「地獄」、仏教用語では「奈落」であり、生前の悪行により導かれる死後の世界と言われています。実際に犯罪を犯したり、悪行を行うと地獄に落ちるよ!そんなセリフを聞いたことがある人も多いはず。地獄と聞いてイメージがつきやすいものといえば、小説に出て来るような血の池、針山、火炙りなど。
しかし、地獄は実際にはどんな場所なのか?何をしたら地獄に落ちるのか?地獄で何をされるのか?詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。謎が多い地獄ですが、地獄の正体についてたっぷり解説します。
今回は前編として、死後に人間が向かう場所や地獄の法律、地獄に落ちる基準などを紹介していきます。
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地獄とは
地獄
何かと親しみのある地獄。地獄は生前の悪行により導かれる死後の世界と言われています。そんな地獄はどこでどのように生まれたのか紹介していきます。
地獄の語源
天国と地獄など、地獄は何かとセットで使われることが多い言葉。実は地獄という言葉は日本で生まれたものではありません。
地獄の語源は、仏教を信仰していたインドから来ました。サンスクリット語で「naraka(ナラカ)」と呼ばれていたものが音写され、中国に伝わり「奈落」に。その中国ではナラカは地下にある牢獄という意味があっため省略され地獄になりました。そして日本に地獄と奈落という言葉が伝わったとも言われています。
そのため、地獄の語源はnaraka(ナラカ)と言え、日本では奈落=地獄とも解釈されています。地獄の概念は、インドから中国、中国から日本と伝わってきたその過程で少し変わっています。
どうして地獄は地中に?
地獄の話で有名な小説、芥川龍之介の書いた「蜘蛛の糸」でもあるように、地獄は多くの作品や文献に地中にあると表記されています。
日本に限らず、地中は太陽の光が届かない、暗闇の場所。そんな地底には冥界や地獄が存在すると連想されることが多かったようです。実際に海外では「イナンナの冥界下り」というメソポタミア神話で地中に冥界があると表記されています。
また仏教の考えをベースにしている日本の地獄、人間の死後に行く先の一つとして存在する地獄は、行き先として最も底辺であるため地中ということも考えられます。
人間は死んだらどこに行く?
天国と地獄
人間は死後、いったいどこへ行くのでしょうか。天国?地獄?そんな風に分けられると考える人もいるかもしれません。しかし、人間は死後にどこかへ行く、というより生まれ変わるという認識の方が実は正しいのです。
仏教では、死後に生まれ変わることを「輪廻転生(りんねてんせい)」と言いますが、生前の善行により苦悩のある輪廻転生をしないことを「解脱(げだつ)」と言います。死後は輪廻転生するか、解脱し仏になるかの道に分かれます。
そして、人間は生前の行い、すなわち善行によって生まれ変わる場所は違うとされています。輪廻転生により行き先は6つの道に分かれているのです。これを「六道」と言い、この六道こそ人間が死んだ際に行く場所であり、この中の一つの道に地獄があるのです。
六道
六道から救い出してくれる六地蔵
六道は死んだ人間が生まれ変わる行き先のことで、以下に分けられています。
天道
天人が住む世界のことであり、人間界よりも良い場所とされています。通称天国。他の道よりも苦しみは少ないと言われますが、煩悩が無くなるわけでもなく、釈迦にあって悟りをひらくことが出来ないので解脱することはできません。
人間界
人間界は、今私たちが住んでいるこの世界のこと。つまり私たちは、死んだ者が解脱できず、生まれ変わった先なのです。人間界は煩悩や苦悩が多く苦しいですが、楽しいこともある世界です。
修羅道
修羅道は阿修羅の住む戦い続ける世界とされています。阿修羅というのは仏教では、本来は正義の神。しかしここでは魔神として扱われています。怒りや苦しみに苛まれながら、戦い続け、血を流し続けなければいけない世界です。
畜生道
これは牛馬のような畜生の世界を指します。ここでは使役されるだけであり、自らで仏の教えを得ることができない手も足も出ないような状態です。何も行うことができず使役されるということで救いがないとされています。
餓鬼道
餓鬼が住む世界となります。この餓鬼は腹が膨れた姿をしてはいますが、食べ物を食べようとしてもそれは途端に火へと姿を変えるのです。そのため、永遠に飢餓に苦しむ世界と言われています。
地獄道
ここは生前に行った悪行の罪を償わさせるための場所です。地獄は最も行いが悪かった者が行く果てのない世界であり、私たちが一般的に想像する地獄はここに相等し、罪によって違った地獄へと落とされてしまうのです。一番苦しみが大きいとされています。
地獄の法律
ここまで地獄がどんなところか紹介しましたが、地獄に落ちてしまう罪とは具体的にどんなことなのでしょうか。また、どんな風に地獄判定を出されてしまうのでしょうか。
実は地獄に落ちると一言で言っても、すぐに落ちるわけではありません。地獄に落ちるためには多くの審査が入る事になります。ここからは、地獄に落ちる条件や落ちるまでの過程、正しい地獄の巡り方を紹介していきます。
五戒を避けることは不可能?
地獄の法律「五戒」
まず、地獄では現世の法に反する悪行ではなく、仏教の5つの戒律をベースに審査されることになります。その5つの戒律、「五戒」というのは
■不殺生戒(ふせっしょうかい):あらゆる生き物を殺さない
■不偸盗戒(ふちゅうとうかい):窃盗、詐欺や不正行為を行わない
■不邪淫戒(ふじゃいんかい) :パートナー以外との淫らな行為をしない、享楽に溺れない
■不妄語戒(ふもうごかい) :嘘をつかない、悪意のある発言、過激な発言をしない
■不飲酒戒(ふおんじゅかい) :中毒性のあるもの、酒を摂取しない
というものを基準としています。これを見てわかるように、現世に生きるほとんどの人が地獄に落ちる可能性があるのです。
肉やお酒でも地獄行きとなる
特に不殺生戒は、あらゆる生き物という事なので、鳥や牛といった生き物の肉を食べることも禁じられています。この大抵の人を地獄行きにさせるような五戒を避けることはほとんど不可能。地獄行きを避けるためには多くの善行をしなければなりません。
閻魔に会えるのは35日後?
地獄の裁判官、十王
地獄に落ちるか落ちないか、というのは現世の裁判のように審査されるのです。審査をされてから正式に地獄行きが通達されるまでかなりの時間を有します。それもなんと49日間!実はこの間に、書類審査から現世の善行診断、軽い実刑まで行われるのです。
そしてその裁判を行うのが十王と呼ばれる10人の裁判官たち。その中にかの有名な閻魔大王がいるのです。
書類審査の秦広王
地獄の秦広王
死後から初めの7日目、まず最初に裁判を行うのは秦広王(しんこうおう)。獄録というものによって書類審査が行われます。ここでは生前に行ったことを全て見られてしまうため、嘘も通じません。
罪の重さを測る初江王
死後14日目、次は初江王(しょこうおう)により罪の重さを測られます。ここの裁判所には死者が必ず通ると言われる「三途の川」が実は地獄にあるのです。三途の川を渡れば天界かと思いきや、そうではありません。
ここには奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんえおう)という鬼がおり、通る際に亡者の服を剥ぎ取ります。その服を衣領樹(えりょうじゅ)という木の枝にかけ、初江王の裁きの前に罪の重さを測るのです。罪が軽いものは枝が曲がらず、罪が重い者ほど枝がしなると言われています。
三途の川の渡り方はあなた次第
地獄に見られる三途川
三途の川の「三途」、というのは川の渡り方が3つあることから由来されています。衣領樹により、罪が一番軽いものは橋を、罪がまだ軽いものは浅瀬を、そして罪が重い者は深い激流を。地獄にある三途の川の激流には、大蛇が泳いでると言われており、渡る途中で食べられることも。
地獄行き判決
死後21日目、宋帝王(そうていおう)が現世で犯した邪淫(じゃいん)を、死後28日目には五官王(ごかんおう)が妄語を審査します。五官王は精巧な天秤を持っており片側に亡者をのせることで、その傾きにより罪の重さは決まり、行く道が決まるのです。
いわゆるここが地獄行きを決定する、最初に判決を出す場所になります。
地方裁判所の役を担う閻魔王
地獄の閻魔大王
地獄行きが決定しても、一度で全てが決まるわけではありません。地獄も現世の裁判制度と似ており、その真偽を確かめます。
死後35日目、閻魔大王によって亡者は裁かれます。
閻魔大王が持っている鏡は、亡者を立たせると、亡者の生前の悪行を映し出すことができる特別なものです。閻魔大王はこの悪行を見て、どこの地獄に行くか判決を下します。ちなみにここで嘘をつけば、閻魔大王に舌を抜かれる事に。
また、この裁判日に縁者や親族が追善供養を行っていると、その徳を認められ人間界や天界に送られることも。
慈悲ある変成王?
死後42日目、変成王(へんじょうおう)の元に行くために、大岩の流れる川を渡らされます。ここでは、大岩に身体を砕かれては蘇りまた砕かれと繰り返す事により、やっとの思いで岸に上がることができます。
そして変成王はここにきて初めて、亡者の言い分を聞いてくれる慈悲深い王になります。そんな王の前で、亡者はここまで与えられた罰で十分償えたのではないかと訴えるのです。すると変成王は三つの道を示し、自分が正しいと思うのなら、正しいと思う道を選んで進め、そうすれば正しい道へ行けると助言します。
これを進んでしまうと罠にハマることに。進めば更なる罰が与えられるのです。お前が本当に正しい人間なら自分を正しいと思うはずがない!と言うのが変成王の言い分。上げて落とされた亡者にはなかなかキツい仕打ちです。
この時に、黙って己の行為を恥じ、恐れ入り、罰を受け入れる人間だけが光が差し救われると言われています。そして、ここで亡者の生まれ変わりの場所の条件が決定されるのです。
最高裁判所の泰山王
49日目、最後に亡者は泰山王(たいざんおう)の元へ。ここでは最終判決がついに下されます。六つの道が示されており、それぞれ六道に繋がっています。ここで来世の生まれ変わる世界が決定する事に。
他にも平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんおう)がいますが、彼らは最終的に判決が決まらなかった際、つまり再審の際に登場します。
地獄は罪次第〜八熱地獄〜
血の池地獄
地獄といえば、血や炎で溢れた赤く熱い世界!そんなイメージがあるかもしれませんが、実は地獄は赤く熱いだけではありません。地獄は大きく分けて二種類あります。それは灼熱の地獄と極寒の地獄。
ここでは灼熱地獄、通称「八熱地獄」について紹介していきます。
八熱地獄は8つの地獄で構成されています。
八熱地獄
等活地獄
一番罪が軽く、地獄の中でも最も浅いところにあるのが等活地獄(とうかつじごく)。ここは殺生を行った者が落ちる場所と言われており、罪人同士で骨になるまで殺し合う地獄になっています。
黒縄地獄
黒縄地獄(こくじょうじごく)は殺生や窃盗を犯した者が入れられる地獄。等活地獄の一つ下の層になりますが、一層下がるだけで苦しみは10倍になっていくと言われています。また、罪が重なるにつれ下がって行きます。
ここは熱した鉄板で焼かれては切り裂かれ、大釜で煮こまれる地獄。この苦しみを1,000年は続けなければなりません。
衆合地獄
衆合地獄(しゅうごうじごく)は簡単にいえば浮気や不倫をしたような人たちが落ちる地獄。山上に美女がおり、あまりの美しさに感動し近付き登りきった瞬間に、そこは針山に姿を変え、全身を引き裂くという針山地獄が有名です。
叫喚地獄
叫喚地獄(きょうかんじごく)は飲酒をした罪人が入れられる地獄。ここでは恐ろしい姿をした鬼たちに追い回された挙句、大鍋でしっかりと煮込まれ、鬼たちに骨の髄まで食べられてしまいます。また火炙りもあるので、一般的に認知されている地獄は、この叫喚地獄になります。
大叫喚地獄
大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)は妄言をしたものが落とされる地獄になります。熱した鋭い針を使われ、目や口、舌を幾度も刺されたり抜かれたりする地獄になり、なんとここは8,000年も続くそう。
焦熱地獄
焦熱地獄(しょうねつじごく)は邪言、つまり仏教の教えに反する考えをする、または実践する事により落とされる地獄になります。
ここでは串刺しにされたまま鉄板で焼かれる、鼻や口や手足をバラバラに分解され焼かれるといった罰が与えられます。この焦熱地獄は今までの地獄の炎が、雪のように感じてしまうほど。
大焦熱地獄
大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)。犯持戒人(尼僧・童女などへの強姦)をした者が落ちる地獄であり、ここでは今まででとは比較にならないほどの広範囲かつ超高温の炎で炙られる事に。さらに肌を剥ぎ取られ体の中に溶かした鉄を注がれるとも言われています。
阿鼻地獄
ここは八熱地獄の中で最も最下層にあり、最も罪深い者が落ちる地獄。その地層の深さから、真っ逆さまに落ちたとしても辿り着くまで2,000年かかってしまうという恐ろしさ。
釜茹でや炙り焼き、皮剥ぎや串刺しなど今までの地獄の罰を絶え間なく受けることはもちろん、大蛇や毒や火を吐く虫に襲われ、鉄の山を登らなければならない、まさに罰のオンパレード。
地獄のような状態を表した阿鼻叫喚と言われる言葉は、阿鼻地獄からきています。
両親や聖者を殺害することで落とされる地獄になります。
地獄は無限大
今回は地獄について紹介しましたが、地獄の種類や歴史はこれだけではありません。地獄は今まで紹介してきたよりも、更に細かく分かれ、現世のどんな罪にも合わせられるほどさまざまな種類があります。
地獄は鬼や仏教などとの関係も深く、興味深さはまさに地獄級。
この記事では紹介しきれなかった地獄の歴史や、地獄の種類など後編の記事で紹介していきます。
後編の記事はこちら↓
【地獄】ってどんなところ?実は知らない死後の世界[後編]