「火の用心」という言葉は誰しも一度は耳にしたことがあるはず。京都の家庭には、この言葉が書かれた不思議なお札がよく見られると言います。その秘密が隠されているのは、京都にある「愛宕神社」。火の神を祀る愛宕神社は、火災を防ぐご利益を持つ神社として古くから京都で親しまれているんです。
京都最高峰の霊山、愛宕山にある愛宕神社の強力なパワーは、戦国武将たちも厚い信仰を寄せており、大河ドラマ「麒麟がくる」で注目を浴びた明智光秀も、あの歴史的大事件「本能寺の変」の前に参拝に訪れたと言われています。
今回はそんな霊験あらたかな京都のパワースポット、愛宕神社の魅力を探っていきます。
東京の愛宕神社に関する記事はこちら↓↓
東京【愛宕神社】は社会人必見!出世できる石段を登ってみた!
京都の愛宕神社とは
京都最高峰の霊山
京都の愛宕山
京都盆地の西側に位置する愛宕山は、比叡山とも並ぶ京都市最高峰の霊山。その頂上に鎮座しているのが「愛宕神社」です。京都の愛宕神社は全国に約900社ある愛宕神社の総本社であり、京都市民は親しみを込めて「愛宕さん」と呼んでいます。
愛宕山の信仰は古く、飛鳥時代末期の701~704年に修験僧の祖である役行者(えんのぎょうじゃ)と修験僧・泰澄(たいちょう)が愛宕山に登り、山頂に社を建立したことに始まります。
それ以来、愛宕山は修験道の聖地として崇められることとなりました。修験道とは、山へ籠もって厳しい修行を行うことにより、悟りを得ることを目的とする山岳信仰が仏教に取り入れられた日本独特の宗教。
その後、仏教と神道を同じ宗教体系とする「神仏習合」の考え方が広まると、神道においては伊邪那美命(いざなみのみこと)が、仏教においては勝軍地蔵(しょうぐんじぞう)がこの愛宕信仰のシンボルとして祀られることとなりました。
京都 冬の愛宕神社
さらに奈良時代後半の781年には、光仁天皇(こうにんてんのう)が和気清麻呂(わけのきよまろ)に命じ、愛宕山に「愛宕山白雲寺(あたごさんはくうんじ)」を創建させ、神仏習合の聖地としての地位が確立。
それから「伊勢へ七たび 熊野へ三たび 愛宕まいりは月まいり」と言われるほど隆盛し、身近な信仰の拠り所となっていったのです。
しかし、明治時代に入ると今度は逆に神道と仏教を明確に区別する「神仏分離」が行われ、前身の白雲寺は取り壊されて愛宕神社に一本化されることになりました。
【関連記事】
寺と神社の違いについて知りたい方はこちら↓↓
意外と知らない?寺と神社の違いを徹底解説
「火の神」をまつる愛宕神社のご利益
愛宕神社にはさまざまな神様が祀られていますが、とりわけ重要なのが伊邪那美命と加具土命(かぐつちのみこと)。神話によると、火の神とされる加具土命は、生まれた時に母親である伊邪那美命を焼死させてしまったことから、「仇子(あたご)」と呼ばれました。それが愛宕の由来とされています。
京都では台所に愛宕神社のお札を貼る家庭も多い
火の神と関わりが深いことから、愛宕神社はやがて「火伏せ(防火、火除け)」の神様として親しまれるようになりました。京都の愛宕神社でもらえる「火迺要慎(ひのようじん)」と書かれたお札は、京都の家庭のキッチンには必ず貼ってあるほど馴染み深いんだとか。
また、京都では3歳までに愛宕山に参詣をすると、一生火事に遭わないという言い伝えもあります。
大天狗の伝説
太郎坊天狗の像
修験道の聖地なった愛宕神社ですが、その理由はかつてこの地に大天狗が現れたという伝説があるため。愛宕山に現れたという大天狗「太郎坊(たろうぼう)」は、その圧倒的な霊力で天狗の頂点に君臨したと言われています。愛宕山に現れたときも、9億4万あまりもの配下を引き連れていたんだとか。
やがてこの大天狗は、愛宕山の信仰の中に取り入れられ、ここが修験道の聖地となったのです。愛宕神社の奥の院には、今でもこの大天狗が祀られています。
明智光秀も参拝した京都の愛宕神社
京都最高峰の霊山である愛宕神社の強力なパワーは、かつての戦国大名たちも厚い信仰を寄せていました。中でも最も有名なのが、「本能寺の変」で織田信長を倒した明智光秀。
歴史的大事件であった本能寺の変の前に、なぜ光秀は険しい山の中にある愛宕神社にわざわざ訪れたのか。ここではそんな歴史の謎に加え、愛宕神社と戦国武将の関わりについて解説します。
「本能寺の変」の前におみくじを3回も引いた?
明智光秀の像
織田信長の一代記である「信長公記」によると、光秀は本能寺の変の直前に京都の愛宕神社に戦勝祈願をし、そこでおみくじを引いたそうです。しかし、おみくじは何度引いても凶ばかり。信長亡き後、天下を取れなかった光秀の運命を示していたのかもしれません。
愛宕神社の連歌会で天下取りの決意の歌を詠んだとされる
また、光秀は愛宕神社で開かれた数十人で交互に歌を詠み連ねる「連歌会」で、「ときは今 あめが下しる 五月かな」という句を読んだことでも知られています。
「とき」は「時」と「土岐」をかけたもの、「あめ」は「雨」と「天」をかけたもので、由緒ある武士の家系、土岐氏の出身である自分が、今こそ織田信長を討って天下を取る、という野望を詠んだ歌と考えられています。
京都の愛宕神社は戦勝の神様でもあった?
それでは、なぜ光秀はこんな山奥の神社でわざわざ戦勝祈願をしたのでしょうか?その答えは、愛宕神社の御祭神にあります。
京都の愛宕神社の御祭神は、「愛宕権現(あたごごんげん)」とも呼ばれていました。「権現」とは、神仏習合の考え方のもと、仏が神に姿を変えたもの。愛宕神社の場合、前身の白雲寺の本尊である「勝軍地蔵菩薩(しょうぐんじぞうぼさつ)」が、その仏にあたります。
勝軍地蔵菩薩の像
「地蔵菩薩」というと、道端でよく見るお地蔵さんのような、穏やかで優しい仏という印象を受けるかもしれません。しかし、勝軍地蔵菩薩は全く違います。
勝軍地蔵菩薩は、悪行を働く者や煩悩を斬る仏。甲冑や武器を身に着けて馬にまたがった勇ましい姿をしており、その名の通り「戦勝」「勝運」を司るとされているんです。
直江兼続の兜
戦勝を司る仏が祀られているなら、戦国武将がこぞって信仰したというのも頷けますね。
愛宕神社を信仰した有名な戦国武将は明智光秀だけではありません。上杉景勝を支えた智将・直江兼続は、兜の大きな「愛」という文字が有名ですが、これは愛宕神社から取ったものとも言われています。
また東北の雄・伊達政宗の愛宕信仰も非常に熱心であったと言われており、側近の片倉景綱の兜にも「愛宕山大権現守護所」と書かれた愛宕山の木の札がつけられていました。愛宕神社が特に東北地方に多いのは、伊達政宗の影響が大きいと言われています。
愛宕神社の参拝は山登り?
「愛宕さん」と呼ばれ、京都で親しまれている愛宕神社。これを読んで参拝してみたくなった人もいるかもしれません。
しかし、京都の愛宕神社への参拝は決して簡単ではないんです。標高924mの愛宕山の山頂にある愛宕神社への参道は、それ自体が修行とも呼べるほどハードな道のり。山登りに行く覚悟で臨みましょう。
愛宕神社の3つの参拝ルート
京都 愛宕神社の二の鳥居
愛宕神社の参拝ルートは、表参道、月輪寺参道、大杉谷道の3つがあります。どのルートも「二の鳥居」がある清滝がスタート地点。ひたすら階段を登る、まさに修行のような険しい道のりが続きます。
愛宕神社だけを見たいなら表参道を、その他の見どころを合わせて訪れたいなら月輪寺参道を行くのがおすすめです。大杉谷道は特に細く険しい山道。滑落の危険も大きいため避けたほうが良いでしょう。
京都 愛宕神社の参道
最も一般的な登山ルートである表参道でも、清滝の登山口から山頂までは片道約2時間。参拝時間も含めて往復約5時間は必要となります。参拝は必ず午前中から、明るいうちに余裕を持って行くようにしましょう。
道中はトイレもなく、水汲み場も1カ所のみ。トイレは事前に済ませ、飲み物も忘れないようにしましょう。
愛宕神社の見どころ
修行のような愛宕神社への参拝ですが、道中には見どころも多く存在します。ここでは、そんな厳しい道のりを乗り越えた人だけが見られる、京都の愛宕神社の見どころを紹介します。
黒門
京都 愛宕神社の黒門
延々と続く参道の階段を登りきると見えてくるのが、真っ黒い門。これが京都の愛宕神社の入り口です。通称「黒門」と呼ばれるこの門は、愛宕神社の前身である白雲寺の遺構の一つだそう。黒門を抜けた先の最後の石段を登ると、愛宕神社の境内に入れます。
鉄鳥居
京都 愛宕神社の鉄鳥居
最後の石段を登ると現れるのが、鉄で作られた珍しい鳥居。重厚な作りが愛宕神社の荘厳な雰囲気を物語っています。鳥居に刻まれているのはなぜかイノシシの絵。実は、愛宕神社はイノシシと縁の深い神社なんです。それにはこんな伝説が関係しています。
愛宕神社の創始者の一人である和気清麻呂は、足をケガして歩けない中、かごに乗って宇佐八幡宮に参拝に向かっていました。すると道中で300匹のイノシシが護衛と道案内をするかのように付いてきたのです。不思議なことに、イノシシが去ると足のケガがきれいに治っていました。
和気清麻呂の不思議な伝説に加え、京都の愛宕神社の建てられた方角が、京都中心部から戌亥(いぬい)、つまり西北の場所にあることも、イノシシとのつながりの一つです。
本殿
京都 愛宕神社の本殿
「愛宕権現」と呼ばれた伊邪那美命を祀った本殿。他にも日本神話に登場する神様が5体祀られています。また、本殿の装飾にもイノシシを象った美しい彫刻が見られます。
現在の本殿は、昭和4年に改修されたものですが、令和8年に行われる60年に一度の祭り「丙午(ひのえうま)の大祭」に向けて、屋根の葺き替えなどの改修工事が進められています。
本殿をさらに奥に進むと、火の神である加具土命を祀った「若宮社」、さらに奥に進んだ最深部には、大国主命(おおくにぬしのみこと)など日本各地の神様を祀った奥宮社があります。
月輪寺(つきのわでら)
京都 月輪寺
月輪寺参道を行くと訪れることができる「月輪寺(つきのわでら)」。愛宕神社の前身である白雲寺と同時期にできたと言われる歴史あるお寺です。空也上人や法然上人といった仏教界の偉大な人物も、かつて修行に訪れたと言われています。中には数多くの重要文化財が眠っています。
空也の滝
京都 空也の滝
月輪寺から徒歩10分程度のところにある「空也の滝」。かつて空也上人がここで修行をしていたことから、こう呼ばれています。滝の落差は約15mで、滝の周囲には様々な仏像や石碑が立ち並んでいます。
月輪寺と空也の滝を合わせて訪れたいなら、行きは表参道、帰りは月輪寺参道で行くのがオススメ。
愛宕神社のイベント
最後に、愛宕神社で行われるイベントを紹介します。
千日詣(せんにちまいり)
千日詣では毎年数万人が参拝に訪れる
京都の愛宕神社が一番賑わうのが、「千日詣(せんにちまいり)」。正式名称は「千日通夜祭」といい、7月31日夜から8月1日早朝にかけて行われます。
この期間に参拝すると千日分のご利益があるとして、毎年数万人の人が参拝に訪れるんだとか。険しい参道にも関わらず、こんなに大勢の人が参拝するとは驚きです。
7月31日の夜9時と8月1日の午前2時に、それぞれゴマ焚きや舞踊などの神事が行われ、火の神に火伏せの祈りを捧げます。また、当日は愛宕山のふもとから山頂の愛宕神社までの表参道に、夜通し明かりが灯ります。
鎮火祭
神聖な火を奉納
4月24日に行われる「鎮火祭」。こちらも火の神に感謝し、火伏せを祈願するお祭り。神職の焚いた神聖な火を神に奉納します。
愛宕神社の基本情報
アクセス:京都バス「清滝」下車、徒歩(約90分~120分)
住所:〒616-8458 京都市右京区嵯峨愛宕町1
電話番号:075-861-0658
営業時間:9:00~16:00(冬期は15:00まで)
定休日:なし
公式サイト:愛宕神社
京都最高峰の霊山でパワーを感じよう
今回は京都最高峰の霊山、愛宕神社について紹介しました。修行とも言える険しい道のりを越えて参拝すれば、きっとありがたいご利益が授かれることでしょう。体力に自身のある方は、明智光秀も頼ったというその強力なパワーを感じに、ぜひ京都の愛宕神社を訪れてみてはいかがでしょうか。