香川県坂出市に位置する「城山(きやま)温泉」は、ふつうの温泉スポットとは違った特徴があることをご存知ですか?ここでは、瀬戸大橋を一望できる絶景の天然温泉に加えて、館内の芝居小屋では日本の伝統的な娯楽である大衆演劇も楽しむことができるのです。
今回は、大衆演劇初心者である筆者が、たっぷり1日かけて城山温泉と演劇の2つを同時に満喫してきました!今回は、城山温泉と大衆演劇の魅力や、大衆演劇初心者や訪日観光客におすすめの城山温泉大衆演劇の楽しみ方をご案内します。
60年以上地元で愛される香川県「城山温泉」
常連客が絶えない城山温泉の番台
香川県坂出市、緑が広がる「城山(きやま)」の山裾にあり、60年以上もの歴史をもつ老舗の「城山温泉」。常連客も多く、番台やレストランでもお客さんとスタッフが楽しく話している様子は、昔から地元住民に愛されている証拠です。
城山温泉昔ばなし
長い歴史を感じられるのは、その様子からだけではありません。城山温泉には、先代から受け継がれている昔ばなしが残っています。ずっと昔、「鬼山」と書いて「きやま」と呼ばれていた頃の物語など、館内には3つの昔ばなしを掲示。訪れた際にはぜひ読んでみてください。
瀬戸内海と瀬戸大橋を一望!城山温泉展望風呂で旅の疲れを癒そう
赤い暖簾が女風呂、青い暖簾が男風呂
さて、そんな城山温泉の魅力のひとつである、温泉から紹介していきます。特徴は、入浴しながら浴室から瀬戸内海と瀬戸大橋を一望できる展望風呂があること。「こいし湯」「いとし湯」という2つのお風呂は、日替わりで男女入れ替え制となっています。
「こいし湯」からの絶景(写真提供:城山温泉)
「こいし湯」では、右手には五色台の山々が見え、正面遥か先に瀬戸内海が望めます。左手には瀬戸大橋を望めるという贅沢な景観。
「いとし湯」でも高台にあるこの温泉ならではの、大パノラマを堪能できます。筆者が訪れた日は残念ながら雨で霧がかっていたのですが、その光景もまた幻想的で素敵でした。加水をしていないアルカリ性の療養泉を堪能しながら、美しい情景に浸ってみてください。
お風呂では、お客さん同士が「こんにちは」「いらっしゃい」と挨拶しあう場面も見られ、その和やかな空間にほっこりしました。
江戸時代から続く日本の娯楽・大衆演劇とは
温泉を楽しんだあとは、城山温泉の名物「大衆演劇」。
こちらで観ることができる大衆演劇とは、古くから続く、一般大衆を観客とした庶民的な娯楽劇です。江戸時代に、江戸の芝居小屋で演じることを許されたものが「大芝居」、寺や神社の境内で演じられたものが「小芝居」、江戸・京都・大阪以外で全国を回るものを「旅芝居」と呼んでいました。今日の「歌舞伎」はこの「大芝居」をルーツとしています。
初心者でも楽しめる大衆演劇
足を伸ばしてくつろげる芝居小屋
現在では「大衆演劇」というと、全国各地を転々と巡業する旅芝居を指します。歌舞伎よりも観賞料金がリーズナブルで、地方の温泉やホテル・健康ランドなどの舞台で気軽にお目にかかれます。
ファンからのプレゼント・役者名の入ったタペストリー
劇団に属する役者のほとんどは、各地を巡業する忙しさからテレビなどのメディアには出演しませんが、その演技はピカイチ。全国には、100~200程度もの劇団があります。
きらびやかな衣装も楽しい舞踊ショー
劇場での公演は、人情劇や喜劇を演じる「お芝居」と、演歌や流行りの歌謡曲に合わせて歌って踊る「歌謡・舞踏ショー」を組み合わせて行われます。
城山温泉大衆演劇の魅力とは?公演の様子をレポート
城山温泉の大衆演劇は、「ミニショー・お芝居・歌と踊りのグランドショー」の3部構成。どれも見応えたっぷりです!あわせて3時間弱の公演ですが、各部の間には休憩時間が設けられています。午前に1部の上演があり、お昼休憩を挟んで午後に2部・3部を上演。
午前中にお風呂を済ませて大衆演劇を楽しむのもよし、大衆演劇を見た最後にお風呂に入るのもよし。自分のスタイルで、温泉と大衆演劇を存分に楽しみましょう!
フラワーレイは座席を確保する目印にも
番台で観劇と温泉がセットになった入館券を購入すると、芝居小屋への入場券代わりとなっているフラワーレイが渡されます。帰りは忘れずにレイを返却しましょう。
大衆演劇全体を見渡せる2階席
芝居小屋入口に劇団ポスターが掲示されている
城山温泉では1カ月ごとに劇団が入れ替わるので、どの劇団が来ているかは、ホームページからチェックできます。この日の劇団は「劇団 京弥(きょうや)」でした。
1部:役者紹介を兼ねたミニショー(11:30~12:00)
30分間のミニショーから公演はスタート。劇場を盛り上げる賑やかな役者紹介のアナウンスと共に役者さんが登場し、音楽に合わせて舞踊を披露します。
若座長・白富士龍太(しらふじりゅうた)
キリリとした目元がかっこいい若座長・白富士龍太さん。
花形・白富士聖人(しらふじきよと)
若手の一番人気である花形をつとめるのは、白富士聖人さん。花形といえど全く気取った雰囲気はなく、踊りの後、元気いっぱいに「ありがとうございました!」という姿に親しみやすさを感じました。
白富士そうま
こちらは、若手の白富士そうまさん。ショーの一番初めは違う衣装で登場していたので、もう着替えたの!?と驚きましたが、後で座長に聞いたところ、皆さん大体30秒~1分程度で早着替えできるそうです。
劇団京弥座長・白富士一馬(しらふじかずま)
最後に登場するのは、一座をまとめる三代目座長・白富士一馬さん。5歳で初めて舞台に上がり、21歳の時に座長を襲名しました。
このミニショーでは、踊りを楽しむのと同時に、一座にどんな役者さんがいるのかも分かります。ここでお気に入りの役者さんを見つけるのも、楽しみのひとつです。
お昼の休憩タイムはレストランで食事を
お客さんで賑わうレストラン
1部と2部の間には約1時間のお昼休憩があるので、多くの観覧客はここで、館内のレストランで昼食をとります。
「味噌カツ定食(1,250円)」
レストランの一番人気は、国産豚を使用した「味噌カツ定食」。サクサクの衣に、柔らかくジューシーな豚肉と甘辛い味噌ソースが絶品です。他にも、柔らかい国産和牛を使った「すきやき御膳」もおすすめ。月替り定食や単品メニューもあります。
2部:お芝居(13:15~14:25)
お芝居の題目は日替わり。毎日来ても違うお話を楽しめます。題目は江戸時代を舞台にしたものが基本ですが、分かりやすいストーリー展開のため、演劇初心者でも問題なく楽しめます。この日の題目は「板前兄弟」という喜劇でした。
「板前兄弟」の一場面
ストーリーを簡単に説明すると、ならず者に絡まれていた良家のお嬢さんを、板前兄弟の弟が助けます。しかし、お付きの人が板前の兄の方が助けたと勘違いし、兄とお嬢さんとの縁談話が進みます。真実を知った兄は遠慮する弟のために一芝居打ち、最終的には弟とお嬢さんがうまくまとまる、というお話。
観客からチョコレートを貰う聖人さん
最初にならず者の親分として登場したのは、醜男のメイクをした花形の聖人さん!大衆演劇初心者の私は、劇団の役者さんはきれいな格好しかしないと思っていたため、びっくり。
頼りない兄役の一馬さん
板前の兄として登場したのは、またしても冴えないメイクをした座長・一馬さん。先程のミニショーの美しさとの違いに、メイクや動きでこんなに雰囲気が変わるものかと驚きました。
「こんな大入りの日に何でこんなメイクで」という一馬さんに、ほかの役者が「配役を決めたのはアンタでしょ!」とツッコミを入れるなど、テンポの良いアドリブが会場を湧かせます。
安定の男前・弟役の龍太さん
笑いが絶えない場内
終始笑いの渦に包まれる、本当に楽しい喜劇でした。役者同士で「もう時間がないから終わりなさい!」「今日はノッてるからもう1回!」など、演者のさじ加減でお芝居が進行されていく様子も、面白かったです。
筆者は別日に同劇団の人情劇も観たのですが、この日は涙を誘うシーンもあり、客席ではすすり泣く声も。役者さんの演技力の高さには感服です。
口上挨拶
人気グッズは売り切れることも
口上挨拶とは、主に座長がお客さんの来場を感謝する挨拶。ここではグッズ販売があり、役者さんへのご祝儀となるレイも販売されます。
3部:歌と踊りのグランドショー(14:40~15:40)
女性に扮した龍太さん
休憩の後は、最後の舞踊ショー。グランドショーの初番は、男性の役者さんが女性に扮して踊ります。男性が演じていると分かっていても、指の先まで美しいその所作は、女性である筆者でも艶めかしいと思うほど。
子どもも出演
座長の息子である、現在6歳の白富士だいき君も出演していました。小さな体で、広い舞台を駆け巡る様子には、観客もつい顔がほころびます。
レイの多さは人気役者の証
ショーの途中、観客は気に入った役者さんに、レイや「お花」と呼ばれるご祝儀を渡すことも。カラフルなレイや花飾りが、役者さんのご祝儀となります。
大入りの日は全員で三本締め
この日は多くのお客さんが来場した大入りだったため、最後に全員で三本締めをしました。その後、客席にアメなどが入った粗品が投げられます。大衆演劇の定番の催しのようです。
幕が下りた後、役者さん達は劇場を出るお客さんのお見送りもしてくれます。握手をしたり、役者さんにお願いして一緒に写真を撮ったり。最後までおもてなしの心が光る対応でした!
大衆演劇の魅力と楽しみ方を座長に聞く
歌舞伎に比べ、まだまだ若い人や海外の人にはなじみのない大衆演劇。劇団京弥の三代目座長に、演劇初心者や、訪日観光客のために大衆演劇の楽しみ方について話をうかがいました。
三代目座長・白富士一馬さんにインタビュー
「まずは、舞踊ショーを観ていただきたいです。もちろんお芝居もいいのですが、海外の方となるとやはり言葉の壁が大きいので。大衆演劇の舞踊ショーは、歌舞伎のミュージカルバージョンのようなもので、マゲは付けているけど服は洋装で踊ったり、音楽も演歌だけではなく流行りの曲だったり、演劇を観たことがない方でも楽しめます。言葉が分からない海外の方も、舞踊だけではなく、衣装や音楽でも楽しめると思います」
和洋折衷でユニークな衣装
「大衆演劇はお客さんの、楽しかった!という声が毎日直接聞けるんです。今日は落ち込むことがあったけれど、これで明日からまた頑張れるとか、そんな話を聞けるとうれしいし、本当にやりがいを感じます」
役者さんとの距離が近いことも、大衆演劇の魅力のひとつでしょう。
大衆演劇を観る際の注意点
城山温泉の芝居小屋内での飲食は禁止されています。場内の写真撮影はOKですが、スマホでの通話は控えましょう。
城山温泉の大衆演劇と絶景天然温泉で元気になろう
初めて大衆演劇を観た筆者でしたが、インタビューの中で座長が話していたように、明日からまた頑張れる!という元気をもらえました。
城山温泉は、大衆演劇と天然温泉で心も体も元気になる、まさに一挙両得の温泉です。日帰り温泉だけでなく、宿泊施設も利用できるので、ぜひ時間にゆとりを持って城山温泉に訪れてみてはいかがでしょうか。
城山温泉のアクセス
車でのアクセス
瀬戸中央道・高松自動車道 坂出I.Cより約10分
高松自動車道 鳴門I.Cより約60分
高松空港より約30分
電車でのアクセス
JR坂出駅 車で約10分
JR鴨川駅 徒歩約10分
※JR坂出駅・鴨川駅より 定期無料巡回バスあり