島根県松江市にある松江城は、島根観光の人気スポット。日本中にあるお城のなかでも昔ながらの木造建築で江戸時代の姿を残す「現存12天守」のひとつで、国宝にも指定されています。別名は「千鳥城」で、高さ約30mの天守からは長い歴史を耐え抜いてきた重みをひしひしと感じます。
今回は、そんな松江城の見どころや歴史をたっぷりとお届け。松江城観光では天守を見学するだけでなく、遊覧船で城の周りのお堀を巡ったり、公園内の神社で縁結びをしたりできるのです。
松江城周辺のイベント情報や観光スポットも紹介しているので、松江観光を計画している方はぜひ最後まで読んでみてください。
協力:松江観光協会/ぶらっと松江観光案内所/各掲載先の皆様
TOP写真:松江観光協会
※時間・料金など本記事に掲載の情報は2023年1月時点のものです。
松江城の観光ポイント・見どころ
松江城は、標高28mの「亀田山」という小高い山に城を築いている平山城です。山の頂上付近に天守を構え、天守をぐるりと囲むように櫓や門を配置しています。松江城公園内には神社や資料館もあり、どこから見ていくか迷ってしまうことも。まずは、松江城を観光するうえでのおすすめのポイントや、見どころを紹介します。
国宝「四重五階地下一階の天守」 外部と内部のここに注目!
地上から見上げる松江城天守(写真:島根県観光写真ギャラリー)
松江城の観光で絶対に外せない見どころは、国宝の天守です。国宝指定を目指して5年以上かけ新たな研究成果が得られたことと、タイミングよく天守が完成したときに使った「祈祷札」が見つかったため、完成年が明確にわかる歴史的価値が高い建物として、2015年に国宝指定されました。
外観は高さ約30mの堂々とした佇まい。安土城のように下層3階の上に、2階建ての物見(望楼)が乗っている点に大きな特徴があります。天守の一番上には日本最大の木造の鯱(しゃちほこ)、各層の屋根の隅にはそれぞれ表情が異なる鬼瓦を取り付けています。
松江城の特徴は、防御力の高さ。天守の出入り口である「付櫓(つけやぐら)」には、入ったとたん3度にわたって鉄砲攻撃を受ける仕掛けが設けられており、絶対に敵を入れないような造りになっています。
松江城の地階にある井戸
もし天守が敵に囲まれてしまっても水を確保できるよう、建物内には深さ24mの井戸があるのも特徴。現在は井戸の半分を埋めているため水をくむことはできませんが、天守内で当時のものを見ることが可能です。
ほかにも1階と4階の階段には引き戸を隠しているので、いざという時は敵が上まで来ないように開口部を塞ぐことができます。
天守の内側では、当時の侍になった気分で隅々まで目を凝らしながら見学してみてください。
松江城天守4階の階段
二の丸跡の「松江神社」「興雲閣」
松江城の天守を出て、「一ノ門跡」と「二ノ門跡」を抜けた先にある「二の丸跡」にも見どころがあります。初めて松江城を訪れる方におすすめなのが、松江神社と興雲閣です。
松江神社の鳥居と社殿(写真:編集部)
松江神社は、松江藩開府の祖・堀尾吉晴(ほりお よしはる)公や、松江藩の藩主であった松平直政(まつだいら なおまさ)公、松平治郷(まつだいら はるさと)公などを祀っている神社。松江城の国宝指定の決め手となった、「祈祷札」が見つかった場所でもあります。
松江市が縁結びの地であることにちなんで、かわいいハート型の絵馬を奉納することもできますよ。良縁を結びたい方はぜひ立ち寄ってみてください。(絵馬の購入は、「興雲閣」か「ぶらっと松江観光案内所」で)
興雲閣内の階段
松江神社のすぐ隣には、1903年に完成した純白の洋館、興雲閣が佇んでいます。明治天皇の山陰行幸を想定して建てられただけあって、ヨーロッパの宮殿風の内装はとても華やかです。
現在は建物内を自由に散策したり、「亀田山喫茶室」というカフェで食事をしたりできます。亀田山喫茶室のメニューは、ケーキやパフェといったスイーツのほか、昔ながらのナポリタンやカレーライスなど。歩き疲れたときは、明治モダンな空間でひと息つくのもおすすめです。
石垣
「算木積み」になっている松江城の石垣
お城に興味がある方や歴史好きの方が必見なのが、石垣です。松江城の天守では、「打ち込みはぎ」と「切り込みはぎ」という石垣の積み方を採用しています。
ぱっと見では表面がガタガタしていて「本当に大丈夫?」と思ってしまいますが、実は意外と頑丈。築城してから400年以上、大きな天守を支えてきました。星の刻印を施している石もあるので、目を凝らしながら探してみましょう!
石垣の隅は、どこも「算木積み」で積んであります。短い石と長い石を交互に積み重ねており、崩れにくい構造なのが特徴です。石垣からは、当時の人々の知恵と高い技術が伺えますよ。
ぐるっと松江堀川めぐり
松江城周囲のお堀を船で巡ります(写真:松江観光協会)
のんびり松江城を観光したいときは、お堀を船で巡る「ぐるっと松江堀川めぐり」も要チェック。大手前船乗場から、所要時間50分ほどでお堀をぐるりと一周できます。
船の上から木々の合間にひょっこりと顔を覗かせる天守を眺めるのは、また格別です。お堀にかかっている橋の下もくぐるので、ちょっとした冒険気分も楽しめますよ。
お堀沿いには桜の木も植わっており、春はお花見ができます。夏は船に風鈴を飾るほか、秋はライトアップイベント「松江水燈路」に合わせて夜間運航を実施。冬はこたつ船が登場します。季節ごとに違った風情を堪能できるのも、「ぐるっと松江堀川めぐり」の魅力です。
城山公園内の見どころ
城山稲荷神社にあるきつね像
松江城を中心とした松江城山公園には、まだまだ見どころが盛りだくさん。公園内には桜・ツツジ・ツバキなどが植わっており、春は大勢の花見客でにぎわいます。日本らしさを感じられる花と一緒に、松江城の天守を撮影するのもおすすめです。
稲荷橋の近くにある城山稲荷神社は、木々に囲まれた階段をのぼった先に境内がある神秘的なスポットです。境内には本殿のほか、小さなきつね像がたくさん置かれた祠がいくつもあり、独特の雰囲気を醸し出しています。
10年に一度の「ホーランエンヤ」
城山稲荷神社では10年に一度、日本三大船神事のひとつである「ホーランエンヤ」というお祭りが執り行われます。城山稲荷神社の御神霊を、離れた場所にある阿太加夜神社まで船で運ぶ「渡御祭(とぎょさい)」のほか3つの祭りで構成される大規模な神事です。
渡御際のときは、神輿船や神器船など約100隻の大船団が大橋川を航行します。ホーランエンヤが最後に執り行われたのは2019年5月。次回は2029年に開催する予定です。
御城印
松江城の御城印(写真提供:ぶらっと松江観光案内所)
御城印とは、お城を訪れた記念証のようなものです。デザインは神社仏閣でもらえる御朱印と似ていますが、特に宗教的な意味合いは含まれていません。
松江城でも御城印を販売しているので、興味のある方は要チェック! 松江城の歴代城主である、堀尾氏・京極氏・松平氏の家紋を背景に押しており、松江城ならではの特別感のあるデザインです。ほかにも、島根県の観光マスコットキャラクター・しまねっこの御城印や、自動販売機で購入できる「古城印」「武将印」など珍しいものもあります。
松江城山公園内にある「ぶらっと松江観光案内所」では、路上詩人・書家のこーたさんが1枚1枚書き下ろした御城印も販売中です。温かみのある筆致と言葉で、ほっと肩の力が抜けるかもしれませんよ。
松江城の歴史
松江城の初代城主である堀尾忠氏(ほりお ただうじ)は、関ヶ原の戦いで功績をあげ、1600年に松江藩を治めることになりました。当初は島根県安来市の山中にある月山富田城(がっさんとだじょう)を使用していたのですが、軍事・政治・経済面の理由から城の場所を移転することを計画。松江城が完成したのは、1611年頃です。
1638年からは京極氏に続いて松平氏が松江藩を治めるようになり、明治時代に廃城令が発令されるまで松江城は松江の政治の中心地となりました。ここでは、そんな松江城の歴史をざっくりと解説します。
築城~廃藩置県まで
1600年に松江藩を得た堀尾忠氏でしたが、1604年に亡くなり、息子の忠晴(ただはる)がわずか6歳で藩主の座につきました。松江城の築城が始まったのは1607年、完成したのは1611年の正月以前だったので、初代藩主の忠氏は松江城を見ることはなかったのです。
堀尾忠晴が亡くなった後、堀尾氏には跡取りがいなかったため、1634年からは京極忠高(きょうごく ただたか)が松江藩を治めることに。しかし忠高の跡継ぎが京極氏にはおらず、4年後の1638年からは松平氏が城主になりました。
松平氏の治世は、明治時代の廃藩置県まで約230年続くことになります。主な城主には、松江藩松平家初代の松平直政(まつだいら なおまさ)と、第7代の松平治郷(まつだいら はるさと)が挙げられます。
松平直政は大阪冬の陣にも参戦しており、敵将の真田幸村(さなだゆきむら)は彼の雄姿をたたえ、軍扇を投げ与えたとの逸話が残っています。松平治郷は財政難に陥った松江藩を立て直し、現在も大勢の人に親しまれている人物です。
松江城の危機
廃藩置県の後、1875年には松江城にも廃城令が下ったため、櫓や門、御殿などは取り壊されたり売り払われたりしました。天守も当時の値段で180円で売却されようとしましたが、一人の旧藩士と地元の豪農親子の3人が協力し、なんとか買い戻します。
1894年に明治の大修理を行うほか、1903年には擬洋風建物の「工芸品陳列所」(現在の興雲閣)を建てたりして、少しずつ整備していきました。1935年には国宝に指定され、松江城は消失の危機を免れたのです。
第二次世界大戦後
戦後間もない1950~1955年にかけての「昭和の大修理」では、松江城を解体して修理を行いました。また1950年には文化財の保存関連の法改正があったため、松江城は国宝ではなく重要文化財という位置付けになります。
再度国宝に指定されたのは、2015年と意外に最近のことです。二の丸跡にある松江神社から「祈祷札」が見つかり、松江城の完成年が明らかになったことと、新たな研究成果が得られたため国宝に返り咲きました。
基本情報・アクセス・駐車場情報
●住所 :島根県松江市殿町1-5
●開館時間:4月1日〜9月30日 8:30〜18:30
10月1日〜3月31日 8:30〜17:00
※入場は閉館30分前まで
●休館 :無休
●入場料 :大人680円
●アクセス:
①JR山陰本線「松江」駅からぐるっと松江レイクラインバスに乗車、「国宝松江城(大手前)」バス停下車
②一畑電鉄「しんじ湖温泉」駅から松江市営バス・北循環線内回りに乗車、「国宝松江城県庁前」バス停下車
●駐車場 :大手前駐車場(67台)、城山西駐車場(158台)ほか
※松江城周辺の駐車場は松江観光協会公式サイト松江の便利情報にまとまっていますよ
●公式サイト:国宝 松江城
※2023年1月時点の情報です。
国宝 松江城の周辺イベント情報
松江城を訪れるときは、季節ごとのイベントも要チェック! 日本らしい四季を感じられるお祭りや、みんなでワイワイ盛り上がれるイベントを開催しています。イベントの開催時期と合わせて、松江観光のプランを練るのもおすすめですよ。
お城まつり(3月下旬〜4月上旬)
桜とともにライトアップされた松江城天守
お城まつりは、桜の開花時期に合わせて開催しているお花見イベントです。特設ステージで催し物があるほか、夜間は桜のライトアップを行います。「日本のさくら名所100選」に選ばれるほどの絶景をぜひご覧あれ。
参考サイト:松江城お城まつり(水の都 松江)/国宝 松江城
松江武者行列(4月上旬)
武者や侍女に扮した人々約160名が松江城を目指します(写真:松江観光協会)
松江武者行列は、松江の町の礎を作った堀尾吉晴(ほりお よしはる)公が、一行を引き連れて松江城へ入城する様子を再現したイベントです。勇壮な武者や色鮮やかな姫などに扮した人々が、町を練り歩いたり演武を披露したりします。
公式サイト:松江武者行列
松江水郷祭(8月上旬)
開催前には有料観覧席のチケット販売もあります(写真:松江観光協会)
松江水郷祭は、松江城の目の前にある宍道湖(しんじこ)で開催している花火大会です。打ち上げる花火の数は1万発以上と西日本最大級! 花火をバックに、松江城の天守の写真が撮れるかもしれませんよ。
公式サイト:松江水郷祭
松江水燈路(まつえすいとうろ)(9月下旬〜10月中旬予定)
松江水燈路の開催日には堀川遊覧船の夜間運航もあります(写真:松江観光協会)
松江水燈路は、松江城山公園と周辺地域を一斉にライトアップする秋の一大イベントです。ぼんやりと柔らかい明りが灯る行燈を、ずらりと並べた様子はとても幻想的。松江城天守のライトアップや、屋台の出店なども実施しています。
公式サイト:松江水燈路
松江城大茶会(10月末頃予定)
松江城大茶会は、松江城周辺で本格的な茶道のお茶会に参加できるイベントです。茶道に馴染みがない方も気軽に体験できますよ。おいしいお茶とお菓子をいただきながら、松江の茶の湯文化を満喫しましょう。
参考サイト:第39回松江城大茶会(水の都 松江)
松江祭鼕行列(まつえさいどうぎょうれつ)(10月第3日曜)
笛やチャンガラのお囃子に合わせ太鼓を打ち鳴らします(写真:松江観光協会)
松江祭鼕行列は、「鼕(どう)」という太鼓を打ち鳴らしながら、地元の人たちが松江市内を練り歩くイベントです。鼕をあつらえている、大きな山車屋台も必見。団体ごとに装飾や衣装が異なるので、行列の最初から最後まで見ていたくなります。
公式サイト:松江祭鼕行列
国宝松江城マラソン(12月上旬)
国宝松江城マラソンは、松江市内をぐるりと巡るマラソン大会です。ランナーは松江市の山や湖、街並みなど、次々と変わる景色を眺めながら走れます。ボランティアスタッフや応援で参加するのも、一体感があって楽しいですよ。
公式サイト:国宝松江城マラソン
周辺情報
せっかく松江市まで訪れたのですから、松江城以外の観光地も巡っていきましょう! ここでは、松江城周辺にあるおすすめスポットを紹介します。
松江歴史館
松江歴史館の展示室(写真:松江観光協会)
松江歴史館は、カラフルなパネルや昔使っていた本物の道具などを見ながら、松江市の歴史を学べるスポットです。外観は武家屋敷をイメージしており、江戸時代の趣を感じられます。松江城とセットで訪れると、より松江への理解が深まりますよ。
住所:島根県松江市殿町279
公式サイト:松江歴史館
塩見縄手
風情ある家屋が続く塩見縄手
塩見縄手は、松江城のお堀に沿って武家屋敷風の家屋が並んでおり、城下町らしい景色が見られるスポットです。途中に「ハートのくぐり松」という変わった形の松があるので、身をかがめながらくぐってみてください。
住所:島根県松江市北堀町周辺
参考サイト:塩見縄手(水の都 松江)
小泉八雲旧居
旧居内には小泉八雲が使っていた机も残されています(写真:編集部)
小泉八雲旧居は、松江市に在住していた小泉八雲が実際に住んでいた武家屋敷です。小泉八雲はギリシャ出身で、のちに日本国籍を取得して日本名を名乗りました。『雪女』や『耳なし芳一のはなし』の作者がどのような場所で生活していたか、ちょっと覗いてみましょう。
●住所:島根県松江市北堀町315
●公式サイト:国指定史跡 小泉八雲旧居(ヘルン旧居)
小泉八雲記念館
小泉八雲記念館の展示室内(写真:編集部)
小泉八雲記念館は、小泉八雲旧居のすぐ隣にある資料館です。小泉八雲が使用していた机と椅子や、愛用の衣類、メモなどを展示しています。定期的に企画展やイベントも開催しています。
●住所:島根県松江市奥谷町322
●公式サイト:小泉八雲記念館
宍道湖(夕日スポットは「岸公園」「宍道湖夕日スポット とるぱ」など)
夕方の宍道湖。湖面に夕日が映ります(写真:松江観光協会)
宍道湖は、松江城のすぐ近くにある日本で7番目に大きな湖です。湖の向こう側へ沈んでいく夕日が有名で、「岸公園」と「宍道湖夕日スポット とるぱ」からは特に美しい景色が見られますよ。
参考サイト:宍道湖(水の都 松江)
島根県立美術館
島根県立美術館は宍道湖に面した場所にあります(写真:島根県観光写真ギャラリー)
島根県立美術館は、ワールドクラスの北斎コレクションをはじめ、絵画・写真・彫刻など幅広いジャンルの作品を約7400点所蔵している美術館です。3~9月は日没後30分まで開館しており、屋外や2階の展望テラスからは宍道湖のサンセットが眺められます。
●住所:島根県松江市袖師町1-5
●公式サイト:島根県立美術館
まとめ
松江城は「現存12天守」のひとつで、国宝に指定されている見どころ盛りだくさんのお城です。松江城山公園の敷地内には神社・洋館・遊覧船などもあり、時間を忘れてあちこち見て回れそう。松江城で開催しているイベントや、周辺の観光スポットも組み合わせて、思い出に残る旅行にしてくださいね!
Text:haharuno Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA
参考文献:『ビジュアル事典 日本の城』(三浦正幸 監修/岩崎書店)、『城! 105 2巻』(日本城郭協会 監修/フレーベル館)、『これだけは知っておきたい 教科書に出てくる日本の城 西日本編』(これだけは知っておきたい教科書に出てくる日本の城編集委員会/汐文社)、各種パンフレット