「鬼は〜外、福は〜内」
豆をまいて家から邪気を追い出し、福がやってくることを願う「節分」。その起源やいつから始まった習慣なのかは、意外と知られていないかもしれません。
2025年の節分の日程は、2月2日の日曜日。実は、節分は〝毎年2月3日〟というわけではないのです。この記事では節分とは何を指しているのか、豆まきやイワシの頭を飾る由来、意味など、意外と知らない節分の豆知識をご紹介しましょう。
2025年の節分はいつ? 恵方巻きの方角は?
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2025年の節分の日付は2月3日……ではなく2月2日です
2025年は2月3日じゃない!
節分といえば、2月3日のイメージがありますが、2025年のように2月2日の年もあります。
節分の日が年によってずれるのには、地球の動きが関係しています。詳しくは後ほど紹介しますが、「節分」とは「立春(りっしゅん)」の日の前日のこと。
「立春」というのは、天文学上では「太陽黄経が315°のとき」を指します。ちょっとわかりづらいですよね。言い方を変えると、地球が公転軌道上の、ある特定の地点に到達する日のことを「立春」といいます。特定の地点というのは、だいたい下の図の立春としたあたりです。
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地球の公転軌道と、立春・春分・夏至・秋分・冬至の関係
ここで問題になるのが、地球で使われる「1年」の期間(=365日0時間0分間)が、地球が公転するのに必要な期間とピタリと一致していないこと。地球が上図の立春の位置に到着する日時は、年によって微妙にずれていきます。そのため、節分がときどき2月2日になる、というわけなのです。
2025年の恵方巻きの方角は西南西
節分のメインイベントのひとつは、恵方巻きを食べること。恵方巻きを食べるときは、毎年決まった方角=恵方を向いて食べるといいと言われますよね。2025年は、西南西を向いて食べるといいようです。ところで恵方とはなんでしょうか?
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恵方巻き。具材は家庭やお好みによっていろいろ
恵方とは?
「恵方」とは「吉方」とも呼ばれ、「歳徳神(としとくじん)」という神様がいるとされる方角のこと。この歳徳神という神様は「その年の福徳をつかさどる神様」といわれ、歳徳神がいる方角は祟り神が来ない最も縁起の良い方角だと考えられています。
神様のいる場所である恵方を決める要素は東西南北の四方と十干(じっかん)の組み合わせ。十干とは甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸(こう・おつ・へい・てい・ぼ・き・こう・しん・じん・き)のことで、10日間を一括りとして1日ごとに名前をつけたものです。
恵方はこの十干と四方を組み合わせた西南西・南南東・北北西・東北東の4つの方角のこと。この4つの方角が10年を1周期として順番に回っています。そのため、恵方は西暦の下1桁の数字を見ると簡単にわかります。
今年の恵方簡単チェッカー
西暦の下1桁(末尾)の数字が……
●0か5の場合 → 恵方は「西南西」
●1か6の場合 → 恵方は「南南東」
●2か7の場合 → 恵方は「北北西」
●3か8の場合 → 恵方は「南南東」
●4か9の場合 → 恵方は「東北東」
2025年は末尾の数字が「5」なので、恵方は「西南西」です。
そもそも……節分ってなんだ?
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節分で使われる鬼のお面と炒り豆
本来は1年に4回ある
現代の私たちにとってはすっかり〝2月の行事〟として定着してしている「節分」。しかし、本来は本来は各季節に1回ずつ、1年に4回の節分がありました。
その4回というのが「立春」「立夏」「立秋」「立冬」の前日。「立春」とは暦の上で「今日から春」とされる日。同じく「立夏」「立秋」「立冬」も「今日から夏(秋・冬)ですよ」という日です。その前日の「節分」とは、文字通り「季節の分かれ目」「季節の変わり目」という意味なのです。
4つの季節の分かれ目の中でも、特に重要とされたのが冬と春の間。旧暦では1年の始まりは「立春」の日でした。つまり、かつては立春の日が元日で、その前日の春の節分は、大晦日にあたったわけです。
こうして春の節分(立春の前日)が重要視され、だんだんと「節分=春の節分」という認識が広まっていき、現在の日本では節分とえば、2月3日(年によっては2月2日)を指すようになりました。
節分行事の由来:なぜ鬼を追い払う?
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兵庫県神戸市の長田神社で行われる長田神社古式追儺式
節分の行事といえば「鬼退治(鬼やらい)」ですが、これは大晦日に宮中行事として行われていた「追儺(ついな)」が元になっています。追儺という行事はもともと中国で行われていた行事が日本に伝わったもの。
中国では追儺のことを「儺(ヌオ)」と呼んでおり、これは「邪神や疫病を追い払い、福を招き入れる祭り」のことです。古代中国において最も頻繁に行われていた祭りでした。
「儺」は庶民による行事ですが、これとは別に、朝廷や諸侯(しょこう)によって行われていた「大儺(たいな)」という行事もありました。意味合いは「儺」と同じく鬼を払うというものです。
これが日本に伝わって「追儺」として宮廷の年中行事に取り入れられるようになったそう。追儺では、宮廷の役人たちが「方相氏(ほうそうし)」と呼ばれる厄払い役とその手下に扮し、大きな掛け声とともに宮廷内を駆け回りました。
このとき、宮廷内の貴族たちが弓を放ったり、振り太鼓を振って、鬼を追い払う方相氏を応援したんだとか。これが現在の「豆をまいて鬼を追い払う」節分の儀式になったといわれています。
節分に豆まきをする理由
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節分の豆まきに使う鬼のお面と炒り豆
節分といえば豆まきというイメージが定着していますが、なぜ豆まきをするのかご存知でしょうか。
昔から神様が訪れるときは、鬼などの悪さをするものも一緒にやってきてしまうと考えられていました。そのため、神様だけを迎え入れ、悪しきものや邪悪なものを追い出すために行われたのが「豆まき」です。
また、地域によっては魔目(まめ=鬼の目)をめがけて豆を投げることで、魔滅(まめ=魔が滅する)という意味もあったようです。
正しい豆まきのやり方
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節分に家族で豆まきをする子どもたち
地方や家庭によってやり方や風習はさまざまなので、ここでは一般的な豆まきのやり方を紹介します。
節分の豆まきに使う豆は「福豆」といって霊力が宿るといわれているため、豆まきを始めるまでは神棚や家の中の高い場所にお供えしておきます。
豆まきを行うのは鬼がやってくる夜。福枡(ふくます)と呼ばれる枡を持ちながら、ドアや窓を開けて「鬼は外」と唱えながら家の外に豆をまきます。撒く回数は一般的には2回ですが、地方や家によっても異なるようです。
まいたらすぐドアや窓を閉めて、鬼が戻ってくるのを防ぎ、今後は「福は内」と唱えながら家の中に豆をまきます。これを何度か繰り返し鬼を退治したら豆まきは終了。
まいた豆を年齢の数だけあるいは年齢の数+1食べると1年間健康に過ごせるといわれています。他にも不老長寿や家内安全にも効力があるんだとか。
「福は内、鬼は内」と唱える神社もある!?
「鬼は外、福は内」と唱えるのが通例ですが、場所や地方によってその唱え方が違います。
全国でも珍しい鬼を祀る神社・鬼鎮神社(きぢんじんじゃ。埼玉県嵐山町)、稲荷鬼王神社(いなりきおうじんじゃ。東京都新宿区)では、「福は内、鬼は内、悪魔は外」と唱えるそうです。鬼を神さまと祀っている神社では「鬼は外」とは決して唱えません。
奈良県吉野町の金峰山寺(きんぷせんじ)では、開祖が法力で鬼をを説き、弟子にした故事から「福は内、鬼も内」と唱えます。
また、東北地方の節分では「鬼は外、福は内、天に花咲け、地に実なれ」と唱えたりもします。「鬼の眼をぶっつぶせ」と付け加える地域もあり、地域によりユニークな慣習があります。
炒った豆を使う理由
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豆まきに使われる炒り豆
豆まきで使用するのは生の豆ではなく炒った豆。これにはいくつかの説があると考えられています。
最も大きな理由が「豆から芽が出ないようにするため」。生の豆を使うと、拾い損ねた豆から芽が出る可能性があり、「邪気が芽を出す」として縁起が悪いことだと考えられていました。
まいた豆から芽が出てしまった場合、「家に凶事が起こる」「人間が鬼に食われる」などの俗信もかつて日本全国に存在していたそう。穢れや災厄、祟りなど邪悪なものの象徴である鬼と豆が同一視され、再びよみがえることを避けるために豆を炒るようになったと考えられます。
他にも、「まめをいる」という言葉が「魔の目を射る=邪気を払う」につながるという縁起担ぎの意味合いや、豆を炒ることによって皮が剥がれることを新年の象徴として重要視する風潮があったといわれています。
大豆を生のまま食べると危険?
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生のまま食べると危険だといわれている大豆
大豆にはトリプシンインヒビターという物質が含まれています。トリプシンインヒビターはタンパク質分解酵素の働きを阻害するので、タンパク質の消化吸収率が悪くなって消化不良を起こす危険があります。
さらに膵臓を肥大させる作用もあるのだとか。このトリプシンインヒビターの働きは加熱することで抑えることができます。
節分には豆まきが終わったあとに豆を拾って食べる習慣があるため、体への悪影響を防止するために加熱処理した炒り豆を使うようになったのではないかといわれています。
節分に鰯(いわし)の頭を飾る理由
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鬼を追い払うために玄関に飾る柊鰯(ひいらぎいわし)
節分には「柊鰯(ひいらぎいわし)」を家の玄関先に飾る風習があります。柊鰯とは、棘のある葉のついた柊の枝に焼いた鰯の頭を刺したもの。
鬼が家に入ろうとしたときに、焼いた鰯の強い匂いで驚かせ、棘のある柊の葉で鬼を刺し、追い払うという効果があるそうです。昔から日本では柊や松の葉のように尖ったものには魔除けの効果があるとされており、鬼や邪気を払うものとして使われていたんだとか。鰯の代わりに匂いが強いニンニクやにらを使う事もあるそうです。
柊鰯を飾るタイミングは正式には決められておらず、「節分の日のみ」「節分の日から2月いっぱいまで」「小正月の1月15日から節分の日まで」など、地域や家庭によって差があります。
節分に食べるものといえば?
恵方巻き
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一言も言葉を発さずに食べ切ると幸運が訪れるといわれている恵方巻き
恵方巻きとは福を巻き込んだ太巻きを、恵方を向いて丸かじりするという関西発祥の風習のこと。その年の縁起の良い方角を向いて無言で1本食べ切ると1年間健康でいられるといわれています。
丸ごと食べるのは「縁を切らないように」という意味が込められており、無言で食べるという作法は「途中で喋ってしまうと福が逃げてしまうから」なんだとか。
恵方巻きに入れる具材は地域や家庭によってさまざまですが、七福神にちなんで7種類の具材を入れると縁起が良いとされています。
恵方巻きの由来
恵方巻きの由来は江戸時代〜明治時代にかけて、大阪から始まったとされています。商売繁盛のために食べたことがはじまりで、当時は「丸かぶり寿司」や「太巻き寿司」と呼ばれることが多かったそうです。
現代では恵方巻きを食べる慣習は薄れつつありましたが、某大手コンビニエンスストアが大々的に恵方巻きを宣伝したところ大盛況に。
一般的に企業の売上が落ち込む2月と8月の俗称「二八の枯れ」に対応したアイデアとも言われているそうです。
節分鰯(いわし)
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食べると邪気を追い払うことができるといわれている節分いわし
節分に食べるものといえば恵方巻きがよく知られていますが、鰯を食べる習慣があるのをご存知でしょうか。
カルシウムやDHAなどを豊富に含む栄養価が高い魚として知られる鰯。昔は今よりも多くの鰯が獲れたため、庶民の健康を守る魚として親しまれていたそうです。
また、鰯という名前の語源は「弱し(よわし)」や「卑し(いやし)」から来ているそう。陸にあげるとすぐに弱ってしまうことや、位の高い人や貴族が食べるものではない卑しい魚であることに由来しているといわれています。
旧暦の大晦日である節分の日に弱く卑しい鰯を食べることで体内の陰の気を消し、健康を願う無病息災の儀式として定着したと考えられています。
節分そば
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江戸時代後期に広まった節分そば
節分にそばを食べる風習である「節分そば」が全国的に広まったのは江戸時代後期頃。現在は節分といえば恵方巻きというイメージが強く、節分にそばを食べる習慣は薄れてきているようですが、今も出雲地方では節分そばを食べる風習が受け継がれているといわれています。
節分そばは簡単にいうと「年越しそば」のこと。年越しそばというと現在では12月31日に食べるそばのことですが、大晦日に食べるそばを年越しそばと呼ぶようになったのは明治の中頃からだといわれています。
江戸時代には冬から春への節目の日である立春の前日(節分)を本当の年越しとする習慣があったため節分に食べるそばを年越しそばと呼んでいたそう。
現在では暦月が使われるようになり、12月31日の大晦日が1年の節目の日に。この日に食べるそばを年越しそばと呼ぶようになったことから、節分に食べるそばは「節分そば」と名前を変えて呼ばれるようになりました。
おわりに:長い歴史がある日本の「節分」
今回は日本文化である節分の歴史や豆まきの由来、玄関に鰯の頭を飾る理由など、意外と知らない節分の豆知識を紹介しました。
日本の伝統行事として多くの人たちに親しまれている「節分」。古くから続く節分の歴史や大切に受け継がれてきた豆まきの習慣に想いを馳せながら2月3日を迎えてみてはいかがでしょうか。
参考:『年中行事読本』(岡田芳朗・松井喜昭著/創元社)
暦Wiki|国立天文台