青い海一面を覆い尽くし、白銀の世界を作り出す「流氷」。白くて大きな氷の塊がオホーツク海に毎年1月から3月にかけて姿を見せます。
日本では北海道の冬に限られており、北海道の中でも網走(あばしり)や紋別(もんべつ)、知床(しれとこ)など流氷を見ることができる場所は限られています。さらに天候によっても流氷が現れるかどうか左右され、運に恵まれてこそ体験できる、まさに自然の産物です。
今回は、そんな流氷の知られざる魅力と見頃の時期も含めて紹介します。
海面に浮かぶ氷の塊!流氷とは?
流氷とは、海面を濁流する氷の塊のこと。青くて広大な海を白銀の世界に変貌させる流氷の謎に迫ります。
流氷はどうやってできるの?
オホーツク海に広がる流氷
オホーツク海は比較的浅い海で、シベリアからの冷たい空気により冷えやすいのが特徴的。短時間で海面の凍る温度-1.8℃に達し、海面に小さな氷ができ始め、それが集まることで流氷となります。
同緯度にある太平洋は水深が深く、水が全体的に混ざり合うため、凍ることはありません。
流氷の大きさは?厚さは?
大きい流氷の集まり
流氷の大きさはバラバラ。小さいもので数ミリのものから、波や風の影響を受けない寒くて静かな海であれば数十キロメートルに及ぶこともあります。しかし波やうねりで簡単に割れるため、ほとんどが数メートルから数キロメートルサイズとなります。
流氷の厚さは北海道付近で約40cm~50cm、オホーツク海の北部で約1m、北極海で最大2~3mの厚さです。
北海道の流氷はどこから来るの?
北海道沖に集まる流氷
海一面を覆い、北海道の青い海に白い光をもたらす流氷は、サハリン北東部の海でできたもの。海岸で発生した薄い海氷がシベリアからの寒い北風により流され、寒さで氷が厚くなりながら北海道までやってきます。
北海道沖の海も結氷温度-1.8℃に達するため、私たちが北海道の沿岸で見る流氷には、サハリンで生まれたものだけでなく北海道産の氷も含まれています。
流氷がなくなる?気温上昇と流氷
オホーツク海から徐々に姿を消す流氷
寒さが厳しさを増す1月~3月にかけて、北海道のオホーツク海沿岸に現れる白い流氷。しかし、近年は最盛期の2月でもほとんど見られないことも珍しくありません。オホーツク海北部の気温がこの100年で約0.6℃上昇し、オホーツク海全体の流氷の面積は減少してきているという説もあります。
流氷の初日や見頃の時期は?
流氷の見頃の時期や流氷を見に行く際に着ておくべき服装など気になる情報を紹介します。
北海道沖に流れ着いた流氷
流氷初日とは流氷を確認できた日、流氷接岸初日とは流氷が接岸した日のこと。
昨年(2023年)は、1月27日(金)に北海道網走市で流氷初日を観測。昨年より4日遅く、平年より11日遅い観測となりました。例年、流氷初日は1月下旬ごろ、流氷接岸初日は2月上旬~中旬ごろで、場所によっても異なります。
流氷は一般的に2月中旬~3月上旬までが見頃。ただし、流氷の時期はその年の気候変動により多少変わることがあります。流氷の初日や現在の場所などの最新の海氷速報は海氷情報センターにて随時確認しましょう。また気象庁でも、海氷分布予想図や天気予報、衛星画像などの海氷・流氷に関する情報を提供しています。
北海道で流氷が見れる場所は?
北海道の流氷は世界で最も南で見られる場所。北海道のオホーツク海側には最北端である椎内(わっかない)から最南端の釧路まで幅広く観測されています。今回は流氷を見られることで特に人気のある、網走、紋別、知床の流氷スポットを紹介します。
網走
人気流氷スポットである能取岬
「流氷の街」として知られる「網走」。水平線まで続く流氷を見渡せる「能取岬(のとろみさき)」や、安定した流氷であれば乗って写真を撮ることができる「鱒浦海岸(ますうらかいがん)」など数々の人気流氷スポットがあります。
オホーツク海に最も近い駅であるJR釧網本線(せんもうほんせん)の「北浜駅」では、木製の駅と白く澄み渡る流氷が絶妙にマッチして、風情ある雰囲気を演出してくれます。また流氷のそばを歩みながらのんびりとした旅を堪能できる乗馬体験もあります。
紋別
紋別市街地の中心に位置する「流氷展望台」
北海道のオホーツク海沿岸のほぼ中央に位置する「紋別」。紋別市街地の中心部にある「紋別公園」に設置されているのが「流氷展望台」です。
紋別市の街並みに流氷が押し寄せる姿や、知床連山を望むことができる紋別市有数の景勝地。紋別市街地から離れた川向地区にある流氷岬では海岸沿いに訪れる流氷の幻想的な光景を楽しめます。
知床
プユニ岬から見渡すオホーツク海の絶景
流氷が育む豊かな海の生態系と陸の生き物たちのつながりが特徴的であることから、世界自然遺産に登録された「知床」。そんな知床で流氷を見れる有名スポットが羅臼(らうす)です。
羅臼では海に浮かぶ流氷の上を歩く流氷ウォークや、空から白銀に染まるオホーツク海を見渡すことのできる熱気球フリーフライト、物静かな流氷の海を自分でボートを漕ぎながら進む流氷SUPなどアクティブな流氷体験を楽しむことができます。
また北海道の中で最初に流氷を見ることができるのが、知床に位置する「プユニ岬」。海面に張る流氷の隙間から顔を出す海に夕陽が差し込み、光が反射する様子がなんとも幻想的です。
いざ白銀の世界へ!流氷ツアー5選
オホーツク海を白く包む流氷。寒い冬にしか見られないという限られた期間の中で、毎年全国から多くの人々が北海道の流氷を見に訪れます。クルーズ船や列車に乗って流氷を見学できるのはもちろん、自分の足で流氷の上を歩く体験も!絶対に外せない流氷ツアー5選をお届けします。
流氷ツアー①【網走】おーろら号
白色に赤と青の線が際立つ「おーろら号」
白基調に赤と青の線が際立つ「おーろら号」。おーろら号は大型船で、1階・2階客室では暖房の効いた部屋で暖まりながらのんびりと鑑賞でき、展望デッキからは流氷の迫力を楽しめます。またコーヒーラウンジや売店、トイレもあり、充実した設備が整っています。
網走流氷観光砕氷船おーろら号 基本情報
住所:〒093-0003 北海道網走市南3条東4丁目5-1
TEL:0512-43-6000(9:00~17:00)
運航期間:2024年1月20日(土)〜3月31日(日)
運航時間:
①1月20日(土)~1月31日(水) 9:00~,11:00~,13:00~,15:00~
②2月1日(木)〜2月29日(木) 9:30~,11:00~,12:30~,14:00~,15:30~
③3月1日(金)〜3月14日(木) 9:30~,11:00~,12:30~,14:00~,15:30~
④3月15日(金)〜3月31日() 9:30~,11:30~,13:30~
※催行人数不足により運休となる場合があります。
料金:おとな4,000円/小学生2,000円(特別席+400円)
アクセス:JR網走駅よりバスで約10分
公式サイト:網走流氷観光砕氷船おーろら号
流氷ツアー②【紋別】ガリンコ号
流氷観光に出発する「ガリンコ号」
真っ白な流氷により一層真っ赤な船体が際立つ「ガリンコ号」。船首にある二つの大きなドリルが、ガリガリと音を立てながら流氷を割って突き進む流氷観光船です。ガッチリとしたフォルムで安定感ある船なので、安心して乗ることができます。夏もフィッシングクルーズとして運行しており、釣りを楽しめます。
ガリンコ号 基本情報
住所:〒094-0031 北海道紋別市海洋公園1番地
TEL:0158-24-8000
運航期間:2024年1月16日(火)〜3月31日(日)
運航時間:
《ガリンコ号Ⅲ IMERU》1月14日(土)〜3月31日(金)
【1月】10:00~,12:00~,14:00~,16:00~
【2月~3月3日】8:45~,10:30~,12:30~,14:30~
【3月4日~3月31日】10:30~,12:30~,14:30~,16:30~
《ガリンコ号Ⅱ》1月27日(土)〜3月5日(日)
【1月】9:00~,11:30~,13:30~,15:30~
【2月~3月】10:00~,12:00~,14:00~,15:00~
※催行人数不足により運休となる場合があります。
※日によって運行時間が異なる場合がありますので詳しくは公式サイトをご確認ください。
料金:
【ガリンコ号Ⅲ IMERU】大人4,000円/小人2,000円 幼児無料
【ガリンコ号Ⅱ】大人3,000円/小人1,500円 幼児無料
※web予約の場合100円〜300円安くなります。
アクセス:
①紋別バスターミナルより連絡バスで約15分
②紋別空港より無料送迎バスで約8分
公式サイト:ガリンコ号
流氷ツアー③【知床】エバーグリーン号
流氷観光船から見る知床連山と飛び交うワシ
砕氷機能を持たない流氷観光船である「エバーグリーン号」。知床の海に押し寄せる流氷は密度が低いため、流氷を砕かないクルーズが可能です。
知床での流氷観光船旅の特徴は、流氷だけでなく知床に越冬しにきた動物や鳥も見れること。動物を発見した際にはその都度スタッフが、マイクと船内スピーカーで生態や特徴など詳しく丁寧にガイドしてくれます。
エバーグリーン号 基本情報
住所:〒086-1833 北海道目梨郡羅臼町本町27-1
TEL:0513-87-4001
運航期間:
【Aプラン】2024年1月27日(土)~3月10日(日)
【B早朝プラン】2024年2月3日(土)~3月7日(木)
【Bプラン】2024年1月27日(土)~3月10日(日)
運航時間:
【Aプラン】13:00~
【B早朝プラン】早朝便は時間が決まっていません。
【Bプラン】8:30~
料金:
【Aプラン】大人4,400円/小学生2,200円
【B早朝プラン】大人11,000円/小学生4,400円
【Bプラン】大人11,000円/小学生4,400円
アクセス:根室中標津空港より車で約1時間
公式サイト:知床ネイチャークルーズ
流氷ツアー④【網走・知床】流氷物語号
流氷観光の旅に出る「流氷物語号」
オホーツク海沿岸を網走から知床まで走る流氷列車「流氷物語号」。流氷物語号は流氷ノロッコ号の後継として2017年からスタートした観光列車です。運転期間は1月末から2月末の1ヶ月間で、1日の間に網走と知床の間を往復2回しか運行せず、片道1時間ののんびりとした流氷観光を楽しめます。
JR北浜駅やJR浜小清水駅で10分〜20分ほどの停車時間があるため、列車から降りてオホーツク海を白く染める流氷を直接眺望できます。
流氷物語号 基本情報
運航期間:2024年1月27日(土)〜2月25日(日)、3月1日(金)〜3日(日)
運航時間:
①網走駅〜知床斜里駅 9:52~/12:45~
②知床斜里駅〜網走駅 11:30~/13:48~
料金:乗車券970円(指定席券530円)
公式サイト:流氷物語号
流氷ツアー⑤【網走・知床】流氷ウォーク
流氷ウォークを楽しむ人々
北海道のオホーツク海沿岸に浮かぶ流氷を体感できるスリル満点の「流氷ウォーク」。実際にガイドと一緒に流氷の上を歩きながら進みます。ドライスーツも着用するので泳げない人でも安全安心。流氷と一緒に海に浮かぶ、稀少な体験もできます。
流氷ウォークをすることができるのは、自然に生きる生物が多く棲む知床ならではの流氷ツアー体験。オオワシやオジロワシ、クリオネなどに遭遇することもあり、普段は味わえない自然の美しさを感じられます。
流氷ウォーク 基本情報
開催期間:2024年2月1日(木)〜3月31日(日)
開催時間:6:30~8:00,9:30~11:00,13:00~14:30,15:30~17:00
料金:6,000円〜
流氷を見に行く前に服装を確認しよう
極寒の北海道での服装
流氷が北海道に姿を現す時期は平均気温で0℃前後、最低気温は-10℃以下まで下がります。北海道の中でも最も過酷な寒さの時期に押し寄せる流氷を見る際は、その寒さに対応できる防寒対策が必要です。
保温性や発熱性の高いインナーに厚手のダウンジャケットを着用することを推奨します。船に乗る場合、船内は暖かいので、脱ぎやすい服装にしておくのがおすすめ。
流氷ウォークをする場合はドライスーツのレンタルもあります。レンタル予定の方はズボンで行きましょう。帽子やマフラー、手袋、カイロ、スノーブーツなどプラスαで防寒対策グッズを持っておけばさらに安心です。
流氷にも動物がいるって本当?
流氷の時期には、オホーツク海沿岸にさまざまな動物たちがやってきます。いつもは水族館で見てきた動物も直接見ることができるチャンスが。
アザラシ
流氷の上で寝そべるアザラシ
丸々とした体つきと優しい顔つきで人々を魅了する「アザラシ」。流氷シーズンになると、網走をはじめとするオホーツク海沿岸各地で、アザラシと遭遇する確率が高くなります。
網走で多く見られるアザラシは「ゴマフアザラシ」。全身にゴマ模様があるのが特徴ですが、体色や模様には個体差があります。流氷砕氷船に乗れば、運良く流氷の上に寝そべるゴマフアザラシを見られることも。
ワシ
流氷の上に集まるオオワシ
冬になると越冬のために北海道各地にやってくる「オジロワシ」と「オオワシ」。翼を広げると約2mにもなり、その迫力ある大きさと風格、鋭い目つきに圧倒されます。
オジロワシとオオワシは共に天然記念物にも指定されており、数の少ない希少なワシですが、流氷の時期には高い確率で目撃することができます。流氷ウォークや砕氷船での流氷観光中に遭遇する可能性は十分にあります。
クリオネ
オホーツク海に棲む流氷の天使「クリオネ」
流氷の天使と呼ばれる「クリオネ」。透明で中の赤い部分が透き通って見えるクリオネは貝の仲間です。貝殻を持たず翼足(よくあし)で優雅に泳ぐ姿はとてもかわいらしく、人気のある生き物です。
網走にあるオホーツク流氷館ではクリオネを水槽で飼育しているため、いつでも見ることができます。水面にいることもあり、流氷ウォーク中に遭遇することも。
エゾシカ
流氷の上をのんびり散策するエゾシカ
知床半島を代表する動物「エゾシカ」。車や列車での移動中にエゾシカの大きな群れや親子の群れに出会うことがあります。知床半島を訪れたらほとんどの人が出会えるエゾシカは、運が良ければ流氷に乗っている姿を見れることも。
キタキツネ
流氷の上で立ち尽くすキタキツネ
黄金色の毛をまとった愛くるしい顔の持ち主「キタキツネ」。北海道のほぼ全域に生息しており、北海道で遭遇率No.1の野生動物です。キタキツネも稀に流氷に乗っている姿が確認されています。
冬以外でも流氷を楽しめるおすすめスポット
【網走】オホーツク流氷館
本物の流氷に触れられる「オホーツク流氷館」
流氷とオホーツク海の生き物をテーマとした観光施設「オホーツク流氷館」。流氷の世界が360度楽しめる「流氷海中ライブ」や、マイナス15度の室内で本物の流氷に触れることができる「流氷体感テラス」など、季節に関係なくいつでも流氷を楽しむことができます。
流氷体感テラスで大人気のイベントが、濡れたタオルを凍らせる「しばれ実験」。他にも、光の演出によって低緯度のオーロラを再現した「流氷の日々の移ろい」など見どころが盛りだくさん。冬の時期に訪れることができない方も、オホーツク流氷館で本物の流氷を体感してみてください。
オホーツク流氷館 基本情報
住所:北海道網走市天都山244-3
営業時間:
【5月~10月】8:30~18:00
【11月~4月】9:00~16:30
定休日:なし
料金:大人990円/高校生880円/小・中学生770円
アクセス:
①女満別空港より車で約20分
②JR網走駅より車で約10分
公式サイト:オホーツク流氷館 公式サイト
【紋別】オホーツクタワー
海底からオホーツク海を覗くことができる「オホーツクタワー」
日本最北端に位置する海中展望塔「オホーツクタワー」。海底階では海中観察窓からオホーツク海を覗くことができ、広い海で生きる生物たちの姿を直接見ることができます。クリオネをはじめとした、オホーツク海で生息する海洋生物を展示したミニ水族館もありますよ。
また、3階にはオホーツク海を360度見渡すことができる展望台が。夏はエメラルドグリーンの美しい海が広がり、冬は流氷で埋め尽くされた真っ白の世界を見ることができます。秋から冬にかけては、運が良ければ海面でアザラシなどが見れるかも。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
オホーツクタワー 基本情報
住所:北海道紋別市海洋公園1番地
営業時間:10:00~17:00
定休日:12月29日~1月3日
料金:大人500円/小人250円
アクセス:ガリンコ号乗り場やタワー入口の駐車場から無料送迎バスあり
公式サイト:オホーツクタワー 公式サイト
北海道の海を白色に染める流氷
1月〜3月になると、オホーツク海一面を覆い尽くす流氷。青い海を白銀の世界に一変させるその姿は、息を呑むほどの美しさで、見る人々を魅了します。
日本でも唯一観測することのできる北海道にさえ常に姿を見せるわけではありません。天気や気温など運気にも恵まれてこそ見ることのできる流氷は、普段感じることのできない感動を与えてくれます。
たくさんのさまざまな生き物を呼び寄せ、大自然が作り出す流氷。一生に一度の貴重な時間を流氷と共に過ごしてみてはいかがでしょうか。