一つです。
その岩壁が千人が手を広げた長さである千尋(1,800m)ほどもある、という例えから「千尋の滝」と名付けられました。一年を通して降雨量の多い屋久島では、その迫力のある滝の流れを展望台から見ることができます。
展望台は滝の南側の高台にあり、車で楽にアクセスできる千尋の滝。その壮大な姿を目にしようと訪れる観光客の数は少なくありません。展望台からは少しばかり遠望となるものの、その迫力満点の姿は必見の観光スポットです。
益救(やく)神社
特殊な自然環境の中、特殊な文化が形作られた
数ある屋久島の神社の中でも、格式高いことで有名な「益救神社」。古くより山岳信仰が息づくこの島で、島の守護神を祀る神社、それが益救神社だと言われています。
神社の名前には島の名と同じ音である「やく」が当てられており、これから我々を益々救ってくれる、という尊崇の意が込められています。ただし名付けはおろか、神社創建の時期も不明。
屋久島に関する最古の歴史の資料の一つ、日本書紀には舒明(じょめい)天皇元年に田部連(たべのむらじ)を掖玖(やく)につかわしたとの記事があり、こういった由緒にまつわる伝承は複数唱えられています。
主祭神である天津日高彦火火出見命(あまつひこひこほほでみのみこと)は、宮之浦岳(1,936m)の山頂にも祀られている屋久島の守護神。その他にも配祀神として6柱の神々が祀られています。
この神社の興味深い点として、屋久島町の指定文化財にも指定されている仁王像が境内の一角にあることが挙げられます。一般的には寺院で見られる仁王像が神社で祀られているということが、屋久島の特殊な風習とその古さを物語っており、それが屋久島の魅力でもあります。
本州から遠く離れていることから、滅多に見られない特殊で貴重な自然と文化に溢れている屋久島。新たな発見と出会いが眠る島、そんな屋久島にはあなたの知らない世界が広がっています。
【知床】人の手が及ばない極寒の秘境
知床は100年ほど前までは未開の地だった
北海道東部に位置する「知床」。2005年に行われた「第29回ユネスコ世界遺産委員会」で世界自然遺産登録が決定しました。
冬にはマイナス20℃以下になることもある知床は、「流氷が見られる世界最南端」という非常に珍しい自然環境です。流氷による気温の変動は動植物の多様性、特に海洋生態系と原始性の高い陸息生態系は、人類の開拓が及ばなかったことも合わせ、独自の進化を見せています。
流氷の上を飛ぶ絶滅危惧種のオジロワシ
オジロワシやシレトコスミレ、シマフクロウなどの絶滅危惧種や世界的に希少な生物の生息地である知床。その生態系全体の価値が認められ、世界自然遺産に登録されました。
2016年には、知床の価値を改めて見つめ直し、将来の世代へとこの貴重な財産を繋ぐことを目的に、毎年1月30日を「世界自然遺産・知床の日」とする条例が可決されました。ちなみにこの期日に設定された理由は、世界自然遺産登録への重要な項目として評価された流氷が初めて知床に接岸した日が1月30日だったからだそう。
世界的にも普遍的な価値を有する知床の自然環境を将来へと引き継ぐため、各関係機関により環境保護を目的とした取り組みが始められています。
知床半島に人が住み始めたのはおよそ1万年前。それからつい100年ほど前まで、人類による自然の改変は行われていませんでした。その厳しい自然環境から、明治時代から昭和に至るまで行われてきた開拓はいずれも失敗し、1960年以降に行われた厚生省による保護地域の指定によって、知床は人為的な影響をほとんど受けない秘境となりました。
人の手がほとんどつけられていない国内最北の自然遺産。その魅力を存分にお伝えします。
知床五湖
知床五湖とそれらをつなぐ遊歩道
知床五湖は、知床連山の麓にある北海道斜里町に点在する5つの湖の総称。知床の観光地の中でも特に人気のある観光地として、絶大な人気を誇っています。
知床八景の一つに数えられるこの湿地帯には、環境保護のために遊歩道が設置されており、動植物を踏圧から守ると同時にヒグマ対策にもなっています。
遊歩道からはエゾリスやエゾシカなどが目撃されることもあり、観光客にとっては絶好のスポットである一方、ヒグマの出没が度々確認されることから注意を払って観光する必要があります。
鏡面のような湖面の向こうには雄大な知床連山と森林が広がり、静寂に包まれた空間へと誘われます。コースを散策するのに要する時間は最大でおよそ90分ほど。
生息する動物を含めた環境を守るために導入された利用調整地区制度のほか、冬季の遊歩道の入場制限など観光上の規則はあるものの、自分に合った歩き方を楽しめる感動間違いなしの散策ルート。
知床五湖は知床を訪れた際には絶対に立ち寄りたい、人気No.1の観光スポットです。
オシンコシンの滝
日本の滝100選にも選ばれた知床屈指の滝
国道334号線を北上し、知床を目指すと一番最初に現れる人気スポットといえばオシンコシンの滝。知床五湖と同じく知床八景のひとつに数えらえる、知床最大の滝です。
幅約30m、落差約80mのこの壮大な滝は途中で水の流れが割れていることから「双美の滝」とも呼ばれ、日本の滝100選に選出されています。階段で登ることのできる滝の中ほどから間近でみる滝の流れは壮観。
そこからさらに上にある展望台からはオホーツク海や知床連山の壮観が堪能できます。滝までのアクセスが容易なこともあり、季節を問わず多くの観光客が訪れます。
冬場の時期に斜里町で開催されるイベント、オーロラファンタジー。その一環としてオシンコシンの滝でも冬のライトアップが行われ、雪と氷による光の反射が辺り一帯を幻想的な風景へと変貌させます。
フレペの滝
ホロホロと流れ落ちることから、乙女の涙とも呼ばれる
知床半島プユニ岬の東の断崖から流れる「フレペの滝」。高さ約100mの断崖から滲み出た水がオホーツク海へと流れ落ちる、知床を代表する滝の一つです。
ホロホロと流れ落ちるその様子から「乙女の涙」とも呼ばれ、ツアーなどが開催されるほど人気スポットとなっています。
ただし、人気なのは滝の魅力だけが理由ではありません。フレペの滝へ向かう途中にある約1kmの遊歩道脇には、シカやキツネが多く生息しており野生動物の観察ができます。
滝の上の遊歩道から眺めるフレペの滝
その他にも岸壁に巣を作るカモメやウミウなど、野鳥の生息地でもあるフレペの滝。加えて滝の向こうにどこまでも蒼く広がるオホーツク海と大空は、圧巻の光景です。
斜里バス「知床自然センター」バス停から徒歩20分ほどで到着するまでの道中も、目的地である展望台から眺められる絶景も、その魅力に夢中になること必至なフレペの滝、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
羅臼岳(らうすだけ)
雪に覆われている期間が長く、登山シーズンが短い羅臼岳
知床半島にそびえる火山群の主峰であり最高峰、標高1,661mの山「羅臼岳」。日本百名山、花の百名山、新花の百名山などに選定されるほど、自然豊かな名峰です。
山頂からの絶景で有名なこの山は、夏が極端に短いという特徴があります。本格的な登山シーズンは7月上旬から9月中旬と短い上に、7月には残雪、9月には新雪と雪に覆われている時期が長く、実際に雪の積もっていない時期は8月頃のみ。
初心者にはルートがわかりにくく、ヒグマの出没情報が多い事も加え、少し難易度が高いかもしれません。
花の百名山に選ばれた通り、羅臼山は高山植物の宝庫。コメバツガザクラ、ジムカデ、イワギキョウ、エゾコザクラ、ウコンウツギなど、なかなか目にすることができない花々と出合うことができます。
最高峰ゆえ、山頂からの眺めが360度どの方向に向いても開放的な羅臼岳。知床連山、オホーツク海、その反対に太平洋が一望でき、絶景という言葉がぴったりのスポット。
初心者用のコースから上級者用のコースまでありますが、どのコースにも違った魅力があり、どのルートを進んでも満足できる事でしょう。自分にあったコースを選び、雪嶺が僅かに見せる夏の山水を堪能してはいかがでしょうか。
流氷
冬の知床に着岸する流氷
北海道を代表する冬の風物詩、「流氷」。日本国内で唯一流氷を見ることができるのが、オホーツク海と接する知床の海岸です。
毎年1月から3月にかけて着岸する流氷。視界を360度白銀に覆い尽くす流氷は、ただ美しいだけでなく、知床の環境形成に大きな影響をもたらしています。
北海道から1,000km以上離れたロシアの河口からやってくる流氷。海流に乗って次第に成長しながらオホーツク海沿岸に押し寄せ、水平線まで無数の巨大な氷の塊で埋め尽くします。その流氷の底に付着した植物性プランクトンは食物連鎖を作り出し、海洋、陸上生物の生態系を支えています。
こういった生態系を実際に目で確かめるのにはぴったりなのが流氷ウォーキングなどのツアー。冬に開催される体験ツアーに参加することで、珍しい動物や流氷の上を歩く体験など流氷と知床半島の生態系を間近に感じることができます。
知床には流氷の時期にしか見る事ができない絶滅危惧種も
地上ではキタキツネやエゾリス、氷上ではアザラシやクリオネなどを観察できるほか、季節風に乗って渡ってくるオオワシやオジロワシなどの絶滅危惧種を目にできる可能性もあります。
過酷な自然環境に耐える生物だからこそ、強い生命力を感じずにはいられません。
非日常的な体験や絶景が見どころの流氷。観光客向けに行われる流氷ツアーなどの体験は、知床半島に横たわる自然の雄大さを深く実感させてくれる、貴重な経験となることでしょう。
【小笠原諸島】未知で溢れる東京の南端
約30の島々からなる小笠原諸島
東京から南に約1,000km、本州から遠く離れた太平洋上の約30の島々からなる「小笠原諸島」。人口計2,500人ほどの父島、母島以外は全て無人島であり、日本で唯一オセアニア区に属する諸島です。
大陸と陸続きになったことがないため、動植物の独自の進化を促した小笠原諸島。「進化の実験場」、「東洋のガラパゴス」などとも呼ばれ、世界自然遺産の中でも高く評価されています。
世界遺産委員会は、「小笠原諸島の生態系は、多くの固有種に加え、アジア各地の植物が集まっており、幅広い進化の過程を示している」とし、生態系の価値が認めらたことにより、2011年に世界自然遺産に登録されました。
風や流木などに乗ってたどり着いた動植物は、島の中で多様な進化を遂げながら、生息分布を拡大しました。
小笠原諸島の陸産貝類を代表するカタマイマイの貝殻
乾燥した気候に適応した乾燥性低木林や、珍しい種類の陸産貝類などを含め、未だ進化中の生物を見る事も可能。特に島内に生息するカタツムリなどの種類のうち、94%に当たる100種類が小笠原諸島でのみ見られる固有種です。
一年間を通して暖かく、気候も安定しているため過ごしやすいのが小笠原の魅力。独特な変化を遂げた文化や生物が人気の、小笠原諸島の観光スポットをご紹介します。
父島
父島の二見港に停泊中のおがさわら丸
小笠原諸島の中で2番目に大きな面積を持つ父島。東京から1,000km離れてはいますが、小笠原には民間空港がありません。そのため、本土から小笠原へ向かう唯一の手段は小笠原海運が運航する貨客船「おがさわら丸」のみとなります。
片道約24時間の船旅を経て、船は父島の二見港へ到着。小笠原諸島を訪れた観光客の多くが、この島に滞在します。
父島では海でのシュノーケリングやホエールウォッチングなどのアクティビティだけでなく、本州には生息していない固有種の動植物が待つ多彩なトレッキングコースがあります。
島内のカフェでは父島産のフルーツを使用しているドリンクやスイーツを販売していることも。さらには縁結びスポットやパワースポットなど、父島ならではの楽しみ方が盛りだくさん!
小笠原諸島最大の観光地である父島の中でも、特に人気のある観光スポットを紹介します。
境浦海岸
白い砂浜と沈没船「濱江丸」
父島でも特にメジャーなシュノーケルスポット「境浦海岸」。沈没船を間近に見られるスポットとしても有名です。
街中から1時間に一本だけ走っている村営バスに乗り、10分ほどで到着します。自転車やバイクをレンタルすることもできるので、せっかくの機会だから海風を感じながら巡りたい!という方にはピッタリ!
白い砂浜とエメラルドグリーンの海の中でひときわ目立つのが、沈没船「濱江丸(ひんこうまる)」。第二次世界大戦で魚雷攻撃を受け、この海岸で座礁したと言われる軍需輸送船です。今となっては朽ちて残骸が残っているだけですが、かつてははっきりと形が残っていました。
シュノーケリングで近づいてみると、その迫力に驚くかもしれません。戦争の爪痕を感じるような部分は所々残っており、残骸の合間を魚とともに泳ぐ事ができます。父島を訪れる観光客の中でも、これを見に来たという人は少なくありません。
シュノーケリングに満足したら、砂浜で一休み。波の音だけが聞こえるこのビーチで、心が穏やかになっていくのを感じられると思います。砂浜でのんびりと過ごすのも、スケジュール通り次の目的地へ向かうのも全てが自由。父島巡りでは絶対に訪れたい観光スポットです。
旭山
旭山からは島の全体を眺める事ができる
父島の入口、二見港の東にそびえる「旭山」。幕末に探検隊が小笠原を訪れた際に、日章旗を立てたのが旭山山頂であったことから旭山という名前になったと言われています。
眺望が素晴らしく、大海原に囲まれた周囲の島々まで見渡す事ができます。標高267mと初心者に優しく、登山入口まではバイクなどで入ることが出来るため、市街からのアクセスも良いのが特徴。山頂まで歩いて20分ほどなので、軽い観光気分で訪れることが出来ます。
小笠原諸島に特有のアサヒエビネ
小さく黄色い花のムニンタイトゴメや、数百株しか自生していないアサヒエビネなど、小笠原特有の植物に囲まれた旭山の山道。入口から歩くこと20分ほどで、南峰と山頂への分岐点に到着します。
山頂方面へ続く階段を上ると、そこから見渡せるのは島全体を囲う大海原。双眼鏡などを所持していれば父島まで乗ってきたおがさわら丸も見えるかもしれません。
父島の観光地の中心にそびえる旭山。海を楽しむスポットが多い離島の旅行で、少し気分を変えて登山をしてみるのも良いかもしれません。
ウェザーステーション展望台
ウェザーステーション展望台からの夕日
二見港の西、車で10分ほどの場所にある「ウェザーステーション展望台」。三日月山の西の高台に位置することから、夕日を眺められる名所として人気のある観光スポットです。
以前、この場所は気象観測所でしたが、ウッドデッキや案内板などが設置されたことでホエールウォッチングができる絶好のスポットとして一躍有名になりました。クジラの潮吹きを丘の上から眺められる場所というのは、日本では珍しいのではないでしょうか。
「グリーンフラッシュ」という現象をご存じでしょうか。気象、角度、海の状態など複数の条件が重なった日没時にだけ水平線から瞬間的に発せられる緑色の光のことを指し、ウェザーステーション展望台は稀にこの現象を見ることのできるレアスポット。
地元の人でさえ滅多に見る事ができないと言われるこの現象を見る事ができれば、旅の良い思い出となること間違い無いでしょう。
町から離れていることから、星空観察ができるのもこのスポットが人気の所以。昼にはホエールウォッチング、夕日が沈むのを見た後には星空と、この場所だけで1日を過ごせてしまいそうなウェザーステーション展望台は、小笠原観光でも特に人気のスポットです。
南島
独特な地形と希少な生物を見られる南島の扇池
父島の南西に浮かぶ、小さな無人島、「南島」。世界自然遺産に登録された小笠原諸島を代表する景観と生態系が残る、原始的かつ希少性の高い島です。入島の定員規制はありますが、父島の二見港青灯台から船で10分ほどかけて上陸する事ができます。
南島は、雨水や風の侵食によって独特な形に窪んだ石灰岩により生まれたカルスト地形。堆積と溶食が繰り返されたこの島には貴重な自然が残っており、「小笠原南島の沈水カルスト地形」として国の天然記念物に指定されました。
南島を代表するスポットの扇池の周辺には、天然記念物であるヒロベソカタマイマイの化石が転がっていたりウミガメが産卵していたりと、滅多に見る事ができない自然が広がっています。
ただし、南島へ上陸するには、まず東京都自然ガイドが同行している必要があります。自然保護のため、1日あたりの観光客は100人までとなっている他、定められたルート以外は使用できず、2時間以上滞在することもできません。
南島へ訪れた際は必ず定められたルールを厳守し、東京都の認定を受けた業者を利用して、貴重な自然を最大限楽しんで下さい!
母島
母島までは、数日に一度父島から「ははじま丸」が出港します
青い海に囲まれ、深い森が生い茂る「母島」。東京から南に1,050km離れた、自然豊かな有人島です。
小笠原諸島の中でもここでしか出会えない動植物が自生する母島は、まさに自然の宝庫。一年を通して気温差が少ない亜熱帯性気候で、まさに南国といった環境は母島ならではの生態系を生み出しました。
母島では、ハハジマメグロやアカガシラカラスバトといった母島列島のみに生息する天然記念物の他にも、ハハジマノボタンやテリハハマボウなどのこの島だけに自生する希少植物が見られます。
世界自然遺産登録の鍵となった陸産貝類は、父島ではほとんど絶滅してしまったものの、母島では現在も生息しているものが多く世界自然遺産委員会からも高く評価されています。
現在の島内人口は約460人。集落も沖港の周りの一つのみで、飲食店等も数軒ほどしかありません。母島までは、数日に一度父島から出港する「ははじま丸」に乗り、2時間ほどで到着する事ができます。
なお、台風などの天候によっては出港時間が変わる事があるため、出発前には必ずご確認ください。
都心から最も離れた東京都域、母島。マイナーな観光地であるからこそ新たな発見があるかもしれません。母島の見どころを絞ってご紹介します。
乳房山
母島の最高峰、乳房山からの展望
母島のほぼ中央に位置する島の最高峰、「乳房山」。標高463mのこの山はトレッキングによる自然観察が特に人気で、多くの観光客が母島特有の生態系を見ようと訪れます。
トレッキングコースは約6kmほどで、初心者でも4時間ほどで帰ってこれることから登山ルートとして人気。ただし、登山口では外来種の侵入を防ぐために靴底と衣服の洗浄を行う必要があります。
山内での飲食はもちろん、植物の採集やゴミのポイ捨ては固く禁じられているため、注意しながらコースを楽しみましょう。
コースを歩いているとハハジマメグロなどの特別天然記念物に出会えるかも?
舗装された登山道は湿性高木林に囲まれており、山一帯には特別天然記念物のハハジマメグロやオガサワラオカモノアラガイなど、この島の固有種が多く生息しています。
歩いているとふと目に入るのは登山道の横に空いた大きな穴。これは第二次世界大戦中に着弾した爆弾の跡が残ったもので、その他にも塹壕や砲台跡など当時の爪痕があちこちに残っています。こういった小笠原諸島の中でも母島でしか見られない光景を探してみるのも、母島観光の醍醐味と言えるのかもしれません。
水飲み場に集まる鳥のさえずりや森の中を吹き抜ける風の音を聞き、珍しい動植物を観察していれば、あっという間に山頂に到着。小さな展望台からは360度見渡すことのできる絶景が広がっています。東側には細く伸びた東崎半島、北側には天気が良ければ父島の姿を望む事ができます。
母島の森を深く知るガイドとともにルートを回るツアーに参加すれば、見逃しがちな生き物や島の不思議な生態系についての話を聞く事ができ、母島まで訪れただけあった、と満足する事間違いなし。母島観光地の中でも特に評判の高いのスポット、それが乳房山の登山コースです。
北港
廃村となってからも、北港にはシュノーケリングをする観光客が訪れます
戦前の母島には、現在の島の中心である沖村の他にもう一つ栄えていた村があったことをご存じでしょうか。その村の名前が北村であり、北村の漁業産業を支えていた港こそが、「北港」です。
太平洋戦争時の強制疎開によって廃村となってしまった北村。北港にはその名残があちこちにあり、当時の建物を再現した休憩舎や石垣と門柱が残された小学校跡などが戦前の街の雰囲気を垣間見せています。
北港は現在ではシュノーケリングのスポットとして観光客が訪れる入江であり、ウミガメに出会えるポイントとしても有名です。東港や南京浜などと同様サンゴ礁が広がる美しいビーチで、町から少し離れてはいるものの訪れる観光客は少なくありません。
大自然の宝庫として海と山の両方が楽しめる母島。この港は島の歴史と自然を両方体験させてくれる味わい深い観光スポットです。
【奄美大島】固有種の生命で溢れる宝庫
固有の動植物の生物多様性が評価された奄美大島
2021年7月26日の世界遺産委員会において正式に決定となった、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録。登録に必要な4つの価値基準の中から、「生物多様性」の基準が評価されました。
奄美大島が位置するのは、生物生息域の北限と南限の境目である「渡瀬ライン」。これによって多様な生物が共存する稀有の島となっており、国土の面積の0.2%に満たない奄美大島において、国内全体の生物種の約13%が確認されています。
また小笠原諸島同様、大島は本土や他の島と分離されて長く、固有の進化を遂げた新種の生物が発見されることも珍しくありません。外来種を持ち込まず、固有種を守るため条例や法律などで動植物の持ち出しが禁止されており、こうやって島の生態系は保持されています。
島の自然との適切なかかわり方を教え、また「多様性の森」についてわかりやすく解説をしてもらえるのが、エコツアーガイド連絡協議会認定のエコツアーです。
ナイトツアーなどで野生生物と接する際には、ガイドの同伴が推奨されるなど、自然を保護し、自然から学ぶという人と自然の繋がりを大切にする文化が奄美大島には存在します。
後世にもこの素晴らしい自然を守るため、動植物の生態系を乱さないよう気をつけながら、また自然界の危険から自分たちの身を守ることで、奄美大島を最大限楽しむ事ができます。今回はそんな奄美大島の魅力をたっぷりとご紹介します。
金作原
説明文
奄美大島の中央部に位置する金作原(きんさくばる)。太古の密林のようなこの森には、巨大なヒカゲヘゴや国の天然記念物のアマミノクロウサギやルリカケスなど固有種が生息しています。
日本で唯一かつ最大のシダ植物のヒカゲヘゴやギョリンクソウ、固有種のオオトラツグミや渡り鳥のリュウキュウアカショウビンなど、希少な動植物が生息する金作原。その特異な風景から、映画での撮影のシーンとして使われたこともあるそうです。
環境保護のため認定エコツアーガイドの同伴が必須の散策ツアーでは、奄美特有の種の多様性を間近に観察する事ができます。参加の際は奄美に多い雨天に備えて雨具を携帯することをお勧めします。
散策ツアーでは動植物の解説についてはもちろん、地元のガイドさんによる現地の伝承など、なかなか聞く事ができない情報が満載。ゆっくりと自然を散策しながら、世界遺産奄美の魅力を体感してみてはいかがでしょうか。
あやまる岬観光公園
見晴しの良い公園からは大パノラマが望めます
あやまる岬観光公園は、奄美大島の北東部にある岬周辺の公園。丸い地形が綾模様に織りなす鞠(まり)に似ていることからこの名前がつけられたそうで、広い敷地内に多くの施設やレジャースポット、案内所や絶景カフェを有する海辺の公園です。
公園のあるあやまる岬は高台にあるため見晴らしが良く、海岸線の大パノラマはまさに絶景!晴れた天気の良い日は東の水平線に喜界島を眺めることができます。
2018年に完成したカフェ併設の観光案内所「あやまる岬公園観光案内所」には地元の方や観光客が気軽に訪れ、憩いの場として有名になりました。ここには奄美大島の厳選されたおしゃれなお土産やハンドメイド品・島の食材を使ったお菓子など、ここでしか買えないお土産も揃っています。
あやまる岬観光公園には、広い敷地内に多くの施設やアクティビティがあり、海水プール・サイクル列車・ファンシーサイクル・芝スキー・グランドゴルフなど家族連れにピッタリのアクティビティがたくさん。大人気の芝スキーは、スリル満点で大人の方でも楽しむことができます。
ホノホシ海岸
球体の玉石は、荒波で削られて形作られました
奄美大島の南、太平洋側に位置するホノホシ海岸。海岸には激しい波で削られ丸くなった玉石が敷き詰められており、その特徴的な景観から多くの観光客が訪れる観光スポットです。
写真スポットやヨガのスポットとしても人気のあるホノホシ海岸。奄美大島は世界自然遺産に登録されたことにより、自然物の島内への持ち込みや持ち出しは禁止されています。この海岸の小石も同様なのですが、実はそれ以外にも禁止されている理由があります。
それはここが有名なパワースポットである事にあります。実はホノホシ海岸の石には 現地の幽霊が宿るとされていて、持ち帰ると夜な夜な石が動き出したり、持ち主に災いが降りかかるという言い伝えもあるほどなのです。珍しい石を発見したとしても、その場で写真を撮るなどのみに留めておきましょう。
その他にも釣りや初日の出など、広い年代層に好まれる観光スポットとして親しまれるホノホシ海岸。奄美市からは少し遠く訪れにくい場所ではありますが、きっとその光景には満足できること間違いなし。
黒潮の森 マングローブパーク
日本で2番目の面積を有するマングローブ原生林
奄美市住用町の住用川河口付近に広がり、日本で2番目の面積を有するマングローブ原生林に隣接する「黒潮の森 マングローブパーク」。ここではカヌーでマングローブ林の探索が人気で、ツアーガイドと共にゆっくりと川を進みます。
マングローブは、潮の満ち引きで水位が変化する河口付近によく見られ、熱帯雨林に生息する植物です。満潮の際には水上をカヌーで探索、干潮の際には干潟で砂地に住むオキナワハクセンシオマネキやミナミコツメキガニなどの生物を観察することができます。
マングローブパークへは、道の島住用に併設されたマングローブ館内から受付を通って入場する事ができます。入り口付近には展示物やパネル、ミニシアターなどがあり、動植物の植生について学ぶ事ができます。
その他にも展望台やゴルフ場など、カヌー以外にも見どころはたくさん。島の時間を忘れさせてくれるようなマングローブ林を、自分の好きなように楽しめる点が、このスポットの魅力です。
倉崎海岸
奄美大島を代表する、ダイビングなどで人気な倉敷海岸
倉敷海岸はその美しさから、奄美大島を代表するビーチです。エメラルドグリーンに輝く海と白い砂浜は圧巻の一言で、特に夏に訪れる観光客からは高い人気を誇ります。
海水浴以外にもダイビングやシュノーケリングスポットとしても人気の高い海岸で、ビーチから程近い海面からでも海底のサンゴ礁と周辺に生息する魚たちを見ることができます。
あまり沖に出なくても砂浜から少し泳ぐだけで綺麗なサンゴ礁と熱帯魚を見ることができる場所は非常に珍しいと言えるのではないでしょうか。
空港や市内からのアクセスは良いものの、シャワー室や更衣室は近辺にはないため、着替えの準備などには要注意。夏に涼みたい方や、綺麗な景色を写真に収めたい方は必見の絶景スポットです。
ハートロック
現れるタイミングがはシビアですが、恋愛のパワースポットとしては最高のスポットです
奄美大島の北東に位置する赤尾木集落の東側の海岸に現れるハートロック。名前の通り、干潮の時にだけハート型に侵食された岩が姿を表します。
ここは恋愛のパワースポットとして話題になり、奄美大島を訪れたカップルの観光客にとっては必見のスポット。
綺麗にハートが現れるのは潮位80cm以下の干潮時かつ波が穏やかな時と、だいぶシビアなタイミングです。そのためあらかじめ奄美大島の公式HPが掲載する潮見表を確認してから向かうと、ベストなタイミングでハート型を見る事ができます。
この海岸に向かう小道も、NHK大河ドラマの『西郷どん』の撮影で使われたほど素敵な風景。ロマンチックかつのどかな景色が待つ名も無き海岸に、ぜひ足を運んでみてください。
奄美自然観察の森
奄美大島固有の動植物が観察できる自然観察の森
奄美大島北西部、長雲峠の深い森の中に作られたのが奄美自然観察の森。奄美群島第一種国立公園にも指定された、奄美固有の動植物を観察できる森林公園です。
自然を生かした園内は歩きやすいように遊歩道が整備されており、安全に昆虫などを観察する事ができます。また、樹齢200年を越えると推定されるシイの木や、1月から2月頃には満開のヒカンザクラなど、季節を彩る自然と触れ合う事ができるのが自然観察の森の最大の魅力です。
パノラマトリデ、展望園地、ドラゴン大展望台の3つの見晴らし台も、この公園の見どころの一つ。最も高所にあるドラゴン大展望台からは、奄美全体を見渡す事ができ、その絶景に息を呑むこと必至。
奄美自然観察の森は、美しい景色と多様な生物を同時に楽しめる最高のスポット。園内散策をさらに楽しむために事前予約をすれば、スタッフによる園内ガイドも行われています。奄美空港から車で40分とアクセスもよく、奄美大島に訪れた際には必見の場所と断言できます!
まだ目にしたことのない日本の絶景へ
同じ日本国内でも独自の進化を遂げた動植物と、特異な環境によって形を変化させていった地形が生む絶景。世界自然遺産に選ばれた大自然には、それぞれ固有の生態系が作り出されています。
世界自然遺産のどれもが都心から遠く離れているため、年に一度の長期休暇などに訪れるには最適の観光スポット。初めて目にする絶景が、日常の疲れや悩みを吹き飛ばしてくれること間違いありません。
自然はやはり五感で感じてこそ楽しめますよね!日本が誇る大自然へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。