「秋分の日」を中心とした7日間は「秋の彼岸」の期間です。この頃に咲く花として真っ先に思い浮かぶのが、彼岸花。別名を曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも言いますね。
この彼岸花について、なんとなく不吉な花・怖い花というイメージを持っている人は多いのでは。特に鮮血のように真っ赤な花弁は、どことなく不気味で怪しげに見えます。
しかしながら、日本のイメージとは裏腹に、海外ではとてもきれいな花だということで人気なのだそう。ここでは、なぜ彼岸花には不吉・怖い・不気味な印象があるのか、彼岸花の性質や名前の由来から紐解きます。
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彼岸花はどんな花?
ヒガン花科ヒガンバナ属に分類される彼岸花
彼岸花は夏の終わりから秋にかけて、田んぼや畦道(あぜみち)、土手などに咲く花。1本の真っ直ぐな緑色の茎の先端に、直径約10cm前後の花を咲かせます。
彼岸花の花びらは品種改良によっていろいろな種類がありますが、日本では赤色が一般的です。科名は「ヒガンバナ科」、属名は「ヒガンバナ属」。中国原産の植物で、冬になっても枯れず、1年以上生き続ける多年生植物です。
彼岸花の名前の由来
彼岸花という名前は「秋の彼岸の頃に咲く花」であることが由来です。
「秋のお彼岸」は、昼と夜の長さがちょうど同じになる「秋分の日」を中心とした前後7日間のこと。日本ではご先祖のお墓参りをしたり、おはぎを食べたりする習慣があります。
「彼岸(ひがん)」というのは、仏教用語で「あの世」「仏の世界」もしくは「あの世・仏の世界に到達する」という意味があります。
毒がある
彼岸花の毒の致死量はどのぐらい?
墓地に彼岸花が咲いているのを見たことはありませんか? 墓地に植えられた彼岸花は、〝彼岸花の毒〟を利用した昔の人の知恵です。
現代は死者の弔いと言えば火葬ですが、昔は死体を焼かずに埋める土葬が一般的でした。するとモグラやネズミなどの動物が遺体を荒らすことがあります。そこで、毒を持つ彼岸花が植えられました。
彼岸花は、花・葉・茎・根と全ての部分に毒性物質を含む全草有毒(ぜんそうゆうどく)という植物です。毒性物質が特に多く含まれているのが「鱗茎(りんけい)」と呼ばれる球根。この球根をモグラやネズミが齧ってしまえば、死に至ってしまうこともあるでしょう。
このように、墓地の彼岸花は、遺体を荒らす動物避けのために植えられたものです。
彼岸花の毒の致死量は?
彼岸花は触るだけでは問題ありませんが、口に入れる・食べるなど摂取してしまうと身体に影響があります。
彼岸花には「リコリン」というアルカロイドの一種である毒が含まれており、嘔吐、下痢、呼吸困難を引き起こします。最悪死に至ることもありますが、リコリンの致死量が10gなのに対し、彼岸花の球根ひとつに含まれるリコリンは15mg程度。球根ひとつで死に至るということはあまり考えられません。もし子どもが食べてしまった場合は慌てず、すぐに病院に連れて行ってください。
ちなみにモグラやネズミなどは。彼岸花の球根1つで1500匹が死んでしまうといわれます。ペットがいる方は、ペットが彼岸花を齧らないように注意してください。
彼岸花の別名一例
彼岸花の別名として一番有名なのは「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」でしょう。しかし彼岸花にそのほかに、なんと1000を超える異名があるといわれています。
曼珠沙華(まんじゅしゃげ)
曼珠沙華とは、仏教では「天上の花」という意味を持ちます。「天上=あの世」という解釈で不吉なイメージを持たれることもありますが、仏様と非常に縁の深い名前です。
埼玉県日高市にある「巾着田曼珠沙華公園」は彼岸花の名所
南無阿弥陀仏(なんまいだっぽ)
浄土宗や浄土真宗において、仏への帰依を示す定型句が「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」です。彼岸花を食べると、毒によってあの世へ行ってしまうことから「南無阿弥陀仏(なんまいだっぽ)」の名前が付けられました。
はみずはなみず(葉見ず花見ず)
彼岸花の花の咲き方は少し独特です。多くの植物は、まず葉が出てその後に花を咲かせますが、彼岸花は葉が伸びるより先に花を咲かせます。花と葉を一緒に見られない彼岸花の性質から「葉見ず花見ず」
親死ね子死ね
「はみずはなみず」と同様、葉が出るより前に花をつける性質からつけられた別名です。ほかにも、彼岸花にある毒で親子が互いに殺し合ったことからこの別名が付けられたという説もあります。
捨て子花
こちらも葉が出るより前に花をつける性質から。葉と花を親子に見立て、葉(親)に捨てられた花(子)=「捨て子花」という事でつけられた名前です。
その他の別名いろいろ
彼岸花にはまだまだ別名がたくさんあります。これだけたくさん別名があるということは、日本人は彼岸花を不吉で怖いと思いつつ、同時に美しさに魅了されていたと言えるかもしれません。
●忘花(わすればな)
●死人花(しびとばな)
●地獄花
●石蒜(せきさん)
●天蓋花(てんがいばな)
●天涯花(てんがいばな)
●幽霊花
●かみそりばな
●狐花
彼岸花の花言葉いろいろ
赤い彼岸花
赤い彼岸花の花言葉とは?
赤い彼岸花の花言葉は「情熱」「独立」「再会」「諦め」「悲しい思い出」。最後の悲しい思い出は墓地に彼岸花を植えるようになったことから、この花言葉になったのではないかといわれています。
「情熱」は真っ赤で色鮮やかな彼岸花の見た目にぴったりですね。
白色の彼岸花
白い彼岸花の花言葉とは?
彼岸花は実は赤色だけではなく、白や黄色の彼岸花もあります。彼岸花は「リコリス」と呼ばれる球根植物で、赤い彼岸花以外は比較的リコリスと呼ばれることが多いのだそう。
白い彼岸花の花言葉は「また会う日を楽しみに」「想うはあなた一人」。こちらは先程の赤い彼岸花に比べるとロマンチックな言葉に思えます。
黄色の彼岸花
黄色の彼岸花の花言葉とは?
黄色の彼岸花の花言葉は「追想」「深い思いやり」「陽気」「元気な心」。悲しみを乗り越えた後の前向きな様子をイメージできます。
「陽気」という花言葉が黄色い彼岸花にぴったりですね。
【番外編】青い彼岸花
青い彼岸花とは?
漫画『鬼滅の刃』で話題になった青い彼岸花。美しくロマンチックで素敵ですよね。しかし青い彼岸花は実在しません。
まとめ:彼岸花に不吉・怖いイメージがある理由
墓地に咲いている彼岸花
彼岸花の性質や別名、花言葉から、彼岸花に不吉・怖いイメージがある理由は以下のようなものが考えられます。
①名前に「彼岸」とあるので「あの世」「死」を連想させるから
②遺体を動物から守るために墓地に植えられることが多く、もともと不気味なイメージのある墓地と彼岸花がセットで記憶されるようになったから
③人体にも影響があるほどの毒があるため
④「あの世」や「死」を連想させる別名、不吉な印象の別名がたくさんあるから
おわりに
なぜ彼岸花には不吉で怖いイメージがついてしまっているのかをご紹介してきました。
忌避されることもある彼岸花ですが、かつては彼岸花の毒を有効活用していたこともまた事実。モグラやネズミから米を守るため、鱗茎をすりつぶして蔵の壁に塗ったりしていましたし、お墓を守るためにも利用してきました。危険なものをむやみに恐れるのではなく、知恵で味方につける精神は、現代に生きる私たちも見習いたいですね。
Text:編集部
写真(特記ないもの):PIXTA