うどん店が日本にどのくらいあるかご存知ですか?
iタウンページ(※1)によると、2023年12月時点でうどんをメインで扱うお店は、日本国内に約1万6000軒もあるそうです。
うどんは、小麦粉・水・塩さえあれば、簡単に麺作りができることもあり、日本人にとってはとても身近な存在。そして日本各地にはそれぞれの「ご当地うどん」があり、美味しくて手頃なソウルフードとして根付き、愛されています。
全国各地のご当地うどんが一堂に会するイベント「全国年明けうどん大会」が、2023年も12月2日・3日の2日間、〝うどん県〟こと香川県で開催されました。
この記事では香川県出身の筆者が、「全国年明けうどん大会 2023 in さぬき」の様子を、香川県民のうどん事情・全国のご当地うどんの特徴とともに紹介しましょう。
※1 参考:iタウンページ/うどん 全国
うどん県民こと香川県民に愛されるイベント「全国年明けうどん大会」に潜入!
「年明けうどん大会」会場の様子(写真:筆者)
会場では「できたて・ゆでたて」のうどんを食べることができる。岡山県「浅口手延べうどん」の店舗にて(写真:筆者)
会場には香川の人も他県の人も
香川県の人々は、本場の「讃岐うどん」だけでなく、様々なうどんに興味深々です。毎年12月、全国各地のご当地うどんが香川県高松市に集結する「全国年明けうどん大会」(以下、年明けうどん大会)には、普段からうどんを食べ慣れている香川県民が多く訪れるといいます。
なぜなら年明けうどん大会には、北は北海道、南は九州・福岡県まで、全国各地から約20店が集結するから。いつもなら現地に足を運ばないと食べられない「ご当地うどん」を、香川で、しかも1杯500円均一で味わえるとあって、午前9時の開場前には、300人以上の行列ができるほどの大人気なのです。
岡山・大阪・東京などから訪れる人も多いものの、その中でも香川県の人はチラシを見て「これ美味しそう!」「これ試してみよう!」と、ひときわ高い熱量で「ご当地うどん」を楽しみにしている様子が見られました。
年明けうどん大会2023inさぬきのチラシ(写真:筆者)
会場フロアマップ。計20店舗が集結した(写真:筆者)
「年明けうどん」とは?
香川県の「年明けうどん」。紅色のあん餅が乗っている(写真:筆者)
もともとこのイベントは、「年明けうどん」のPRイベントとして開催されたのが始まり。2014年に第1回を開催し、2023年で10周年を迎えました。「年明けうどん」は、「新しい食習慣として新年にうどんを食する文化をうどんの本場さぬきから提案しよう」と、香川県の業界団体が開発しました。
「年明けうどん」とは、白いうどんに紅い具材をのせ、その年の人々の幸せを願うもの。たとえば、うどんに薄紅色のあん餅などをトッピングすることで、めでたい「紅白」を表現しています。全国各地のうどん店は、年明けうどん大会のために「年明けうどん」を準備し、出店しています。
なぜ、このイベントが香川県で開催されるようになったのでしょうか? 年明けうどん大会を主催する香川県の県産品振興課・藤本さんによると、「うどん文化が盛んな香川県でイベントを開催し、麺文化を発信していくことで、うどん業界の活性化につなげる狙いがあった」そうです。
年明けうどん大会の歴代ポスター。開催当初は、香川県出身の俳優・要潤(かなめじゅん)さんが毎年ゲストで登場していた(写真:筆者)
その後大会は年1回の開催を続け、コロナ禍前の2019年には2日間で4・5万人の動員を記録するほどの一大イベントに成長しました。
中には北海道の「純雪うどん」のように、第1回開催当初からずっと出店している店舗も。会場ではうどん屋さん同士が「あらぁ、お久しぶり!今年もよろしくね!」と交流を深める場面も見られました。
なお、コロナ禍が日本中を襲った2020年以降は、年明けうどん大会も来場が事前申し込み制となり、例年より来場者も少なく、寂しい状態だったとのこと。
2023年12月の第10回大会は、2019年以来4年ぶりの制約がない大会となり、来場者のなかには4軒・5軒と食べ歩く人も。概して〝うどん愛〟は高めでした。
うどんを提供するお店の方々も「声を出してお客さんを呼び込んで、食べてもらえることが心から嬉しい」と話す人が多く、藤本さんや関係者の方々も感慨深げに会場を見守っていたのが印象的でした。
2023年「全国年明けうどん大会」出店のご当地うどんをチェック!
さて、年明けうどん大会にはどんな「ご当地うどん」が出店しているのでしょうか? 会場でいただいた各地のうどんをご紹介していきましょう。
博多うどん〈福岡県〉
「立花うどん」の「ごぼ天うどん」。2023年の年明けうどん大会会場にて(写真:筆者)
「博多うどん」はどんなうどん?
ふわふわした柔らかい麺と、煮干し・サバ節などからとるスッキリと透明なダシが特徴的。さらに各店とも「ごぼ天」(ごぼうの天ぷら)のトッピングが人気で、年明けうどん大会では福岡県久留米市の人気店「立花うどん」が「ごぼ天うどん」を出店していました。
「博多うどん」の発祥・食べることができる地域
福岡市の中心部・博多が中心。福岡県全域にさまざまなお店があります。個人のお店もあれば、福岡県を中心に展開するうどんチェーン「ウエスト」や「釜揚げ牧のうどん」も、チェーン店ごとの特徴をしっかりと持っています。それぞれ、食べ歩くのもいいでしょう。
稲庭(いなにわ)うどん〈秋田県湯沢市〉
2023年の年明けうどん大会での稲庭うどん販売のようす(写真:筆者)
「稲庭うどん」はどんなうどん?
稲庭うどんは、幅2~3mmと通常のうどんより細く、平たい麺が特徴、しっかりとコシがありとても滑らかでのど越しがいいのが特徴です。小麦粉と水を練って3~4日間は熟成させ、麺を伸ばすのは手作業。手間と時間がかかり、提供できる店舗はあまり多くありません。
「稲庭うどん」の発祥・食べることができる地域
稲庭うどんは、秋田県南部の稲庭地区(現在の湯沢市稲庭)で江戸時代初期ごろに製造が始まり、久保田藩(現在の秋田県)の藩主が他藩に献上する高級品として、かつては庶民が口にできないものでした。
その製法は長らく製造元の佐藤家に代々伝わる秘伝のものでしたが、1972年に製造方法を広く公開。さまざまな業者が参入し、現在は稲庭地区で数軒の店が営業しているほか、湯沢市内や近隣市町村のお店でも稲庭うどんを食べることができます。
稲庭うどん製造元の佐藤家の系譜の会社「佐藤養助商店」では、さまざまなメニューを提供するうどん店「佐藤養助本店」を営業しています。「佐藤養助」とは、佐藤家の当主が代々受け継ぐ名前です。
参考:筆者が秋田県湯沢市「佐藤養助総本店」でいただいた稲庭うどん(写真:筆者)
ガマゴリうどん〈愛知県蒲郡市〉
「ガマゴリうどん」。写真は2019年のものですが、2023年も出店していました(写真:筆者)
「ガマゴリうどん」はどんなうどん?
愛知県蒲郡(がまごおり)市の目の前に広がる三河湾は、全国の漁獲高の約6割を占めるほど、アサリがよく穫れます。
「ガマゴリうどん」は、アサリの旨味がうどん・ダシに染みわたり、とても香り高い逸品です。また、蒲郡市では「ガマゴリうどんの定義5箇条」(アサリは原則三河湾産のものを使用・具にはワカメを入れる・蒲郡産の食材を入れる、など)を定め、その味を守り続けています。
「ガマゴリうどん」の発祥・食べることができる地域
「ガマゴリうどん」の発祥は2012年。蒲郡市で撮影されていた映画のキャスト・スタッフの方々に振る舞ううどんを準備していた際に、近所の漁師の方が「これも入れてみりん!」(方言で「入れてみては?」)と多量のアサリ・ワカメを差し入れてくれて、うどんに入れてみたところ評判を呼んだことから、「ガマゴリうどん」を商品化したそうです。
なお、「ガマゴリうどん」誕生の前から、市内にある1903年創業のうどん店「やをよし」では、アサリが穫れる季節だけの「竹島うどん」が、名物メニューとして知られていました。「うどんにアサリを入れる」こと自体が珍しくない環境の中で、町おこしのために「ガマゴリうどん」が広まった、と言えるでしょう。
参考:筆者が愛知県蒲郡市「やをよし」でいただいた竹島うどん。「ガマゴリうどん」誕生前から名物だった(写真:筆者)
四万十ツガニうどん(高知県四万十市)
「四万十ツガニうどん」。写真は2019年のものですが、2023年も出店していました(写真:筆者)
「四万十ツガニうどん」はどんなうどん?
全国屈指の清流として知られる四万十川(しまんとがわ)でよく捕れるツガニ(モズクガニ)は、中国で高級食材として扱われる珍味・上海蟹と同業異種で、旨味が濃く「上海蟹より美味しい」という人もいるそうです。
「四万十ツガニうどん」は、体長10㎝ほどのツガニを茹でてで潰してダシを取っています。ひと口ダシをすすると、「さすがは上海ガニの親戚!」というほど濃厚で香り高く、かつ、甲羅や足などに詰まった身も旨味たっぷり!
「四万十ツガニうどん」の発祥・食べることができる地域
高知県内の四万十川・仁淀川(によどがわ)の流域では、ツガニを使ったうどん・汁物を出すお店もちらほらとありました。その中で、西土佐村で創業した「麦屋」(現在は四万十市平田に移転)が、現在の「四万十ツガニうどん」をメニューに加え、ツガニのシーズンである10月・11月に各地のイベントで売り歩いているのだとか。
そのほか出店していたご当地うどん
このほかにも、2023年の年明けうどん大会には、さまざまな「ご当地うどん」が出店していました。
●北海道純雪うどん(北海道)
●塩ホルモンうどん(茨城県)
●埼玉名物肉汁うどん(埼玉県)
●名古屋きしめん(愛知県)
●もろこしうどん(愛知県)
●伊勢うどん(三重県)
●近江うどん(滋賀県)
●かすうどん(大阪府)
●出雲うどん(島根県)
●津山ホルモンうどん(岡山県)
●備中浅口手延うどん(岡山県)
●新居浜肉焼きうどん(愛媛県)
●大町たろめん(佐賀県)
●台湾鶏肉トマトうどん(台湾)
このほかにも、全国各地にはさまざまなご当地うどんがあります。有名どころは【五島うどん(長崎県)】【氷見うどん(富山県)】【水沢うどん(群馬県)】【加須うどん(埼玉県)】など。これらも次回以降の年明けうどん大会に出店してくれることを期待しましょう。
讃岐うどん〈香川県全域〉
2023年の年明けうどん大会で提供された、「オリーブはまち」を使った讃岐うどん
参考:標準的な讃岐うどん。綾川町「松岡製麺 ※現在は閉店(写真:筆者)
「讃岐うどん」はどんなうどん?
「讃岐うどん」は、瀬戸内海のイリコでとったあっさりタイプのダシと、コシがありモチモチした食べ応えのある麺が特徴。
ただ、同じ香川県内でも「東讃」(香川県東部)と「西讃」(香川県西部)、市街地と郡部などで、うどんの傾向がガラッと違うことも。中には、丸亀市の「なかむら」系列のように、「柔らかく食べやすいのにコシがある」ような麵もあり、それぞれの店の違いを探っているうちに、3軒、4軒と食べ歩く人が多いのも特徴です。
「讃岐うどん」の発祥・食べることができる地域
香川県全域、とりわけ高松市から西側には多くのうどん店の数があります。ただ、「あぜ道を進んだ先にある」「農機具庫をちょっと改造しただけ」というお店は、たどり着くまでの難易度も高め。そういった際には、うどんに詳しい運転手さんがガイドを務めてくれる「うどんタクシー」などを活用するのもいいでしょう。
2023年の年明けうどん大会の会場に展示されていた「うどんタクシー」(写真:筆者)
うどんタクシーの上部にはこんなものが(写真:筆者)
「全国年明けうどん大会」開催の地・香川県のうどん事情
「えっ、そんな時にうどん食べるの?」香川県民がうどんを食べるタイミング
うどんの産地は全国各地に数あれど、その中でもうどんがもっとも生活に根付いているのは、「讃岐うどん」の本場として知られる香川県でしょう。
香川県では、朝・昼に主食として食べるだけでなく、冠婚葬祭や法事、会社での昼食や会議・イベントでの出前(うどん玉とやかんに入ったダシを届けてくれる)など、幅広い場面でうどんが供されます。
また、毎年7月2日頃の「半夏生」(はんげしょう。夏至から数えて11日目にあたる日)には、関西ならタコ、福井県ならサバなど各地の特産品を食べる風習がありますが、香川県で食べるのは、もちろんうどんです。
さらに地域によっては、新築の家の風呂で湯船に浸かりながらうどんを食べて、健康と長寿を願うという「初風呂うどん」なる風習まであるほど。何気ない普通の日でも、みんなが集まる特別な日でも、香川県は「節目にうどんを食べる」文化が地域に根付いているのです。
「初風呂うどん」は、お風呂でうどんを食べるというユニークな風習
「これもうどん屋なのか?」香川県のうどん店の特徴
そして、うどんを提供するお店も、他県と比べると個性的。業務用の製麺所に併設して玉を卸す「製麺所併設型」店舗も多く、ただの製麺工場にしか見えない質素な建物の裏口に、数十人ものお客さんが並んでいたり。
なかには「どう見ても民家」「ネギは裏の畑で取って自分で切る必要がある」「農機具屋さんが片手間で始めたため、脱穀機やチェーンソーがある場所でうどんを売っている」「丼・箸・醤油は各自持参」といった個性派のお店も。
讃岐うどんの食べ歩きは、その味だけでなく、知らない街を探検しているかのような楽しみ方もできますよ。
民家に併設タイプのうどん店の釜(写真:筆者)
うどんの店舗密度は当然日本一
そんな香川県のうどん店は、人口1万人当たり5.08軒と全国平均(1.99軒)の2.5倍(※2)。しかも、この計算方式は、製麺所併設の店舗が飲食店としてカウントされていない場合があり、実際にはさらに高密度でうどん店があると考えていいでしょう。
こういったデータを確認せずとも、街なかを歩けばうどん店・製麺所の多さは一目瞭然で、「うどん県」たるゆえんがお分かりいただけるかと思います。ちなみに、香川県のうどん店の多くは、なぜか店頭にパトランプを出している(点灯していれば営業中)ので、ひと目で分かります。
※2 参考:都道府県別統計とランキングで見る県民性
香川県坂出市のうどん店。店先にパトランプがある
おわりに
「ご当地うどん」は、その土地の美味しい食材や伝統から生み出されて受け継いできたものもあれば、町おこしのために作り上げた新しいものも。
そして「年明けうどん」も徐々に浸透し、2024年1月には香川県を中心に12店で提供、加えて、全国チェーン「丸亀製麺」でも、期間限定で「年明けうどん」の提供を始めるそうです。
オリジナリティあふれる全国各地の「ご当地うどん」を探し、食べ歩く旅はいかがでしょうか?
Text:宮武和多哉(みやたけ・わたや)
鉄道全線完乗、路線バス1800系統乗車、フェリーなど船舶60航路乗船(いずれも国内・2023年現在)。47都道府県で通勤ラッシュ巻き込まれ&100km以上ドライブを経験。モードにこだわらず「乗りもの」全般をカバー。
全国で食べ歩いた駅弁・駅そば・ご当地料理は数知れず。おうちで再現レシピの作成も得意としており、NHK『さし旅』では〝再現料理人〟として指原莉乃さんと共演。
香川県高松市出身。兵庫県・大阪府・高知県・東京都・神奈川県などに在住経験あり。著書に『全国“オンリーワン”路線バスの旅(1・2)』、『路線バスで日本縦断! 乗り継ぎルート決定版』(いずれもイカロス出版)がある。
Edit:Erika Nagumo
Illustration:いらすとや
Photo(特記ないもの):PIXTA