雪でできた小さな家、「かまくら」。一度は入ってみたいと思うのではないでしょうか。半纏(はんてん)を着て、かまくらの中にいる子どもたちの光景はとても愛らしく、1936(昭和11)年に来日したドイツの建築家ブルーノ・タウトも横手のかまくらを見て、こう賞賛しました。
「実にすばらしい観物だ! 誰でもこの子供達を愛せずにはいられないだろう。(中略)ここにも美しい日本がある、それは─およそあらゆる美しいものと同じく、─とうてい筆紙に尽すことはできない。」
─── (ブルーノ・タウト著/篠田英雄訳『日本美の再発見 増補改訳版』[岩波新書]より)
かまくらは雪の多い、秋田県や新潟県などで、小正月の年中行事として作られてきました。
現在では、行事の意味合いよりも観光やレジャーとして愛されています。長い歴史をもつ行事から、レジャーとしてのかまくらまで、いろいろなかまくらを幅広くご紹介していきます。
TOP写真:横手のかまくら(写真提供:秋田県観光連盟)
※本記事に掲載の情報は2024年1月時点のものです。諸事情により変更となる場合がありますので、お出かけの際は各公式サイト等で最新の情報をご確認ください
※掲載の写真は過去開催時のものです。最新の状況と異なる場合があります
【秋田県横手市】横手の雪まつり「かまくら」
横手市役所本庁舎前・旧片野家・横手公園・二葉町などでかまくらが見ることができます(写真提供:秋田県観光連盟)
約450年の伝統を誇る、秋田を代表する小正月の行事です。小正月とは1月15日あたりのことです。横手の雪まつりでは、かまくらの中に水神様を祀り、神様にお賽銭を捧げて家内安全や五穀豊穣を祈願します。子どもたちが中に入り、お参りに来た人にお餅や甘酒でおもてなしをします。
夜のかまくら(写真提供:秋田県観光連盟)
現在はイベント的要素もあり、雪まつり期間中は、街中に無数のミニかまくらが作られます。ミニかまくらも夜はろうそくで照らされ、幻想的な光景となります。
ミニかまくらは、蛇の崎川原、横手南小学校校庭で見ることができます(写真提供:秋田県観光連盟)
横手の雪まつりの開催日は毎年2月15日・16日。新暦ではなく旧暦の小正月に開催しています。会場の最寄り駅はJR奥羽本線の横手駅。雪まつりの時期は非常に寒いので、防寒には念を入れましょう。夜がとても綺麗なので、夜も楽しめるように、普段よりも暖かい格好で出かけましょう。
横手の雪まつり「かまくら」 開催情報
●期間:2024年2月15日(木)・16日(金)
●時間:18:00〜21:00
●場所:秋田県横手市 横手地域内
●関連ページ:横手の雪まつり「かまくら」|横手市公式サイト
※編集部しらべ
【長野県飯山市】かまくらの里
鳥居の奥のかまくらには神様が祀られています(写真:フィールドデザイン)
長野県飯山市の「かまくらの里」では、毎年1月下旬から2月下旬まで20基ほどのかまくらが作られます。
かまくらの中では、白菜やきのこなどの地元産野菜を入れた信州の味噌仕立ての名物「のろし鍋」やおやつをいただけます(要予約)。夜は明かりが灯され、幻想的な雰囲気に。
夜のかまくらの里
かまくらの利用プランは、日帰りプラン・おやつプラン・宿泊プラン(宿泊はかまくらではなく近隣の宿泊施設)があり、いずれも要予約です。詳細は公式サイトをご確認ください。「だれでもかまくら」1基と、「かまくら神社」は予約不要で入れます。
長野県飯山市「かまくらの里」は、北陸新幹線飯山駅から車で約15分ほど。かまくらだけではなく、スノーアクティビティのプランも充実しているので、雪遊びや雪国体験もできます。
かまくらの里 基本情報
●開催期間:2024年1月20日(土)~2月29日(木)
●時間:かまくら商店 営業時間 10:00〜18:00
●場所:長野県飯山市寿807-2(レストランことぶき村)
●公式サイト:かまくらの里
※編集部しらべ
【岐阜県高山市】中尾かまくらまつり
かまくらの中で餅を焼く(写真提供:岐阜県観光連盟)
白山神社境内にかまくらが作られます。木々に囲まれた神社の境内は、ほんのり照らされた大小のかまくらや、氷のキャンドルなどで、幻想的な空間に。「囲炉裏かまくら」や「こたつかまくら」などほっこり温まるものから、地酒が飲める「かまくらバー」まであります。
中尾かまくらまつり会場の様子(写真提供:岐阜県観光連盟)
2月1日、3日、10日には、郷土芸能である中尾夫婦獅子の実演も行われます。また観光客も参加できる餅つきも行われ、楽しみが盛りだくさん。中尾かまくらまつりが開催される奥飛騨温泉郷・新穂高温泉へのアクセスは、新穂高温泉観光協会のアクセスページ、奥飛騨温泉郷観光協会のアクセスページをご確認ください。
中尾かまくらまつり 開催情報
●開催期間:2024年2月1日(木)~10日(土)
●時間:月〜金・日曜 20:00~21:00
土曜 20:00~21:30
●場所:新穂高温泉 中尾高原 白山神社境内(岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾)
●関連ページ:中尾かまくらまつり|奥飛騨冬物語
※編集部しらべ
【栃木県日光市】湯西川かまくら祭
湯西川かまくら祭のおもな会場は「沢口河川敷ミニかまくら会場」「平家の里会場」「湯西川水の郷 スノーパーク会場」の3カ所。写真は「平家の里会場」
2024年で32周年を迎える湯西川温泉の一大イベントです。湯西川温泉は平家落人の里と言われており、秘境の雰囲気があります。
湯西川かまくら祭は、2009(平成21)年に「日本夜景遺産」に認定された沢口河川敷のミニかまくらを中心とし、湯西川温泉全体で楽しめるイベントです。期間中の金・土・日曜は、数百個のミニかまくらにろうそくの火が灯されます。
期間中の金・土・日曜に点灯される沢口河川敷のミニかまくら
湯西川は雪が大変多い地域で、路面にも雪がありますので、滑り止めのあるスノーブーツなどを履いていくといいでしょう。なお、かまくら祭の会場はペットの入場ができません。
湯西川かまくら祭 開催情報
●開催期間:2024年1月26日(金)~2月25日(日)
●時間:かまくら点灯時間 17:30~21:00
●場所:沢口河川敷ミニかまくら会場(栃木県日光市湯西川 沢口橋周辺)ほか
●関連ページ:湯西川温泉 かまくら祭|日光市公式観光WEB
※編集部しらべ
【山形県米沢市】小野川温泉かまくら村 ※2024年延期
小野川温泉かまくら村。高さ約3m、直径約5mと大きい
米沢市内にある小野川温泉は、小野小町が旅の途中で発見したと伝えられています。その小野川温泉街に、冬になると現れるのが高さ約3m、直径約5mの巨大かまくらからなる「かまくら村」です。
かまくらの中にはテーブルとイスがあり、「龍華食堂」からラーメンや飲み物などを出前を頼むことができます。かまくらは大人6人が入れるほどの広さ。雪の中で食べるラーメンは寒さを忘れさせる美味しさです。「かまくら村」と同じ敷地内には足湯や飲泉所もあります。
小野川温泉かまくら村 開催情報
●開催期間:2024年は雪不足のため延期(例年1月中旬~3月中旬に開催)
●時間:-
●場所:山形県米沢市小野川町2501-1
●関連ページ:
小野川温泉かまくら村|やまがたへの旅
かまくら村の延期について|小野川温泉
※編集部しらべ
【北海道鹿追町】然別湖コタン[番外編]
氷上に作られる無数のイグルー
かまくらはとはちょっと違いますが、氷や雪でできたドーム「イグルー」を体験できる場所「然別湖コタン」もご紹介します。
然別湖は帯広市内から車で1時間20分ほどの場所にある、北海道で最も標高の高い自然湖です。然別湖周辺は、冬期の気温がマイナス30度になることもあるほど寒さが厳しい場所。然別湖は凍結し、表面は厚さ1mほどの氷に覆われます。
その氷の上に現れる幻の村「しかりべつ湖コタン」は然別湖の冬の風物詩。はじまりは1980年。厳しい冬を楽しもうと、3人の若者がアイスブロックでできた家「イグルー」を作ったことがきっかけでした。イグルーとは、カナダのイヌイット族が住居としていた氷のブロックを重ねて作ったドーム状の家のこと。 コタンとはアイヌ語で「村」という意味です。
氷でできたアイスバー
その後は、ボランティアの人々が「しかりべつ湖コタン」を作っていて、全て氷で作られた「アイスバー」や「アイスホール」、毎年デザインが変わる「アイスチャペル」などはコタンの名物となっています。氷で作られた建物は寒そうに感じますが、中は驚くほどの暖かさです。
然別湖コタン 開催情報
●開催期間:2024年1月27日(土)~3月10日(日)
●時間:9:00~20:00
●場所:北海道鹿追町北瓜幕無番地
●公式サイト:然別湖コタン
※編集部しらべ
【北海道占冠村】星野リゾート トマム アイスヴィレッジ[番外編]
アイスヴィレッジ全景(写真提供:星野リゾート トマム)
こちらもかまくらとは異なりますが、氷でできたドームに滞在できる珍しい場所。
星野リゾートが運営するアイスヴィレッジは、3.2ヘクタールの敷地に、氷や雪でできたドームが並ぶ幻想的な氷の街。最低気温がマイナス30度に達するトマムだからこそ実現できる、美しい氷の世界です。2023~24年の今季は25周年を迎えます。
氷のホテル、氷の教会、氷のラーメン屋、氷のBar、氷のシアター、氷のセイコーマートなど、あらゆるお店・施設が揃い、まさに氷でできた街。アイスリンクや滑り台などもありますよ。
左上:氷のホテル 左下:氷のラーメン 右上:氷のBar 右下:氷のフローズンカクテル(写真提供:星野リゾート トマム)
氷のホテルに使われているドームは、継ぎ目のない一枚氷で作られたもの。寒冷地仕様のシュラフを用意してもらえるので、朝まで暖かく眠れます。氷のラーメン屋、氷のBarでは、氷の器に入った「氷のラーメン」、氷のグラスに注がれる「氷のフローズンカクテル」など、ユニークな氷メニューを提供しています。
星野リゾート トマム アイスヴィレッジ 開催情報
●開催期間:2023年12月10日(日)〜2024年3月14日(木)予定
●時間:17:00〜22:00(最終入場 21:30)
●場所:北海道占冠村中トマム 星野リゾートトマム内
●関連ページ:アイスヴィレッジ|星野リゾート
かまくら雑学:いろんなかまくら&かまくらの中が暖かい理由
一般にかまくらといえば、子どもが遊びで作るもの、というイメージが浮かびますよね。でも、横手のように神様を祀るものとして作られたり、世界を見れば仮説住居として作られるものもあります。
雪で作られるドームやほら穴は、意外に幅広い用途があるようです。ここでは一部をまとめてみました。
横手に見る【神様を祀るための建物】
横手のかまくら。中に水上様が祀られています(写真提供:秋田県観光連盟)
秋田県横手市の伝統行事「かまくら」は、旧暦の小正月にあたる2月15日と16日に行われるもので、450年ほどの長い歴史があります。かまくらの中には水神様を祀り、かまくらの中に入った人は、正面に祀られた水神様にお賽銭をあげて、家内安全・商売繁盛・五穀豊穣などを祈願します。
なぜ水神様を祀るのかというと、この地方は雪の降る時期に水不足になりやすいから。良い水に恵まれるように、と祈願します。
横手ではかまくらが市内に100個ほど作られます。かまくらの中にはむしろやござを敷き、火鉢やコンロを置きます。そして子どもたちがかまくらの中に入って餅を焼いて食べたり、甘酒を飲んだりします。水神様をお参りするために大人たちが来ると、子どもたちは「はいってたんせ」「おがんでたんせ」と声をかけ、甘酒や餅をふるまいます。大人たちが水神様に供えた賽銭や餅などは、お参り後、子どもたち皆で分け合うそうです。
中にござが敷かれた横手のかまくら
かまくらの語源は諸説あり、どれが正解かは分かりません。「かまど」の形と似ているから、鎌倉大明神を祀ったから、神座(かみくら)がなまった、鎌倉権五郎景政を祀ったという信仰から、鳥追い歌の歌詞から、などさまざまな説があります。
ちなみに、新潟県の一部地域ではかまくらのことを「ほんやら洞」と呼ぶそうです。
アウトドア界隈に見る【雪洞】-かまくらの中が暖かいのは、合理的な理由あり
雪洞のイメージ
雪山に行くなら「雪洞」はビバークすることになった場合、大変役立ちます。ビバークというのは緊急で行う野営のことです。
雪洞やかまくらの中は意外と暖かいと言われます。その理由は、雪の壁が風除けの役割を果たすうえに、雪の中に含まれる空気が優れた断熱効果を発揮するから。よってテントよりも雪洞の方が暖かいといえるでしょう。
よく、かまくらの中で七輪などで暖を取っているイメージを見ることがありますが、あれにも合理的な理由があります。七輪によって暖められた空気は上へ昇り、かまくらの天井まで達すると下に降ります。かまくらの内部は狭いので、このような暖かい空気の循環が効果的に起こり、結果かまくらの中が暖かくなるわけです。
さらに雪の壁の断熱作用が内部の熱をとどめ、同時に外の冷気を遮断するので、かまくらの内部が冷えることも防げる、という仕組みです。
イヌイットの生活に見る【イグルー】
カナダ・ヌナブト準州のイグルー(写真:Indigenous Tourism Canada)
イヌイットは森林限界(※)より北、永久凍土の広がる一年中寒い地域に住んでおり、世界で最も寒いところに住む人々といえます。氷と雪におおわれ、植物が育たず、農耕ができないため、人々は魚やアザラシなどの狩猟をして生活をしています。
猟で暮らす彼らは、獲物がいる場所へと移動するため、仮設で住居を作ります。木材や石などはありませんので、雪で作ります。それがイグルーです。
イグルーは雪のブロックを積み重ねて半球のドーム型に作ります。かまくらとは違い、入口と居室をトンネルのような通路でつなげたり、玄関のような前室を作ったりします。冷たい風や雪が部屋まで吹き込まないように工夫されているのです。
また寒さや湿気を防ぐため、内部の床や壁に動物の毛皮を敷いたり張ったりします。天井の高さは、大きいもので2m程度。前項目でもお伝えしましたが、雪の中は結構暖かいので問題なく過ごせるのです。
イグルーの内部。ノースウェスト準州・イヌヴィクにて(写真:Indigenous Tourism Canada)
※森林限界:森林が生育できなくなる限界ラインのこと
おわりに
暖冬といわれる2024。例年よりは雪が少ないということですが、それでも大雪が降っている地域もあります。
かまくらの中、つまり雪洞の中は意外に暖かく、風情もあるので、豪雪地帯ではよく作られ、またまつりも開催されています。
この冬はかまくらを見に行って、雪の中がどれだけ暖かいかを感じに行ってはいかがでしょうか。
Text:hougaku_omori Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考:
ウーリ・ステルツァー著 千葉茂樹訳『「イグルー」をつくる』(あすなろ書房)
レスリー・シュトゥラドゥヴィク著 斉藤慎子訳『写真で知る世界の少数民族・先住民族 イヌイット』(汐文社)
雪山登山技術 - 雪洞の掘り方 -|Kuri Adventures
コトバンク
各公式サイト
ほか