いま、石川県の金沢エリアでは、新しい人気スポットが急増中。外国人旅行客もあちこちで目にするようになっています。そんな金沢の魅力のひとつは、古くていいものがたくさん残っていること。しかも、そうした伝統文化の多くが体験可能となっています。
今回は、日本の焼き物の中でも人気の高い「九谷焼」の体験ができる石川県内の工房を5店紹介します。体験だけではなく、それぞれプラスαの魅力がある九谷焼の工房を厳選しました。
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金沢・加賀でおすすめの「九谷焼」体験スポット5選
九谷焼の盃
今回は、金沢市内と加賀市内から5つの九谷焼体験スポットを厳選してご紹介。各店舗、体験だけでなく、ショップがあったりカフェがあったりと体験以外にもたっぷり九谷焼や石川県の伝統工芸を楽しめます。石川県への旅行の際は、ぜひチェックしてみて。
【加賀市】シルクロ陶芸体験工房
山中温泉地に立つシルクロ陶芸体験工房
石川県加賀市、山中温泉地に位置する「シルクロ陶芸体験工房」。
現在では金沢市を中心に生産されている九谷焼ですが、実は、この山中温泉九谷町が九谷焼の発祥の地。かつてこの地で作られていた九谷焼は「古九谷」と呼ばれ、図柄や色使いも、一般的に知られている九谷焼のものとは異なります。
九谷焼発祥の地、山中温泉に位置するシルクロ陶芸体験工房で行える体験は4種類。電動ろくろ体験、上絵付け体験、九谷焼シールの貼り絵体験、そして「ゆかたべさん人形」上絵付け体験です。
九谷焼 ゆかたべさん人形
今回ご紹介するのは、「ゆかたべさん人形」上絵付け体験。好きな色の「ゆかたべさん人形」を選び、自由に絵付けができます。
「ゆかたべさん」とは、江戸時代、山中温泉で従事していた16歳前後の少女たちのこと。ゲストを旅館から公衆浴場まで案内し、浴衣を預かり、返すというお仕事をしていた彼女たちのことを「浴衣娘(ゆかたべ)」と呼んでいたのです。現在、ゆかたべさん人形は恋愛成就、芸事上達、商売繁盛の願いが込められたお守りとして大人気。
ゆかたべさん人形の絵付け体験
シルクロ陶芸体験工房で体験できるゆかたべさん人形にも、お寺の御印が入った願い札が付いてきます。体験後1カ月程度で完成品とともにお札が送られてくるので、願い事を書いて人形の中に入れておきましょう。
「こちらの体験メニューは、小さい子どもからお年寄りまで参加しやすいと思いますよ。時間内はしっかり横についてお教えしますから安心してくださいね」と、講師の青山さん。
シルクロ陶芸体験工房の魅力はもちろん体験だけではありません。工房の1階は「きぬや」というショップになっていて、オリジナル製品や作家さんの作品などを販売。ゆかたべさん人形も購入できます。
工房から徒歩2分ほどのところには、「森のカフェ」と呼ばれ親しまれているカフェ・レストラン「東山ボヌール」があります。ここは、工房の店長である中村さんが営んでいるお店。ランチタイムのビーフシチューが人気です。工房に訪れた際は、ぜひ立ち寄ってみては。
【「ゆかたべさん人形」絵付け体験】
料金:1名3,000円
所要時間:40〜50分
※絵付け後、1カ月以内に発送
◆お話してくれたのは…:中村裕美さん(店長)
「伝統工芸の九谷焼をより楽しく体験してもらいたいと思っています。ショップでは、手描きの1点ものなどオリジナルのものを出していきたいです。ぜひお立ち寄りくださいね」
【金沢市】工房ひょんの木
工房敷地内に立つひょんの木
金沢市香林坊エリアに立つ「工房ひょんの木」。近くには金沢城址や兼六園があり、武家屋敷や茶屋街など市内の主要な観光地は、ほぼ徒歩圏内。とても便利な立地です。
庭にどっしりと生えている、樹齢200年のひょんの木が工房の名前の由来。さらに、この工房がある建物は築150年の武家屋敷。その家屋と土塀は国の登録有形文化財となっています。
上絵付け体験で製作できるマグカップ
ここでは、九谷五彩を用いた本格的な上絵付けが体験可能。用意された無地の焼き物(生地)に九谷焼独特の絵の具で絵付けをしていきます。時間内ならいくつ絵を描いてもOK。
オーナーの井出さんは、その道の経験が10年以上あり、国の認定試験に合格することで名乗ることができる「九谷焼伝統工芸士」の1人。絵付けのほか水彩画や金継ぎの教室も行っており絵や漆にも詳しいため、絵付け体験時に絵柄などの相談に乗ってもらうのもいいかもしれません。
貸し出ししている武家屋敷の座敷
武家屋敷のお座敷3部屋は、時間貸しもしています。持ち込み自由のため、お座敷で食事やお茶をしてから上絵付け体験をするのもおすすめです。
「ここでは時々“ひょんなこと”が起こる」と言う井出さん。それが「工房ひょんの木」の魅力でもあります。同施設では、俳句会や茶道会のほか、オカリナやバンドネオンのコンサートなどが不定期に開催しており、ふらりと立ち寄った日に素敵なイベントに出会えるかもしれません。
【上絵付け体験】
料金:1名 2,000円+生地代
所要時間:2時間
◆お話してくれたのは…:井出幸子さん(オーナー・伝統工芸士)
「武家屋敷のお座敷のゆっくりとした時間を感じながら、九谷焼絵付け体験をしてみませんか。絵の具で描いてみると、見るだけだった時よりも九谷焼がもっとよく分かるようになりますよ。ぜひ自分で体験してみてくださいね」
【金沢市】atelier&gallery creava
洋風でおしゃれな外観
「atelier&gallery creava(アトリエ&ギャラリー クリーヴァ)」は、金沢市にある、見て・触れて、金沢のアートを体感できるアートの複合施設です。
工房のほかには、地元作家の作品を展示しているギャラリーや、作品の購入ができるショップを併設。金沢市は、若手の作家が多い恵まれた土地。アートコレクターでもあるオーナーが「地元の若い作家さんたちを応援したい」という思いから、自分の育った生家を利用して始めた施設なんだそう。
九谷焼セミオーダーアクセサリー体験
同施設で体験できるのは、電動ろくろ、染付(下絵付け)、五彩(上絵付け)、アクセサリーづくり体験など。中でもアクセサリーづくりができる「九谷焼セミオーダーアクセサリー」は新しく登場したばかりの体験コースで、落ち着いた色合いの上品なオリジナルアクセサリーを作ることができます。
ピアス、イヤリング、ハットピン、ヘアピン、カフスなどから好きなアクセサリーを選び、デザインを決めるだけ。組み合わせ方は何通りもあり、自分だけの九谷焼のアクセサリーが完成します。その日のうちに完成品を持ち帰れるため、気軽に楽しめる九谷焼体験です。
取材に訪れたその日、工房内で、ちょうど染付体験をしている2名の女性と出会いました。
仲良く染付体験中の母娘おふたり
親子というおふたりは、時折相談したり、笑いあったり。母娘の仲の良さが伺えました。
「料理や器が好きなので、こういうかたちで母との思い出が残せたらいいなと思って申し込みました」「娘に連れてきてもらえてうれしい。いい思い出ができました」と笑顔のおふたりでした。
【九谷焼セミオーダーアクセサリー】
料金:1つ 2,000円
所要時間:30分
◆お話してくれたのは…:藤丸枝里子さん(マネージャー)
「九谷焼はさまざまな技法と色彩にあふれた魅力的な焼き物です。実際に自分でやってみてほしいので、ぜひ一度、体験しに来てください」
【金沢市】陶庵@金沢
陶庵@金沢の外観
金沢市内に位置する「陶庵@金沢」は、ビギナーから上級者向けの本格的な作陶まで体験できる工房です。工房は1階にあり、2階はギャラリースペースとなっています。
金沢の山間部で作陶に専念していた代表の吉岡さんが、納屋として使われていた建物を改修して工房をオープンさせたのが15年前。オープン当時から通っている陶芸教室の生徒さんはもう職人レベルなのだとか。
手びねりやろくろ体験で作れる器
体験メニューは、電動ろくろ、手びねり(台の上で成形するもの)、絵付け、金継ぎなど。材料には九谷で採れる陶石を使っており、それを体験できる電動ろくろが9割以上と一番人気。電動ろくろ体験では、鉢(茶碗)、コップ、皿のいずれか1つを作ることができます。
陶芸家でもある吉岡さんが体験講師としてろくろの使い方や九谷焼について教えてくれるため、焼き物初心者でも安心です。もちろん、すでに焼き物の経験があり自由に九谷焼の作品を作ってみたいという人でも、60分間じっくり作陶に取り組めます。
ろくろで器を製作する様子
2階のギャラリーで展示しているのは陶器のほか絵や写真、漆器、友禅など様々で、年に4回ほど展示替えを行っています。陶芸品以外の作品も多く展示している理由について、代表の吉岡さんは「陶芸に限ってしまうと世界が狭くなってしまう。ここで作品をつくる人がいろんなインスピレーションをもてるような場所にしたい」と話します。
店内ではカフェメニューも取り扱っており、コーヒー、紅茶、はす茶などが楽しめます。コーヒーを飲みながら、九谷焼について吉岡さんとじっくり話をするのもいいですね。
【電動ろくろ体験】
料金:1名 3,500円
所要時間:60分
◆お話してくれたのは…:吉岡正義さん(代表・陶芸家)
「金沢ならではの伝統文化に触れて少しでも身近に感じてほしいと思います。つくりたいものの希望や、九谷以外の土を使ってみたいといった要望は、お気軽にご相談ください」
【金沢市】八百萬本舗
町家再生で誕生した八百萬本舗
金沢市尾張町に位置する「八百萬本舗」では、九谷焼の伝統を守りつつ、より九谷焼を身近に感じられる「KUTANI SEAL」の体験を行なっています。
本来であれば筆で行う上絵付けの工程を、シールで代用して九谷焼を製作する転写ブランド「KUTANI SEAL」。九谷焼のニューウェーブを代表するブランドです。
KUTANI SEAL体験
八百萬本舗では、事前予約をすればこのKUTANI SEALを体験できます。様々な柄が描かれたシールを磁器に貼っていくだけ。九谷焼のポップな絵柄と鮮やかな色彩を残しつつ、気軽に九谷焼作りを体験できるのが魅力です。思いのままにシールを貼ったら、焼き上げて完成。約1カ月で発送となりますが、海外への発送は行なっていないためご注意を。
八百萬本舗には6つの店舗が集結
八百萬本舗は、「地元のクリエイターや感度の高い観光客が集い出会うパブリックな町家」として2015年に誕生。全6店が集います。カフェ&セレクトショップ「titi(ティティ)」、テーブルウェアやアート作品などを取り扱う「secca」、保存食専門店「stoock」、能登半島から生まれた「良い品」を揃える「能登スタイルストア」、北陸新幹線開業PRキャラクター「ひゃくまんさん」が店舗を構えます。
KUTANI SEALのワークショップを開催する店舗「クタニシール」は、その中の一つ。ほか、実際にKUTANI SEALの商品も販売しています。
【KUTANI SEALワークショップ】
料金:1,944円~3,240円(作品により異なる)
所要時間:約90分
◆お話してくれたのは…:上出惠悟さん(上出瓷藝代表)
「若い世代にももっと気軽に九谷焼を使って欲しいという想いとともに、転写と手描きという製法を正しく皆さんに伝えたいと考えKUTANI SEALを作りました」
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クタニシールを貼るだけで九谷焼!【KUTANI SEAL】体験レポート
焼き物好きなら知っておきたい「九谷焼」
九谷焼の箸置き
鮮やかな色彩が魅力的
日本は、代々受け継がれてきた「伝統」を大切にする国。その中でも、様々な伝統工芸が集結しているのが金沢エリアです。南加賀で約350年前に誕生したとされる「九谷焼」は、日本国内だけでなく、海外でも人気の高い焼き物のひとつとして親しまれています。
古い九谷焼の皿
九谷焼は、中国風の花鳥・人物のデザインや、赤・黄・緑・紫・紺青の五彩と金彩を全面に施した華麗でカラフルな色彩で知られています。その絢爛なイメージが万博などで目を引くようになり、九谷焼は「ジャパンクタニ」と呼ばれて海外でも好まれるようになったのです。
上絵付けで使う絵の具
九谷焼は、主に陶石を採取して粉砕した陶土から作られます。焼くと透き通るような質感となり、爪でつつくと“チン”という高い音を立てるのが特徴。
もっとも魅力的なのは、やはりその鮮やかな色彩。陶土を成形して素焼きしたものに「呉須(ごす)」という、焼くと藍色になる黒い絵の具で絵付けをし、ガラス成分を含む液(釉薬)をかけて焼き上げます。
焼いた作品に描かれた呉須の下書きの上から、様々な色をのせていく作業が「上絵付け」と呼ばれる工程です。
上絵付けをした陶器をさらに焼くと、絵の具のガラス質が溶けてキラキラと輝いて見えます。塗ったところは厚みが出るため、特徴的な手触りに。
九谷焼ニューウェーブの到来!
KUTANI SEALの作品例(左が焼き上げ前、右が焼き上げ後)
近年では日本人の暮らしが洋式化してきたことから、洋風の家具やインテリアにも合うようなデザインが誕生するなど、現代の日常に寄り添うような新たな九谷焼が誕生しています。
例えば、白い下地を生かしたシンプルな北欧風デザインは、かわいらしい花や動物を淡い色合いで描いたものが多く、子供にも喜ばれそうな愛らしい仕上がりに。さらに、ムーミンやハローキティ、ガンダムといったキャラクターを取り入れたものまで。これらは新世代の九谷焼といえそうです。
時代やニーズにあわせて、少しずつ姿を変えていく伝統工芸品。職人が長きにわたり守り続けてきた技法も大切にしながら、色彩豊かな九谷焼を、もっと身近なものとして取り入れていきたいですね。
自分だけの「九谷焼」体験を
多くの伝統工芸が残るエリアでもある金沢。せっかく金沢に旅行するのなら、ぜひ伝統工芸の体験に挑戦してみてくださいね。今回ご紹介したそれぞれの九谷焼体験スポットは、体験するだけでなく、カフェメニューがあったり、九谷焼を販売していたり、ギャラリーがあったりと特徴もさまざま。自分だけの「九谷焼」体験に、ぜひ足を運んでみて。