紺碧の海にポツンと浮かぶ青ヶ島。アメリカの環境保護NGOが発表した「死ぬまでに見るべき絶景13」(*)に選出されたことで、海外からも注目を集めています。
そびえ立つ絶壁に囲まれた孤島は、二重カルデラという世界でも珍しい地形。手付かずの自然と人の暮らしが密着していて、清らかな空気に満ちています。いたるところから鳥のさえずりが聞こえ、夜は満天の星空。そしてユニークな美食まで楽しめるのです。
青ヶ島でなければ叶わない体験のために、アクセス困難でも足を運ぶ価値アリ! 島暮らしのリアルなエピソードも交えながら、青ヶ島の特徴や行き方についてお伝えします。
*13 Amazing Natural Wonders You Should See Before You Die|One Green Planet
※本記事に掲載の料金その他の情報は2022年11月時点のものです
※2024年7月、一部情報を更新しました
青ヶ島とはどんなところ? どこにある?
青ヶ島といえば「断崖絶壁で囲まれたビジュアルが、まるでファンタジーの世界」と、インターネットで話題になった島。「交通アクセスがヤバい」ことでも有名で、訪問が難しい島のひとつです。
交通アクセスはきわめて限定されていて、地理および気象的な理由によりフェリーの就航率は50~60%。「神のご加護がないと行けない島」とさえ言われ、旅行者の憧れを集める青ヶ島。その実態を解説していきます。
ここにあります
青ヶ島があるのは、東京都心から約360km離れたここ。八丈島から船またはヘリコプターでアクセスします。
(地図:地理院地図Vector)
青ヶ島の特徴
青ヶ島の地理的な特徴といえば、やっぱり「二重カルデラ」。複式火山とよばれる、火山が2重に重なってできた島で、カルデラの中にもう一つカルデラがあるという珍しい景観を生み出しています。
そして火山島であるがゆえの特徴が「ひんぎゃ」です。ひんぎゃとは青ヶ島のカルデラの部分から出ている地熱蒸気のこと。青ヶ島の火山活動は現在も続いていて、その影響で地熱蒸気が上がっているのです。青ヶ島ではこの蒸気をサウナにしたり、食材を調理する蒸し釜に利用したり、塩の生産に利用したりしています。
食材を蒸すことができる地熱釜
青ヶ島の人口・面積・気候について
島の周囲は200m級の断崖に囲まれていて、面積はわずか6平方キロメートル。人口は170人で、日本で最も人口が少ない自治体なのだとか。他の伊豆諸島と同様に、東京都に属しています。
黒潮の暖流に包まれている影響で、気候は一年を通じて10~25℃と温暖。湿度が年間平均85%と高めなのが特徴的で、まるでジャングルのような原生林が広がっています。
青ヶ島の内輪山「丸山」は不思議な地形をしています
青ヶ島は伊豆諸島の最南端に位置する孤島。八丈島を経由してアクセスする必要があります。八丈島から青ヶ島までは、船で約2時間30分、ヘリコプターなら約20分です。
ただし、船は欠航することがしばしばです。というのも、青ヶ島近郊の海は荒れやすく、また、青ヶ島には風や波を遮るのにちょうどいい入り江や湾がないから。就航率は50〜60%程度です。
ヘリコプターは海況に左右されないいため、就航率は高いです。ただし定員が限られているため、予約が取りづらい一面があります。
青ヶ島の三宝港(さんぽうこう)
秘境ってほんと?青ヶ島に暮らす人々の生活
青ヶ島にある商店は1軒のみ。食品や日用雑貨が販売されています。衣料品店や家電量販店はありません。
青ヶ島での生活は天気の影響を受けやすいとのこと。物資を運ぶ定期船は天気によって運航がきまるため、ときにやりくりが必要になります。
必需品は多めに買っておいたり、新しいものが手に入るまで修理して使ったり。いきなり冷蔵庫や洗濯機が壊れてしまった時は、さすがに困るとか。しかし家電の故障に困るのは青ヶ島にかぎらないはず。
青ヶ島の集落一帯(写真提供:青ヶ島村役場)
島で買えないものはネットで購入したり、雑誌の通販を利用したり。八丈島の店に電話で注文したり、親戚から送ってもらったり。手に入るまで時間はかかるものの、慣れれば不便というほどでもないようです。
青ヶ島の食文化-ご当地グルメと郷土の味
青ヶ島では島外の食品も手に入りますが、青ヶ島ならではの食文化も受け継がれていて、祝い事や祭事には郷土料理が並ぶとのこと。青ヶ島の海や大地が育む食材は日常でも親しまれています。
法事で定番の魚料理が「酢漬け」で、これはクジラヨなどの魚を塩でもみ、薬味(にら・しょうが・唐辛子)と柑橘の酢で和えたもの。青ヶ島らしい酒の肴は、新鮮な刺身や貝類、くさやなどで、地酒との相性も抜群!
青ヶ島の定番魚料理「酢漬け」(写真右手前/写真提供:青ヶ島村役場)
自生している明日葉は、生命力が強く成長が早い植物で、島料理には欠かせない野菜です。家庭ではマヨネーズ和えや天ぷらが定番だとか。独特の地形から米がとれにくく、さつまいもや里芋が主食だったため、伝統食には多様な芋料理があります。
はたから見れば秘境のようでも、自分たちで何にでも取り組む住民たち。その環境下で育まれたタフさこそが、青ヶ島らしさとのこと。そして特異な環境ゆえに、人とのつながりを大切にされています。島外から移住した人でも、島民と顔を合わせて挨拶しているうちに、半年間でほぼ全員と顔見知りになれたほど。
明日葉のようにタフな島民との出会いによって、ひょっとしたら人生観が変わるかも?
和え物や天ぷらなどさまざまな料理に使われる島食材・明日葉
青ヶ島の特産品-「青酎」「ひんぎゃの塩」
青ヶ島の特産品「青酎」
青ヶ島の特産品としてまず挙げられるのが、さつまいもが原料の焼酎「青酎」。青ヶ島を拠点とする杜氏たちが各々の製法でつくるため、それぞれに異なる味わいがあります。幻の酒とよばれる所以は、ほとんどの工程が人の手でおこなわれ、大量生産できないから。もともとは妻が夫に作るもので、島民による島民のためのお酒でした。
火山の地熱を利用して製造する塩も青ヶ島の特産品です。島の内輪山・丸山にある蒸気の噴気孔「ひんぎゃ」の熱を利用し製塩した塩は「ひんぎゃの塩」という名前で販売されています。ひんぎゃの塩を使ったラーメン、羊羹などもあり、お土産にぴったりです。
青ヶ島の各家庭で作られてきた、昔ながらの味噌だれが「島だれ」。島で育てられた唐辛子と味噌、にんにく、醤油がベースの万能だれです。お刺身にかけると味が引きしまり、観光客にも大好評! 残念ながら現在は販売終了しています。
青ヶ島までの行き方-本土からは八丈島を経由
青ヶ島が秘境と呼ばれる理由のひとつが、アクセスの難しさ。本土から青ヶ島へ行くには、かならず八丈島を経由することになります。
東京からの行き方を乗り物別に見ていきましょう。
ちなみに、朝一番の飛行機に乗れば、最短で当日の10時ごろ青ヶ島に着くことも不可能ではありません。
青ヶ島への行き方。料金目安は片道分の目安です
八丈島〜青ヶ島のアクセス
①船
八丈島〜青ヶ島間をつなぐ船・くろしお丸は、1日1往復運航しています。なお日曜と、芝浦での揚積作業が発生する日、辰巳の日は運休なので、週に4〜5往復運航しています。
八丈島を朝に出て、青ヶ島にはお昼頃到着。その後午後一番で折り返し便が青ヶ島を出発し、夕方に八丈島に到着します。時刻表や料金は伊豆諸島開発のHPをご確認くださ。
②ヘリコプター
八丈島〜青ヶ島間をつなぐヘリコプターは、1日1往復の運航。朝八丈島を出発し、20分ほどで青ヶ島に到着。5分後には、青ヶ島を発ち、午前中のうちに八丈島に戻るダイヤです。時刻表や料金は東京愛らんどシャトルのHPをご確認ください。
太平洋に浮かぶ孤島・青ヶ島
青ヶ島の観光スポット
青ヶ島へ訪れる観光客は、自然を愛する人だったり、島旅を好む人だったり。釣り人や天文ファンにまで大人気だったりします。その道のマニアも垂涎なほど、究極にヤバい体験ができる観光スポットをピックアップしました。
大凸部(おおとんぶ)
大凸部(おおとんぶ)からの眺望
青ヶ島で最も高い場所にあり標高は423m。新東京百景のひとつ。世界でも珍しい二重カルデラの内部をまるまる見渡せて、水平線の美観も堪能できるスポットです。民宿が点在する集落からほど近くアクセスも良好。頂上の展望台は長い坂道を登った先なので、暖かい季節に訪れるなら、水分を持参することを忘れないで。
尾山展望公園
尾山展望公園(写真提供:青ヶ島村役場)
青ヶ島の全景と大海原を一望できるスポット。標高は400mで、舗装された遊歩道を登りきると、いきなり大パノラマが開けます。天候に恵まれると八丈島が見えることも。尾山展望公園は星空スポットとしても大人気!道中は暗がりを歩くので、足元を照らすライトを持っていきましょう。
池之沢噴気孔群
「ひんぎゃ」と呼ばれる噴気孔
青ヶ島の内輪山「丸山」には、高温の蒸気が噴出するスポットがいくつかあります。島の言葉で「ひんぎゃ」といい、この噴気孔の地熱を利用して製造した「ひんぎゃの塩」は青ヶ島の名産品。
青ヶ島村ふれあいサウナ
池之沢地区にある、地熱を利用した村営の天然サウナ。近くには卵などを蒸せる地熱釜もあります。サウナ室の温度は約60度。営業時間は平日16:00~20:00、土日祝は14:00~20:00(いずれも入館は19:00まで)。水曜定休です。
HP:青ヶ島村役場 施設紹介
島内はどこでも星空スポット
青ヶ島の三宝港から見える天の川
日本屈指の星空が広がる青ヶ島は、天文ファンにとって憧れの地。夏の天の川が格別なのは言うまでもなく、冬でも見られるほど。条件が整ったときのみ観測できる星カノープスや、ペルセウス座流星群まで出合えるかも? 街灯や民家の灯が少ないからこその天然プラネタリウムが無限に広がっています。
紹介スポット一覧マップ
青ヶ島の宿泊情報
青ヶ島へ行く際は、事前の宿泊施設の予約がマストです。宿の確認ができないとフェリーの乗船を断られる可能性があります。
青ヶ島の宿泊施設には、数軒の民宿と、村営キャンプ場があります。各宿泊施設に直接問い合わせをして予約を取りましょう。民宿とキャンプ場のリストは下記のサイトをご参照ください。
青ヶ島観光の注意事項
ヘリコプターの定員は9名で予約困難
就航率が50〜60%の船と比較して、ヘリコプターの運航率は80%以上と高め。ただし日本でもっとも予約困難な路線のうちのひとつです。1日1便で定員9名なうえに、商用で青ヶ島を訪れる人や島民が生活の足として利用しているからです。
ヘリコプターの予約は搭乗日の1カ月前から前日まで。電話もしくはオンラインの受付です。詳しくは下記のサイトを参考にしてください。
天候によっては帰れなくなるかも
青ヶ島への船の就航率は50〜60%。天候次第では数日間の運休もありえます。くれぐれもスケジュールに余裕をもち、宿泊施設と交通機関の予約は計画的に行いましょう。
充電器や常備薬、衣類は持参して
青ヶ島で買えるものには限りがあるため、現地調達は難しいと認識しておきましょう。家電店やドラッグストア、衣類店で買うようなものは持参してください。服装にも注意が必要です。軽めの登山に行くときのような衣類がおすすめ。
食堂やレストランはありません
青ヶ島に居酒屋はあるものの、食堂やレストランはありません。食事は民宿で3食とも用意されるのが一般的です。民宿にもよりますが、青ヶ島ならではの島寿司が事前予約で出してもらえたり、名物である地熱釜用のお弁当を作ってもらえたりします。
青ヶ島の歴史
鎌倉時代に成立した「保元物語」に青ヶ島らしき記述がありますが、正式に歴史に登場するのは15世紀から。海難事故の記録が残っています。
18世紀には活発な火山活動が記録され、1785年の大噴火で島民は滅亡の危機に。約200人が八丈島へ避難し、青ヶ島は無人島になりました。ふたたび島民が帰郷できたのは約半世紀後。青ヶ島の名主となった佐々木次郎太夫を筆頭に、帰還と復興が実現。この一連の流れを「還住(かんじゅう)」といいます。
1905(明治38)年には東海汽船の船が寄港。定期航路がはじまったことで、青ヶ島と本土の交流がさかんになりました。
大噴火後の還住を記念した、還住像と佐々木次郎太夫の碑(写真提供:青ヶ島村役場)
おわりに:青ヶ島は一度は訪れたい東京の秘境
訪問が日本でトップクラスに難しい青ヶ島。訪れる前に知っておいてほしいことをご紹介しました。交通機関と宿の予約は必須で、入念な準備をしたとしても、スムーズにたどり着けるとはかぎりません。だからこそ、この地に来られたことに、自然と感謝の気持ちが生まれるはず。
写真:青ヶ島村役場/ピクスタ