日本を代表する色絵陶磁器「九谷焼(くたにやき)」。色絵磁器の最高峰とも呼ばれる九谷焼は、石川県南部の南加賀で発祥し、約360年の歴史を誇る焼き物です。色鮮やかな絵付けを特徴とする九谷焼は、時代とともにさまざまな成長を続け、日本をはじめ世界から愛され続けています。
最近では、キャラクターとのコラボレーション商品も流通し、九谷焼ならではの五彩を用いた色合いが人気を集めています。
今回は、九谷焼の特徴や歴史のほか、九谷焼の製造工程、九谷焼選びのポイントについて紹介していきます。
( TOP画像:作 小酒 磯右衛門/名 色絵楼閣山水図三組鉢)
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九谷焼の特徴は?
様々な用途で使える九谷焼
加賀国江沼郡九谷村の地名から名付けられた「九谷焼」。最初に焼成された場所は、現在の石川県加賀市山中温泉の奥地だそう。そんな九谷焼の特徴とは一体何でしょうか。石川県が誇る伝統工芸品の魅力をお伝えします。
九谷五彩(緑、黄、赤、紫、紺青)と呼ばれる和絵具による色とりどりの華やかな「上絵付け」が特徴です。
九谷焼の特徴①「上絵付け」
上絵付け体験の様子
上絵付けとは、本焼きした陶磁器の釉薬(ゆうやく・うわぐすり)の上に、顔料でデザインを描き、再度焼く技法のこと。九谷焼のほか、佐賀県を代表する有田焼などで用いられている技法です。色鮮やかな絵付けが特徴的な九谷焼。上絵付けを用いた代表的な技法をご紹介します。
九谷焼の上絵付けの特徴は、五彩を中心とした色彩効果を利用した画風が魅力です。
九谷焼の特徴②「九谷五彩」
九谷焼の上絵付け最大の特徴が「九谷五彩」。呉須(ごす)と呼ばれる寒色系の黒色で線描き(骨描き)し、五彩と呼ばれる「黄・緑・紺・紫・赤」の五色で絵の具を厚く盛り上げて塗る彩法です。九谷庄三(くたにしょうざ)によって発見されたこの技法は、見事な色彩効果と美しい絵模様をもたらします。
色絵・五彩手の鉢(作:小酒 磯右衛門、名:色絵楼閣山水図三組鉢)
九谷五彩は「五彩手」とも呼ばれています。
自然の風景と人物がデザインされた絵柄(作:小酒 磯右衛門、名:色絵楼閣山水図三組鉢)
起源は中国陶磁器。九谷焼はその技法を継承しながら、独自に発展してきました。
細部まで美しい模様(作:小酒 磯右衛門、名:色絵楼閣山水図三組鉢)
器の中央に作品のモチーフを絵画的・写実的に描くことも、色絵の特徴なのです。
その他の上絵付け技法
①青手
青(緑)の色絵の具を基調として「黄・紺・紫」を加えた絵柄が特徴的な「青手」。全体を埋め尽くすように絵付けを行うので、隙間なく埋め尽くされた色合いが豪華な印象を与えます。
青手の平鉢(作:小野窯、名:色絵山水図平鉢 )
青手の作品は古九谷をはじめ、再興九谷の吉田屋窯、松山窯など、江戸時代の大聖寺藩領内を中心に数多くの名品が生み出されました。
隙間なく埋め尽くされた絵柄(作:小野窯、名:色絵山水図平鉢 )
余白を余すことなく色絵の具で塗り尽くす青手の特徴「塗り埋め」。鮮やかな色合いが存在感を放ちます。
平鉢の模様(作:小野窯、名:色絵山水図平鉢 )
「青手」といっても実際に施されているのは緑色。動植物・山水・幾何模様・名画などが描かれています。
②赤絵・金襴手
赤絵や色絵に金彩を加えた「赤絵・金襴手(きんらんで)」。江戸時代に中国から伝わった技法です。にじみにくい赤の色絵の具の特性を活かし、器全体に「細描」と呼ばれる細かい描き込みを施します。
豪華な赤絵・金襴の大香炉(作:九谷北山堂 宮荘 一藤、名:赤絵金彩人物図大香炉 )
赤の色絵の具のほかに、金の飾り付けで彩られた絢爛豪華な作品が多いのも特徴の一つです。
大香炉の絵柄(作:九谷北山堂 宮荘 一藤、名:赤絵金彩人物図大香炉 )
背景を赤で塗り埋めた器に金で絵付けしたスタイルは、赤絵のなかでも特に「金襴手」と呼ばれています。
華やかな模様(作:九谷北山堂 宮荘 一藤、名:赤絵金彩人物図大香炉 )
職人の高い技術が求められる「細描」の緻密な絵付けと、金の華やかさの組み合わせが魅力的な赤絵。他の九谷焼とは一味違う魅力が感じられます。
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九谷焼の歴史-空白の100年を経て再興
江戸時代初期、1655年に当時の加賀支藩の初代藩主であった前田利治(まえだとしはる)が九谷村で陶石を発見し、藩士であった後藤才次郎(ごとうさいじろう)が磁器の技能習得のために九谷で窯を開いたのが九谷焼の始まりとされています。
加賀藩主前田氏の居城だった金沢城
理由は解明されていませんが、わずか100年たらずで窯は閉鎖。この期間に焼かれたものは「古九谷(こくたに)」と呼ばれており、現在の九谷焼とは区別されています。豪快で力強い下書き(骨描き)と、五彩を用いた上絵付の彩色が重厚で男性的な画風が特徴的。現在でも高い評価を受けています。
九谷焼の窯
九谷窯の閉鎖から約100年後、江戸時代後期には加賀藩が九谷焼の再興を目指し、金沢に「春日山窯」を作りました。これをきっかけに赤絵細描画の「宮本窯」、金襴手(きんらんで)の「永楽(えいらく)窯」、古九谷の再興を目指した「吉田屋窯」など数々の窯が開業。これらの窯で焼かれたものは「再興九谷」といわれます。
明治時代に入ってからは、九谷庄三(くたにしょうざ)の金彩と赤絵が施された「ジャパン・クタニ」と呼ばれる作品が、1873年のウィーン万博を機に欧米向けに数多く生産されました。
かわいらしい九谷焼の置物
近年では、宮内庁からの贈答品として使用されたり、英国チャールズ皇太子のご結婚祝いとして献上もされているのだとか。さらに、キャラクターとコラボレーションしたユニークで味のあるデザインの九谷焼なども販売され、より身近な存在となっています。
上絵付けにより、カラフルながらも落ち着いた印象に仕上がる九谷焼。温かみのある色合いが和のテイストを感じさるため、現代風のデザインともマッチするようです。
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九谷焼の製造工程
ここからは、九谷焼の製造工程を紹介します。
①土造り
まずは、原料となる陶石、陶土を採取して乾燥させて砕き、それをふるいにかけて均一にします。次に土を水に溶かして不純物を取り除き、なめらかな状態にして一定期間寝かしつけたら下準備の完了です。
②成形・加工
粘土を回転させて形作る「ろくろ」や、型を使用した「鋳込み(いこみ)」などを用いて形を作成。形成された作品は天日で乾燥した後、800℃の高温で素焼きされます。
ろくろを回転させて粘土の形を作る
③下絵付け・本焼き
素焼きした器に「下絵付け」を施し、陶磁器にかける薬品の釉薬をかけ、表面をガラスで覆って強化します。釉薬をかけた後は「本焼き」。1,300℃の高温で長時間焼きあげます。
酸化コバルトを主成分とする青藍色の顔料「呉須(ごす)」を使用し、骨描き(こつがき)と呼ばれる絵模様の輪郭の下絵付けを行うのも、九谷焼の特徴です。
釉薬につける様子
④上絵窯・金窯
九谷五彩を中心にした上絵の具で描き上げます。さらに、上絵付けしたものを800℃前後で4〜10時間かけて焼いていきます。焼き上がり後、金彩・銀彩を施し、金窯(錦窯)で焼成し完成です。
上絵付けで使われる絵の具
九谷焼の使い方とお手入れ法
日常使いしやすいものを選ぶのがおすすめ
九谷焼には、日用品から高級品まで幅広い品揃えがあるのも魅力の一つ。器の種類によっても雰囲気が違うため、料理に合わせて器を選ぶ楽しさもあります。和食だけでなく洋食の料理などにもよく合い、目で見て食事を楽しめるのも魅力的。集めるなら、日常使いしやすい食器から選ぶのがおすすめです。
九谷焼のおしゃれな香炉
九谷焼の選び方
九谷焼には陶土(粘土)でできている「陶器」と、陶石(石の一種)でできている「磁器」の2種類があります。陶器は全体的に厚くてぽってりとし、柔らかさや温かみがあるのが特徴的。また磁器は薄くて軽くうえに丈夫で、陶器に比べてスマートな美しさを持ち合わせています。
九谷焼の陶器・抹茶茶碗
九谷焼の磁器・とっくりとおちょこ
九谷焼の使い方
せっかく購入したお気に入りの九谷焼。長く綺麗に使うために、日々できるお手入れ方法を紹介します。
まず、購入してすぐの器は、そのまま使用するのではなく、煮沸してから使用するようにしましょう。煮沸後、冷ましてから水洗いしてしっかりと乾燥させると、吸水性の残る器の表面がコーティングされて、汚れがつきにくくなります。
細部まで繊細な絵柄が美しい(作者:粟生屋源右衛門、作品名:色絵山水図扇面形皿)
購入後だけに限らず、洗った後は十分に乾燥させることでカビや臭いを防いでくれます。
使用する際にも注意点が。金や銀を使った色絵の器の場合は、電子レンジで温めると上絵が剥げたり黒ずんだりしてしまう可能性があるので要注意。また、収納する際は陶器と磁器は重ならないようにしましょう。陶器の足が磁器の上絵を傷つける場合があります。
世界から認められる九谷焼の魅力
かわいらしい九谷焼の雛人形
色絵磁器の最高峰とも言われる九谷焼。九谷焼の魅力は「上絵付けを離れて九谷はない」とまでいわれる色絵装飾のすばらしさにあります。絵画的で大胆な上絵付けは、細部まで美しく上品な印象です。
各時代の窯の上絵付けの作風が大きく異なるため、比較して楽しめるのもポイント。石川県を旅行する際には、この後ご紹介する「九谷焼について学べるスポット」を巡り、九谷焼の奥深さに触れてみてはいかがでしょうか。