日本における「折り紙」のルーツ
折り紙をもっと身近に体験!
折り紙のアクセサリーを作ろう
折り方動画① 日常生活に取り入れたい「箱」
折り方動画② 伝統の折り紙「折り鶴」
まとめ

日本人の文化のひとつとして外せない「折り紙(おりがみ)」。色鮮やかな千代紙や友禅紙を使い、花や動物などさまざまな形に折っていくこの文化は「ORIGAMI」と呼ばれ親しまれています。

今回ご紹介するのは、そんな折り紙にまつわる歴史と、基本の折り方として覚えておきたい「折り鶴」の折り方、そして、日常生活に取り入れやすい箱やアクセサリーの作り方について。1枚の紙を折るだけで、さまざまな形へと変化していく折り紙の魅力を深く掘り下げていきましょう。

日本における「折り紙」のルーツ

日本人にとっては子どもの頃からなじみ深い玩具のひとつである折り紙ですが、そもそも日本に「折り紙」という文化が根付いたのはいつ頃の話なのでしょうか。まずは折り紙のルーツを探りに、日本折紙協会が運営する「東京おりがみミュージアム」にうかがってきました。

「東京おりがみミュージアム」とは?

日本折り紙協会

東京都墨田区に位置する「東京おりがみミュージアム」

東京都墨田区に佇む「東京おりがみミュージアム」は、作家さんによる折り紙作品の展示や、折り紙と折り方教本の販売、そして折り紙の講習会などを開催しているスポットです。館内には、季節にあわせた折り紙作品などを大切に保管・展示しており、作り手たちの自由な発想をそのまま反映させた多彩な作品がずらり。眺めているだけで折り紙の楽しみ方の幅広さがうかがえます。

折り紙ミュージアム内観

折り紙ミュージアムの1階では作家による多彩な作品を展示

今回話をしてくださったのは、日本折紙協会の青木さん。協会が毎月発行している「月刊おりがみ」の編集長を務め、月刊おりがみに掲載される折り紙の折り方の校閲なども担当されているそう。それでは、日本における折り紙のルーツを探っていきましょう。

おりがみ協会の「月刊おりがみ」

日本折紙協会が手がける「月刊おりがみ」

日本おりがみ教会の青木さん

日本おりがみ教会の青木さん

遊びとしての折り紙文化は江戸時代以降

ーーまずは、日本での「折り紙」文化のルーツを教えてください。
私たちが日本人が子供の頃に教育のひとつとして身につけてきた「折り紙」という文化は、「遊戯折り紙」に分類され、それが普及しはじめたのは実は、江戸時代初期ごろとされています。もっというと、遊戯折り紙として保育に用いられるようになったのは明治以降なんです。

ーーそうなんですね!折り紙という文化は、平安時代ごろから普及していると思っていました
ちょっとややこしいんですが、平安時代にもこういった文化はありました。なにより当時は紙が高価で、紙を手に入れられるのは貴族など身分の高い人たちだけだったのです。

彼らの手によって「折り形」という、厚い紙を折って「畳(たとう)紙」(紙を折って懐中にしまい、今でいうハンドバッグのような入れ物として活用していた)を作る文化が生まれていきました。ですがこれはあくまで礼法・作法としての折り紙で、私たちが親しんでいる遊びとしての折り紙とはちょっと意味合いが異なるんです。

ーーでは、どのような形で折り紙は庶民にも広がっていったんですか?
一番大きな変化と言えるのは、武家社会になり、寺子屋(今でいう学校のようなもの)が誕生したころでしょうか。
寺子屋で書き損じた紙を折り、それこそ折り紙のように紙を使っていたと伝わります。江戸時代に、町人たちにもその折り方や折り紙という文化が普及していったのです。

多彩なおりがみ

今では種類も豊富な折り紙

青木さんが話す通り、江戸時代、1682年刊行の井原西鶴が手がけた浮世草子『好色一代男』には、折り紙を意味する「折り据」という言葉が登場しています。町人文学であった浮世草子(小説)にこの言葉が登場していることから、折り紙がどれほど江戸時代の町人たちにとってなじみのある文化であったかがうかがえます。日本では紙の普及とともに、時代の流れにあわせて折り紙の文化が貴族から武士、町人へと広がっていったのですね。

「ORIGAMI」は日本だけの文化ではない

日本文化の定番として挙げられる折り紙は、「ORIGAMI」と呼ばれ世界的に人気を博している…と思われがちですが、「日本生まれ」とは断言できないと青木さんは話します。

「外国でももちろん折り紙のような文化はずっと昔からあります。例えば外国のレストランなどで見られるナプキンを折っておもてなしするという文化も、折り紙のようなものですよね。あとは、日本に遊戯折り紙が保育玩具として普及したのも、もともとは『幼稚園の祖』とも呼ばれるフリードリッヒ・フレーベルというドイツの教育学者が取り入れたからとされています」。

どうやら、「ORIGAMI」という言葉は世界共通語として認められているものの、「紙を折る」という文化は世界各国で生まれていたようです。

ですが、正方形の千代紙や友禅紙を使って「折り紙」として伝統的な折り方や創作性のある作品を作るのは日本独自で発達していった文化。特に伝統的な基本の折り形として大切にされているのが、日本人なら誰しも折った経験のある「折り鶴」。

折り鶴

伝統的な折り紙「折り鶴」

「初めて日本の折り紙に触れる外国の方にも、ぜひ折り鶴には挑戦して欲しいですね。折り鶴には、折り紙の技法がふんだんに詰め込まれているんです」と青木さん。

上手に折り紙を折るコツは、「山折り」「谷折り」といった線ばかりを意識するのではなく、「どの角とどの角を合わせるのか」「次の折る工程でどういう形を作るのか」という折り紙の動きを意識することだと教えてくださいました。

本記事の後半では、日本折紙協会が推奨する折り鶴の折り方を動画で公開しています。ぜひチェックしてみてくださいね。

折り紙をもっと身近に体験!

折り紙の歴史や文化について学んだら、次は折り紙を実際に折って、その楽しさに触れてみましょう!

かわいらしいモチーフを折り紙で作るのも素敵ですが、せっかくなら、毎日使える折り紙のアイテムが欲しいですよね。今回は、JR御茶ノ水駅から徒歩約7分、「お茶の水 おりがみ会館」で定期的に開催されている折り紙教室に参加してきました。

おりがみ会館入り口

お茶の水 おりがみ会館エントランス

お茶の水 おりがみ会館は、1858年創業の和紙専門店「ゆしまの小林」から誕生した、折り紙の作品鑑賞や体験、買い物などができる施設。国際おりがみ協会の理事長も務める小林一夫館長を筆頭に、日本の文化遺産としての折り紙を大切に守り、伝え、育てていくための活動を行っています。

6階までの建物の中には、折り紙のギャラリー、折り紙や千代紙、教本などが並ぶショップ、教室のほか、染め紙業を生業としていた「ゆしまの小林」の伝統が息づく染め工房も設けられています。

教室に参加するため訪れたこの日は、休日の晴れた日。少し早めに到着したので、館内を見学させてもらうことに。

色とりどりの折り紙が並ぶショップを覗いてみると、奥には賑わうひとつのテーブルが見えました。どうやら不定期に、小林館長が「折り紙を楽しんでもらいたい」という思いで、ショップの一角でデモンストレーションを実施しているとのこと。

楽しそうに折り紙を折る館長

館長のデモンストレーションは大人気

子どもから、訪日観光客の人たちまで興味津々の様子でテーブルを囲んでいます。色紙を片手に、話をしながら次々とモチーフを作り上げていく館長。

折り紙で作ったねずみ

話しながらどんどん折り紙を完成させていく

2020年の干支である「子(ねずみ)」や、両面テープをつけてブローチに仕上げたバラ…あっという間に完成する折り紙たちに、お客さんは思わず拍手。まるで大道芸をみているようなワクワク感があたりに広がっていました。購入した教本に館長からサインをもらうお客さんも多くいました。

職人が手染めする折り紙を見に工房へ

おりがみ会館工房の刷毛

工房に並ぶ刷毛(はけ)

ここ、おりがみ会館では、今でも職人が手染めで折り紙を作る工房が残っています。ドイツ人教育家のフレーベルの理念によって日本の学校教育に折り紙が導入されたのが1885年。当時、文部大臣からの依頼を受けて、初めて日本で「教育折り紙」を製品化したのが「ゆしまの小林」だったのです。その伝統を今も受け継ぎ、4階の工房では、職人が和紙を手染めし、さまざまな折り紙を作っています。

折り紙を作る

すばやい手さばきでどんどん折り紙を塗っていく

赤色の紙が干される様子

赤色の紙が干される様子

この日生み出されていたのは、赤の単色の折り紙。鮮やかな赤色を、刷毛で素早く塗り上げていき、素早く乾かす。塗りムラができないように均等に染め上げられていく折り紙の様子に、ついつい見入ってしまいます。ここで作られた折り紙は、3階のショップで購入可能です。

3階のショップの折り紙

手染め折り紙を購入できる

折り紙のアクセサリーを作ろう

扇のアクセサリー

折り紙で作る扇のアクセサリー

この日参加した折り紙教室は、外国人参加OKの「和紙折紙アクセサリー」作り教室。小さな千代紙を使ったアクセサリー作りができます。

講師は、和紙折紙アクセサリーを制作・販売している「しづ子工房」の小西 將文先生。もともと和紙アクセサリー作りをしていたお母さまの作り方や思いを受け継ぎ、現在ではお母さまと共に工房でアクセサリー制作に携わっています。

講師の小西先生

講師の小西先生

小西先生が手がけるアクセサリーの特徴は、和紙の柄を生かしたモチーフと、左右対称で整った上品な仕上がり。手作りとは思えないほど細かく、きちんと仕上がった和紙アクセサリーは、最近は外国人だけでなく日本人からも大好評なんだそう。

今回作るのは、華やかで上品な扇モチーフのイヤリング(ピアス)。集まった生徒さんたちは、娘のためにピアスを作りに来たというお母さんや、小西先生の教室に何度も出席しているという女性、自身でいずれ和紙アクセサリーの販売をしたいという女性など、それぞれ小西先生から技を教えてもらいに足を運んだ方たちばかりです。

ツリーのアクセサリー

こちらも先生の作品。左右対称のツリーがかわいらしい

教室は約3時間。まずは大きめの和紙を使って扇の折り方を学んでいきます。アクセサリーとして身に付けられるようにするためには、ただ和紙を折って完成!というわけではなく、ボンドを使ったり、ニスを塗って雨で紙が萎れないようにしたりといった作業が大切。一連の工程を簡単に紹介していきます。

練習用の友禅紙

まずは大きめの折り紙で練習を

ボンドで折り紙を固定

ずれないようボンドで折り紙を貼り合わせる

まずは折り紙をおよそ半分に折り、ボンドで固定。ボンドが固まったら、折り目を付けながら折っていきます。

蛇腹の数(8または12)によって、完成した時の印象が異なります。先生によると、日本人の若い女性は小さくて蛇腹の数が多めの扇が人気で、外国人には千代紙の柄がよりはっきりと見える蛇腹の少ない扇が人気だそう。練習では、より細かい12折の蛇腹の作り方を教えてもらいます。

綺麗な蛇腹の完成

折り目が見えないため綺麗な蛇腹を作るのは難しい

難しいのは均一に山折りと谷折りを完成させて、美しい蛇腹を作り上げること。先生が説明する折り方のコツをしっかり聞いていても、美しい蛇腹が作れるかどうかは自分の指先との勝負です。

金具の取り付けが完成

金具の取り付けまでを練習する

練習が一通り完了したら、いよいよ本番の扇アクセサリー作りに挑戦です。

本番で私が選んだのは、練習時よりもひとまわり以上小さなサイズ(5cm×6cm)の千代紙。たくさんの千代紙のなかから、ひとつお気に入りの柄を選びます。赤のベースカラーに白とオレンジの梅の花が可愛らしい千代紙を選びました。

梅の柄の千代紙

さまざまな柄から梅の柄を選択

練習で学んだ通りに、和紙を折っていきます。

とにかく小さいため、細かく指先を動かしながら、ひとつひとつしっかりと折っていきます。折り目をキレイに作ることが、美しい仕上がりのポイントのひとつ。

「ほかの折り目の基準となる重要な折り目をしっかりと折って、あとはそこに合わせて手順通りに折っていくだけです。重要な折り目を正しく、キレイに折れるかどうかが大切ですよ」と先生。

蛇腹が完成したら、次は金具を取り付け、扇型になるよう仕上げていきます。竹串を使いながらボンドを付け、金具を押しあてて固定していきます。

本番の扇の完成

上が練習時のサイズ。本番用はとっても小さな千代紙を使う

ボンドが完全に乾いたら、扇をキレイに開いて、ニスを塗って固めていきます。ニスを二度塗りすることで和紙がコーティングされ、雨に濡れてもヨレることのないきちんとしたアクセサリーに。

ニスを塗って乾かす

ニスを塗り乾かす

最後はチェーンとイヤリング(ピアス)部分の金具をつなげていきます。丸いチェーンは非常に小さく、ここに金具をつなげ合わせていくのがとっても難しい!息を止めて作業しなければうっかり落としてしまいます。

ボールチェーンを取り付ける

チェーンを取り付ける先生の手元。小さな金具はうっかり落としてしまうことも

そうして完成したイヤリングがこちら。世界にひとつだけのオリジナル和紙アクセサリーの完成です!

完成したイヤリング

完成した扇のイヤリング(ピアスも選択可)

終始、和気あいあいとした雰囲気で進んだこの日のアクセサリー作り教室。

おひとりさまでの参加でも、ほかの生徒さんたちと一緒に使う千代紙を選んだり、わからないところは教えあったりと年齢関係なく話ができ、和やかなひとときを過ごせました。折り目の数や扇のサイズ、チェーンを付けるかどうかなど、自分の好みに合わせてデザインを選べるのもうれしいポイントです。

和やかな教室

ほかの生徒さんたちと交流しながら楽しくアクセサリー作りができる

小西先生のアクセサリー教室は、毎月1回おりがみ会館で開催されています。おりがみ会館公式ホームページなどから内容を確認できますので、チェックしてみてはいかがでしょうか。

折り方動画① 日常生活に取り入れたい「箱」

折り紙メイン

日常的にも使える折り紙「据折」

今回はもうひとつ、「日常的に使える折り紙」の折り方を紹介します。紹介するのは、のりもハサミも使わない、正方形の紙1枚で完成する「箱」。会社のデスクに折り紙の箱を置いて飴やチョコを入れたり、自宅の玄関に置いて折り紙の箱に鍵を入れたりと、多彩な使い方ができる「据折」という折り方をピックアップ。

折り紙の教本

池田書店『英訳付き 包む折り紙帖』1,430円

この作品は、池田書店発行の『英訳付き 包む折り紙帖』に掲載されています。24種の「包む」をテーマにした折り方と、千代紙がセットになった同書籍は、おりがみ会館のショップまたはHPより購入できますよ。

折り方動画② 伝統の折り紙「折り鶴」

最後に、日本の伝統的な折り紙のひとつ「折り鶴」の、日本おりがみ協会が推奨する折り方を紹介しています。折り鶴を折って、折り紙の多彩な折り方を学んでみてはいかがでしょうか。

【おりがみ会館 基本情報】
住所:〒113-0034 東京都文京区湯島1-7-14
TEL: 03-3811-4025
営業時間:9:30~17:30
定休日:日曜、祝日、夏期休暇、年末年始
公式サイト:お茶の水 おりがみ会館

東京都内で日本独自の「ORIGAMI文化」に触れてみよう

日本における折り紙は、子どもの遊び道具として使われる以外にも、さまざまな魅力があります。シンプルな単色折り紙はもちろん、千代紙や友禅紙など鮮やかな柄が美しい折り紙を使えば、多彩なデザインで多彩なモチーフの折り紙が作れるため、箱やアクセサリーなど日常生活に取り入れるのにもぴったり。指を動かして、楽しみながら折り紙を折ってみてくださいね!