平安時代から愛されてきた日本の「てぬぐい」文化
手ぬぐいブランド「かまわぬ」で手ぬぐいの魅力を知る
知っておくと便利!手ぬぐいを使った物の包み方
あらゆるシーンで使える手ぬぐいを日常生活のお供に

日本には、古くから使われてきた「道具」がたくさんあります。その中のひとつとして挙げられるのが、今回紹介する「手ぬぐい(手拭い)」。その名前の通り、手を拭うタオルのような役割を果たすのはもちろん、ものを包んだり、タペストリーとして飾ったりと多彩な使い方ができる道具です。

今回はそんな手ぬぐいの歴史についてはもちろん、手ぬぐい専門店「かまわぬ」にお邪魔し、さらに手ぬぐいの魅力について深掘りしていきます。手ぬぐいを使った物の包み方も動画で紹介していますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

※店舗情報は一時的に変更になっている場合があります。必ず事前に公式サイトをご確認ください

平安時代から愛されてきた日本の「手ぬぐい」文化

日本人の生活に古くから寄り添ってきた道具のひとつ「手ぬぐい」をご存知ですか?綿を平織りした1枚の布で、約90cm×33cmという長方形が特徴です。

4つのてぬぐい

薄くて使い勝手がいいのが特長

今でこそ多彩なデザインで20代の若者にも人気のある手ぬぐいですが、書物のなかには、実は平安時代にはすでに使われていたという記述が残っているほど日本文化に根付いたアイテムなんです。

一般的には、その名前の通り、手や体を拭くタオルのような役割を果たしていました。薄くて扱いやすい布であったことから、仏像などの拭き掃除にも使用されていたのです。

手ぬぐいを天日干しする様子

古くから使われてきた日本の「手ぬぐい」(写真提供:かまわぬ)

江戸時代が終わり明治時代に入ると、西洋の文化が日本にどんどん流入し、タオルやハンカチが普及。手ぬぐいは次第に使われなくなってしまうのです。拭く、結ぶ、包む…など、多彩な使い方ができる万能さゆえに、体を拭くにはタオル、手を拭くにはハンカチ、掃除をするなら雑巾…と、それぞれ用途に合わせた道具に代わられてしまいます。

明治、大正、昭和、平成と時代を経て、令和の時代になった今。江戸時代まで当たり前に使われてきた手ぬぐいの万能さに魅了される人が、徐々に増えてきました。

「手ぬぐい」という道具に目を留め、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

「手ぬぐい」でできること

かわいらしい柄

手ぬぐいでできることとは?

「万能アイテム」といわれる手ぬぐいですが、実際にどのような使い方ができるのでしょうか?その一部を紹介していきます。

拭く・ぬぐう

手ぬぐいの基本のキ。手や体をふいたり、首にかけて汗をぬぐったり。シンプルな木綿の平織りだから、吸った水分もあっという間に乾きます。

くるむ・包む

熱い湯呑みをくるんで持ちやすくしたり、ビンやお弁当箱を包んだり。サっとものを包める軽い使い心地もいいところです。ほか、枕カバーにしたり、ペットボトルを包んで水滴よけに利用したりと、くるむ・包むものは幅広くあります。

かける

食事の時に膝に手ぬぐいをかければ、食べカスをキャッチしてくれる膝掛けとしても使えます。襟元にかければ、前掛けとしても。子どもの食事時にも重宝しますね。そして、パソコンや鏡にかけておけば、ホコリよけの機能も果たしてくれます。

切る・縫う

手ぬぐいを柄のある布として利用する方法です。切って縫い合わせれば、小物入れにも巾着にもなります。

贈る

手ぬぐいの機能性ではなく、デザインに注目した使い方です。引き出物やご挨拶の品として渡すのにもぴったり。青海波や麻の葉といった縁起のよい古典柄があしらわれた手ぬぐいなら、贈り物としても喜ばれます。

飾る

こちらも手ぬぐいのデザインに注目した使い方。お気に入りのデザインの手ぬぐいは、額に入れてインテリアとして飾ったり、棒を取り付けてタペストリーのようにしたりするのもおすすめです。手ぬぐいを1枚のアートとして楽しめます。

手ぬぐいブランド「かまわぬ」で手ぬぐいの魅力を知る

昨今手ぬぐいは、20代の若者や訪日観光客からの注目を集めつつあります。それは、手ぬぐいが実用性に富んでいるから…だけでなく、かわいらしいデザインが多彩にあるのも大きな理由のひとつ。

今回は、33年前に都内の代官山にお店をオープンし、モダンな手ぬぐいを作り続ける専門店「かまわぬ」にお邪魔してきました。「鎌(かま)」「輪(わ)」「奴(ぬ)」の語呂合わせのような文様で、言葉をかけあわせて「構わぬ」と表示した絵文字・言葉遊びのようなデザインのロゴが特徴。さまざまな地域や企業ともコラボをし、多彩な手ぬぐいを生み出してきた「かまわぬ」は、手ぬぐいにどんな魅力を感じ、そしてどんなこだわりを持っているのでしょうか。

手ぬぐいブランド「かまわぬ」

手ぬぐいブランド「かまわぬ」

手ぬぐいは「日本の生活に最適」な道具

代官山に本店を構えるほか、都内に7店舗、愛知県に1店舗を持つ手ぬぐいブランド「かまわぬ」。

日本を代表する有名な手ぬぐいブランドで、和風の古典柄を採用したデザインからかわいらしいモダンなデザインまで、多彩な手ぬぐい商品を取り扱っています。

代官山店の内観ずらりと並ぶさまざまなてぬぐい(かまわぬ 代官山店)

小売企画チーフの秋葉さんは、かまわぬが誕生した当初について教えてくれました。

「33年前に代官山本店を構えた時は、手ぬぐいは全くといっていいほど日常的に使われていませんでした。今でこそ訪日観光客の方や若い方にも認知されつつありますが、当時の手ぬぐいはお祭りとか、本当に限られたシーンでしか目にしないものだったんです」。

それでも手ぬぐいという文化を受け継ごうと努力を重ねてきたかまわぬ。それは、手ぬぐいが「本当に使える道具」として価値があると知っているからでした。

鳥獣戯画デザインのてぬぐい

鳥獣戯画デザインのてぬぐい

「手ぬぐいって、すごく日本の気候や文化に適しているんです。綿の平織りで、切りっぱなしだから、高温多湿の日本でもすごく乾きやすい。タオルやハンカチと違って端を縫っていないから、ここに水が溜まらないんです。あとは、本当になんにでも使えるのが特長ですよね。とりあえず手ぬぐいがあれば拭くのも包むのもまかなえちゃうっていうのは、日本人の文化にすごく合っていると思うんです」と秋葉さんは話します。

手ぬぐいの端

もともと切り売りされていたことから、手ぬぐいの端は切りっぱなし

職人の手作業で生み出されるかまわぬのてぬぐい

常に250種以上のデザインを用意しているかまわぬですが、実は国内工場で職人の手作業によってすべてのてぬぐいが作られているんです。その作業工程を大きく4つに分け、みてみましょう。

1. デザインを写した「形紙(かたがみ)」を作る

かまわぬのデザイナーが作ったデザインを写す「形紙」を作ります。使うのは和紙に柿渋を塗って耐久性を強めた「渋紙」と呼ばれるもので、なんと手作業で彫っていきます。
これが一番時間のかかる作業で、1枚の形紙ができあがるまでに1カ月近くかかることもあるのだそう。職人の技術が求められる非常に細かい作業です。

2. 糊付け

かまわぬ工場の様子「糊付け」

作った形紙を使って糊付け(写真提供:かまわぬ)

次の「染め」の工程に入る前に、形紙を使って生地に糊付けを行います。糊が付いたところは「染まらない」ところ、糊がついていないところは「染まる」ところに分かれます。

糊付けの工程でムラが出てしまうと染めの工程の出来を大きく左右してしまうため、この糊付けが一番重要な工程。

「へら」という道具を使い、サッとひと塗りで均一に糊を伸ばすのは熟練の職人技です。また、気温や湿度によって糊の硬さが変わってきてしまうため、職人はその日の空気状態も考えて糊の硬さを調合しているそう。もちろん硬さに基準の数値などはなく、すべて職人の経験から調合していきます。

糊付けされた布

職人の技術とカンでムラのない糊付けができる(写真提供:かまわぬ)

3. 染め

糊を均一に塗布したら、いよいよ染めの工程です。「やかん」と呼ばれる口の細長いジョウロのような道具を使い、一気に染め上げていきます。染める範囲によってやかんのサイズを使い分けながら染料を生地に注いでいきます。

染めの様子

「やかん」を使って染めていく(写真提供:かまわぬ)

これが、かまわぬのこだわりでもある「注染(ちゅうせん)」という染め方。上から染料を注ぐようにして染め、下からコンプレッサーで染料を吸い取るという工程によって染料が裏面にまで行き渡り、裏表のないてぬぐいができ上がるのです。

この注染という染め方は、江戸時代から使われてきたてぬぐいの伝統的な染め方。今では印刷で色を重ねて染める技術もありますが、かまわぬではかつてから使われてきた技術を受け継ぎ、注染という染め方を大切にしています。

ぼかしながら染めていく

両手にやかんを持ってぼかし染めをしていく(写真提供:かまわぬ)

ほか、色数が多い場合には糊を絞って土手を作り色が混ざらないようにする「差し分け染め」という染め方をします。染料を混ぜてぼかしたいというときは、両手に異なる染料の入ったやかんを持ち、同時に色を注いでいく「ぼかし染め」をします。

4. 天日干し

洗い

洗って糊や余分な染料を落とす(写真提供:かまわぬ)

染め終わった生地を機械で洗浄し、糊や余分な染料を洗い流していきます。

洗い終えたら、天日干しへ。天気にもよりますが、丸1日ほど天日干しをすれば、あっという間に乾きます。

天日干し

伝統的な作り方を守り、最後は天日干し(写真提供:かまわぬ)

ここまではすべて、長さ約24mの1枚の反物に施した作業。最後に長さが90cmになるように折り畳んでカットをすれば、1枚のてぬぐいが完成します。

てぬぐいを整理する様子

シワを伸ばし、長さをそろえてカットする(写真提供:かまわぬ)

約33cm×90cmという限られた中であらゆる表現をする

かまわぬのてぬぐいへのこだわりは、そのデザインからもうかがえます。
てぬぐいをデザインするのは、その特徴を知り尽くしたデザイナーたち。染めた時にどんな色味に仕上がるのかなど、約33cm×90cmという限られたキャンバスにユニークなデザインを施していきます。

長さ90cmのてぬぐい

決められた形のなかを彩っていく

通年使える「定番てぬぐい」と季節を取り入れた「季節のてぬぐい」

かまわぬのてぬぐいのデザインは、大きく分けて2つ。季節を問わず通年使える「定番」柄と、四季を写し込んだ「季節」柄に分けられます。デザイナーの田嶋さんは、「同じ柄でも、色味を変えるだけで一気に印象が変わるのが面白いところです。古典柄などの伝統的な柄も色を変えれば、モダンな印象になるんですよ」と教えてくれました。

3つのてぬぐい

左から「麦小紋 黄」「変わり七宝」「おくら」

例えばこちらの写真に見える麦デザインのてぬぐい。当初は緑色の青々とした麦が並ぶ柄でしたが、黄色地に小麦らしい茶色の麦を並べたところ、「ビールっぽい!」と評判になったそう。より小麦感がアップし、パンやビールを包む手ぬぐいにもぴったりです。

対して「トレンドのモチーフやカラーを使う…など、流行はあまり意識していません。それよりも、なるべくシンプルに、飽きのこないものをデザインしていくのが大切だと考えています。手ぬぐいはあくまで日常的に使うものですから、現代の生活に溶け込むようなデザインを心がけていますね」と田嶋さん。

デザインにもしっかりこだわる理由は、てぬぐいが「贈り物」としても最適なアイテムだから。例えば、古典柄をデザインしたてぬぐいは柄のもつ縁起のよい意味を反映しており、ギフトにぴったり…。といったように、「コミュニケーションツールのひとつとして使えるてぬぐいを作りたいんです」と田嶋さんは話します。

かまわぬのてぬぐいが愛される理由は、パーソナルなギフトとしても使える、モダンで上品なデザインにもあるようです。

知っておくと便利!手ぬぐいを使った物の包み方

せっかく手ぬぐいを手にしたら、ぜひとも日常生活に取り入れたいもの。今回は、かまわぬスタッフから手ぬぐいを使った2つの物の包み方を教えてもらいました。

バゲットの包み方

楕円のお弁当箱の包み方

ほか、かまわぬの公式YouTubeチャンネルにもいくつかの包み方が上がっています。そちらもぜひチェックしてみてくださいね。

あらゆるシーンで使える手ぬぐいを日常生活のお供に

書物によると、平安時代にはすでに使われていたという「手ぬぐい」。明治維新にともない日本の西洋化が進むと同時に、わたしたちの生活から手ぬぐいは姿を消していってしまいました。

令和時代に突入した今、あらためて日本の古き良き文化に注目してみてはいかがでしょうか。そこには、生活に役立つ日本人ならではのアイデアが詰まっているはずです。