都内には多くの美術館があります。世界各国の芸術作品を集めながら企画展を開催する美術館が多い中、日本を代表する芸術家・画家にフォーカスした専門の美術館はなかなか少ないもの。
今回ご紹介する3つは、時代は異なれど、どれも日本を代表する芸術家・画家の作品を展示している美術館です。そして、そんな専門の美術館に併設、もしくは周辺に立つカフェをあわせてご紹介。
たっぷり芸術作品を堪能したらカフェに足を運んで、感想を語り合ったり、作品に思いを馳せたりしながら、アートな時間に浸ってみてはいかがでしょうか。
美術館に行った後はカフェに寄ってみませんか?
芸術に浸る時間をカフェで過ごしましょう
美術館でアートな時間を満喫したら、近くのカフェに寄ってのんびりと芸術に思いを馳せる。そんな過ごし方を、東京都内にある3つの美術館とカフェで叶えてみてはいかがでしょうか。
今回は日本を代表する芸術家・画家の作品を鑑賞できる美術館と、併設もしくは周辺に立つカフェそれぞれの特徴をご紹介していきます。こだわりのメニューを堪能しながら、アートな時間をもっと奥深いものにしてみませんか?
日本を代表する絵師を知り尽くす「すみだ北斎美術館」
すみだ北斎美術館 AURORA(常設展示室)の様子 ©️Owashi Yosuke
1998年、アメリカの雑誌『ライフ』で「この1000年でもっとも偉大な業績を残した100人」として日本人でただ一人選出されたのが、浮世絵師の葛飾北斎です。日本だけでなく世界にその名を轟かせた葛飾北斎は、ヨーロッパ芸術にも大きな影響を与えた人物としても有名。そんな北斎の作品を展示しているのが、東京都墨田区に立つ「すみだ北斎美術館」です。
すみだ北斎美術館の立つ墨田区は、実は北斎ゆかりの地。北斎は生涯に90回以上の引っ越しをしたことでも知られていますが、生涯のほとんどを墨田区で過ごしたとされています。
最先端技術を使って葛飾北斎の魅力に迫る
すみだ北斎美術館では定期的に企画展を開催するほか、7つのエリアを有したAURORA(常設展示室)を設けています。
約70年間の画業の中で多くの作品を残した北斎ですが、多彩な画風を持つ浮世絵師でもありました。それは、北斎が土佐派、狩野派、西洋画法、琳派など、浮世絵師の範疇におさまることなくさまざまな表現方法を試みていたため。有名な「冨嶽三十六景」のほか、フランスの印象派の画家であるエドガー・ドガの人物像に影響を与えたといわれる絵手本『北斎漫画』など、タッチやジャンルの異なる作品たちを多数残しています。
そんな北斎の人生を、ゆかりの地「すみだ」との関わりを紹介するエリアと、北斎の主な画号(本名以外につける名前のこと、ペンネーム)に応じて6エリアに分け、全7エリアで紹介しています。
マッピング機能で北斎ゆかりの地を学べる ©️Owashi Yosuke
錦絵を高精細画面モニタで鑑賞できたり、『北斎漫画』などの絵手本をタッチパネルモニターで紹介したりと、高度な技術を用いた展示方法を採用。作品を眺めるだけでは気づけない北斎の奥深い魅力に出会えます。ほか、北斎アトリエをリアルに再現するなど、その生涯を多彩な展示から辿っていくことができます。
タッチパネルで作品を拡大し、細部まで鑑賞できる ©️Owashi Yosuke
北斎アトリエを再現 ©️Owashi Yosuke
スタイリッシュな建物は周辺地域との融合性を意識
すみだ北斎美術館の非常にスタイリッシュで前衛的な建物にも惹かれるという人も多いのではないでしょうか。この印象的な建築を設計したのは、世界で活躍する一級建築士の妹島和世。外壁には鏡面のアルミパネルを使用し、周囲の下町風景が建物に映り込むことで景観に溶け込むという設計です。
ユニークな形の外観は周辺地域との融合を意識 ©Owashi Yosuke
繊細な浮世絵作品を守るために建物全体は閉じた設計としながら、建物全体にスリットを配し特定の入り口を作らず、周辺地域のどこからでも美術館内にアクセスできるように。美術館としての機能を果たしながら、公園や地域との一体感を意識した建築となっています。
北斎作品を織物で再現!「ORI TOKYO」で和のくつろぎを
木材を配した外観が和の趣を感じる
すみだ北斎美術館から徒歩15秒ほど、両国駅へと続く大通り「北斎通り」にカフェ「ORI TOKYO」は立ちます。2018年4月にオープンした同店はカフェとして営業をしながら、北斎の代表作『冨嶽三十六景』を織物で再現し、展示・販売しています。
和モダンな店内に『冨嶽三十六景』がよく似合う
店内はベイマツを使った木の温もりを感じる和モダンな造り。同店のロゴを取り入れた格天井や入り口の軒に配された市松模様など、随所に「織り」の縦糸と横糸をイメージしたデザインが施されているのも見どころです。
ORI TOKYOで販売している織物の作品は、多くの色糸を用いて複雑に織るジャガード織を採用。複雑な織りの様子がうかがえるよう、額をつけていないそのままの作品も置かれています。織物作品はその場で購入が可能。大きいサイズは39,800円で、小さいサイズは29,800円。いずれも額代込みのため、購入後そのまま自宅などに飾ることができます。
再現度の高い織物は、実際に触れながら見ることができる
手がけるメニューも、こだわりの逸品たちが勢揃い。例えばコーヒーは豆本来の味を引き出すサイフォンで淹れるため、それに合うよう長野県軽井沢の酸味の少ない豆を採用。アイスコーヒーも酸化しないようにと、淹れたてのコーヒーを急冷蔵して提供しています。
ショップカードの役割も担うコースター
「アイス最中」は、東京都浅草の最中をキャラメリゼしたものに、自家製アイスと北海道のあんこをトッピング。
バニラビーンズが香る濃厚なアイスクリームと甘さ控えめのつぶあんが絶妙にマッチし、サクサクの最中と香ばしいアーモンドが食感にアクセントを添えます。京都府から取り寄せているという煎茶をお供に、和の空間に浸ってみてはいかがでしょうか。
アイス最中(700円)と煎茶(680円)
ORI TOKYOでは、すみだ北斎美術館の企画展開催にあわせてコラボメニューを展開しています。美術館の帰りにゆったりとくつろぐために寄り道するのはもちろん、繊細な技術で再現された『冨嶽三十六景』の織物に出会いに足を運んでみてはいかがでしょうか。
大正ロマンに思いを馳せる「竹久夢二美術館」
竹久夢二美術館
東京都文京区に立つ「竹久夢二美術館」は、1902年末にデビューした「大正ロマン」を象徴する画家、竹久夢二の作品を鑑賞できる美術館。併設の「弥生美術館」理事長であった鹿野琢見の夢二コレクションを展示すべく、1990年に開館しました。所蔵品は作品のみならず、夢二の遺品や書簡を含め約3,300点にのぼります。
ツツジやモミジが四季を彩る美術館
東京大学本郷キャンパスの、弥生門斜め向かいに立つ竹久夢二美術館。夢二が滞在した「菊富士ホテル」のあった東京の本郷エリアに同館は立っています。
庭の奥に見えるのが竹久夢二美術館
同館は、併設の弥生美術館と館内の渡り廊下を介して繋がる設計。レトロな赤レンガで仕上げられた弥生美術館とツツジやモミジが四季折々の表情を見せる庭の向こうに、ひっそりと竹久夢二美術館が佇んでいます。
竹久夢二をあらゆる角度から紐解く
『水竹居』(1933年)。ドイツのベルリンに滞在中に現地の女性をモデルに描いた(画像提供:竹久夢二美術館)
「大正ロマン」の象徴とされる竹久夢二の特徴は、センチメンタルで儚い雰囲気の女性たちを描き出す「夢二式美人画」に見られます。日本の郷愁と西欧のモダ二ズムを併せ持つような唯一無二の画風を生み出した夢二は、時代の流行を捉えながらも自分らしく人生を生き抜き、幅広い作品を残しました。
夢二が描いた女性の姿
中でも注目したいのが、夢二の描く女性たちのファッション。デザインも得意とした夢二が描く和服や小物、アクセントを添えたコーディネートなどを絵画から発信し、当時の女学生たちを中心にファッショントレンドを作り出していったのです。
女性を中心に人気を博していた夢二ですが、ほかにも雑誌のコマ絵の仕事や、詩や童謡、広告デザインまで幅広く手がけました。まさしく大正時代を代表する画家、それが竹久夢二なのです。
夢二が表紙を担当した『婦人グラフ』
竹久夢二美術館では、そんな彼の魅力をさまざまな角度から発信。時代を追って夢二の人生を辿りながら作品を紐解いていくのはもちろん、詩人になりたかったという夢二が残した言葉をまとめ、編集した『竹久夢二という生き方 人生と恋愛100の言葉』という本の出版なども行なっています。
学芸員の石川さんが編集を行った『人生のことば』(1,728円)
女学生から支持を得ていた「ファッションアイコン」としての夢二だけでなく、人生や恋愛についてのヒントも、彼の日記やエッセイを通して知ることができます。年に4回開催される企画展で、夢二の新たな魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
ラテアートで夢二デザインに触れる「夢二カフェ 港や」
芸術において多彩な才能を発揮していた夢二ですが、大正時代初期にはその才能を生かした小間物店「港屋絵草紙店」を日本橋に構えていました。そこでは夢二がデザインした千代紙や便せん、手拭い、風呂敷、浴衣といった生活雑貨を販売し、当時の乙女たちの憧れの店だったそう。
レンガを使った外壁が魅力的な「夢二カフェ 港や」
その小物店の名前を取り誕生したのが、弥生美術館・竹久夢二美術館併設のカフェである「港や」。弥生美術館から続く赤レンガの建物がレトロな印象を与えます。店内は落ち着いた雰囲気で、開放感ある大きな窓からは美術館の庭や東京大学のレンガ造りの建物が望めます。大正ロマンをたっぷり満喫したあとは、レトロな雰囲気に浸りながらゆったり過ごしてみてはいかがでしょうか。
大きな窓からは四季折々の庭の景観を楽しめる
同店では、自家製ケーキやカレーといったメニューを展開。ほか、夢二をイメージしたバラやツバキのラテアートが施されたカプチーノ「夢のあと」も人気。ラテアートのデザインは複数あり、どの柄に出会えるかもお楽しみです。
カプチーノ「夢のあと」(500円)
毎月1回行われる「ロマン写真館」も人気。中庭や港やを背景に、着物姿で写真撮影をしてもらえるというイベントです。
プロのヘアメイクによりレトロな着物姿に変身したら、夢二の美人画に出てくるような1枚をカメラマンが撮影。大正ロマンを感じる美しい写真が手に入ります。料金には衣装、ヘアメイク、写真データ(5枚)代なども含まれています。
店内には「ロマン写真館」の写真も飾られている
生命力溢れる作品を鑑賞「岡本太郎記念館」
岡本太郎記念館の応接スペース(常設展示)
「芸術は爆発だ」。日本人なら誰しもが、岡本太郎のこの言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
岡本太郎は1970年開催の日本万国博覧会のシンボルゾーンに立ったテーマ館『太陽の塔』をはじめ、生命力溢れる芸術作品を全国各地に残した芸術家です。そんな彼が実際に作品を生み出していた建物が、東京都内の表参道エリアに「岡本太郎記念館」として残っています。
岡本太郎が愛したコンクリート造のアトリエ
1954年、この建物は岡本太郎のアトリエ兼住居として戦前に太郎の両親が住んでいた土地に建てられました。太郎は20年以上の年月をここで過ごしたのです。
外壁だけでなく、内壁にもコンクリートが使われた柱のない建物は、当時としては珍しい造りでした。設計を担当したのは、太郎の友人でル・コルビュジェの愛弟子でもあった建築家の板倉準三。コンクリートブロックを積み上げた建物の上に凸レンズ形の屋根を乗せるという、斬新な建物に仕上がっています。
大きな作品を上から確認できるよう高い吹き抜けを設けた
建物の奥に設けられたアトリエは、吹き抜けを持つ開放感のある空間。安定した採光を得るために、太郎の要望で北側の壁一面に磨りガラスを配しています。アトリエ内部に入ることはできませんが、太郎が手がけていた多数の大きなキャンバスが当時の姿で並んでいる光景を見ることができます。
太郎が実際に使っていた筆もそのまま残っている
館内外では太郎作品を多数展示
アトリエの前の廊下横に広がるスペースは、友人たちとの語らいの場やゲストをもてなす応接室として利用されていました。ここでは、太郎の等身大マネキンをはじめとしたユニークな作品が並びます。
太郎の代表的な作品も多く並ぶ
テーブルの上には、『水差し男爵』や『夢の鳥』といった作品たちも。窓際には太郎の写真とともに、彼の養女であり実質的な妻であった岡本敏子さんの写真が飾られています。
建物外の庭にも、太郎の創造性あふれる作品たちが集っています。ジャングルのように木々が生い茂る庭には、彫刻作品を多数展示。2階のベランダからは、『太陽の塔』が柵に掴まり庭を見下ろしています。
2階のベランダには小さな『太陽の塔』の姿が
建物の取っ手にも太郎作品をあしらうなど、どこもかしこも太郎のユーモア溢れる作品たちでいっぱいです。
キュートな足型の取っ手
記念館2階では随時企画展を開催
岡本太郎記念館では、太郎のアトリエや居住空間を残しつつ、定期的に企画展を開催しています。3カ月ごとにテーマを変えて実施される企画展では、30〜40点ほどの作品を展示。迫力ある作品たちをじっくりと鑑賞できます。
「a Piece of Cake」で手作りケーキとコーヒーに癒される
アンティーク調でカラフルに彩られた店内
岡本太郎記念館に併設されているカフェ「a Piece of Cake(ア・ピース・オブ・ケーク)」。手作りのケーキをはじめとしたカフェメニューが楽しめます。同店のオープンは、岡本太郎記念館と同じく1998年。店舗の立つ場所は、かつて岡本太郎の彫刻のアトリエがあったのだそう。『太陽の塔』も、この場所で誕生したのです。
明るいイエローの壁にタイルを施したり、ステンドグラスのランプシェードを配したりと、アンティーク調に彩られた明るい店内。テラス席も設けられており、記念館の庭を眺めながらのんびりカフェタイムを過ごせます。
テラス席は記念館の庭を向いてセッティング
ケーキセットでは、ホームメイドパンケーキ、アップルパイ、チーズケーキなど多彩なスイーツを用意。ホームメイドパンケーキは、同店と同じく南青山に立つパンケーキハウス「APOC(アポック)」が手がけたメニューを提供。オーガニックにこだわったもちもち食感のパンケーキが楽しめます。
シナモンバナナチーズケーキ(1,200円 / ホットコーヒー含む)
「シナモンバナナチーズケーキ」は、バナナの優しい甘さとシナモンのスパイシーさ、そしてチーズケーキの爽やかな酸味が合わさった濃厚な味わい。コク深いホットコーヒーをお供に、贅沢なひとときを過ごせます。
手作りクッキーはお土産にもぴったり
ほか、お土産にもちょうどいい手作りクッキーや、岡本太郎の作品をかたどった「TARO顔のクッキー」なども販売。手作りでひとつひとつ型を取り焼き上げて作った「TARO顔のクッキー」は数種類のスパイスをブレンドすることで、奥深い香りが楽しめる味わいに。
TARO顔のクッキー(3枚入り 1,000円)
岡本太郎の生命力溢れる作品を堪能したら、アンティーク調の愛らしい店内で濃厚なケーキとコーヒーを味わいに訪れてみてはいかがでしょうか。
美術館 × カフェで奥深いアートな時間を
江戸時代に活躍した葛飾北斎、大正ロマンの象徴である竹久夢二、20世紀後半を席巻した岡本太郎の作品を展示する美術館と、併設・周辺のカフェをご紹介しました。カフェだけの利用はもちろんですが、美術館に行った帰りに足を伸ばせば、より密度の濃いアートな時間を過ごせること間違いなし。ぜひ足を運んでみてくださいね。