古くから私たち日本人の日常を支えてきた「道具」。電化製品でなんでも解決できてしまう現代だからこそ、ちょっと立ち止まって、日本人が生活に取り入れてきた「いい道具」に目を向けてみませんか?
今回紹介するのは、都内に立つ、日常道具を取り扱うお店。刷毛(ハケ)や箒(ホウキ)といった道具を扱う専門店から、全国各地の荒物などが並ぶ道具店まで全5つのお店を紹介します。日常に日本の道具を取り入れれば、きっと毎日が少し豊かなものになるはずです。
※店舗情報は一時的に変更になっている場合があります。必ず事前に公式サイトをご確認ください
1. 日本文化を受け継ぐ3つの専門店
まず紹介するのは、都内に立つ3つの専門店。刷毛、箒、てぬぐいをそれぞれ取り扱う店舗を紹介します。どれも職人が手作業で作本物の道具をそろえています。
江戸箒専門店「白木屋傳兵衛」
東京都中央区、京橋エリアに位置する「白木屋傳兵衛(しろきやでんべえ)」。江戸箒を製造、販売する専門店です。
京橋駅から徒歩約3分に立つ「白木屋傳兵衛 京橋本店」
あまり知られていませんが、実はここ京橋エリアは江戸時代末期、竹市場として発展した場所でした。しなやかで丈夫で、よく燃え燃料にもなる竹は、当時の日本人の生活を支える大切な素材。白木屋傳兵衛もこの地で竹製品を扱うお店として、1830年に創業しました。
当時は生活雑貨や文房具なども取り扱っていた白木屋傳兵衛でしたが、時代の流れによって、文房具や雑貨は大手メーカーが扱うように。そこで専門としたのが、竹箒作り。江戸時代から変わらない技術を受け継ぐ「江戸箒」の専門店になりました。
白木屋傳兵衛の店内。さまざまな箒が並ぶ
■白木屋傳兵衛の「江戸箒」。その魅力とは?
白木屋傳兵衛が手がける江戸箒は、柄に竹を、穂先にホウキモロコシという専用の植物を使ったもの。室内用箒で、1本あれば、畳もフローリングも、カーペットの上だって、全部箒がけできます。
こだわりは、手になじむ「軽さ」と、しなやかな「コシ」。何本ものホウキモロコシからコシとやわらかさのバランスを兼ね備えたものだけを職人が経験から選び抜き、それを箒に仕上げていくのです。
職人が手がける江戸箒。穂先の密度により、上・特上・極上に分けられる
実際に手に持ち掃いてみると、その扱いやすさが分かるはず。穂先にコシがあるから掃きやすく、崩れにくい。最も軽く感じられる編み方・フォルムを追求し完成した白木屋傳兵衛の江戸箒は、毎日使いたくなる掃き心地です。
わずか3名しかいない職人が手作業で編み、作り上げる白木屋傳兵衛の江戸箒。白木屋傳兵衛のスタッフである高野さんは、江戸箒の魅力について、このように教えてくれました。
「箒って、とにかく環境負荷が少ないんです。使う素材は全部植物ですし、作るのも人力、もちろん電力もガスも使わない。もう使えない、ってところまで使い切ったら、処分するときは燃やしてしまえばいい。最初から最後まで、環境にやさしいのが魅力だと思います」。
使い込んで穂先がヨレてきたら、ハサミでヨレた部分を切り落として揃えれば、しなやかなコシは復活。さらに使い込み、穂先が短くなったら、室外用の箒として活躍します。正しく使えば、およそ10年はもつという耐久性の高さも大きな魅力のひとつ。
穂先がヨレたらカットしていけば長く使える
毎日の床掃除の道具を箒に変えることで、「部屋を整える」と同時に「自分の心も整える」時間が生まれると、高野さんは教えてくれました。掃除機で一気に床掃除を終えてしまうのもいいですが、自分の手によくなじむ箒を使って、部屋の隅まで自分の手で掃き掃除する。すると次第に自分の心も整い、なんだか心が豊かになっていくはず。まさに日本人ならではの道具です。
デザイナーが手がけた「掃印 掛けほうき」。窓際やドアノブに掛けて使える
白木屋傳兵衛の江戸箒はオンラインからも購入できますが、ぜひ京橋の店舗に訪れ、数ある箒から自分にぴったりのものを探してみてください。手に持ったときの心地や掃いた時のしなやかさは、同じ江戸箒でも少しずつ異なります。部屋のサイズや使用する場所にあわせて、スタッフが好みの箒探しをサポートしてくれます。
てぬぐい専門店「かまわぬ」
33年前に都内の代官山にお店をオープンし、モダンなてぬぐいを作り続ける専門店「かまわぬ」。代官山の本店のほか、東京都内に7店舗、愛知県に1店舗を構えています。
かまわぬ 代官山本店
平安時代にはすでに使われていたという記述も見つかっている「てぬぐい」。木綿を平織りして作る1枚の布で、通気性がよく、高温多湿の日本の気候にぴったりな道具です。
主な用途は「手拭い」という名前の通り「拭う」こと。手を拭いたり、家具の拭き掃除に使ったり。最近では、タペストリーのように壁に飾ってそのデザインをアートとして楽しむ人も増えてきました。
■かまわぬのてぬぐいは贈り物としてもぴったり
ずらりと並ぶさまざまなてぬぐい
かまわぬの手がけるてぬぐいは、「注染(ちゅうせん)」という染め方によって作られています。その名の通り、液体染料を注ぎ染め上げていくという技法で、柄に裏表がないのが特徴です。
職人が江戸時代の技法を受け継ぎ手作業で作りあげたてぬぐいは、贈り物としても最適。その理由は、かまわぬがデザインする柄にあります。
かまわぬのてぬぐいは、通年使える「定番」柄と、四季を表現する「季節」柄に大きく分けられます。かまわぬではどれも「誰かに贈るコミュニケーションツールとして使えるようなもの」になるようにデザインしているのです。例えば、縁起の良い古典柄はお祝い事に。旬の花や野菜・果物をデザインしたものは、季節のご挨拶に。思わず誰かに贈りたくなるデザインばかりがそろっています。
左から「麦小紋 黄」「変わり七宝」「おくら」
もちろん自分用にも最適。シンプルでモダンなデザインのてぬぐいたちは、毎日使っても飽きることはありません。
キッチンに置けば、ちょっとした手拭きにも、鍋つかみのミトンにも、鍋敷にも。リビングやダイニングに置けば、パソコンや鏡のホコリよけにも、ティータイムの膝掛けにも、ランチョンマットにも。てぬぐいは、アイデア次第で多彩な使い方ができるんです。
てぬぐいで日本人らしい生活スタイルを楽しむ
かまわぬのてぬぐいは、1枚800円(税抜)〜というお手頃価格。お気に入りのてぬぐいを購入して、古くからの日本人の知恵とアイデアを、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
刷毛・ブラシ専門店「江戸屋」
最後に紹介する専門店は、日本橋に立つ老舗の刷毛・ブラシの専門店。江戸時代創業の「江戸屋」です。
モダンな江戸屋の外観
江戸屋は、その建物も魅力的。刷毛をイメージしたとされる外観は、大正14年に西洋の様式を取り入れて造ったもの。大工の自由な創造性から生み出された洋風建築で、今では国登録の有形文化財に指定されています。
■「ブラシ」という日用品をいいものへ
店内で取り扱うのは、ブラシや刷毛がメイン。そのほかに、タワシなどの道具も並んでいます。
江戸時代には刷毛はあったものの「ブラシ」という文化はほとんど普及しておらず、江戸時代末期の黒船来航を発端に、西洋の文化が伝来しブラシも普及するように。日本人の服装が和服から洋服へと移り変わっていくのと同時に、洋服や靴用のブラシ、ヘアーブラシが流通していったのです。
江戸屋のヘアーブラシ
ヘアーブラシに使っている毛は、大きく分けて豚毛と猪毛の2種類があります。そこからさらに豚毛は、特級黒豚毛、特級白豚毛、豚毛、ゴマ豚毛の4種類を用意。
獣毛の量や長さがブラシによって異なる
自分の髪の硬さ、やわらかさ、傷み具合に合わせてヘアーブラシを選ぶのはもちろん、何よりも実際に店頭で試してみて、使い心地が気に入ったものを手に入れるのがベター。ヘアーブラシは動物の毛を使っているため、ひと梳かしするだけで髪がサラサラに仕上がるという効果が期待できます。プラスチックやゴム製ではなく獣毛を素材にすることで、静電気も防いでくれるんです。
使い勝手も質も良い刷毛やブラシが並び、つい目移りしてしまう
ほか、洋服ブラシも住まいに1本置いておきたい道具のひとつ。和服、洋服それぞれの素材に適した作りになっています。毎日着るスーツ用に、大切な日に着用する和服のために。伝統的な手植えの製法で作られたブラシは、どれもコシがあり長持ちする逸品。
握りやすさ、使いやすさにもしっかりこだわったブラシたちは、日用品に取り入れたい素敵な品です。
人気商品の洋服ブラシ
2. とっておきが見つかる都内の道具店
都内には日本の道具の各専門店のほかにも、全国の道具や荒物を取り扱うお店が点在しています。ここで紹介する2つの道具店は、いずれも実際に作り手から直接買い付けをし道具・荒物を販売するお店。作り手の思いをそのまま私たちに伝え、とっておきの道具との出会いを手助けしてくれます。
「暮らしの道具 谷中松野屋」
夕やけだんだんを越えてすぐに立つ「谷中松野屋」
東京の下町情緒が残る場所として有名な谷中エリアに立つ、「谷中松野屋」。こちらは、手仕事で仕上げた暮らしになじむ日用品を取り扱っています。自然素材を使って作られたカゴ、ザル、ホウキといった荒物たちが店内外に所狭しと並べられており、それらは町工場や農家で作られたものばかり。
松野屋では国内やアジア各国の町へ直接足を運び、仕入れ・販売すると同時に、時代と人々の「暮らし」に寄り添うオリジナル商品の開発にも力を注いでいます。
松野屋が取り扱うのは、いわゆる「荒物」と呼ばれる道具たち。荒物とは、箒やちり取り、ザル、カゴといった生活道具のことを指します。
手仕事で作られたカゴなどの荒物たち。どれも温もりを感じる
例えば、店頭にずらりと並ぶカゴ。各地で採れる木材を使い、丁寧にひとつひとつ編み上げて作ります。しなやかで丈夫で、手にしっとりとフィットする柔らかな使い心地が魅力。それでていて、持ちも良い。「ベストでもベターでもない、ナイスなものづくり」をコンセプトとした暮らしの道具が揃っています。
丈夫なオリジナル帆布鞄シリーズ「ヘビーキャンバス ツールトートバッグS」(13,000円+税)
厚手の帆布(はんぷ)を使って作るオリジナル鞄シリーズも人気。岡山県で織られた国産帆布を、都内の鞄職人が縫い上げ仕上げたトートバッグは、タワシで洗ってもヨレない丈夫さが魅力のひとつです。サイズも色もさまざまありますので、店舗に訪れた際はぜひ手に取ってみて。
「器と道具 つみ草」
吉祥寺駅公園口から徒歩約6分に立つ「器と道具 つみ草」。風情ある木造の建物の中に、日本各地で作られた手仕事品や若い作家の器など、全国の「いいもの」が取り揃えられています。
器や道具を扱うお店「器と道具 つみ草」
つみ草がメインで取り扱うのは北海道から沖縄まで、全国で出会った器たち。と思いきや、同じ棚には土鍋や曲げわっぱも並んでいます。全国の職人や作家が手がけた手仕事にこだわった道具や器たちを、つみ草は直接買い付け、彼らの思いと共に販売しています。
中央は沖縄県の竹カゴ。今では数も少なく、何年も探しやっと見つけた職人から買い付けたもの
長年地方で伝統を守りながら熟練の職人たちに作られてきた手仕事品は、後継者も少なくいつ買い付けができなくなってしまうか分からないようなものも多数。ここでしか出会えない名工の思いと技術が詰まった手仕事品たちを、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
さまざまな県から直接買い付けた手仕事品と出会う
そして、つみ草が取り扱うアイテムのなかでも、特に力を入れているのが「郷土玩具」。郷土玩具とは、各地方や地域で伝統的に作られてきた玩具(おもちゃ)のことです。
愛らしい郷土玩具たち
最古の郷土玩具と言われている京都府の「伏見人形」や、お土産としても人気の高い福島県の「赤べこ」などが挙げられます。つみ草に並ぶ郷土玩具たちも、もちろん各地域で買い付けたもの。
この日は浜松張子や琉球張子など、なんとも色あざやかな張子たちが並んでいました。玄関やリビングに置けば、インテリアとして住まいを彩ってくれる愛らしい張子たちが揃い、なかには若手作家が作るモダンでスタイリッシュなデザインの張子も。
郷土玩具は日常生活で使う道具ではないものの、飾っておくだけで生活も心も豊かになるはずです。
日本で受け継がれてきた道具をお土産に
今では数は少なくなってしまいましたが、時代を超えて伝統技術を受け継ぎ作られている日本の道具は残っています。古くから使われてきた日本の生活道具は、日本人らしい知恵や工夫が反映されたものがたくさん。日常生活に取り入れれば、慌ただしい毎日の中でも、心を少し豊かにしてくれるはずです。
道具を買うだけでなく、その裏にある職人・作家の思いや道具の歴史についても、ぜひ各店舗で聞いてみてください。きっとさらに道具に愛着が湧き、あなたにとっての“とっておき”になるでしょう。