底なし沼の正体とは?
底なし沼からの正しい脱出方法を学ぼう
日本にある底なし沼
海外にある底なし沼
まとめ

摩訶不思議な架空のものと思われがちな自然の落とし穴である「底なし沼」。実は日本にも実在し、時には人の命を奪ってしまうほどの危険な沼です。

もがけばもがくほど沈んでしまう、恐怖の底なし沼。飲み込まれると焦ってしまいますが、慌てず、落ち着いて行動すれば脱出することができるんです。

今回は恐ろしい底なし沼の仕組みや、もしもの時に使える脱出方法を解説します。

底なし沼の正体とは?

時に人の命を奪う底なし沼

時に人の命を奪う底なし沼
底なし沼とは、個体の粒子(砂や泥など)と水が絶妙な混ざり合った沼地のこと。水分が多ければ池のように泳ぐことができ、少なければそもそも沈むことはありませんが、あるバランスでそれらが混ざり合うと恐ろしいドロドロの底なし沼が出来上がります。この状態のことを「流砂」といい、沼状の流砂のことを底なし沼と呼んでいます。

水分を多く含んだ泥は粘度の高い状態になっており、一見地面に見えても踏み込むなど圧力を加えると流動性が高くなり、一気に吸い込まれてしまいます。吸い込まれたあと、暴れて圧力が加われば加わるほど泥は柔らかくなり、沈んでしまうのです。

このような原理のことを「チキソトロピー」といい、どんどん沈んでいってしまう原因となっている現象です。

底なし沼は本当に底なし?

どんどん沈んでいく感覚は底なしと思わせるには十分

どんどん沈んでいく感覚は底なしと思わせるには十分
底なし沼は名前の通り本当に「底無し」なのでしょうか?もちろんそんなことはありません。一般的な底なし沼は2m〜5m程度の深さだといわれています。

しかし、深くなくても命を奪うほどの危険性があるのが底なし沼の恐ろしいところ。たとえ1m程度の浅い沼でも抜け出すことができなければいずれ衰弱し、命を落とします。

日本でも実際に底なし沼で命を落とした事故が発生しています。油断せずに底なし沼がありそうな低湿地帯には近づかないことが重要です。

底なし沼からの正しい脱出方法を学ぼう

ぬかるんだ道に見えても底なし沼が隠れているかも

ぬかるんだ道に見えても底なし沼が隠れているかも
底なし沼のぬかるみにはまってしまった。そんなもしもの時のために底なし沼からの抜け出し方を会得しておきましょう。

①焦らない
底なし沼に落ちてしまったとき最も大事なことは「焦らないこと」です。抜け出そうとするほど、どんどん深く沈んでいく恐怖と絶望感からジタバタと暴れて、さらに沈むという悪循環に陥らないことが重要です。圧力を加えれば加えるほど泥が柔らかくなるため、まずは深呼吸をして落ち着きましょう。

②足元に空間を作ろう
落ち着いたらいざ脱出です。まずは足をゆっくりと動かし、足元に少しずつ空間を作りましょう。強く動かしてしまうと泥が柔らかくなり、さらに沈んでしまうので焦らずゆっくりと動かしましょう。

③体を仰向けに倒そう
足元に空間ができたら体を仰向けに倒しましょう。背中などで体重を分散することで表面積が増え、泥へかかる圧力が弱まります。こうすることで沈み込むスピードが遅くなり、抜け出しやすくなるんです。

④ 足を底なし沼の表面まで引っ張り上げよう
体を仰向けにすることができたら、次はなんとかして足を底なし沼の表面まで出しましょう。泥の中に埋まった足を引っ張り上げるにはかなりの労力が必要ですが、一気に引き抜こうとせず、粘り強く頑張ることが大切です。

⑤底なし沼から這い出よう
足を表面に出すことに成功したらゆっくりと沼の外まで這い出ましょう。表面積を大きくしたまま、沈まないように気をつけてください。

これで底なし沼から脱出することができます。もし自力で脱出することができなくても、救助が来るまで「焦らない」「表面積を大きくする」の2つを意識することはとても大切です。

急なアクシデントでも自分の命を守れるようにしっかりと覚えておきましょう。

底なし沼にはまったときやってはいけないこと

冷静さを失うと悪循環にはまってしまう底なし沼

冷静さを失うと悪循環にはまってしまう底なし沼
底なし沼の正しい脱出方法について解説しましたが、逆にやってはいけないことを紹介します。

①大暴れする
脱出方法でも解説しましたが、底なし沼では落ち着いて行動するようにしましょう。暴れては沈み、暴れては沈みという悪循環に陥り、より怖い思いをしないように気をつけてください。

②誰かに引っ張ってもらう
底なし沼にはまったとき、そばの誰かに引っ張り上げてもらおうとすることは意外にも非常に危険な行為。しっかりと沼にはまっているとき、本気で引っ張ってもらっても抜け出すことは難しく、勢い余って沼に引きずり込んでしまう可能性があります。また、無理矢理引き抜こうとすると肩を脱臼する危険性も。

誰かが近くにいる時は引っ張ってもらうのではなく、消防隊に連絡するなどしてもらい、自力で脱出する方法を試しながら救助を待ちましょう。

日本にある底なし沼

恐ろしい底なし沼は日本にも多く存在しています。その謎めいた雰囲気から多くの人を惹きつけており、観光スポットになっている底なし沼も。そんな日本の底なし沼を3つ紹介します。

浮島の森 蛇の穴(和歌山県)

水に浮かんだ島としても有名な浮島の森

水に浮かんだ島としても有名な浮島の森
和歌山県新宮市に位置する浮島の森。正式名称を「新宮藺沢浮島植物群落(しんぐういのそうきしましょくぶつぐんらく)」と言い、島全体が水に浮かぶ、不思議な植物群落です。この浮島には「蛇の穴(じゃのがま)」という底なし沼が存在します。

蛇の穴は10mの竿でさえ沼の底に達しないというとてつもない深さを誇るまさに「底なし沼」。入ったら2度と戻って来れない可能性が高いので絶対に木橋から降りてはいけません。

10m以上の深さを誇る恐ろしい蛇の穴

10m以上の深さを誇る恐ろしい蛇の穴
この蛇の穴には悲しい伝説が残っています。

"昔、この辺りに「おいの」という近所でも有名な美女が暮らしていました。ある日おいのは父と一緒に浮島へ薪を取りに行きました。昼ごろになり、持ってきたお弁当を食べようとすると箸を忘れてしまったことに気がつきます。そこでおいのは木の枝を箸の代わりにしようと森へ探しに行きました。父はおいのを待ちますがいつまで経っても戻ってきません。おいのを心配した父が探しにいくと、おいのは大蛇に呑まれ、今にも穴に引きずり込まれそうでした。父は必死においのの手を取ろうとしますが、おいのはそのまま沼へと姿を消したのです。"

この物語は上田秋成が江戸時代に著した『雨月物語』のもとになったともいわれています。昔の人も蛇の穴の底知れない不気味な雰囲気を味わっていたのでしょうか。

龍神沼(北海道)

北海道稚内にある坂ノ下神社のすぐそばに位置する龍神沼。とあるテレビ番組で取り上げられたことでも知られる底なし沼です。

龍神沼は透明度が非常に低く、底が全く見えません。この奇妙な見た目から数多くの逸話が生まれる地となりました。

"昔、材木屋が切り出した材木を沼の中に入れておきました。数日後、その材木を取りに行くと1つ残らず消え失せてしまいました。材木屋が不思議に思っていると、その材木が海の向こうであるはずの利尻島の姫沼という場所に浮かんでいることがわかりました。"

海の向こうに見える利尻富士

海の向こうに見える利尻富士
この逸話から龍神沼には底がなく、海の向こうの姫沼と繋がっているという噂が立つようになりました。

残念ながらテレビ番組の検証により龍神沼の水深は約2.37mであるということが判明。本当の底なし沼という噂は否定されたものの、新たなトリビアが生まれた地として世に知られることとなりました。

やちまなこ(北海道)

谷地坊主(やちぼうず)が浮かぶやちまなこ

谷地坊主(やちぼうず)が浮かぶやちまなこ
北海道釧路平野に位置する釧路湿原。自然が溢れた日本最大の湿原・湿地です。この湿原には「やちまなこ」という底なし沼が無数に存在しています。

やちまなこを漢字で書くと「谷地眼」。谷地とはアイヌ語で湿原を意味し、「湿原にあいた眼」という意味になります。やちまなこは壺のような形をしており、これが目の形に似ていることからそのように呼ばれるようになったそう。

やちまなこの深さはものによってさまざま。3mを超える巨大なものもあれば、そこまで深くないものもあります。

湿原のあちこちに点在しているため、訪れる際は十分気をつけましょう。

海外にある底なし沼

流砂に注意という警告看板

流砂に注意という警告看板
日本だけでなく海外にも底なし沼は存在しています。沼状のものだけでなく、砂漠や海岸などの砂地での流砂も多く見られます。

砂漠での流砂

水の少ない砂漠でも底なし沼の危険と隣り合わせ

水の少ない砂漠でも底なし沼の危険と隣り合わせ
過酷な気象条件の砂漠で流砂にはまることは死に直結するほどの危険な事故。湿った地面のように見えても、踏み込んでみたら流砂だったという事故が多く起こっています。

脱出に時間がかかってしまうと頭上の太陽が照り付け、エネルギーを奪います。全身が埋まるような深さの流砂はほとんどありませんが、動けないだけでも灼熱の太陽に命を奪われてしまいます。

アフリカをはじめとする多くの砂漠で見られる現象なため、砂漠を歩く際は足元に注意を払っておきましょう。

海岸での流砂

美しいビーチに潜む恐ろしい底無し沼

美しいビーチに潜む恐ろしい底無し沼
海外では海岸での流砂も多く発生しており、ビーチを歩いていたらいきなりはまるという事故も起こりかねません。

海外での流砂で注意するべきことは潮の満ち引き。干潮の際に流砂にのまれ、時間が経つにつれて満潮となり、溺れてしまうという痛ましい事故も過去に発生しています。

干潮となり海底が見えているモアカム湾

干潮となり海底が見えているモアカム湾
イギリスのモアカム湾は干潮の際に海を歩いて渡ることができる人気の観光スポット。しかし、流砂が発生しやすい場所でもあるため、歩くにはガイドと回るのが得策です。流砂にはまり、脱出できなくなると急速に満ちてくる海水によって命を奪われる危険性も。

気軽に訪れることができる場所でも危険な事故は起こり得ます。あなたがよく訪れる海岸でも流砂が起こっているのかも。

底なし沼は地上に開いたブラックホール

今回は世にも恐ろしい底なし沼の正体と脱出方法について紹介しました。人をも飲み込んでしまう地上のブラックホールはまさに自然の驚異。

ハイキングなどを楽しむ際は足元に十分注意しましょう。水たまりに見える場所ももしかしたら底なし沼が潜んでいるかも。