1年の終わりが近づき、何かとソワソワしがちな時期にやってくるのが、大人も子どもも巻き込んだ一大イベント「クリスマス」。寒い空気の中、街にはイルミネーションが灯り、あちこちでクリスマスソングが流れ、「今年もこの時期がやってきた」と思う方も多いのではないでしょうか。
シャンシャンと鳴るベルの音やサンタさんからのプレゼント、恋人や家族との温かな時間など、さまざまなイメージが浮かんでくるクリスマスですが、その起源がパッと思い浮かぶ人は、意外と少ないのでは?
この記事ではクリスマスの由来や日本で広まった理由、世界のクリスマス事情を解説していきます。
クリスマスとは-キリストの誕生日ではなかった
クリスマスの本当の意味
ミサが行われているパリのノートルダム大聖堂
日本でのクリスマスといえば子どもにプレゼントを渡したり、恋人と過ごしたりというイメージですが、本来のクリスマスはどのようなイベントでしょうか。お察しの方もいるかと思いますが、クリスマスの本当の意味を探るヒントは語源にあります。
クリスマスを英語表記にすると「Christmas」。「Chirist」はキリストのこと、「mas」はミサ(礼拝)をそれぞれ意味します。つまり、キリストのミサと言う意味を持っており、ここでいうミサとは降誕祭のこと。降誕祭は「生誕を祝う祭り」のため、よく言われる「イエス=キリストの誕生日」という認識は間違いだということがわかります。
新約聖書にはイエス=キリストの誕生日は明記されておらず、文献によって諸説ありますが、3月や5月と言われています。
クリスマスの起源って?
知られざるクリスマスの起源とは
クリスマスの始まりは聖書に記述されておらず、正確な年代は不明。有力な説では2~4世紀の古代ローマ帝国時代が起源であるとされています。
その頃ローマ帝国の東に位置するペルシアからミトラ教という宗教が伝わってきました。ミトラ教は太陽を信仰しており、年に一度、冬至の時期に「光の祭り」と呼ばれる行事を行っていました。
すでに当時のローマ帝国では、冬至の頃にあたる12月25日には、農耕の儀式を行う習慣がありました。そこで2つの行事を合体させる形でキリストの降誕祭を制定。
キリストを光に例え、「光(太陽)の復活はキリストの復活」とすることで、宗教同士の対立を避けようとしたそう。結果として対立を回避するだけでなく、キリスト教を民衆に浸透させるきっかけとなりました。
クリスマス・イブのこと
クリスマス・イブといえば12月24日。特に日本では12月25日よりも重要な日であると捉えている人も多いのではないでしょうか。クリスマス・イブを共に過ごす恋人がいないことを「クリぼっち」と言うなど、恋人と過ごすことが日本では重要である、という風潮がまだまだありますよね。
そもそもイブとは「evening」を略した言い方で、夕方の4時過ぎから夜中の11時頃までを指す言葉。つまり、クリスマス・イブは「クリスマスの夜」という意味なんです。さまざまな影響を受けて使われ方が徐々に変化し、現在では「前日」という意味で定着しました。
なぜイブを祝うのか
クリスマスを祝う人々
世間が大きな盛り上がりを見せるクリスマス・イブですが、なぜ前日からお祭りムードが漂うのでしょうか。この習慣ができたのはキリスト教の暦と現在の暦で、1日のスタートのタイミングが違うことが原因だそう。
キリスト教には「教会暦」というものがあり、キリスト教の前身であるユダヤ教の暦を採用しています。その暦は、日没から1日が始まり、次の日没で1日が終わるというもの。
そのため、教会暦に則るとクリスマス当日は、私たちでいうところの12月24日夕方4時頃から始まる、ということになります。つまり、クリスマス・イブとは「クリスマスの前日」を祝っているわけではなく、「クリスマス当日にクリスマスの到来」を祝っている、ということだったのです。
日本のクリスマスの起源とは?
イルミネーションで輝く日本の街並み
日本はキリスト教を信仰する人が多い国ではありません。しかし、クリスマスはかなり以前から国民的なイベントとして楽しまれています。
日本のクリスマスは宗教的な意味合いが強くないことが特徴。家族や恋人と楽しく過ごす冬のイベントという印象の人が多いのではないでしょうか。
日本独自のクリスマス文化であるショートケーキ
クリスマスイブの夜にはフライドチキンやショートケーキが食卓に並びますが、これも日本独自のクリスマス文化。どちらも大手企業による販売戦略によって習慣化されたものと言われています。
そして「家族よりも恋人と過ごす」という価値観も日本独自のものです。海外ではクリスマスは家族で礼拝をしたり、ゆっくり過ごす日。バブル期のテレビドラマや、ヒットしたクリスマスソングの影響を受けてこのような価値観ができたそう。
どのようにして日本に入ってきたのか
日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの像
日本でも独自の文化を築きながら親しまれているクリスマス。古代ローマ帝国で生まれたこの習慣はどのようにして日本に入ってきたのでしょうか。
クリスマスを日本に持ち込んだのはかの有名な「フランシスコ・ザビエル」であると言われています。
1549年からイエズス会の宣教師として日本にキリスト教を布教したザビエルは1552年に山口で降誕祭を行ったそう。これが日本で初めてクリスマスが祝われた日とされています。
クリスマスが日本で人気になるまで
日本全国で開催されているクリスマスイベント
ザビエルが降誕祭を行って日本に伝わったクリスマス。その後徳川家康がキリスト教を禁教としたため、一度途絶えることとなってしまいます。
明治時代ごろに庶民の間にも普及し始めたといわれていますが、国民的なイベントとなるのは昭和に入ってからだったそうです。
大正天皇の崩御により、12月25日が祝日となった期間に一気に文化として定着しました。東京の喫茶店ではクリスマスのメニューを用意したり、店員がクリスマスの仮装をしていたとか。
サンタクロースって誰なの?
赤い服が特徴的なサンタクロース
サンタクロースはトナカイの引くソリに乗って子供達へプレゼントを配って回るという伝説の人物です。赤い服に白い髭が特徴的でクリスマスの夜になると煙突を通って良い子のもとへやってくると言われています。
日本ではサンタクロースがプレゼントを運んでくると子どもに教える家庭も多く、子どもの頃に「なんとかサンタクロースを見てやろう」と夜更かししていた人も多いはず。クリスマスとは切っても切れない、深い関係性を持っています。
サンタクロースの元ネタは?
サンタクロースのモデルとなった聖ニコラス
プレゼントをくれる優しいお爺さんというイメージで親しまれているサンタクロース。実は実在した人物がモデルとなっているんです。
その人物とは4世紀ごろ、現在のトルコに位置するミュラというところで司教をしていた「聖ニコラス」。彼は日頃から困っている人や貧しい人を助ける優しい人だったそう。
聖ニコラスはオランダ語で「ジンタークラース」と言い、それが訛って「サンタクロース」になったようです。
また彼は司教の儀式をする際、赤い服を身にまとっており、これがサンタクロースの服のモデルとなったと言われています。司教の赤い服は、自分の命をかけてでも他の人を助け、血を流しても人々のために尽くすという意味。
内面も外見も現在のサンタクロースそっくりの人物だったと言えるでしょう。
サンタクロースがプレゼントをくれる理由
トナカイの引くソリでプレゼントを運ぶサンタクロース
聖ニコラスは亡くなった後、聖人とされ、彼の命日である12月6日に聖ニコラス祭が行われるようになりました。そしてオランダやベルギーなどを中心に、この日に子供にプレゼントを送るように。
アメリカには18世紀ごろに移住したオランダ人をきっかけに伝わり、「クリスマスにはサンタクロースがプレゼントを贈る」という習慣になりました。
なぜ靴下を用意するの?
クリスマスプレゼントの場所といえば靴下の中
「プレゼントを入れるものとして靴下を用意する」。日本の家庭でもよく見る光景ですが、この習慣ができたのも聖ニコラスによる善行がきっかけ。
「あるとき、聖ニコラスの家の近くに3人の娘を持つ、没落してしまった貴族が住んでいました。暮らしは貧しく、大事な娘を売らなくてはならないほどでした。そのことを知った聖ニコラスは、その晩、煙突に金貨を投げ入れました。その金貨は暖炉のそばにちょうど干してあった靴下の中に入りました。そしてそのお金のおかげで娘は売られることなく、のちに結婚することができました。」
この聖ニコラスによる善行が広まったことからサンタクロースからのプレゼントを入れる靴下が用意されるようになったのだとか。
クリスマスの豆知識
クリスマスを彩る雪だるまとサンタクロースのおもちゃ
深い歴史を持ち、さまざまな文化が絡み合ったクリスマスには様々な逸話や豆知識が存在します。良い子にはプレゼントを運んでくるサンタクロースですが、悪い子には何を運んでくるのでしょうか。
ここでは明日から友人に話せる豆知識を紹介します。
なぜ赤と緑が象徴的な色なのか
サンタクロースの赤、クリスマスツリーの緑。この2色の組み合わせを見るだけでワクワクする人も多いのではないでしょうか。クリスマスを象徴する2色ですが、実はこれらにもちゃんとした宗教的な意味があるんです。
クリスマスカラーを象徴するセイヨウヒイラギ
赤と緑はキリストの受難(処刑)を象徴する植物である「ヒイラギ(セイヨウヒイラギ)」に因んでいると言われています。
真っ赤な実をつけ、緑色でギザギザした葉が特徴的なヒイラギ。実の色はキリストの血を、葉の色と形状はキリストが身につけていたイバラの冠を表しているとされています。
このことからキリスト教会をはじめ、教徒からは象徴的な植物として扱われ、クリスマスにも影響を与えたようです。
怖いクリスマス
クリスマスと言えば「うれしい」「楽しい」「ロマンティック」など、ポジティブな感情が連想されます。しかし、中にはクリスマスにまつわる怖い豆知識も。
悪い子へのプレゼント
悪い子を地獄へ引きずり込むと言われているクランプス
サンタクロースといえば良い子たちにプレゼントを配ってまわる、優しい笑顔の老人というイメージですが、悪い子には何をプレゼントするのでしょうか。
ヨーロッパのいくつかの国では、悪い子には「クランプス」と呼ばれる恐ろしい悪魔がやってくるといわれています。このクランプスは悪い子にひどいお仕置きをした上、地獄へ引きずり込むのだとか。
一部の地域では12月5日にはクランプスに仮装した男性が街を練り歩き、子供や女性を怖がらせます。一説ではなまはげの起源とも言われており、形を変えながら世界中で親しまれている悪魔です。
クリスマスツリーが意味するもの
クリスマスの象徴ともいえるクリスマスツリー
クリスマスの象徴ともいえるクリスマスツリー。街には巨大なツリーが設置され、ロマンティックな雰囲気を醸し出しています。そしてクリスマスツリーといえば「もみの木」で、海外では造木ではなく、本物のもみの木を購入し、飾りつける地域もあるそう。
エデンの園にもあったと言われているもみの木
そんなもみの木は生命力の象徴であり、旧約聖書にてアダムとイヴが近づくことを禁じられた「知恵の木」の象徴でもあります。
この知恵の木に近付いて実を食べてしまい、展開を追放されてしまったことで有名な神話ですが、この二人をそそのかした蛇は変身したサタンであったと言われています。
もしかしたらあなたの家のツリーにも悪魔が潜んでいるかも。
海外のクリスマス事情
今や世界中で祝われているクリスマス。長い時間をかけてさまざまな文化と溶け合うように定着してきました。同じイベントでも国によってどのように祝うかは千差万別。
ここでは各国の色がわかるような海外のクリスマス文化と日本のクリスマス文化について紹介します。
アメリカのクリスマス
ニューヨークを照らすクリスマスのイルミネーション
キリスト教徒が多いアメリカでは、家族で過ごすのが一般的。また、多文化・多民族社会でもあるため、街の中で「Merry Christmas」という文字は少なく、「Happy Holiday」を多く見かけるそうです。
クリスマスツリーは生のもみの木を用意する家庭も多く、「ツリーハンティング」というもみの木を切りに行く伝統があります。スーパーでも売られているため、気軽に手に入るようになっています。
多くのクリスマスプレゼント
アメリカではプレゼントは一つではなく、複数個もらいます。洋画でツリーの下にプレゼントの山が積まれている光景を見たことがあるかもしれません。実際に何個もプレゼントをもらう子は多く、子供にとっては夢のような時間になります。
また、プレゼントには「ギフトレシート」が同封されていることも多く、プレゼントを気に入らなかった場合、購入した店舗にて同額の商品や商品券に交換することができます。
日本では考えられないような割り切った考え方ですが、アメリカらしい合理的なプレゼントの渡し方と言えるのではないでしょうか。
アメリカでは一般的なジンジャーブレッドの家
また、クリスマスケーキを食べる習慣はあまりなく、代わりに食べるのはジンジャーブレッドと呼ばれる生姜入りのクッキー。スーパーなどではジンジャーブレッドで作るお菓子の家キットが販売され、家族で楽しく組み立てるのが文化の一部となっています。
イギリスのクリスマス
クリスマスに染まるロンドンの街並み
イギリスのクリスマスは家族で過ごすことが多く、帰省するのが一般的。12月24日は早い時間に交通機関がなくなり、街が静まり返ります。25日は店が完全に休業するため、日本のクリスマスとは対照的な雰囲気です。
それとは打って変わって26日は「ボクシングデー」と呼ばれる一年を通して最大のバーゲンセール。貧しい人のために、教会へ寄付されたプレゼントを開封する日だったことに因んでいるそうです。
熟成させればさせるほど美味しいと言われるクリスマスプディング
イギリスのクリスマスケーキといえば「クリスマスプディング」。ドライフルーツ、ナッツ、ラム酒や小麦粉などを混ぜ合わせて作るお酒の風味が強いケーキです。
作っている途中に、硬貨、指輪や指ぬきなどを入れておき、切り分けられた自分のプディングに何が入っているかで来年の運勢が決まるという運試しでも有名。硬貨は幸せ、指輪は結婚、指ぬきは独身でいることを表しているそうです。
ドイツのクリスマス
多くの人で賑わうニュルンベルクのクリスマス・マーケット
クリスマスシーズンのドイツといえば「クリスマス・マーケット」。ドイツは冬が厳しいため、日用品を売買することのできる最後の機会として設けられた市場が起源といわれている、クリスマス雑貨や食べ物の屋台をめぐる賑やかな市場です。
「世界一有名なニュルンベルク」「世界最大のシュトゥットガルト」「世界最古のドレスデン」は3大クリスマスマーケットと呼ばれ、多くの人が訪れます。
クリスマスには欠かせないシュトーレン
ドイツで有名なクリスマスのスイーツといえば「シュトーレン」。ドレスデン発祥のナッツが織り込まれた伝統的なお菓子です。11月末ごろから少しずつスライスして食べ、クリスマスを今か今かと待ちます。
フランスのクリスマス
多くの車が行き交うクリスマスのシャンゼリゼ通り
クリスマスには家族で豪華な食事を楽しむのがフランス流。テーブルにはフォアグラや生牡蠣などが並び、シャンパンを飲みながらゆっくりと過ごします。
普段は「日曜日は休む」というお店が多いですが、クリスマスシーズンは特別な飾り付けをし、賑やかに営業しています。
世界中で愛されるブッシュ・ド・ノエル
フランスのクリスマススイーツといえば「ブッシュ・ド・ノエル」。丸太の形をしたクリスマスケーキです。「ブッシュ」は丸太を意味しており、クリスマスの日に暖炉のそばに丸太を置く習慣が起源。
フランスだけでなく世界的に愛されているクリスマススイーツです。
フィンランドのクリスマス
本物に会えると言われているサンタクロース村
サンタクロース村があり、クリスマスのイメージが強いフィンランド。オーロラの観測シーズンであるクリスマスシーズンには多くの観光客が訪れます。
深い森に囲まれたサンタクロース村では幻想的な景色を堪能したり、サンタクロースやトナカイに会うことができます。
フィンランドでのクリスマス期間は24~26日。イヴにはサウナに入る習慣があり、大切なクリスマスを迎える前に心身を清めます。
クリスマスムード漂うヘルシンキの街
街はイルミネーションで彩られ、道ゆく人の目をひくショーウィンドウが有名。寒い空気の中多くの人がクリスマスマーケットを楽しんでいます。
ロシアのクリスマス
花火が打ち上がるクリスマスのモスクワ
ロシアはユリウス暦という暦を採用していた名残から、伝統的なクリスマスは1月7日とされています。そのため、12月25日から1月7日までクリスマスムードが続きます。
そんなロシアにはサンタクロースが存在していません。その代わりとなるのが「ジェッド・マロース」という老人です。「ジェッド」はおじいさん、「マロース」は厳しい寒さを意味します。
青いサンタのような見た目のジェッド・マロース
一見サンタのような見た目ですが服が青いこと、髭が非常に長いことが特徴。また、「スネグーラチカ」という孫娘を連れて歩きます。そしてトナカイのそりに乗るのではなく、雪の中を歩いて移動するなんともパワフルなおじいさんです。
ロシアにはクリスマスケーキに当たるものはありません。メインディッシュとなるのは「クチヤ」というおかゆのような食べ物です。
再生の象徴である小麦、永遠の象徴であるハチミツ、健康の象徴であるナッツ、多産の象徴であるケシの実を材料としており、クリスマスのご馳走としてよく食べられています。
オーストラリアのクリスマス
浜辺ではしゃぐ半ズボンのサンタクロース
南半球に位置するオーストラリアのクリスマスは一味違います。サンタクロースは半袖・半ズボンでサーフボードに乗って登場するのが一般的。
他の国々と同じように七面鳥を食べる家庭もあれば、海辺でBBQをする家庭も。そしてクリスマススイーツはイギリスの植民地だった名残からクリスマスプディングを食べるのが定番となっています。
真夏でもクリスマスカラーに染まるオーストラリア
季節が反対なことから楽しみ方のバリエーションは無限大。世界一自由なクリスマスと言っても過言ではないでしょう。
クリスマスをより特別な日に
今回はクリスマスの歴史や世界各国のクリスマス事情を紹介しました。キリスト教から生まれたクリスマスは世界中の人々にとって大切なイベントになりました。
日本ではロマンティックな日というイメージが強いイベントですが、世界各国のクリスマスを真似して、さらに特別な1日を過ごしてみてはいかがでしょうか。