吉備津神社の歴史
吉備津神社にある桃太郎伝説
吉備津神社境内の見どころ
吉備津神社の基本情報
吉備津神社の周辺情報
まとめ

日本人なら誰もが知っている日本昔ばなし「桃太郎」。岡山県岡山市にある「吉備津神社」は、その桃太郎伝説の元だといわれている温羅(うら)退治の舞台です。

また、吉備中山(きびのなかやま)という昔から崇拝される神の山にあるため、吉備津神社自体がパワースポットといわれています。

吉備津神社の本殿と拝殿は国宝に指定されており、日本で唯一の建築様式「吉備津造」を用いた凛々しくも堂々たる雰囲気を醸し出しています。ほかにも本殿から長くまっすぐに伸びる約360mの回廊は、映画『燃えよ剣』(原作:司馬遼太郎/監督・脚本:原田眞人/2021年公開)の劇中で土方歳三と近藤勇が練り歩く場面で使用されており、映画の聖地としても注目されています。

この記事では吉備津神社の歴史や見どころをご紹介していきます。

吉備津神社の歴史

日本で唯一の建築様式を誇る吉備津神社

日本で唯一の建築様式を誇る吉備津神社

吉備津神社は、仁徳天皇が吉備国に行幸された時に建立されたもので、当時の備前・備中・備後の一宮(いちのみや)として全国の人々から信仰されました。火事により一度は消失しましたが、1425年、室町幕府三代将軍・足利義満が、天皇の勅命で30年ほどの歳月を経て再建。

本殿と拝殿は、室町時代の建築様式に類似した特殊な構造で、建築学上は「比翼入母屋造(ひよくいりもやづくり)」と呼ばれますが、日本で唯一の様式であるということから「吉備津造」ともいわれています。義満が手がけて以来、解体修理もなく壮大な姿で現存しています。

吉備津神社にある桃太郎伝説

吉備津彦命がモデルとなった桃太郎

吉備津彦命がモデルとなった桃太郎

吉備津神社は古くから桃太郎伝説の舞台といわれています。神社の主祭神である吉備津彦命(きびつひこのみこと)は、古事記や日本書紀にも登場する皇族の一人。

崇神(すじん)天皇によって国土を平定するために選抜された4人の皇族将軍である四道将軍のひとりとして、吉備国で略奪などの野蛮な行いをしていた温羅(うら)一族を討伐するべく派遣されました。

吉備津彦命は温羅退治のために、現在の「吉備津神社」の場所に本陣を構えて成敗をしたとされています。私たちの知る「桃太郎」では、桃太郎が吉備津彦命、鬼が温羅と捉えることができます。

また桃太郎のお供といえば、犬・猿・雉(きじ)ですが、吉備津彦命の家来の中に、犬飼部犬飼健命(いぬかいべのいぬかいたけるのみこと)と、猿飼部楽々森彦命(さるかいべのささきもりひこのみこと)、鳥飼部留玉臣(とりかいべのとめたまおみ)の3名がいました。

ちなみに犬飼部犬飼健命は、日本の歴史的な出来事である五・一五事件で暗殺された犬養毅首相の先祖だといわれています。

吉備津神社の桃守り

吉備津神社の桃守り(写真提供 Instagram: 【星屑様】

そのため吉備津神社では桃太郎になぞらえたかわいらしいお守りや御朱印帳のバリエーション豊かで、参拝客からの注目を集めています。桃太郎や犬をモチーフにしたものまで、他の神社では目にかかれないような珍しいグッズはいまや吉備津神社の名物です。

中でも「桃守り」は、本来厄払いのお守りですが、縁結びのご利益を得られるのではないかと話題を集めています。

吉備津神社境内の見どころ

古い歴史とともに現在まで残っている吉備津神社。国宝である本殿と拝殿の他にも、重要文化財に指定されるような歴史的建造物が存在します。吉備中山という昔から崇拝されるパワースポットに位置しているので、境内を周るだけでご利益が得られるかもしれません。

本殿・拝殿

壮大なスケールを誇る吉備津神社本殿

壮大なスケールの吉備津神社本殿

本殿は京都府の八坂神社に次ぐ大きさで、島根県の出雲大社の約2倍以上を誇っています。本殿を目の前にすると、その大きさに圧倒されること間違いなし。少し離れなければ写真に収めることも難しいほどの巨大さです。

また「吉備津造」という日本で唯一の建築構造で、挿肘木(さしひじき)という組み木によって本殿の各部屋を支柱もなしに一軒でつくり、端的で美しく調和した建築を生み出しています。本殿の内部は、朱く(あかく)塗装されており、神社の鳥居や本殿のような仏教建築の影響も感じられます。

ここでお参りをすると、延命長寿、産業、安産育児のご利益を授かることができるといわれており、それらのご利益のあるお守りやお札が特に人気を博しています。

吉備津神社オリジナル桃太郎の御朱印帳

吉備津神社オリジナル桃太郎の御朱印帳(写真提供 Instagram: YA様

多くの神社では書き置きの御朱印を渡しますが、吉備津神社の御朱印は巫女さんによる手書きで、その場で書き納めてくれます。吉備津神社オリジナルの御朱印帳は桃太郎とお供たちのなんとも可愛らしいものになっています。

渋みのある拝殿とその奥に見える煌びやかな本殿

渋みのある拝殿とその奥に見える煌びやかな本殿

拝殿は本殿の手前にある御祈祷にも使われる建物で、お賽銭を入れて参拝する場所です。本殿の内部のような煌びやかな朱色とは対照的に、木そのものの色が印象的な落ち着いた雰囲気。

屋根はひのきの皮で覆う檜皮葺(ひわだぶき)を用いています。この伝統技術は2020年にユネスコ無形文化遺産に登録されており、京都御所や八坂神社などの上級建築に古くから使われています。

さらに、前面と側面に裳階(もこし)という瓦葺(かわらぶき)の屋根もついており、国内でも類を見ない独特の構造のため、国宝に選定されました。

回廊

どこまでも長く続くような吉備津神社の廻廊

どこまでも長く続くような吉備津神社の廻廊

拝殿の右手に位置する美しい回廊は約360mに及ぶ圧巻の長さで、岡山県の重要文化財に指定されています。木造建築で、天正元年(1573年)から約20年かけて造営された歴史的建造物。

年季の入った木の独特な色や香りが周囲の自然に溶け込み、まるで時代劇の世界に迷い込んだかのような雰囲気を楽しめます。また、回廊の柱と柱の間である一間(いっけん)ごとにその建立費用を地域住民である氏子から募ってできた珍しい建物。

氏子たちが氏神様のためにとまるで先が見えない無限回廊のように長く作り上げた回廊は、境内の代表的な景観になっています。

廻廊のそばで咲き誇る紫陽花

廻廊のそばで咲き誇る紫陽花

また回廊の周りは花の名所としても親しまれており、春は牡丹やサツキの花、夏は紫陽花が美しく咲き誇り、回廊を華やかに彩ります。また秋には紅葉やイチョウが赤や黄色に色づき、回廊の古風な雰囲気と見事に調和して感動的な風景に。四季折々に変化する回廊の周辺は息を呑むほどの絶景です。

北随身門と南随身門

吉備津神社の北参道に堂々構える北随身門

吉備津神社の北参道に堂々構える北随身門

吉備津神社の北随身門は、手水舎の右側にある北参道の中ほどに位置する大きな門。今から約470年前の室町時代後期に建立された入母屋造りの建物で、1913年に国の重要文化財に指定されました。

北随身門は白塗り壁と、室町時代の神社の定番である丹塗りの赤い木部が特徴的。北向きに建立された吉備津神社の正門として参拝客を出迎え、本殿に邪鬼を持ち込むのを防ぐために門の左右には随身(随神)が安置されています。

廻廊の途中に構える南随身門

回廊の途中に構える南随身門

また南隋身門は本殿から本宮や御釜殿へとつながる回廊の中間地点にある吉備津神社境内で最も古い建造物。今から約660年前に再建されたもので、明治時代には国の重要文化財に指定されています。

この門には吉備国の平定に活躍した神々が祀られており、賽銭箱が設置されているので南隋身門を通る際にお参りすると良いといわれています。

南隋身門は回廊の下り坂の途中に建立されているため、南随身門から見る回廊はなだらかに下に湾曲したもので最も美しく回廊を眺めることができるベストポジション。南随身門は視界を遮るものが何もない高い位置にあるため、隣接する宇賀神社の仏閣やその周りの池を見渡すことができます。どこまでも長く続くような回廊を撮影するには間違いなしの絶景スポットです。

鳴釜神事(御釜殿)

鳴釜神事が行われる御釜殿

鳴釜神事が行われる御釜殿

回廊の途中を右に曲がった先にあるのが「御釜殿」という素朴な雰囲気のある建物。ここで執り行われている神事を「鳴釜神事」といいます。お釜殿にある釜の下には鬼の首が埋まっていると言い伝えられており、湯を沸かしてその釜の音を聞く占い神事です。

かつては名軍師・黒田官兵衛もここで吉凶を占ったと書簡に残されています。また江戸時代には、日本で一番怖いといわれる怪談集・雨月物語のなかで、『吉備津の釜』として一遍の怪異小説が書かれました。

吉備津神社の鳴釜神事の様子

吉備津神社の鳴釜神事の様子(写真提供: 吉備津神社社務所様

このなる神事の起源は温羅退治の伝説に由来します。吉備津彦命は温羅の首をはねたにも関わらず、不思議なことに温羅は唸り声をあげました。釜の下に埋めても止むことなく周囲の村に鳴り響きます。

この不思議な現象に悩まされ続けた吉備津彦命。ある日、温羅が夢に出てきて温羅の妻である阿曽媛(あそひめ)に釜を炊かせるように言いました。

さらに温羅は「世の中に良い事があるのなら良い音を鳴らすが、そうでなければ荒く鳴らす。」と告げ、翌朝吉備津彦命は夢に出てきた温羅の言葉どおりに阿曽媛に釜を炊かせたところ、唸り声が止んで平和が訪れました。

現在は阿曽媛の代わりに阿曽女(あそめ)を担う巫女が釜を炊いて占います。占いといえども特にお告げなどはなく、吉凶は自分で判断します。

御釜殿で行われる鳴釜神事の由来

御釜殿で行われる鳴釜神事の由来

釜の鳴る音を聞き、いい音だと思えば吉、あまりいい音ではないと思えば凶。自分の心で音を聞き、良いか悪いかを感じ取ることが鳴釜神事の醍醐味です。

一童社

学問と芸術の神様が祀られる一童社

学問と芸術の神様が祀られる一童社
本殿の左の階段を上ると、学問の神様・菅原天神と芸術の神様・天鈿女(あめのうずめ)を祀っている「一童社」に到着します。江戸時代の国学者も熱い信仰を寄せていたと伝えられ、主に合格祈願や芸術精進を目指す人がお参りしています。

吉備津神社名物・桃太郎の絵馬

一童社の前にはずらりと絵馬が奉納されていますが、よく見ると桃太郎の描かれており、吉備津神社らしくかわいいデザイン。

一童社にあるおみくじは「おみちびき」というもので、吉凶ではなく歴代天皇の御教えが記されています。このようなおみくじは全国的にも珍しく、記されたお言葉は今の自分をより良い方向に導いてくれるといわれています。

吉備津神社の基本情報

アクセス:JR岡山駅からJR桃太郎線で約30分「吉備津駅」より徒歩約10分
     山陽自動車道「岡山IC」から約20分
     岡山自動車道「岡山総社IC」から約10分
住所:〒701-1341 岡山県岡山市北区吉備津931
電話番号:086-287-4111
参拝時間:5:00~18:00(御祈祷・御朱印受付 9:00~15:00)
拝観料:無料
駐車場:神社すぐ横に無料駐車場あり(約400台収容)
公式サイト:吉備津神社

吉備津神社の周辺情報

吉備津彦神社

吉備中山の麓にある吉備津彦神社

吉備中山の麓にある吉備津彦神社

吉備津神社の最寄駅である吉備津駅から一駅先にある備前一宮駅を降りると目の前に広がる「吉備津彦神社」。吉備津神社の分社として造られた神社です。

本殿は神の降りる山として崇拝された吉備中山を背後に建てられており、神社建築と山の自然が美しくも雄大なパワースポット。

夏至に見事な朝日を拝むことができる鳥居「朝日の宮」、温羅(うら)を祀る「温羅神社」などの見どころも満載です。

鬼ノ城(きのじょう)

鬼ノ城の西門とそこから望む街並み

鬼ノ城の西門とそこから望む街並み
吉備津神社から車で約30分のところにある「鬼ノ城(きのじょう)」。桃太郎伝説の鬼ヶ島のモデルにもなったといわれています。日本100名城のひとつですが、実は歴史書などには一切登場しない謎に包まれた山城です。

大和朝廷によって国の防衛のために築かれたとされており、現在もなお史跡調査を行っています。復元によって城門の跡などにも立ち入ることができ、中でも西門から望む街の景色は訪れる人を魅了するほどの絶景です。

最上稲荷(さいじょういなり)

最上稲荷のシンボル巨大鳥居

最上稲荷のシンボル巨大鳥居

吉備津神社から車で約15分の距離にある「最上稲荷(さいじょういなり)」。京都の伏見稲荷、愛知の豊川稲荷と並んで日本三大稲荷と数えられる日蓮宗の寺院です。

神仏習合形態が許された霊地で、寺院の出入り口にある巨大な鳥居は遠くからも目立つシンボル的存在。最上稲荷の旧本殿(霊応殿)は岡山市重要文化財で、その他33の建物が国の有形文化財に登録されるほどの歴史と格式があります。

昔話「桃太郎」と古き良き歴史を楽しめる吉備津神社

桃太郎伝説の舞台になった「吉備津神社」。

吉備津神社は広い敷地に多くの歴史的建造物が点在し、参拝すると延命長寿、産業、安産育児のご利益を授かることができます。初詣や七五三のお宮参りには多くの参拝客が押し寄せるほどのパワースポットです。

スピリチュアルな体験や歴史に興味がある人はもちろん、自然の空気に触れてリフレッシュしたい人にもおすすめ。ぜひ足を運んで、吉備津神社の魅力を肌で感じてみてはいかがでしょうか。