国民的文豪・夏目漱石とは
漱石はスイーツ男子だった?!
夏目漱石が愛した和菓子たち
空也餅・空也もなか
羽二重団子
水羊羹
文豪が愛した和菓子を味わってみて

「吾輩は猫である」「坊ちゃん」「こころ」...、数多くの名作を世に送り出した文豪・夏目漱石。その著作は教科書にも掲載されており、誰もが一度は読んだ経験があるのではないでしょうか。かつては千円紙幣の肖像としても描かれ、その知名度の大きさは国民的作家と呼ぶにふさわしいですよね。

そんな夏目漱石が、実は甘いものが大好きであったことはご存知でしょうか?自身の作品に登場させるだけでなく、医者に止められるほどの大の甘党であった漱石。彼が愛した和菓子は数多く存在しますが、その中には今も東京で購入できるものがあるのです。

文庫本片手に、漱石が食べたものと同じ和菓子を頂けば、日本を代表する文豪がぐっと身近に感じられるはず。

国民的文豪・夏目漱石とは

夏目漱石旧居跡

夏目漱石旧居跡

夏目漱石は江戸時代後期の1867年、現在の新宿区喜久井町に生まれます。帝国大学英文科を卒業し、34歳の時に文部省の命によってイギリスに留学。漱石が洋菓子と出会ったのは、この留学がきっかけと言われています。

パンやジャムの美味しさを知り、帰国後は大学で教鞭をとり、39歳の時に「吾輩は猫である」を発表。41年には朝日新聞社に入社して、職業としての作家となります。「三四郎」「門」「こころ」など、名作を次々と書き上げますが、胃潰瘍のため50歳という若さでこの世を去ります。

漱石はスイーツ男子だった?!

イチゴジャムを1ヶ月で8瓶も空けた夏目漱石

イチゴジャムを1ヶ月で8瓶も空けた夏目漱石

漱石の作品には、要所要所で甘いものが登場します。それもそのはず、彼は大の甘党。朝ごはんのトーストにはバターと砂糖をたっぷり。シュークリームやアイスクリームなど、洋菓子にも目がなく、胃潰瘍で療養中にも大好物のアイスクリームを食べたがって周囲を困らせていたとか。

特にお気に入りだったのは、当時出回り始めていたジャムで、漱石はイチゴジャムを1ヶ月で8瓶も空けていたという逸話も残っています。

夏目漱石が愛した和菓子たち

医者に止められるほどの大の甘党であった夏目漱石。一体どんな和菓子を食べていたのでしょうか。ここでは、夏目漱石の文学作品にも登場する、夏目漱石が愛した和菓子を3つ紹介します。さらに、これらは今も全て東京で実際に購入が可能。気になるものはぜひお試しあれ。

空也餅、空也もなか

「えゝ其缼けた所に空也餅がくっ付いて居ましてね」と、、、
「あれぎり、まだ塡めない所が妙だ。今だに空也餅引掛所になってるなあ奇観だぜ」 
                                   夏目漱石「吾輩は猫である」

名作「吾輩は猫である」に登場するのは、銀座の老舗和菓子店「空也」の名物である空也餅。荒く潰した餅米で、つぶし餡を包んだ餅菓子です。

その材料は、餅米と小豆、少量の砂糖と至ってシンプル。しかし、おはぎのようにしっかりとした食感の餅生地と、ホロホロと口の中で溶けるようなあんこのコントラストは一度食べればやみつきに。製造方法は明治17年の創業当初から変わらず、気候に合わせて餅米の炊き方を変えながら丁寧に作り続けています。

そんな空也餅ですが、購入できるのは11月と1月半ばから2月半ばの間のみ。その限られた販売期間から、幻の和菓子とも呼ばれています。

空也もなか

空也もなか(写真提供 Instagram: mikage_gourmet_japan様

もう一つ、漱石が食べていたとされるのが、「空也もなか」。「焦がし種」と呼ばれる香ばしい皮で餡子を包んだもなかは、箱を開けた瞬間から豊潤な香りが漂います。餡はしっかりと甘さがありながらあっさりとしていて、一つまた一つと手が伸びてしまう美味しさ。

こちらは通年購入することができますが、製造個数が限られているため事前の予約が必須。1ヶ月前から、電話もしくは店頭での申し込みとなります。

【空也 基本情報】
住所:〒104-0061東京都中央区銀座6-7-19
電話:03-3571-3304
営業時間:月~金曜 10:00~17:00 / 土曜 10:00~16:00
定休日:日曜・祝日
アクセス:東京メトロ 銀座線 / 日比谷線 / 丸の内線 銀座駅B5出口より徒歩(約3分)
     JR山手線 有楽町駅 / 新橋駅より徒歩(約10分)

羽二重団子

「行きませう。上野にしますか。芋坂へ行って團子を食いましょうか。先生あすこの團子を食ったことがありますか。奥さん一辺行って食って御覧。柔らかくて安いです。酒も飲ませます」
                                   夏目漱石「吾輩は猫である」

同じく「吾輩は猫である」に登場する、羽二重団子(はぶたえだんご)。日暮里に本店がある「羽二重団子」で購入することができます。

羽二重団子は1819年創業の老舗団子屋で、漱石だけでなく正岡子規や司馬遼太郎の作品にも登場しています。団子がきめ細かく、絹で織った羽二重のように滑らかであることから、この名が付けられたそう。

羽二重団子

羽二重団子(写真提供 Instagram:closs33fun様

団子は、生醤油に漬けた焼き団子と、甘さ控えめのこしあん団子の2種類。山形県・庄内平野のうるち米「はえぬき」を使用した団子はむちっとして歯切れが良く、噛むほどに米の優しい風味が広がります。

団子というとおやつのイメージがありますが、こちらの焼き団子は、生醤油の濃厚なしょっぱさが日本酒と相性抜群。漱石も、羽二重団子を肴に杯を重ねていたのでしょうか。

【羽二重団子本店 基本情報】
住所:〒116-0014 東京都荒川区東日暮里5-54-3
電話:03-3891-2924
営業時間:9:00〜17:00(16:30ラストオーダー)
定休日:年中無休
アクセス:JR山手線 日暮里駅より徒歩(約3分)

水羊羹

「菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹が並んでいる。余は凡て(すべて)の菓子のうちで尤も羊羹が好きだ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた練り上げ方は、玉と蝋石 (ろうせき) の雑種のようで、甚だ見て心持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生まれた様につやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる。」
                                        夏目漱石「草枕」

漱石の初期の代表作「草枕」に登場するのは、水羊羹。墨田区千歳にある「越後屋若狭」で購入することができます。

創業は1740年で、江戸創業の和菓子店としては最古の老舗。江戸時代には大名屋敷にも出入りしていたほどの名店で、西郷隆盛、木戸孝允、伊藤博文など数多くの著名人に愛されてきました。

水羊羹

水羊羹

「草枕」において美しく描写されている水羊羹は、夏季限定の販売で、完全予約制。日持ちも当日中で、受け渡しの時期に合わせて作られています。そんな水羊羹は、口に入れるとすうっとなくなり、口の中に残るのは優しい甘さだけ。

まるで本物の水のような繊細な味わいは、多くの人を虜にし、足繁く通うファンが絶えないそうです。一度味わえば、漱石が「どう見ても一個の美術品」と称したのも納得するでしょう。

【越後屋若狭 基本情報】
住所:東京都墨田区千歳1-8-4
電話:03-3631-3605
営業時間:10:00~17:00
定休日:日曜、祝日
アクセス:JR総武線 両国駅より徒歩(約8分)

文豪が愛した和菓子を味わってみて

今回は日本を代表する文豪、夏目漱石が愛した和菓子3選を紹介しました。紹介した和菓子はどれも東京都内で実際に購入できるものばかり。登場する文学作品と共に、漱石が愛した味を実際にいただくことで、彼の見ていた世界に少しだけ近づくことができるかもしれません。