静岡県伊豆の国市に位置する「韮山反射炉(にらやまはんしゃろ)」。2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として世界文化遺産に登録されました。この韮山反射炉は江戸時代末期に造られた大砲鋳造施設で、実際に稼働していた反射炉としては日本で唯一現存するものです。
隣接する韮山反射炉ガイダンスセンターには、反射炉が稼働していた頃の映像や、反射炉完成までの歴史を語るパネルなどが展示されています。
今回は、そんな世界遺産「韮山反射炉」の歴史と見どころについて紹介します。
反射炉とは?
韮山反射炉の構造図
17世紀から18世紀にかけてヨーロッパで発達した溶解炉が「反射炉」。主に金属を溶かして大砲などを鋳造するために用いられていました。内部は、耐火レンガがアーチ積みになった炉体部と、煉瓦積みの高い煙突からなります。
韮山反射炉内 ロストル方向
稼動時はアーチ状の部分で発生させた高温の熱や炎を反射させることで鉄などの金属を溶解していました。この熱や炎を反射させる仕組みから名付けられたのです。
韮山反射炉が世界遺産として選ばれた理由
韮山反射炉は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として平成27年7月に世界文化遺産に登録されました。国指定史跡である韮山反射炉が世界遺産に選ばれた理由について、詳しく解説していきます。
「明治日本の産業革命遺産」とは?
韮山反射炉が世界遺産に選ばれた理由とは
韮山反射炉の世界文化遺産への登録は、「明治日本の産業革命遺産」のうちの一つとして行われました。それではこの「明治日本の産業革命遺産」とは何なのでしょうか。
19世紀半ば、徳川幕府の鎖国政策により長い間海外との門戸を閉ざしていた日本。明治新政府に政治が移ったことで2世紀に及ぶ鎖国は終了し、開国と明治維新を迎えます。その後半世紀で社会制度は大きく変化し、急速な産業化を成し遂げるのです。
日本は非西洋諸国で初めて意志を持って産業革命を起こし、近代国家と肩を並べるまでに至りました。また日本の近代化は西洋からの技術を並行輸入するのではなく、日本独自の技術をベースに西洋の技術を取り入れていったことも特徴的。これらは世界史的にも特筆されるべきもので、世界遺産に値する価値があると考えられたのです。
韮山反射炉は23の構成資産の中の一つ
8県23の資産から構成される「明治日本の産業革命遺産」
「明治日本の産業革命遺産」を構成するのは、8県におよぶ23の資産。明治時代の複数の遺産を同じ歴史や文化群のまとまりとして関連づけ、全体で価値を有するものとして世界遺産に推薦しました。これらは、日本の近代化が飛躍的に進んだことを証明する大切な遺産なのです。
世界遺産登録を目指す試みは、当初日本の近代化が始まったとされる九州地方が中心でした。しかし韮山反射炉が「製鉄業」という分野で明治時代の産業発展に影響を与えたとして、2012年構成資産に追加。当時の反射炉の役割は、江戸時代後期に外国船が日本の近海に増えたことに危機感を感じた江戸幕府が鉄製大砲の鋳造のために導入したもの。日本の軍事力の強化の一環としての功績が今世界遺産登録に繋がったのです。
韮山反射炉以外に、鹿児島県の「集成館」や長崎県の「長崎造船所」、福岡県の「官営八幡製鉄所」が登録されています。
韮山反射炉の歴史
韮山反射炉の築造を指示した江川英龍
江戸時代末期の1853年にアメリカのペリーが浦賀に来航したことを受けて、幕府は外国の脅威に対応すべく、日本の各地で反射炉が相次いで建設しました。その中の一つが韮山反射炉です。
当時、江戸湾海防の責任者だった「江川太郎左衛門英龍(えがわたろうざえもんひでたつ)」を中心に、伊豆下田の地で築造を開始。しかし下田に来航したアメリカの水兵が敷地内に侵入する事件が発生したことで、急遽内陸の韮山が築造場所となりました。
建設途中の1855年に江川英龍は病死しますが、息子の江川英敏が後を継ぎ、着工から3年半後の1857年に完成させました。
韮山反射炉の完成後
韮山反射炉は江戸幕府直営の反射炉として多くの大砲を鋳造してきました。お台場(現在の台場公園)に据えられた大砲も、韮山反射炉で造られたものです。その後、1864年に使用中止となり反射炉としての役目を終えます。
使用中止直後は放置されていましたが、1908年以降地元住民の協力のもと度重なる保全修理が行われ、現在に至ります。また、2015年には韮山反射炉が日本の産業化に影響を与えたものとして「明治日本の産業革命遺産」の構成資産に登録されました。
韮山反射炉の見どころは?
韮山反射炉ガイダンスセンター
韮山反射炉を見学するには、まず反射炉に隣接した「韮山反射炉ガイダンスセンター」へ訪れる必要があります。
館内では、韮山反射炉に関する歴史や実際に稼働していた頃の映像、反射炉についての詳しい解説などについて学ぶことができます。もちろん先に反射炉を見ることも可能ですが、見学する前に歴史や詳細を知っておくことでより理解が深まるでしょう。
こちらからガイドの予約も可能です。
見どころ①韮山反射炉の煙突
高さ16mある煙突
韮山反射炉を間近で見ると、煙突の高さに驚かされます。4基ある煙突は約16mあり、その高さによって燃焼時に人力に頼らない自然送風を確保していました。煉瓦積みの煙突には約4tものレンガが使用されており、江戸時代に造られたとは思えない技術の高さがうかがえます。
見どころ②韮山反射炉の焚口・鋳口
残念ながら反射炉の内部を見ることはできませんが、反射炉の外部であればじっくりと間近で見ることができます。その中でも見逃せないのが、実際に使用されていた「焚口」と「鋳口」です。
左が焚口、右が鋳口
焚口は石炭などの燃料を入れるところで、一方鋳口は溶かす金属を入れる場所です。焚口で発生した熱が天井で反射し、鋳口にある金属が溶かされるという仕組みになっていました。
見どころ③鉄製24ポンドカノン砲
鉄製24ポンドカノン砲(複製)
韮山反射炉の横にある「鉄製24ポンドカノン砲」は、この韮山反射炉で実際に造られていた大砲の複製です。全長3.5m、重さ3.5tのカノン砲は、主に江戸湾警備のためにお台場に配備されました。
見どころ④蔵屋鳴沢にある展望台
蔵屋鳴沢にある展望台からの風景
伊豆のお土産やレストラン、地ビールなどが楽しめる施設「蔵屋鳴沢」が所有する茶畑には展望台が設置されています。ここからは、韮山反射炉、そして晴れた日には富士山を同時に眺めることができます。韮山反射炉からも近く、蔵屋鳴沢の茶畑では春と秋に茶摘み体験もできるので、必ず寄りたいスポットです。
*茶摘み体験の情報はこちら
見どころ⑤江川邸
江川邸
韮山反射炉からバスで10分ほどの距離に、韮山反射炉を設計した江川英龍の生家「江川邸」があります。国の重要文化財に指定されている江川邸は、日本最古の代官屋敷です。
小屋根づくり
「小屋根づくり」と呼ばれる屋根裏の木組みは、くぎやねじを一切使っていないにも関わらず、耐震構造に優れた造りです。また入り口付近にある「生き柱」は、1200年ごろに江川一族がこの地に移り住んだ時に使用していた柱だといわれています。この屋敷内では最も神聖なものとして大切に保存されています。
■江川邸までのアクセス
韮山反射炉と江川邸は歩いて30分ほどで行き来することができます。また、主に土・日・祝日に運行している「観光周遊型韮山反射炉循環バス」で移動することも可能です。料金は300円で一日中乗り放題。このバスを利用する際は、必ずこちらで運行日を確認しておきましょう。
伊豆の国市・韮山のおすすめイベント
伊豆の国市韮山文化センターで開催されるイベントをご紹介します。
1月『パン祖のパン祭』
毎年1月に開催される「パン祖のパン祭」は、日本で最初にパンを作ったとされる江川英龍の功績を讃えるお祭りです。全国有名店のパン販売会やパンを作るパン教室、地元の高校生が製作した巨大パンオブジェなど、パンの世界を満喫できます。会場は伊豆箱根鉄道韮山駅の目の前にある「伊豆の国市韮山文化センター」です。
春の桜の時期限定ライトアップ
韮山反射炉と桜のライトアップ
約20~30本ほどの桜が韮山反射炉を囲無用に咲き誇ります。
世界遺産「韮山反射炉」と桜が暗闇の中に浮かび上がり幻想的な風景を楽しむことができます。
7月8日『韮山反射炉の日』
平成27年7月8日、韮山反射炉は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として世界遺産に登録されました。この韮山反射炉を保全するだけではなく地域の振興を図るために、7月8日を「韮山反射炉の日」として設けました。また、記念式典やオリジナルグッズの配布も行なっています。
韮山反射炉へのアクセス
最寄駅:韮山反射炉(バス停)
東京駅からのアクセス
【東京駅】— 東海道新幹線 / 名古屋方面
→【三島駅】— 伊豆箱根鉄道駿豆線 / 修善寺方面
→【伊豆長岡駅】— 周遊バス・観光周遊韮山反射炉バス / 韮山反射炉方面
→【韮山反射炉バス停】
静岡駅からのアクセス
【静岡駅】— 東海道新幹線 / 東京方面
→【三島駅】— 伊豆箱根鉄道駿豆線 / 修善寺方面
→【伊豆長岡駅】— 周遊バス・観光周遊韮山反射炉バス / 韮山反射炉方面
→【韮山反射炉バス停】
富士山静岡空港からのアクセス
【富士山静岡空港駅】— 空港バス・しずてつジャストライン / 新静岡行き
→【静岡駅】— 東海道新幹線 / 東京方面
→【三島駅】— 伊豆箱根鉄道駿豆線 / 修善寺方面
→【伊豆長岡駅】— 周遊バス・観光周遊韮山反射炉バス / 韮山反射炉方面
→【韮山反射炉バス停】
周辺の観光情報
伊豆の国パノラマパーク
富士山が一望できる「伊豆の国パノラマパーク」
静岡県伊豆の国市に位置する「伊豆の国パノラマパーク」。ロープウェイに乗車し標高452mの「碧テラス」へ向かうと、富士山や駿河湾を一望できます。他にも絶景を楽しみながら足湯に入れる「富士見の足湯」や、大人も楽しめるアスレチック広場など、景色以外の魅力も盛りだくさんです。
伊豆の国パノラマパーク 基本情報
住所:静岡県伊豆の国市長岡260-1
営業時間:ロープウェイの営業時間は以下の通りです。
【夏季】9:00~17:30(上り最終 17:00)
【冬季】9:00~17:00(上り最終 16:30)
※施設内の詳しい営業時間については公式サイトをご確認ください。
アクセス:「伊豆長岡駅」より伊豆箱根バス 長岡温泉場循環・伊豆三津シーパラダイス行き
「伊豆の国市役所前」下車 徒歩約2分
公式サイト:伊豆の国パノラマパーク
修善寺
伊豆の小京都と呼ばれる「修善寺」
伊豆最古の温泉場で、伊豆の小京都と呼ばれる「修善寺」。弘法大師空海が開山した修善寺を中心に広がる修善寺温泉。修善寺温泉発祥の湯の「独鈷の湯」で足湯に入ることもできます。2時間ほど徒歩で散策できる温泉街は、竹林や風情ある路地、朱塗りの橋など、見どころ満載のスポットです。
修善寺 基本情報
住所:静岡県伊豆市修善寺838-1
アクセス:「修善寺駅」より修善寺温泉行き「修善寺温泉駅」下車
公式サイト:修善寺温泉 公式サイト
日本で唯一の反射炉へ
現在、日本に残っている反射炉は韮山反射炉の他に、山口県萩市の「萩反射炉」などがありますが、実際に稼働していたのは韮山だけ。日本の産業革命を支えた韮山反射炉で、再度歴史を振り返ってみるのもいいかもしれません。