日本は四季があるため一年中「雨」が降りますよね。雨の恵みがあるからこそ私たちの生活が成り立っているのですが、時には「今日雨降っているのか、嫌だなあ」なんて思うことも。
古くから日本の人々は農作による生活の中で、温度や空気から雨の違いを感じ取り敏感にならざるを得ませんでした。
そんな私たちの祖先は共に生きてきた雨に対して、日本情緒溢れるすてきな名前を付けて親しんできたのです。その数なんと400種類以上!
同じ降り方でも時期や時間帯、季節やその時の感情によってもさまざまな表現で、どの名前もしっかりと考えられたものばかりです。
今回はその一部を季節別に紹介します。
春に降る雨の名前
雪解雨(ゆきげあめ)
春の訪れを知らせる雪解雨
冬に積もった雪を溶かすように降る雨のことを「雪解雨」と言います。朝からシトシトと降り続ける雪解雨の音を聞くと、春一番を感じるのだとか。
雨が上がった頃、雪の下に隠れていた庭の新芽がぐんと膨らみ、春の訪れを知らせます。
菜種梅雨(なたねつゆ)
菜の花に雨がかかる菜種梅雨
菜種梅雨とは3月下旬から4月上旬にかけて曇りや雨が続き、まるで梅雨のようなぐずついた天気が続く事を指します。菜種梅雨は梅雨のように雨の時期が長引くことはなく、早ければ1日、長くても数日。
菜の花が咲く時期である3月下旬から4月上旬にかけて雨が降るため、この名前が付いたそうです。
春時雨(はるしぐれ)
桜に雨がかかる春時雨
時雨は各季節によく出てくる呼び方ですが、もともとは秋の末から冬の初め頃に降る、にわか雨のことを指します。これが2月4日の立春から桜が咲く頃までに降ると春時雨と呼ばれるように。
晴れていたかと思ったら急に雨が降ったり、また急に雨が止んだりと、降ってもすぐに止むような雨のことを春時雨と言います。
催花雨(さいかう)
花に雨がかかる催花雨
春に、桜を始めいろいろな花が咲くのを促す雨ということで「催花雨」と名前が付いたのだそう。他にも「養花雨(ようかう)」「育花雨(いくかう)」と言われています。
梅雨の時期に降る雨の名前
入梅(にゅうばい)
梅雨の頃に降る憂鬱な雨
日本の四季で、一番雨が長く降る梅雨の時期に入ることを「入梅」と言います。農作業をする上でとても重要な時期のため、雑節(ざっせつ/季節の移り変りをより適確に掴むために設けられた特別な暦日の事)の一つとなりました。
日本には二十四節気(にじゅうしせっき/太陽年を24分割にし、その分割点を含む日に季節を表す名称を付けたもの)や五節句(ごせっく/1年間の5つの節句の事)など 、季節を表す名称があります。
これらは中国から伝わってきたものですが、雑節は日本の生活文化から生まれた独自の暦。昔、田植えの時期を決める上で梅雨の時期を知っておくことはとても大切なことであったため、入梅という言葉ができた事が語源だと言われています。
他にも梅雨に入ることを表す雨の呼び名で「栗花落(ついり・つゆり)」があります。栗の花が散る頃に咲く雨だから、という由来からこの名前が付けられました。同じ読み方で「堕栗花」とも。
卯の花腐し(うのはなくたし)
卯の花が咲く時期に降る雨
旧暦5月に長く降る雨、つまり梅雨のことを「五月雨」と言います。その五月雨の異名として「卯の花腐し」という名前があり、この時期に咲く「卯の花(ウツギの花のこと)」から来ているのだそう。
催花雨という言葉もあるように適度な雨は植物を育てるのにとても良いですが、梅雨の時期はあまりにも長く雨が続くため花が腐ってしまうほどである、ということからこの名前が付いたそうです。
男梅雨(おとこつゆ)・女梅雨(おんなつゆ)
ユニークな梅雨の名前
人間の男女と雨を重ねたとてもユニークな名前。雨が降る時はとても激しく降るが、止む時はカラッとスッキリ晴れる梅雨の事を「男梅雨」と言い、しとやかな女性を思わせるようなシトシトと雨が降る梅雨を「女梅雨」と言います。
遊び心のあるとても面白い名前ですね。
送り梅雨
梅雨の時期に降る激しい雨
「送り梅雨」とは梅雨を見送るという意味があり、梅雨が終わる寸前に降る大雨のことを指します。まるで最後の力を振り絞るかのように時には雷を響かせたり、嵐のような非常に激しい雨の降り方となることも。
この頃の前線は陸地の上で活動するため、大雨や集中豪雨が起こりやすくなりこのような降り方になるのだと言われています。
「早く梅雨の時期が終わって欲しい」、「送り出したい」という意味も込められているそうです。他にも「暴れ梅雨」と呼ばれることも。
戻り梅雨
梅雨が終わった頃にまた雨が降り出す戻り梅雨
梅雨が終わるとカラッとした夏の晴天が続きますが、太平洋高気圧の勢力が安定せず再び梅雨のような天気になる事を「戻り梅雨」や「返り梅雨」、「残り梅雨」と言います。
梅雨明けは地域によって異なりますが沖縄では6月下旬、その他地域では7月中旬〜下旬が多く、どの地域でも梅雨の期間は約40〜50日間あるのだそう。日本の梅雨は長いですね。
夏に降る雨の名前
虎が雨(とらがあめ)
虎が雨の名前の由来となった曽我兄弟の像
旧暦5月28日に降る雨の事を「虎が雨」と言い、他にも「虎の涙」「虎の涙雨」「曽我の雨」と呼ばれています。
現在ではあまり使われていない言葉ですが、江戸時代では5月28日には必ず雨が降ると全国各地で信じられていて、一般的に使われていた言葉でした。
この名前は鎌倉の武士である「曽我兄弟」が由来となっていて、そこにはいろいろな説が。
■曽我十郎(曽我兄弟の兄)の愛人である虎御前(とらごぜん)の2人が、5月28日に破局したという説。
■5月28日に曽我十郎が仇討ちを遂げるものの、討ち死にしてしまいそれを虎御前が悲しんで涙を流したという説。
■5月28日に曽我十郎が仇討ちをする際、その戦いを助けようと雨が降るよう天に祈ったという説。
このように諸説ありますが、いずれも曽我兄弟の仇討ちと虎御前が関係していることからこの名前になりました。
洗車雨(せんしゃう)
七夕の時期に降る雨のこと
「洗車雨」と聞くと洗車した後に降る嫌な雨のことや、まるで洗車してる時のように激しい雨の事を想像してしまいますよね。実は洗車雨とは七夕の前日、7月6日に降る雨のこと。
七夕は、織姫と彦星が1年に1度唯一会える日だとされています。その日のために彦星が織姫に会うために使う牛車があるのですが、それを7月6日に洗車することからこの名前が付いたとされています。
2人が再会する日を待ち侘びて、そのために洗車するというとてもロマンチックでかわいらしいお話です。
洒涙雨(さいるいう)
七夕の日に降る雨のこと
上で紹介した洗車雨が降る次の日、つまり7月7日の七夕に降る雨を「洒涙雨」と言い、これも諸説あります。
■織姫と彦星がようやく会えたのに、またすぐにお別れしなければならない。その時に流す涙。
■当日に雨が降ってしまったため、天の川が増水し2人が会えなかった時の悲しみの涙。
■再会を喜び2人で嬉し涙を流している。
など、どれもとても胸を打たれるもの。この時期は梅雨の後半に相当し、沖縄と北海道以外の地域ではかなりの確率でぐずついた天候です。
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喜雨(きう)
夏の終わりに降るきれいな響きの雨のこと
夏の日照りが続き、田んぼは干からび植物は枯れてしまいそうな時、やっと降る恵みの雨を「喜雨」と言います。日照りが続くと農作物に影響を及ぼしたり、水不足で生活が困難になることも。
そのため文字通り「喜びの雨」ということで喜雨と名付けられたのだそうです。昔は日照りが続きやっと雨が降った時は、仕事を休んで祝う習性があったのだとか。相当喜ばれたのですね。
御山洗(おやまあらい)
7月に降る雨
富士山が閉山するのが陰暦の7月26日頃、この時期に降る雨を「御山洗」と言います。7月1日〜7月10日の間で富士山の各ルートで山開きが行われ、その間は多くの人が登山をするのだそう。
その開山期間にたくさんの人が富士山に登り、その時汚れた霊山である富士山を洗い清めるということで降る雨が「御山洗」です。実際には9月10日頃まで夏山の開山期間となります。
秋に降る雨の名前
秋雨(あきさめ)
紅葉に秋雨がしっとりとかかっている
秋雨は夏から秋へ季節が変わる時に降る雨で、暑さを和らげる雨ということで「秋霖(しゅうりん)」とも呼ばれます。
夏の間活発となっていた太平洋高気圧が南へ下がり、大陸の冷たい高気圧が張り出すことによって前線が発達して秋雨前線に。
梅雨と同じく地域によって差がありますが、秋雨は9月初旬から10月頃にかけて降り続きます。梅雨は明けると夏が待っていますが、秋雨はどことなく寂しげな雰囲気です。
秋出水(あきでみず)
秋に雨が大量に降って洪水になっている
お盆を過ぎた頃の台風や集中豪雨で、河川の水が溢れ出し洪水になることを「秋出水」と言います。一般的にはあまり使われない言葉ですが、俳句の中で洪水や河川の氾濫を季語として使われるのだそう。
収穫を控えた田んぼ稲や農作物が、雨によってグチャグチャになり台無しになってしまう様子が詠まれています。
伊勢清めの雨(いせきよめのあめ)
雨が降っている伊勢神宮
旧暦9月17日に行われる宮中行事の「神嘗祭(かんなめさい)」の翌日に降り、祭祀(さいし)の後を清める雨と言われている「伊勢清めの雨」。
神嘗祭とは、その年の新しい穀物で作った御神酒(おみき)と神様に献上する御食事を伊勢神宮に奉納するというお祭りです。
また伊勢神宮に限らず、神社で降る雨は縁起が良いと言われていて、小雨が降ると神様が歓迎してくれているサインだという言い伝えも。
最も縁起が良いとされているタイミングは、参拝中だけ小雨が降り、参拝が終わると晴れる場合です。これは間違いなく神様から歓迎されていると考えて良いのだそう。
秋湿り(あきじめり)
秋に降る雨
秋の長雨で湿りがちになることを「秋湿り」と言います。この言葉も一般的に使われることはあまりないですが、秋出水のように俳句の季語として使われることが多いです。
冷雨(れいう)
寒くなり始めた秋の終わりに降る雨
「冷雨」とは秋の終わりに降る冷たい雨のこと。この冷雨が降るにつれて寒さが増し、季節が秋から冬へと移り変わる様子を感じられる言葉です。
秋の終わりとは暦の上で、仲秋(ちゅうしゅう/秋半ばの1ヶ月の事)の翌日(9月下旬)から立冬の前日のことを指し、冷雨が降ると紅葉などの木々も散り始めます。
またこちらも一般的に使われることはあまりなく、俳句の季語や11月頃に送る手紙の挨拶文などに使われることが多いです。
冬に降る雨の名前
山茶花梅雨(さざんかつゆ)
山茶花に雨がついている
12月上旬の山茶花(さざんか)が咲く時期、移動性高気圧が北へ偏り、前線が本州の南の海上に停滞してきます。この時降る、まるで梅雨のような雨が「山茶花梅雨」。
この山茶花梅雨を経て、秋から冬へと本格的に季節が変わります。この時期は寒暖差が大きく、「体調を崩しやすい季節」とも言われているのだそう。
四季の移り変わりには常に梅雨が付いてくるのですね。
氷雨(ひさめ)
冬の寒い季節に降る氷雨
「氷雨」とはとても寒い時に降る冷たい雨で、雪が混ざってみぞれになったり、雨が0℃に近く雨氷現象(うひょうげんしょう/過冷却状態の雨が樹木や電線の地表の物体に付着して凍結し、その物体が透明な氷で覆われる現象)が起きることも。
もともとは暖かい時期に降る「雹(ひょう)」や「あられ」を指していました。
また、直径が5mm未満でさまざまな形状の氷が降ってくることを「凍雨(とうう)」と言い、天気予報では雪として扱われます。
寒九の雨(かんくのあめ)
冬野菜のブロッコリーに雨がかかる
太平洋側の地域では、冬の間晴天が続く事が多く、この時期降る雨は冬野菜にとって恵みの雨です。この時期に降る雨の事を「寒九の雨」と言い、豊作の兆しとしてとても喜ばれました。
昔は、寒の入り(1月5日頃)から立春までの約1ヶ月間は冬本番の寒さで、農作物などの雑菌の繁殖が抑えられると考えられていたそう。
そのためこの時期に降る寒九の雨は、1年の中で1番水が澄んでいて薬にもなる程だという言い伝えがあります。
雨の日が好きになりそう!
今回は日本情緒溢れる雨の呼び名を季節別に紹介しました。昔の人が付けた雨の名前はとてもロマンチックで、しっかりと考えられたものばかり。
雨一つとってもこれだけの呼び名があると、「今降っている雨は◯◯だ」なんて考えたりして、雨の日が好きになりそうですね。
ぜひ、雨の呼び名を覚えてみてください!