日本三大霊場のひとつ「恐山(おそれざん)」は、青森県の北側、2つ飛び出ている半島のうち、右側の半島=下北半島の中央部にあります。
古くから死者の霊魂が集まる場所とされ、この世とあの世をつなぐ地と言われています。今も亡くした大切な人を偲んだり、あるいは再び言葉を交わすために訪れる人がいます。
ここでは恐山がどんな場所なのかを紹介していきます。
※この記事に掲載の情報は2018年11月時点のものです。諸事情により変更となる場合があるため、お出かけの際はご自身で最新の情報をご確認ください
※2024年8月、一部情報を更新しました
恐山はどんな場所?
恐山・賽の河原(写真:青森県観光情報サイト Amazing AOMORIより)
巨大なカルデラとそれを囲む峰々の総称
「恐山」はひとつの山の名前ではありません。複数の山々とその山々に囲まれた窪地をまとめて「恐山」と呼んでいます。
恐山の山々は、火山活動によって生まれたもの。窪地の部分もやはり火山活動で形成されたもので、カルデラと呼ばれます。
恐山の一帯で最後に噴火があったのは1万年以上前と言われていますが、現在でも噴気や温泉が出ていたりと、周辺では火山活動が観測されています。
上空から見た恐山の窪地部分
「人は死ねば恐山に行く」
恐山は滋賀の比叡山(ひえいざん)、和歌山の高野山(こうやさん)と並び、「日本三大霊場」に数えられています(諸説あり)。この中でも恐山は、死後の世界や地獄との結びつきが強い山として知られています。
火山地帯ならではゴツゴツとした荒々しい岩肌は地獄に例えられ、白い砂浜が広がるカルデラ中央の湖「宇曽利湖(うそりこ)」周辺は極楽に例えられました。
恐山・宇曽利湖湖畔の「極楽浜」(写真:青森県観光情報サイト Amazing AOMORIより)
地元では古くから「人は死ねば恐山に行く」という言い伝えがあります。
今でも死者の霊魂が集まる場所と信じられ、毎年夏の「恐山大祭」では、死者の言葉を伝える巫女「イタコ」のもとに、大勢の人が訪れます。イタコは死者の霊を降ろし、霊に代わって依頼者に言葉を伝えますがこれは「口寄せ」と呼ばれています。
料金・開山期間&時間
恐山はいつでも自由に立ち入ることができる場所、というわけではありません。入山できる期間・時間間が定められており、また入山料を支払う必要があります。
●開山期間:毎年5月1日〜10月31日
●開山時間:6:00〜18:00
●入山料:
大人……700円
小中学生……200円
●関連サイト:霊場恐山|むつ市観光協会 青森県下北半島
恐山の巡り方|ルートと各所の言い伝え
1周3kmほどの参拝コース
恐山には1周3kmほどのコースがあり、恐山菩提寺の「山門」「地蔵殿」、荒々しい岩場が続く「地獄」、透き通る水が美しい「極楽浜」などを巡ることができます。
所要時間は40分ほど。ゆっくり巡ればもう少しかかります。
このようにぐるりと回れるようになっています。三途の川と太鼓橋はこのコース外にあるので、駐車場から歩いていくか、来る時または帰る時に立ち寄るといいでしょう
恐山菩提寺|縁起由来
恐山菩提寺の山門(写真:青森県観光情報サイト Amazing AOMORIより)
恐山菩提寺は、天台宗の僧侶である慈覚大師円仁によって862年(貞観4年)に創建されました。全国各地で寺院の創建に携わってきた円仁は、ある日「北の地に霊場を開山せよ」との夢を見ます(一羽の鵜に導かれたという説もあり)。
円仁は北へ北へと歩き続け、山形県の立石寺、そして恐山に菩提寺を創建しました。
恐山の菩提寺は1457年に一度使われなくなりますが、1530年に再び開山し、それより恐山を守り続けています。
地獄(無間地獄/血の池地獄ほか)
無間地獄
恐山には罪を犯した人が罪を受ける場所「地獄」になぞらえた136ものスポットがあります。「無間(むげん)地獄」「血の池地獄」「塩屋地獄」「重罪地獄」などなど、参拝コースの中のいたる場所に〝地獄の看板〟を見つけることができます。
「無間地獄」は、仏教世界の8つの地獄のうち、最も過酷、地獄の中の地獄とされている地獄。絶えず襲いかかる試練や苦痛は、ほかの7つの地獄が可愛く見えるほど。恐山の無間地獄は、そんな地獄のように地形がゆがんでいることからこの名前がつきました。
血の池地獄
「血の池地獄」は、池の底にある苔が変色して赤く見える池(透明や緑に見えることもあります)。過酷な労働で亡くなった女性を祀る場所です。
賽の河原(さいのかわら)
賽の河原。ここに積まれている石や風車は、亡くなった幼い子どもを弔うためのもの
仏教世界でいう「賽の河原」とは、三途の川のほとりにあり、生まれる前や生まれたばかりに亡くなった幼い子どもが石を積んで塔を作る場所。しかし、子どもが作った石の塔は何度も何度も鬼によって崩されてしまい、その度に子どもは塔を作り直さなければなりません。
子どもがこのような苦しみを受ける理由は、親に先立って亡くなってしまったから。親を悲しませた罪に対する罰ということです。それでも亡くなった子どもの魂は、地蔵菩薩によって供養される、という伝説が残っています。
極楽浜・東日本大震災供養塔
晴れた日の極楽浜
東日本大震災の後に極楽浜に設置された「東日本大震災供養塔」。背面にある無数の手形は、自分に合う手形を探し、重ね合わせることで亡くなった人たちを思うためのもの(写真:青森県観光情報サイト Amazing AOMORIより)
数々の地獄を巡った後、見えてくるのが「極楽浜」です。その美しくもどこかもの悲しいような景観をよく表した名前です。宇曽利湖の透き通った水は、ついつい飛び込んでしまいたくなりますが、宇曽利湖の水は強い酸性なのでご注意を。この水質のために、宇曽利湖には「ウグイ」という魚一種類しか生息していません。
4つの温泉
恐山温泉(写真:青森県観光情報サイト Amazing AOMORIより)
恐山は霊場として知られていますが、実は恐山温泉と呼ばれる秘湯も存在。境内には4つの湯小屋があり、「冷抜の湯」「古滝の湯」「薬師の湯」は山門近くに、「花染の湯」は宿坊の裏手にあります。元々山岳信仰のために、恐山に入山する人が体を清める意味で使われていた温泉でしたが、現在は誰でも入ることができます。温泉施設の営業情報はこちら。
恐山の冷抜の湯
三途の川と太鼓橋
三途の川と太鼓橋
死者がこの世(此岸)からあの世(彼岸)へ行く途中に渡るといわれる「三途の川」。先ほど紹介した宇曽利湖から流れる小川が、まるで三途の川のようだといわれたことがきっかけで、この名前で呼ばれるようになりました。朱色の太鼓橋が架かっており、これを渡った先に恐山菩提寺があります。
伝説によれば、罪人には簡単に渡らせないように釘だらけの橋に見えたそう。
恐山菩提寺からは少し離れていますが、歩いて5分ほどで行くことができます。
恐山冷水(長寿の水)
長寿の水と呼ばれる「恐山冷水」
恐山には天然の泉が湧き出ている場所があります。湧き出た水は長寿の水「恐山冷水」と呼ばれており、1杯飲むと10年、2 杯飲むと20年、そして3杯目を飲むと死ぬまで若返り続けるといわれています。また、この水は周辺にいる死者の霊や魂も飲んでいるのだとか。
恐山菩提寺からは離れた場所にあり、車でアクセスする必要があります。
イタコの口寄せを聴きたければ
死者の霊魂を降ろし、死者の言葉を伝える巫女を「イタコ」と呼びますが、イタコさんはいつでも恐山にいるわけではありません。現在は、夏の大祭と秋詣りのときに、恐山菩提寺の境内にやってきます。
「イタコの口寄せ」は予約ができるわけではないので、期間中の土日は行列必至です。長時間待つ準備を整えて行くか、平日に訪れるのがおすすめです。
7月『恐山大祭』
恐山大祭は菩提寺最大のイベントで、死者を弔うための厳かな祭りです。死者の供養と、イタコの口寄せを聞きに全国各地からから多くの参拝者が訪れます。この期間には日頃行われている法要に加え、特別法要もなされます。大祭のメインとなるのが「山主上山式(さんしゅじょうざんしき)」。先ほど紹介した太鼓橋から菩提寺の総門までを僧侶や山主を乗せた籠が練り歩く姿は圧巻です。
10月『恐山秋詣り』
7月に行われる恐山大祭の秋バージョンです。死者の弔いに加え、収穫の秋に向けた法要も行われます。
恐山へのアクセス
電車&バスで
JR[下北駅]から下北交通・恐山線のバスに乗車し約45分、終点[恐山バス停]で下車
●下北交通のバス時刻表:
下北交通株式会社の時刻表および運賃表について|下北市
※「恐山線」をご確認ください
車で
①下北半島縦貫道路・吹越バイパス[横浜吹越IC]から車で約1時間
②JR[下北駅]から車で約40分
周辺情報
Text・Edit:編集部
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考:
霊場恐山|むつ市観光協会 青森県下北半島
恐山霊場|青森県観光情報サイト Amazing AOMORI
霊場恐山で地獄と極楽を歩く|青森県観光情報サイト Amazing AOMORI
恐山エリア|下北ジオパーク
恐山-下北半島の観光|下北ナビ
祈りの道しるべガイドマップ|曹洞宗東北管区教化センター
コトバンク
各種パンフレット ほか