満月や三日月、新月など、見え方によって異なる名前が付けられている「月」。満ち欠けによって毎日見え方が変わり、さまざまな姿を楽しむことができます。
実はよく聞く名前以外にも、月には多くの名前が付けられていることをご存知ですか?今回は、満ち欠けによって異なる月の名前や毎月変わる満月の呼び名、月の豆知識を紹介していきます。
[満月]の呼び名いろいろ
満月
日本での呼び名
●望月(もちづき)
欠けるところがない月。平安時代の貴族・藤原道長(ふじわらのみちなが)が詠んだ「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」という和歌に用いられていることで有名。
●明月(めいげつ)
曇りなく澄み渡った満月のこと
●名月(めいげつ)
「中秋の名月」=太陰暦8月15日の月のことを指します。名月の出る夜のことを「十五夜」と呼びます。
北米での呼び名
北米では、1カ月ごとに満月の呼び名が変わります。それぞれ、その時期によくある出来事にちなんだ名前がつけられています。
●1月:Wolf Moon(ウルフムーン/狼月)
真冬になって食料がななった狼が空腹で遠吠えをするから
●2月 Snow Moon(スノームーン/雪月)
北米では雪の日が多い季節であるため
●3月 Worm Moon(ワームムーン/芋虫月)
冬が終わりに近づき、雪の上に虫が這った跡が現れるから
●4月 Pink Moon(ピンクムーン/桃色月)
草花が咲く季節だから
●5月 Flower Moon(フラワームーン/花月)
多くの花が咲く季節だから
●6月 Strawberry Moon(ストロベリームーン/苺月)
北米では6月にイチゴの収穫期を迎えるから
●7月 Buck Moon(バックムーン/男鹿月)
「Buck」は雄ジカを表します。7月は雄ジカが角を落とす時期であるので「Buck Moon」と名付けられました
●8月 Sturgeon Moon(スタージェンムーン/チョウザメ月)
「Sturgeon」はチョウザメのこと。北米では8月はチョウザメ豊漁の時期です
●9月 Harvest Moon(ハーベストムーン/収穫月)
作物を収穫する時期だから
●10月 Hunter’s Moon(ハンターズムーン/狩猟月)
狩猟に適した時期だから
●11月 Beaver Moon(ビーバームーン/ビーバー月)
ビーバーが巣作りに勤しむ(いそしむ)時期だから
●12月 Cold Moon(コールドムーン/寒月)
冬が到来する時期だから
[三日月]の呼び名いろいろ
三日月
●眉月(まゆづき・びげつ)
三日月が眉のような細い形をしているため。
●若月(みかづき・じゃくげつ)
「若い月」という意味で、三日月の別名。奈良時代の貴族・大伴家持(おおとものやかもち)が万葉集に収録された歌の中で「ふりさけて若月(みかづき)見れば一目見し人の眉引思ほゆるかも」と詠んでいます。
●新月(しんげつ)
天文学的には、地球からは見えない月を「新月」と呼びますが、俳句の世界では三日月のことを「新月」と呼びます。
●Crescent(クレッセント)
英語での呼び方。
●Croissant(クロワッサン)
フランス語での呼び方。バターを練り込んだサクサクのパン「クロワッサン」の語源。
[月齢・満ち欠け]ごとの呼び名
月は「満月」「三日月」以外にも、満ち欠けによってさまざまな名前を持ちます。
地上からは見えない「新月」を基準として、次の新月までの経過日数を「月齢(げつれい)」という指標で表し、これが満ち欠けの目安になります。月の満ち欠けは複雑なため、月齢と満ち欠けが一致しないこともありますが、ひとつの目安にはなります。
ここでは目安となる月齢とともに、満ち欠けで変わるさまざまな月の名前を紹介します。
月の月齢と満ち欠け
月齢0:新月(しんげつ)・朔(さく)
新月の日は星が一層輝く
月の姿が見えない「新月」。新月の日に月が見えなくなるのは、地球から見て月と太陽と同じ方向に来るため。月に反射した太陽の光が地球に届かず、月の暗い部分が地球に向くので月が見えなくなります。
ちなみに、地球から見て太陽が月の裏側に入って一直線上に並ぶと起こるのが「日食」。地球と月と太陽が一直線上になくても新月にはなるので、日食と新月は別のものです。
月齢2:繊月(せんげつ)
繊月が見えたら良いことがあるかも
繊維のように細く見える「繊月(せんげつ)」。肉眼ではボヤけた感じに見えます。発見できるのは日没の前後1時間ほどの空がまだ明るい時間帯。繊月を見つけられたら、何か良いことがあるかもしれませんね。
月齢3:三日月(みかづき)
夜空に輝く三日月
三日月くらいになれば肉眼でもはっきりと確認できます。実は三日月と呼ばれるのは、月の右側が見えている(左側が欠けている)時だけです。後半で紹介しますが、左側のみが見える場合には「二十六夜の月」と呼ばれます。
三日月という言葉は「朏(ひ)」という漢字で表されることも。この漢字が使われているのは、新月の後で最初に月の姿が出てくることを表すためだそうです。
月齢7・8:上弦の月(じょうげんのつき)
上弦の月は右半分が見える
月の右半分が見える「上弦の月」。形が弦(つる)を張った弓に似ていることから「弦」という漢字が使われています。月の右側が見える状態が上弦の月と呼ばれる由来は2つ。1つ目は旧暦によるもので、2つ目は月が沈む際の向きによるものです。
1つ目の旧暦による説は、月の満ち欠けで1カ月を定める「太陰太陽暦」を採用していたことが主な理由。太陰太陽暦では月の前半を「上」、半ばを「中」、後半を「下」と呼んでいました。ちょうど半月になるのが「上」にあたる8日ごろ。このことから右半分が見える月を上弦の月と呼ぶようになりました。
2つ目の月が沈む向きによる説は、半月の直線部分の位置に注目したもの。右側が見える半月は直線部分が上向きで沈み、左側が見える半月は直線部分が下向きで沈みます。このことから、右半分が見える月を上弦の月と呼ぶようになりました。
由来は異なりますが、いずれの説でも右側が見えるのが「上弦の月」です。
月齢9:九日月(ここのかつき)
半分より少し膨らんできた状態の月です。
月齢10:十日夜の月(とおかんやのつき)
十日夜の月が雲の隙間から光を放つ
上弦の月より少し膨らんだ「十日夜(とおかんや)の月」。旧暦の10月10日には東日本を中心に「十日夜」という収穫祭を開催。お月見よりも収穫に感謝することをメインとしています。
月齢13:十三夜月(じゅうさんやのつき)
十三夜月は満月の次に美しいとされている
満月に次いで美しいとされている「十三夜月」。月齢約13の月で、これから満ちていく縁起の良い月とされています。旧暦の9月13日の夜は月見を楽しむ慣習も。十五夜のお月見は中国から伝わったものですが、十三夜のお月見は日本で誕生したものです。
少し欠けている十三夜月を、昔の人が美しいと感じたのは日本人ならでは。完璧ではない未完成ゆえの美しさが日本人の心に響いたと考えられています。
月齢14:小望月(こもちづき)
小望月が見えたら満月はもうすぐ
望月(満月)の前夜に見られることから名付けられました。幾が近いということから、幾望(きぼう)とも呼ばれています。
月齢15:満月(まんげつ)
満月は最も美しいとされている
望月とも呼ばれ、最も美しい月とされています。英語で「Full Moon」と呼ぶことから満月という名が付きました。特に旧暦の8月15日に出る満月は、別名「中秋(ちゅうしゅう)の名月」。旧暦では7月から9月が秋にあたり、その真ん中である8月が中秋と呼ばれます。
月齢16:十六夜の月(いざよいのつき)
十六夜はためらいを表す
望月を過ぎて出ることから「既望(きぼう)」とも呼ばれています。「いざよう」とは「ためらう」という意味を表します。
月齢17:立待の月(たちまちのつき)
今か今かと待っていると現れる立待月
日没後に「今か今かと立って待つうちに月が出る」ということからその名が付きました。
月齢18:居待の月(いまちのつき)
居間で待つうちに出てくる居待月
居間などに座って、月が出るのをゆっくりと待ったことがその名の由来です。
月齢19:臥待の月(ふしまちのつき)
寝待月は寝ながら待つほどゆっくり現れる
日没後から出てくるまでの時間が長く、寝ながら待つということから名前が付きました。「寝待月(ねまちづき)」とも呼ばれています。
月齢20:更待の月(ふけまちのつき)
夜更けにようやく現れる更待月
夜更けまで待ってようやく月が出てくることから名付けられました。満月以降、1日ずつ名前が付けられている月。夜間に十分な灯りがない時代、夜闇を照らす月が徐々に欠けていき、現れるのが遅くなっていくのを惜しんでいた気持ちが伝わってくるようです。
月齢22・23:下弦の月(かげんのつき)
左側が見えるのが下弦の月
月の左半分が見える「下弦の月」。上弦の月と同じ理由から名前が付いています。真夜中に空に昇り昼ごろ沈むため、観察できるのは夜明け以降。少し早起きして、青空の中に浮かぶ下弦の月を探してみては。
月齢26:二十六夜の月(にじゅうろくやのつき)
二十六夜の月は三日月と逆になる
ちょうど三日月と左右逆に見える月で、左側が細く見える(右側が欠けている)月です。夜明けの空(有明の空)に昇ることから「有明の月(ありあけのつき)」とも呼ばれます。有明の月は、十六夜以降の月の総称としても使われます。
月齢30:三十日月(みそかづき)
三十日月は再び月が見えなくなる
再び新月に戻る頃の姿である「三十日月(みそかづき)」。旧暦の30日に見られたことからその名が付きました。月末のことを「晦日(みそか)」と呼ぶのはこのためです。三十日月は「晦日(つごもり)」と呼ばれることも。「つきこもり」が転じたもので、月が姿を見せないことを表します。
[特徴や大きさ]ごとの月の名前
ここまで、月齢によって変わる名前や1カ月ごとに異なる満月の名前を紹介してきました。実は他にも名前のついた月が存在します。ここで紹介するのは全部で4種類。1つずつ見ていきましょう。
ブルームーン
ブルームーンは青い月のことではない?
およそ3年に1度見られる「ブルームーン」。1カ月に2回満月が見える時の2番目の満月を指します。その名前から青い月を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、実は青く見えることはごく稀。その珍しさから「ありえない、滅多にない」という意味で「once in a blue moon」というフレーズが存在します。
ブルームーンは元々、アメリカの農業における暦で使われていた名称。1つの季節に4回満月がある時、3番目の満月をブルームーンと呼んでいました。1つの季節というのは、「春分、夏至、秋分、冬至」の二至二分で区別された季節のこと。現在では、1カ月で2番目に見える月をブルームーンと呼ぶのが一般的です。
2020年の10月31日に観測されていたブルームーン。次に見られるのは2023年だそうです。
ブラックムーン
ブラックムーンは2回目の新月
1カ月で2回あるうちの2度目の新月を指す「ブラックムーン」。直訳すると「黒い月」となることから、イメージしやすいかもしれません。ブラックムーンはブルームーンと同じように定義され、違いは満月か新月かという点。残念ながら新月は目で見ることはできませんが、ブラックムーンも珍しい存在です。
最後にブラックムーンが観測されたは2019年の8月30日。次にブラックムーンが観測できるは、2022年の5月30日です。
スーパームーン
最も大きく見えるスーパームーン
400日前後の周期で観測できる「スーパームーン」。定義が曖昧なため「地球と月が近ければ新月でもスーパームーンと呼ぶ」なんて意見もありますが、一般的には「その年に最も大きく見える満月」として浸透しています。次のスーパームーンは2022年の7月14日に観測できるそうです。
マイクロムーン
最も小さく見えるマイクロムーン
月と地球が最も離れた時に見える「マイクロムーン」。スーパームーンとは逆に、「その年に最も小さく見える満月」のことを指します。スーパームーンはマイクロムーンよりも約14%ほど大きく、明るさもおよそ3割増しだそう。2つを一緒に見ることはできませんが、写真に収めて比較してみると違いを実感できるかもしれませんね。
マイクロムーンには、「ミニマムーン」という別名も。直近でマイクロムーンが観測できたのは、2022年の1月18日でした。
月の豆知識
国よって見え方が異なる月の模様
月の模様は国によって見え方が違う
日本では「月にウサギがいて餅つきをしている」という話をよく耳にします。その影響により、日本では「月の模様と言えば餅をつくウサギ」というのが一般的。しかし世界では、国によって違う模様に見えるそうです。地域ごとに異なる月の模様の捉え方を紹介します。
アジアでの捉え方
アジアでは月の模様をウサギとする国が多い
●韓国:
日本と同じく餅をつくウサギに見えるそうです。
●中国:
日本と同じくウサギの模様ではあるものの、薬草を挽いているウサギ。また、大きなヒキガエルに見えるという声も。
●インド:
お釈迦様の前世の話である有名な仏教説話「ジャータカ」が存在しますが、模様はワニと言われています。
●モンゴル:
モンゴルで模様とされているのは犬。遊牧民であるモンゴル人は、家畜を追う生活をしているからと言われています。
●インドネシア:
アジアでは動物の模様とする国が多い中、インドネシアで模様とされているのは編み物をする女性です。
●ベトナム:
左側を大きな木としてイメージ。その下で休む男性の模様であるとされています。
北米・南米地域での捉え方
アメリカではワニに見えると言われることがある
●アメリカ:
横向きの女性に見えるという声がある一方で、ワニやトカゲに見えるという声も。国土が広く民族が多いからこそ、それぞれで異なる判断がされているのかもしれませんね。
●カナダ:
日本で餅つきの臼(うす)とされている部分をバケツに見立てるカナダ。そのバケツを運ぼうとする少女の模様に見えると言われています。
●中南米:
中南米で月の模様とされているのはロバ。中南米では生活に欠かせない動物です。
ヨーロッパ地域での捉え方
ドイツと日本では同じように見える?
●ドイツ:
多くのヨーロッパの国では地域ごとに同じような模様とされている中、異なる見方をしているのがドイツ。薪を担ぐ男性の模様に見えるとされています。実は日本でも「二宮金次郎」に見えるという声が。遠く離れた国同士でも、同じ月を見ていることを感じられます。
●北ヨーロッパ:
北ヨーロッパで模様とされているのは本を読むおばあちゃん。高緯度であることから、カナダと似たような見え方になっているのかもしれません。
●東ヨーロッパ:
東ヨーロッパで模様として捉えられているのは、髪の長い女性や横を向いた女性。アメリカと同じような捉え方をしています。
●その他のヨーロッパ:
ヨーロッパ地域の中で最も多い捉え方がカニ。ハサミが片方だけのカニに見えるという声が多いようです。
月にまつわるおとぎ話
月にまつわるおとぎ話 かぐや姫
日本で有名なおとぎ話の「かぐや姫」。月との関わりがあるおとぎ話です。竹やぶに行ったおじいさんが見つけたのは、根本の光った不思議な竹。気になって竹を切ってみると、小さな女の子がいました。「かぐや姫」を名付けられた女の子は、おじいさんとおばあさんに大切に育てられます。
とても美しくなり、多くの若者から求婚されたかぐや姫。美しいという噂は帝(みかど)の耳にまで届き、帝からもお嫁さんに欲しいと言われます。しかしお嫁に行くつもりはないと、毎晩悲しそうに月を見上げるかぐや姫を心配するおじいさんとおばあさん。
かぐや姫に事情を聞くと、「実は私は月の世界のものです。今まで育てていただきましたが、次の満月の夜に月に帰らなければなりません。」と泣きながらに言いました。そして迎えた次の満月の夜。かぐや姫はおじいさんとおばあさんにお礼を告げ、月へと帰っていきました。
このかぐや姫を筆頭に、日本では月にまつわるおとぎ話がいくつか存在します。「お月さまに行ったウサギ」や「天人女房(てんにんにょうぼう)」、「お月さまが見ているよ」など、同じ月にまつわるおとぎ話でもその内容はさまざま。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
おわりに
今回は、月の名前や豆知識について紹介してきました。見る場所や時期によって姿が変わる月。見え方が変わったとしても、見ている月は同じものです。「遠く離れた場所でも同じように月を見ているかもしれない」と思いを馳せながら、空を見上げてみてはいかがでしょうか。