毎年夏になるとやって来るお盆。盆棚や盆提灯などの飾りつけ、供物の準備など、なにかと気忙しくなる時期です。近年は、家族構成や住宅環境の多様化などのため、昔ながらのやり方でお盆を迎えることが以前よりも難しくなっている傾向があります。
そのせいか、お盆のしきたりや迎え火・送り火のやり方を「実はよく知らない」という方も増えているのではないでしょうか。また、地域によってお盆の日程が変わったり、ご先祖様をお迎えする方法が違ったりするのも不思議ですよね。
そこで今回は、2024年のお盆の日程、迎え火・送り火のやり方や意味などを幅広く紹介します。「いまさら誰にも聞けずにいた」という方は、ぜひ参考にしてください。
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【お盆】2024年はいつ?何をする日?
お盆の日程は地域によって違いがあります。おもに7月または8月に行われるのが一般的です。同じ日本国内でありながら、お盆の日程が地域ごとに変わっていった背景や、お盆に何をするのかを解説します。
2024年の一般的なお盆の日程
2024(令和6)年の全国的なお盆の日程は、8月13日~16日です。一般的に、新暦の「月遅れ盆」期間が企業の夏季休暇にあたります。
行事の時系列としては、まず13日に盆の入りとなります。盆の入りとは、あの世から帰ってくるご先祖様の霊を迎える大切な日です。
山口県萩市の大照院の送り火
そして16日になると、あの世へ帰るご先祖様をお見送りするため、各地で盆送りや精霊流しなどが行われます。地域によっては、盆送りや精霊流しが15日になることもあるようです。
「お盆」と「年忌」は同じ?
年忌は、亡くなったあと数年間にわたり巡ってくる祥月命日(しょうつきめいにち)のことで、お盆とは異なります。
祥月命日とは、故人が亡くなった月日と同じ日のことをさします。命日や月命日と混同されがちですが、命日は、故人が亡くなった当日のみを指す言葉。月命日は、故人が亡くなった日と同じ日付けを指し、毎月訪れます。
いずれも故人をしのぶ大切な日です
祥月命日は年に一度訪れる特別な日で、僧侶や親戚を招待し、ご先祖様を供養するための法要が行われます。周忌や回忌、年回と呼ばれることも。
毎年訪れるお盆とは違い、年忌は法要を行う年が決められています。年回表とも呼ばれる「法事早見表」を参考に、家族で法要の取り決めを行うのが一般的です。
お盆と年忌は違うものだと最初に述べましたが、「心を込めて故人の供養を行う点」においては、二つは同じといえるでしょう。
お盆の日程が地域ごとに違うのはなぜ?
お盆の日程の地域差は改暦に伴うもので、太陽暦(新暦)を採用した明治時代から、徐々に生じていったといわれています。改暦後は、旧暦と新暦の間でおよそ30日の日付の「ずれ」が生じました。そのため、地域によって新暦、旧暦それぞれにお盆を行うように分かれていったのです。
地域によってお盆の時期はさまざま
もともと、旧暦のお盆は7月15日前後。この旧暦のお盆の日にちを、新暦後も使用しているのが、都市部近郊の地域です。一方、農村部では7月の半ばころが農繁期となり、忙しいシーズンとお盆が重なります。
そのため、本来のお盆(旧暦)から30日遅れの8月15日に行う地域が増えていきます。月遅れ盆とも呼ばれ、全国的なお盆の日程として浸透していきました。また、沖縄では旧暦の太陰太陽暦を用いてお盆を行うため、毎年お盆の日程が変わっていくという特徴があります。
お盆には何をする?準備はいつから?
お盆には、手厚い供養でご先祖様をもてなしましょう。ご先祖様の霊は、お盆の期間中は現世にとどまるため、感謝の気持ちを伝えるよい機会です。
お墓も心を込めてきれいにしましょう
月初
お盆の準備は、月初めの1日から行うとよいでしょう。釜蓋朔日(かまぶたついたち)といい、この日はあの世の釜が開く日。ご先祖様が、この世に向かって出発する日といわれています。
まずは、お墓や仏壇の掃除をします。一つ一つの準備を丁寧に行うためにも、慌ただしくならないよう少しずつ準備を進めていきましょう。
お盆の入り前日か当日
盆棚を作り、供物や花、盆提灯を飾ります。供えるお花や食べ物は、故人が生前好きだったものにするとよいでしょう。
霊供膳(れいぐぜん/りょうぐぜん)や、ナスやキュウリで作った精霊馬(しょうりょううま)と精霊牛(しょうりょううし)も欠かせません。霊供膳とは、お盆や法要などの際に、仏壇へ供えるお膳のことです。白飯と一汁三菜の精進料理が基本となります。
お盆の日程には地域差がありますが、8月13日に盆の入りを迎える地域が多いようです。特に仏壇のある郊外の住宅では、盆の入りに玄関前で迎え火(後述)をする方が多いかもしれません。
お盆の終わり
ご先祖様があの世へ帰るために盆送りを行います。精霊流しと呼ぶ地域もあり、8月15日または16日に行われます。
迎え入れたときとは反対に、送り火でご先祖様の霊をお見送りしましょう。盆送りが済んだら、盆棚や供物の片づけを行います。
精霊馬・精霊牛の意味
お盆によく目にする精霊馬・精霊牛ですが、なぜ2種類いるのでしょうか。
割り箸で作った足を持つ精霊馬・精霊牛
それぞれの動物にはこんな願いが込められています。「ご先祖様がこちらへ帰ってくるときには、馬に乗って急いで来て欲しい。あの世へ戻っていくときには、牛に乗ってゆっくりと行って欲しい」……。
幼少期にお盆の準備の手伝いをしていたら、祖母がこの話を聞かせてくれました。幼心に関心したのを覚えています。
【お盆の迎え火】のやり方
いざ、お盆の迎え火をやるとなると、戸惑ってしまう方もいるかもしれません。お盆を迎える前に、再確認しておきましょう。
一般的な迎え火のやり方
迎え火は、一般的な盆の入りにあたる8月13日の夕方に行う場合が多いでしょう。玄関先や庭先で、焙烙(ほうろく)と呼ばれる素焼きのお皿にオガラ(後述)をのせ、火を灯します。
改めてオガラの意味や役割を知ると、今年のお盆は神聖な気持ちでオガラに火を灯したくなります
地域によっては、お墓で迎え火をするところもあるそうです。オガラの火で盆提灯に火を移し、自宅まで持ち帰ります。そして、用意しておいた盆提灯へ火を移すという流れ。その後は玄関先で黙とうし、火を消すのが習わしです。
迎え火の意味や役割
迎え火で使用される「オガラ」は、麻の皮をむいたもの。麻は昔から清浄なものとして扱われており、場の穢(けが)れを取り除くといわれています。迎え火は、清浄な空間でご先祖様を迎えたいという、もてなしの気持ちがよくあらわれたお盆の慣習といえるでしょう。
火をつける前のオガラ
また、迎え火にはさらに別の役割があります。燃えつづけるオガラから出た煙が、ご先祖様の霊がたどる「道しるべ」になるのです。あの世から、迷わずに里帰りできるようにという願いを込め、ご先祖様の霊を迎え入れる場所の目印として燃やされてきたオガラ。一部には「オガラの煙に乗ってご先祖様が帰ってくる」という言い伝えが残っています。
地域ごとの迎え火や送り火
日本各地には、地域の特色を色濃く残すお盆の行事が存在します。迎え火の代わりに、以下のような方法でご先祖様をお迎えする地域もあります。
福島県では、ご先祖様の霊を迎える際に両手を後ろに組み、仏さまを背負う格好でお墓から戻ります。「どっこいしょ」のかけ声で家に入り、盆棚の前では「おお重かった」といっておろす真似をするそうです。
ところ変わって和歌山県では、ご先祖様の数だけ笹舟を作ります。洗米・小豆・苧糸(からむしいと)などを乗せて海に流すと、その笹舟に乗ってご先祖様が帰ってくると言い伝えられています。洗米は文字通り、水で洗った白米のこと。苧糸とは、糸や生地の原料で、丈夫な繊維質を持つ植物から作られています。
迎え火とは反対に、ご先祖様の霊をあの世へお見送りする行事が、送り火や精霊流しです。なかでも、京都の「五山送り火」は特に有名です。京都市登録無形民俗文化財にも登録されており、毎年多くの観光客が訪れます。漆黒の闇に浮かびあがる「大」の文字は、あの世へと帰っていく霊たちを静かに見送る「京都のお盆の風物詩」といえるでしょう。
水面にゆらめく送り火が美しい灯籠流し
また、毎年8月15日に行われる長崎の「精霊流し」では、故人を象徴する特徴が盛り込まれた手作りの船を曳きながら街中を歩き、盛大な爆竹音やかけ声と共にご先祖様の霊を極楽浄土へと送り出します。
地域性がよく表れるのが、ご先祖様の霊をお見送りする際の供物ではないでしょうか。東日本では精霊馬・精霊牛が欠かせませんが、西日本の一部の地域では、精霊流しや精霊船、灯籠流しなどの水にまつわる物を使って送り火を行います。
お盆に地域性がでるのは、仏教行事に日本古来の祖霊信仰、土地の特徴などが融合し、風習が多様化していったからだと考えられています。
【お盆】の提灯について
お盆に飾る盆提灯は、帰ってくるご先祖様の霊が迷わないための目印といわれています。住宅環境によって、オガラに火を灯すのを控えている方は、盆提灯に明かりを灯して目印にするのもおすすめですよ。また、家の中の提灯に火が灯っている状態は、ご先祖様が帰ってきていることを表します。
お盆の時期になると、このようにさまざまな用途で重宝される盆提灯。盆提灯にはいくつかの種類があるのをご存じでしょうか?
置き型の盆提灯
盆提灯は、大きく次の3つのタイプに分けられます。上から吊るす御所提灯(ごしょちょうちん)、下へ置く大内行灯(おおうちあんどん)と回転行灯(かいてんあんどん)。季節の花柄や家紋を入れた提灯が一般的ですが、新盆(初盆)のときは、白提灯でご先祖様をお迎えするのが習わしです。
置き提灯や回転行灯は、取扱説明書を参考に3本足を組み立てましょう。火袋の絵柄が正面にくるようセットするのがポイントです。
また、いずれの提灯を使用する場合も、火を灯している間は周囲に危険がないかしっかりと気を配っておきましょう。心配な方は、ロウソク型の電灯などで代用するのがおすすめです。
【迎え火】新盆でのやり方
新盆(初盆)の迎え火のやり方は、通常のお盆と変わりません。ただし、初めて里帰りするご先祖様の霊は、特に手厚く供養するしきたりがあります。
新盆で使用する提灯
ところで、新盆(初盆)には専用の提灯があるのを知っていますか?初盆用の提灯は白提灯。初めての里帰りで道に迷わないための目印となります。また、亡くなって間もない霊を「清浄無垢」の意味を持つ白色でお迎えするという意味合いも込められています。
玄関先に吊るされた新盆用の提灯
迎え火の後、ご先祖様を無事にお迎えしたら、白提灯は玄関・窓際・仏壇の前などに吊るしておきましょう。本来、白提灯の役割は迎え火・送り火の提灯と同じ。13日に火を灯した後は、16日の送り火で火を消すのがならわしです。
しかし、地域によっては夜だけ火を灯したり、一日中つけたままにしたりと、さまざまな作法があるようです。また、近年は、火を使わないロウソク型の電灯を使用する家庭も増えてきています。
新盆の盆棚と供物
新盆(初盆)での盆棚の供物は、五供(ごく)を基本にそろえましょう。香・花・灯明・浄水・飲食の5つからなる五供の、一つ一つの供物の意味を紹介します。
「香」
線香のこと。香りをご先祖様に楽しんで欲しいという意味があります。また、盆棚のある空間や、拝む人を清めるともいわれています。お盆中は、毎日新しい線香をお供えしましょう。
「花」
ご先祖様の好きな花を飾りましょう。トゲがあったり、香りが強すぎたりする花は避けるのが一般的です。傷んできたら、新しいものに生けなおしましょう。
「灯明」
ロウソクの明かりや、ロウソクで灯した提灯の明かりのこと。仏教の教えでは「世の中の闇を照らす灯り」の意味があります。
「浄水」
ご霊体は喉が渇くといわれているため、新鮮な水を供えましょう。
「飲食」
家族と同じ食事を供えましょう。炊きたてのご飯を霊供膳に盛り、一汁三菜を基本に準備します。ご先祖様がすぐに食べられる状態で供えましょう。
ここでは一般的な五供を紹介しましたが、必ずしもその通りにそろえなくても大丈夫です
なお、宗派によって、五供の考え方に違いがあります。各家庭の方針に沿って準備をしてください。特に、初めてのお盆は故人の好物だった品を供え、手厚くお迎えしましょう。
五供を飾る盆棚には真菰(まこも)を敷き、しめ縄を張った後、四隅へ葉のついた青竹をくくりつけます。真菰とは、薬用成分を含む植物で編みこまれたゴザ。古事記や日本書紀にも登場するほど、古くから神聖な行事に用いられてきました。
位牌の裏側のしめ縄には、そうめん・昆布・ホオズキをぶら下げましょう。そうめんは、ご先祖様が帰るときの牛の手綱や、供物を縛って持ち帰る際に使われるという説があります。
こうした供物にも、それぞれに願いや意味が込められています。そうめんの「細く長く喜びがつづくように」、昆布の「喜んで過ごす」、提灯に見立てたホオズキの「ご先祖様が道に迷わないように」などが代表的な例です。
一見、不思議に思える供物や飾り一つ一つに、ご先祖様の霊を供養したいという真心が込められています。
【お盆の迎え火】マンションや仏壇がない家でのやり方
近隣住民に迷惑をかけてしまうことから、マンションやアパートのお住まいの方の中には、迎え火や送り火を控えている方もいるかもしれません。ベランダで行う方もいるかもしれませんが、契約違反や火事になることを防ぐためにも、事前に契約書や当日の風向きなどについて必ず確認しておきましょう。
ここからは、住宅環境に適した迎え火のやり方を紹介していきます。ベランダでオガラに火を灯す際は、近隣の方に配慮し、少量を短時間で燃やすことがポイントです。火事を起こさないよう十分に注意し、消化用の水の用意や、燃えるオガラから目を離さないことなどを意識してください。
環境がどうであれ、一番大切なのはご先祖様を大事に思う心です
オガラを使えない方は、代わりに盆提灯をご先祖様の目印にするとよいでしょう。火事の心配がないロウソク型の電灯が便利です。オガラには火をつけず、そのまま盆棚へ置いておくという方法もありますよ。
近年は、さまざまな住宅環境に対応した迎え火のためのアイテムが充実しています。オガラの形をしたロウソクもあるので、ぜひお試しを。
また、盆棚や仏壇がない家でも、テーブルの上にすだれや和紙を敷くなどし、簡易的にご先祖様のための場所を作る方法もあります。スペースが限られており、盆提灯や灯籠を飾れないという方には、コンパクトな霊前灯もおすすめです。
【お盆の迎え火】はそれぞれのスタイルで
昔から神聖な行事として扱われてきたお盆。地域によって日程に違いはあるものの、ご先祖様を供養し、敬う気持ちで過ごすことは共通しています。
最近では、住宅環境に合わせて、お盆や迎え火のスタイルも変化しつつあります。現代のお盆は、ご先祖様の霊を丁重にお迎えする姿勢はそのままに、暮らしに合ったそれぞれのやり方で無理なく過ごすというのが、大切なのかもしれませんね。
Text:藤原 勇魚 / Sakura Takahashi
Photo:PIXTA
参考文献:
『にほんの行事と四季のしつらい』(広田千悦子著/世界文化社)
『絵でつづるやさしい暮らし歳時記』(新谷尚紀監修/日本文芸社)
『日本の365日を愛おしむ−毎日が輝く生活暦−』(本間美加子著/東邦出版)
『知っておきたい日本の年中行事事典』(福田アジオ、菊池健策、山崎祐子、常光徹、福原敏男著/吉川弘文館)
参考:
年忌|コトバンク/京都五山送り火|京都観光Navi/盆提灯がよくわかる|仏壇屋 滝田商店/お墓きわめびとの会/喪主ログ/萩市観光協会公式サイト/ながさき旅ネット