亀戸天神は東京都江東区にある神社で、正式には亀戸天神社といいます。本社にあたる、九州の太宰府天満宮に対し、東の宰府として「東宰府天満宮」または「亀戸天満宮」ともいわれます。
天満宮という名前からもわかるように、太宰府天満宮と同じく菅原道真(すがわらのみちざね)公を祀っています。道真公は学問の神様であることから、受験生に人気。また、境内の藤が美しく、藤の名所として知られています。
TOP画像:亀戸天神社ご本殿(写真提供:亀戸天神社)
1. 亀戸天神社の境内の見どころ
亀戸天神社は九州の太宰府天満宮に倣って造営された神社で、心字池と太鼓橋が配された境内は風雅な趣があります。参拝の際は境内の景色や、珍しい灯籠、道真公にちなむ像、松尾芭蕉句碑を含む数々の石碑なども合わせて観覧したいですね。
境内の見どころ① 太鼓橋
境内の心字池に架かる橋は、それぞれ過去・現在・未来を表しています。橋を渡ることで心身を清めます。手前が男橋、ご本殿に近い橋が女橋です。女橋の周囲に藤棚があります。
亀戸天神社の太鼓橋(写真提供:亀戸天神社)
境内の見どころ② 琴字(ことじ)灯篭
太鼓橋と平橋を渡ってすぐ左側に、心字池から曲線の脚で支えられた琴柱灯篭があります。この名前は、琴の弦を支える琴柱の形に似ていることに由来します。琴柱灯籠といえば、金沢の兼六園が有名ですが、亀戸天神社の琴字灯篭は、兼六園のものよりさらに大きいものです。亀戸天神社は学問の神を祀る神社のため、琴「字」灯籠と表記するそうです。
亀戸天神社の琴字灯籠(写真提供:亀戸天神社)
境内の見どころ③ 神牛
本殿の左側に牛の像があります。触れることにより病気を治し、知恵を授かるといわれています。
菅原道真公は生まれが乙丑(きのとのうし)の年であったこと、農耕に勤しむ牛を大事にされたこと、白牛によって刺客から逃げられたという言い伝えがあることなど、牛に縁のあるエピソードが多くあります。道真公の遺体を牛車におさめ、移動していたところ、あるところで牛が動こうとしなくなることがあり、その地に太宰府天満宮を建立することになりました。そしてこの出来事があった年も丑年だったという縁があり、以来牛は道真公のお使いとして信仰されています。
2. 亀戸天神社の行事
亀戸天神社は年間を通じ、さまざまな祭りや行事が執り行われています。なかでも重要な祭りが、8月25日に行われる例大祭。神輿の巡行や薪神楽(たきぎかぐら)の奉納、夜の境内に灯明を灯す献灯明などが行われます。そのほか、「梅まつり」「藤まつり」「菊まつり」といった季節の花を楽しむ行事も。
ここではとりわけ有名な「藤まつり」と、ちょっとユニークな「うそ替え神事」を紹介します。
亀戸天神社の行事① 藤まつり
亀戸天神社に咲く藤(写真提供:亀戸天神社)
江戸時代から愛されてきた藤
亀戸天神社の藤は浮世絵にも描かれるほど、古くから人々に愛されてきました。描かれた作品で一番有名なのは歌川広重の『名所江戸百景』のうち『亀戸天神境内』でしょう。フランスの画家、クロード・モネに影響を与えたと言われています。そのほか、幕末から明治にかけての浮世絵師・楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)の作品では藤の季節に池に船を浮かべて楽しむ様子が描かれています。
広重『名所江戸百景 亀戸天神境内』,魚栄,安政3. 国立国会図書館デジタルコレクション・名所江戸百景 亀戸天神境内 (名所江戸百景) 参照 2023-09-06)
藤の見頃と藤まつりの期間
4月初旬ごろから藤の花が咲き始め、だいたい4月中旬から下旬ぐらいまで藤まつりが行われますが、近年は気候変動により、大幅に時期がずれることがあります。亀戸天神社の公式サイトや公式Instagramで藤まつりの期間をご確認ください。
境内から見える藤とスカイツリーの景色(写真提供:亀戸天神社)
亀戸天神社の行事② うそ替え神事
亀戸天神社で授与される木彫りのうそ(写真提供:亀戸天神社)
うそ替え神事はどんな神事?
うそ替え神事は、九州の太宰府天満宮をはじめ、全国の天神さまを祀る神社で行われる年に1回の神事です。亀戸天神社では毎年1月24日、25日に行われます。「鷽(うそ)」と「嘘(うそ)」の発音が同じことから、前年にあった災厄・凶事などを「嘘」とし、今年の幸運を祈る行事です。「鷽」は、日本海沿岸に生息する鳥で、昔から幸運を招く鳥と言われています。「木彫りの鷽」を受け、取り替えることで1年の幸運を祈ります。
鳥の鷽
亀戸天神社では木彫りのうそを授与
亀戸天神社では木彫りの鷽(うそ)が授与されます。木に乗っている姿に彫られていて、背面には尾羽が削り込まれています。頭が黒、胸は朱、背は緑と黒です。大きさはいろいろあり、一番小さなもので500円ぐらい、大きなもので7000円ほどです。例年亀戸天神社のうそ替え神事は多くの参拝者で賑わい、授与所には行列ができます。参拝の際は暖かい服装でどうぞ。
左:小さく可愛らしい懐中用鷽 右:少し大きめの鷽(写真提供:亀戸天神社)
3. 亀戸天神社のご祭神と歴史
亀戸天神社のご本殿(写真提供:亀戸天神社)
亀戸天神社の創建はいつ?
亀戸天神社の創建は、1646年頃、菅原道真公の末裔・大鳥信祐(おおとりいしんゆう)公が天神信仰を広めようと諸国を巡っているとき、江戸の亀戸村にたどり着いたことに端を発します。もともと、亀戸村には天神さまの小さな祠がありましたが、そこに天神像を祀ったのが始まりとされています。
当時徳川幕府は明暦の大火の復興を目指しており、亀戸を復興の拠点としていました。厚く天神を信仰していた四代将軍・徳川家綱(いえつな)は、その鎮守の神様として天神さまを祀るため、現在の社地を寄進します。そして1662年、社殿・楼門・回廊・心字池・太鼓橋などが太宰府天満宮に倣い造営され、現在の姿になりました。
歌川広重筆『東都名所・亀戸天満宮境内雪』(出典:国立博物館所蔵品統合検索システム・東都名所・亀戸天満宮境内雪)
4. 亀戸天神社・参拝情報
●住所 :東京都江東区亀戸3-6-1
●開門時間:6:00~17:00(本殿)※境内は参拝自由
●駐車場 :あり(20台/無料/8:00~17:00)
●アクセス:
JR総武線[亀戸駅]より徒歩約15分
JR総武線・地下鉄半蔵門線[錦糸町駅]より徒歩約15分
まとめ
亀戸天神社は歴史も古く、また周囲にもレトロな雰囲気が残っており、庶民のお参りの場所としてしっかりと根付いています。春夏秋冬、花なども楽しむことができます。梅まつり、藤まつり、菊まつりなど、イベントも多くあります。また錦絵にも多く描かれていて、現在でもその風情を残しており、江戸情緒あふれる場所となっています。
Text:hougaku_omori Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考:
日本樹木保護協会編『江戸の薫り漂う 亀戸天神の藤』(2008年)
亀戸天神社公式サイト
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