「神無月(かんなづき)」という言葉を聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?
『徒然草』の第11段を思い浮かべる方から、一字違いのお笑い芸人を思い浮かべる方まで、さまざまかと思います。
ここでは、和風月名の「神無月」と、 神無月と関係の深い出雲の「神在祭」についてさっくり解説したいと思います。
※この記事は2023年11月時点の情報をもとに作成されました。諸事情により最新の状況と異なる場合があるため、お出かけの際はご自身で最新の情報をご確認ください
※2024年10月、一部情報を更新しました
神無月は何月を指す?
神無月とはズバリ10月のことです。
「神無月」は「かんなづき」と読み、通常は旧暦(※1)10月を指します。新暦の10月を指す場合もあります。
現在は1年を12に分割した期間をそれぞれ「1月」「2月」……と呼びますが、旧暦では和風月名(わふうげつめい)と呼ばれる名前でひと月を呼称して来ました。「神無月」は10月を表す和風月名なのです。
*和風月名の名称と由来一覧はこちら
※1 旧暦……1873(明治5)年12月2日まで日本で使用されていた暦のこと。明治政府は改暦により1873(明治5)年12月2日の翌日を明治6年1月1日とし、1年を365日(閏年は366日)と改めました
「神無月」と呼ぶのはなぜか
一般的な説
「神無月」の名前の由来で一般的によく知られているのは、出雲以外の各地で神が不在となる月だから、というもの。
日本には古くからの言い伝えや季節の行事が数多くあり、万物に宿る八百万の神々が旧暦10月に出雲の国に集まる、という言い伝えはそのひとつです。
ちなみに、諸国の神々が出雲に集まる、という言い伝えは、平安時代末期に成立した『奥義抄』(※2)という書物のほか、それより後に成立した様々な資料に記されているそうです。
※2 奥義抄(おうぎしょう):藤原清輔が著した歌学書。1124〜1144年頃に成立したと考えられている
奥義抄(上)(出典:国立公文書館デジタルアーカイブ 奥義抄)
そのほかの説
「神無月」の由来にはほかにも説があります。島根県・松江にある佐太神社の公式サイト内、「神在祭(お忌さん)」のページでは、10月は祭りが少ないためと記されています。
出雲では「神在月」という
島根県の出雲地方では、10月を「神無月」ではなく「神在月」と呼びます。出雲以外は神様が不在(「神無」)となるのに対し、出雲には神様が集まる(「神在」)から、というのが一般的な由来です。
出雲では神在月、出雲以外は神無月
出雲で行われる「神在祭」
神様が集まる出雲の地では、毎年旧暦10月に、「神在祭(かみありまつり・じんざいさい)」という祭を執り行います。新暦では11月の開催になります。
神在祭は、出雲の地で昔から10月に行われていた新嘗祭(※3)と、神名樋山(※4)など出雲の各地に神々が去来する「カンナビ信仰」とが結びついた出雲特有の祭、と考えられます。
神在祭は、出雲大社(いずもおおやしろ)のものが特に有名ですが、出雲大社以外にも複数の神社で執り行われます。特に「出雲三大社」のひとつ・佐太神社(さだじんじゃ)の神在祭は、文献上もっとも古くから執り行われていて、500年前と祭りの内容がほぼ変わっていないそうです。
※3 新嘗祭(にいなめさい):収穫を神に感謝し、翌年の豊穣を祈願する、古くからの祭儀のこと
※4 神名樋山(かんなびやま):出雲市多久町の大船山のこと。『出雲国風土記』にも詳しく描写されており、古代から信仰されていたことが窺われる
集まった神々は何をしている?
八百万の神々は出雲に集まり、農業のことや男女の縁、人々の縁など、人が知ることのできない人生諸般のことを決める「神議り(かみはかり・かむはかり)」を行っていると言われています。
出雲大社では、御本殿から少し離れた「上宮(かみのみや)」で神議りが行われるとされています。
人はどんなことをする?
人が行う神在祭の主な行事には次のようなものがあります。
●出雲にやって来た神々を迎える「神迎祭(かみむかえさい)」「神迎神事(かみむかえしんじ)」
●神議りを終え、国へ帰る神々を送る「神等去出祭(からさでさい)」
このほか、神様が滞在している期間は、粗相があってはならないということで、人々は「何もせず静かにする」ことをしていると言えます。
歌ったり踊ったり、楽器を奏でたり、家を建てるなどして騒がしくすることをつつしみ、静かに過ごすことを「物忌み(ものいみ)」と言いますが、神在祭も「お忌さん」「御忌祭(おいみさい)」と呼ばれることがあります。
神在祭を行う出雲の神社・2024年日程
出雲地方で神在祭を行う神社9社と、2024年の神在祭の日程は次の通り。例年、朝山神社でもっとも早くに神在祭が行われます。
《出雲大社》(いずもおおやしろ)
●日程:2024年11月10日(日)〜11月26日(火)
●住所:島根県出雲市大社町杵築東195
●関連サイト:
・神在祭|出雲大社
・神在月|出雲観光ガイド
・神在祭|しまね観光ナビ
《佐太神社》(さだじんじゃ)
●日程:2024年11月20日(水)〜11月30日(土)
●住所:島根県松江市鹿島町佐陀宮内73
●公式サイト:佐太神社
《日御碕神社》(ひのみさきじんじゃ)
●日程:2024年11月11日(月)~17日(日)
●住所:島根県出雲市大社町日御崎455
●公式サイト:日御碕神社
《朝山神社》(あさやまじんじゃ)
●日程:2024年11月1日(金)〜11月10日(日)
●住所:島根県出雲市朝山町1404
●関連サイト:朝山神社|出雲観光ガイド
《万九千神社》(まんくせんじんじゃ)
●日程:2024年11月17日(日)〜11月26日(火)
●住所:島根県出雲市斐川町併川258
●公式サイト:万九千神社
《熊野大社》(くまのたいしゃ)
●日程:2024年11月10日(日)〜11月26日(火)
●住所:島根県松江市八雲町熊野2451
●公式サイト:熊野大社
《神魂神社》(かもすじんじゃ)
●日程:2024年11月11日(月)〜11月18日(月)
●住所:島根県松江市大庭町563
●関連サイト:神魂神社|しまね観光ナビ
《多賀神社》(たがじんじゃ)
●日程:2024年11月25日(月)・11月26日(火)
●住所:島根県松江市朝酌町970
●関連サイト:多賀神社|松江観光協会
《賣豆紀神社》(めづきじんじゃ)
●日程:2024年12月3日(火)〜9日(月)
●住所:島根県松江市雑賀町1663
●関連サイト:松江の神話めぐり 売豆紀神社|松江観光協会
佐太神社の神在祭
佐太神社は大社造りの社殿が3殿並立する造り(写真提供:公益社団法人 島根県観光連盟)
「悪縁を切って良縁を結ぶ」ご利益のある佐太神社は、JR山陰線松江駅前から日本海方向に車で約20分。大社造りの社が3殿並ぶ荘厳な雰囲気の神社で、「出雲国三大社」のひとつです。神在月の旧暦10月に出雲に集まった神々は旧暦10月25日から30日まで、佐太神社に滞在するといわれています。この期間を佐太神社では物忌みの期間としているため、神在祭を「お忌みさん」と呼んでいます。現在、佐太神社の神在祭は新暦で行われています。
神迎え神事
日程:2024年は11月20日(水)
毎年新暦の11月20日に行われます。夜の直会殿(なおらいどの)で、宮司はじめ神職のみで行われる神事。
神々を迎える準備として、まず正中門が閉められます。閉めた門の前に土幣や小豆、餅がお供えされた後、門内の直会殿に榊葉の御神酒が供えられ、神迎えが執り行われます。
終わると、境内には注連縄が張りめぐらされ、翌日の11月21日、神社に訪れた参拝者に一夜御水(一夜酒)がふるまわれます。
神等去出(からさで)神事
日程:2024年は11月25日(月)
毎年新暦11月25日に行われます。開始は21:00ごろ。祭場は、佐太神社の北西2㎞ほどに位置する神ノ目山(かんのめやま)山中になります。
一般参拝者が参加する場合は、神札所で高張提灯(たかはりちょうちん)・大幣(おおべい)などを奉納する必要があります。神社への戻りは23:00頃です。
止神送(しわがみおくり)神事
日程:2024年は11月30日(土)
毎年新暦11月30日に行われます。25日の神等去出(からさで)神事で、まだ出雲に残っている神様を送る神事です。
内容は神等去出(からさで)神事と同じですが、この神事に参加した方は帰りに神ノ目山を決して振り返ってはいけません。
出雲大社の神事
出雲大社の御本殿・八足門(写真提供:公益社団法人 島根県観光連盟)
日本屈指のパワースポット・出雲大社(いづもおおやしろ)は縁結びのご利益がある神社です。
旧暦10月11日に全国各地から神々が出雲大社に集まり、旧暦10月17日までの7日間に「男女の結び」やさまざまなご縁を神議り(かみはかり=神々の会議)にかけます。
一般観光客には非公開の神事もありますので、撮影など神事の妨げとなるような行為は慎みましょう。
神迎祭
日程:2024年は11月10日(日)19:00〜
毎年旧暦の10月10日に稲佐の浜(いなさのはま)で行われる神事。傍らに先導役の龍蛇神を配置した2本の神籬(ひもろぎ=神を招くための依代)に、全国から訪れる神々をお迎えします。
その後、龍蛇神の先導のもとに出雲大社まで神々をお運びし、神楽殿で「神迎祭」が執り行われます。この後、神々は境内にある東西の十九社に鎮まります。
一般の方には「神迎祭」終了後に特別拝礼があり、「神在祭」期間中は境内に奉祭した龍蛇神に参拝出来ますよ。
※神迎祭は観光イベントではなく神事なので、観客席はありません。浜に敷かれた菰(こも)の上は歩行禁止。フラッシュを焚いた撮影は禁止です
出雲大社の神迎祭(写真提供:公益社団法人 島根県観光連盟)
神在祭
日程:2024年は11月11日(月)・15日(金)・17日(日)
毎年旧暦の10月11日・15日・17日に行われる神事。旧暦10月11日からの7日間は、出雲では静かに過ごす物忌みの期間です。一般の方は「神在祭」への参加は出来ませんが、出雲大社境内での参拝と「縁結び大祭」への参加は可能です。
縁結び大祭
日程:2024年は11月15日(金)・17日(日)
毎年旧暦の10月15日・17日に行われ、一般の方が参加できる神事。参加の際は予約が必要です。申し込みは毎年秋頃に出雲大社HPに掲載される「お申し込みの案内」から。
ちなみに昨年までの例では、往復はがき1枚につき、参加される本人の名前・住所・電話番号・参列希望日(第1希望、第2希望)を明記。当日、参列通知はがき持参のうえ、祈祷料5000円を奉納します。
神等去出(からさで)神事
日程:2024年は11月17日(日)・11月26日(火)
毎年旧暦の10月17日・26日に行われる神事。
旧暦10月17日の神事は神籬(ひもろぎ)を移動した拝殿の前で行われます。祝詞の奏上後、神官が楼門を叩き「お立ち~、お立ち~」と唱えると、神々は出雲大社から去られます。
旧暦10月26日に行う神事は、神官一人が大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)に神々が去られたことを報告します。
出雲に行かない神様のこと
恵比寿様も留守神のひとり。写真はJR恵比寿駅の恵比寿像
八百万の神々が例外なく神無月の旧暦10月に出雲に集まるというわけではありません。「留守神」と呼ばれる、お留守番の神々が全国各地にいるのです。
さっくり解説すると、恵比寿(えびす)神、金毘羅(こんぴら)神、家の竈(かまど)や土地に根づいた「荒神(こうじん/あらがみ)」たちが留守神です。
留守神① 恵比寿神
関東地方で留守神、荒神といえば恵比寿神のこと。「大黒神」と呼ぶ地域あります。「戎」「夷」「蛭子」の字を当てることも。
留守神② 荒神
荒神には屋内に祀られる「三寶荒神(さんぽうこうじん)」と屋外に祀られる「地荒神(じこうじん)」、「大荒荒神」の3系統があり、由来、分類とも複雑です。さらには道祖神を荒神とする地域もあり。
神様関係はおおらかすぎるほどおおらかなので、三寶荒神は代表格が「竈神(かまどがみ)」、地荒神は代表格が「屋敷神(やしきがみ)」「山の神」と押さえておきましょう。「大荒荒神」には秦河勝(はたのかわかつ)系や猿楽起源説などがあります。
留守神③ 金毘羅神・大黒神
瀬戸内地方を中心とした西日本には荒神信仰が根づいていて留守神を「金毘羅神」と呼ぶ地域もあります。
おまけ:和風月名一覧
睦月(むつき)
お正月に家族や親戚、仲間と「親睦を深める」ことから睦月に。
如月(きさらぎ)
植物が生き返ることから来たとする説と、衣を重ねる「着更衣(きさらぎ)」の2説あり。
弥生(やよい)
暖かくなり、草木がいよいよ茂る弥生(いやおい)が転じて「弥生(やよい)」に。
卯月(うづき)
「卯の花月」が略されて「卯月」に。
皐月(さつき)
田植えの時期である「早苗月(さなえづき)」から。
水無月(みなづき)
旧暦では梅雨明けの時期。田んぼの水が涸れた状態から来ている説。
文月(ふみづき)
稲穂がふくらむ「穂見月(ほみづき)」、平安時代の七夕で牽牛と織姫に詩歌を献上する習わしがあったことから。
葉月(はづき)
旧暦では秋。「葉落ち月」と、渡り鳥の雁がその年初めて来る月「初来月(はつきづき)」の2説有り。
長月(ながつき)
夜が長くなる「夜長月」、あるいは秋の長雨が続くことから「長月」に。
神無月(かんなづき)
全国各地から神々が出雲に集まる月。出雲では神在月(かみありづき)。
霜月(しもつき)
寒気が増し、霜が降りる「霜降月(しもふりづき)」が転じて「霜月」に。
師走(しわす)
師は僧侶のこと。旧暦では僧侶に経をあげてもらう月でしたから、僧侶が忙しく走り回る月「師馳せる月」を表現した説と「四季果てる月」が転じて「しわす」になった説の2説有り。
おわりに:神無月は神様と人とを結ぶ、ご縁の時期
「神無月」「神在月」という言葉には、いにしえの時代から受け継がれて来た八百万の神々への敬いの心が込められています。男女の縁はもちろんのこと、神様と人とのご縁を結ぶ時期なのかもしれません。
Text:morokoshi/Erika Nagumo Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考:
佐太神社公式サイト
出雲大社公式サイト
出雲観光ガイド/神在月
しまね観光ナビ/神在祭
レファレンス協同データベース/レファレンス事例詳細
日本の暦/和風月名
各種パンフレットほか