日本全国各地で生産されているクラフトビール。もともとは「地ビール」という名前で誕生したこのビールは、いつしかクラフトビールと呼ばれ、作り手のこだわりや思いを樽の中に閉じ込めた個性豊かなビールとして、広く愛されるようになりました。
そんなクラフトビールを愛し、常に70〜80種類ものクラフトビールを店内に並べているビールバー「麦酒倶楽部 ポパイ(BEER CLUB POPEYE)」が両国にあると聞き、足を運んできました。
「クラフトビール」という言葉を日本に浸透させた立役者としても知られているポパイ。その歴史とこだわり、そしてポパイが手がけるクラフトビールについても、話を伺ってきました。
日本のクラフトビールを支えてきた「麦酒倶楽部 ポパイ」
ポパイの内観。タップとさまざまなビールグラスが並ぶ
今では多くの日本人になじみのある言葉となった「クラフトビール」。
毎日の食卓に、飲み会に、イベントに。多彩なシーンで登場するクラフトビールですが、実は「クラフトビール」という言葉が日本に浸透し始めたのは、ほんの10数年前のこと。その立役者として知られているのが、JR両国駅西口から徒歩約2分に立つ「麦酒倶楽部 ポパイ(BEER CLUB POPEYE)」です。
麦酒倶楽部ポパイの目印は大きなビールのオブジェ
ビール好きが足繁く通う麦酒倶楽部ポパイの最大の魅力は、取り扱うクラフトビールの数と、それを知り尽くしたスタッフがいること。もちろんそれぞれのビールに合うとっておきのメニューとのマリアージュを楽しめるのも魅力のひとつです。
クラフトビールとポパイの関係について、そしてポパイのクラフトビールへのこだわりについて、今回は、店長を務める城戸さんと、創業者の青木さんに話を伺ってきました。
ポパイ店長の城戸さん
地ビールからクラフトビールへ。時代とともに変わる日本のビール
ポパイがクラフトビールの名ビアバーとして名を馳せるようになるきっかけは、1994年の「地ビール解禁」でした。1994年の酒税法改正によりビール造りの規制が大きく緩和されたことで、各地で「地ビール」が誕生していくようになるのです。
当時はまだ、各飲食店で取り扱うビールは大手の1社のラベルのみという暗黙のルールがあるころ。ですが、地ビール解禁の知らせを受けて「地ビールを何種類も取り扱うお店にしよう」と考えたのが、当時、洋風居酒屋を営んでいたポパイの創業者・青木さんでした。
「付き合いのあった酒屋さんがいくつかの地ビールを仕入れてくれて、うちで取り扱うことができたんです。それでも最初の数年は、10種類程度でしたけど」と青木さん。
こうしてポパイは、洋風居酒屋から多彩なビールの飲める専門店へと変わっていったのです。
クラフトビールが盛んなアメリカのビアバーを参考に造られたポパイの店内
かと思えばカウンター前にはまねきねこの姿が
ここからはクラフトビール登場のお話。
従来よりも少ない生産量でもビール製造が許可されるようになった「地ビール解禁」の翌年、2月に開業した新潟県のエチゴビールを皮切りに、全国各地で地ビール製造がさかんに行われていくようになりました。
ちなみに「地ビール」とは、地元の日本酒「地酒」と同じ意味合い。地域密着型で少量生産の地ビール醸造所が、1995年〜2000年の5年間で一気に増えていきます。
しかしこれは、設備さえ整っていて規定の生産量を満たしていれば、誰でもビールが造れるということ。中には質がさほどよくない地ビールも多くあったことから、徐々に地ビールブームは下火になっていきます。
ここで登場するのが「クラフトビール」です。
地ビールに代わり「個性豊かなこだわりある小規模ブルワリーが手がけるビール」を総称した「クラフトビール」という言葉が誕生します。「クラフトビールという言葉は、何もこの時に誕生した言葉ではなく、もともとある言葉でした。”地ビール”よりももっとポップで、親しみやすい。なんだかおしゃれでしょ。それで僕はクラフトビールという言葉を使って”クラフトビアフェスティバル”なんかを開催したりしたんです」と青木さん。
ポパイは地ビールを取り扱う専門店ということもあり、地ビールブームが下火になる頃にはすでにお店のファンも多く、業界で名前を知られていた青木さん。「クラフトビール」という言葉を積極的に取り入れ、使うことで、徐々にその言葉が広まっていくことになります。
ポパイでは常時70〜80種類のクラフトビールを用意
こうして今では日本各地で「クラフトビール」が製造され、2019年12月現在ではブルワリーの数も400社近くに。さまざまなところでクラフトビールのイベントが行われたり、スーパーでもクラフトビールが売られていたりと、広く浸透しているのです。
100以上のタップが並ぶさまは見ているだけでも気分が上がる
ポパイはまさしくクラフトビールのブームを影から支えてきた立役者。お店には100ほどのタップが並び、そのうち70〜80のタップが異なるラベルの樽に繋がっています。常時70〜80種類ものビールが飲める専門店は、日本全国見渡しても珍しいもの。ここポパイなら、きっとあなたのお気に入りのビールが見つかるはずです。
世界最大級のクラフトビールインデックスサイト「rate beer」が毎年発表する賞の賞状
個性を楽しみながら飲む。ポパイが教えるクラフトビールの楽しみ方
クラフトビールに愛情を持って向き合い、作り手のこだわりを受け取り、最高の状態でユーザーへと提供するポパイ。ビールによって泡を立てたり立てなかったりと、注ぎ方やグラスまでにもこだわり、個性を引き立たせます。
店内のブラックボードにはおすすめビールを種類ごとに記載
ビールのおいしさを最大限引き出して提供するために、ポパイではビールそれぞれのガス圧はもちろん、店内の湿度にまで気を配るという徹底ぶり。
「ビールは弱酸性なので、その日の湿度によって、同じビールでもおいしく感じたり酸っぱく感じたりすることがあるんです。これは湿度が低いと人間の体が酸味を強く感じるようになるから。僕は実体験で学びました。湿度20%と30%では、同じビールでも感じる味がまったく変わるんです。なので湿度などによって、ポパイではお客様におすすめするビールも変えるようにしています」と青木さん。
湿度が低くなってくる秋の終わり頃からは、加湿器を導入し、常にユーザーがビールをおいしいと感じられるような環境作りにも重点を置いているそう。
仕事終わりに、風呂上がりにゴクゴクと勢いよく飲むビールもおいしいですが、ポパイ店長の城戸さんは、「飲む前の香りももちろん、口全体でクラフトビールを味わって欲しいですね」と話します。大手ビールのような喉ごし、キレ、泡だけでおいしさを感じるのではなく、ワインのように、クラフトビールひとつひとつの違いを楽しみながら飲んでほしいとのこと。「そうやって飲んだら、ゴクゴクって一気にビールを飲めなくなりましたね(笑)」。
ひとつひとつビールの注ぎ方にもこだわる
飲む前にどんな香りがするのか、口に含んだ時にどんな苦味や酸味、香りがするのか、飲んだ後に鼻に抜けていく香りや口に残るうま味はどんなものか。ぜひ作り手のこだわりが反映された個性的なビールたちに向き合いながら、その味や香りを楽しんでみてください。
ポパイが手がけるビールからおすすめを聞く
もともとビールを飲むことよりも、「ビールの作り方」の魅力にハマっていたという青木さん。2014年からついに直営のブルワリーでオリジナルビールを造ることにしました。新潟県南魚沼市の工場で造るポパイビールのラベルは、全12種類。今回はその中から、おすすめ3つをピックアップし紹介します。
力強い味わいの「ナインハンドレッド イングリッシュペールエール」
「ナインハンドレッド イングリッシュペールエール」大 1,050円
こちらは「ナインハンドレッド イングリッシュペールエール」。グラスになみなみと注がれたビールは、「まさしくペールエール!」というようなガツンとした濃い味わい。肉料理など、味の強い料理と合いそうです。
香りや苦味、酸味のバランスが非常によく、それでいて濃い。強い味わいをそのまま提供するため、なるべく泡を立てずに、静かにグラスに注ぐのがこだわりのひとつです。
魚沼産コシヒカリ50%使用「魚沼ライスヴァイツェン ブリュットVer.」
「魚沼ライスヴァイツェン ブリュットVer.」大 1,152円
くびれた背の高いグラスに、繊細な泡をたっぷり乗せて登場した「魚沼ライスヴァイツェン ブリュットVer.」。先ほどのイングリッシュペールエールとは大きく異なり、強めの炭酸と芳醇な香りが印象的。泡を立たせながら注ぐことでビール全体がグラスの中で混ざり、まろやかな口当たりに。甘みが特徴的な魚沼産コシヒカリを50%使用しており、バナナのようなやわらかくフルーティーな香りがほんのりとします。
フルーティーだけれど強アルコール「ラブポーション#9 バーレイワイン60」
「ラブポーション#9 バーレイワイン60」768円
広口のワイングラスに注がれたこちらは「ラブポーション#9 バーレイワイン60」。ワインのように香りを楽しみ、そっと口に含んで転がしながら味わって飲めば、フルーティーさと苦味が合わさった特別な一杯に。柑橘+ベリー系のような甘い香りで、食後のデザートと合わせていただくのがおすすめだそう。ポパイビールの中では9%と一番アルコール度数が強く、飲んだ後にアルコールの香りが鼻から抜けていきます。
趣向がまったく異なるポパイの3つのビールをいただき、クラフトビールの幅広さ・奥深さを体感しました。合わせる料理はもちろん、飲むベストシーンもタイミングも違います。その日の気分に合わせて飲むビールを変えても楽しいでしょう。ぜひそれぞれの違いを楽しんで、クラフトビールそのものの味の深さを堪能してください。
クラフトビールを知り尽くした「麦酒倶楽部 ポパイ」へ
ポパイの青木さんは、「クラフトビールはアートと一緒なんです」と話します。パティシエのケーキのように、シェフの料理のように、洗練された技術に「感性」が加わることで、見る人・口にする人を魅了するビールができ上がる、というのです。「今のポパイビールは技術ができていますが、まだ感性の部分が足らない。まだ唸るようなおいしさのクラフトビールには至っていないんです」。それは、ここまでクラフトビールを知り尽くして誕生したポパイビールにも、まだまだ進化の余地があるということ。
ポパイでは2020年春から、店舗のある両国でクラフトビール造りを開始し、新しい両国生まれのクラフトビールが仲間入りする予定だそう。青木さんが納得するような、ビール好きが思わず唸るような、技術に感性が加わったクラフトビールがついに誕生するのか。まだ飲んだことのない新しいクラフトビールに出会いに、ぜひ足を伸ばしてみて。