日本の火祭りのひとつ「大文字焼き」。山腹に巨大な「大」の文字を松明の炎でつくる宗教的伝統行事。お盆にお迎えした先祖の御霊を再びあの世へ導くための送り火のことです。
「大文字焼き」といえば「京都五山送り火」が最も有名ですが、京都のほかにも全国各地で、個性あふれる大文字焼きが開催されているのをご存じですか?
今回は、「大文字焼き」について詳しく解説するとともに、2024年の「京都五山送り火」の最新情報と、全国の大文字焼きスポット9選を紹介します。
【大文字焼き】とは?その起源と歴史
古代から日本では火は神の象徴とされ、火焚きの行事や祭礼は、穢れを祓い、あの世とこの世をつなぐものとして行われてきました。「大文字焼き」は、あの世とこの世をつなぐお盆の精霊の送り火、また慰霊のために始まったとされています。
京都五山送り火の様子
「京都五山送り火」の起源については
・平安時代に弘法大使の空海が始めたという説
・室町時代に足利義政がわが子を弔うために始めたという説
・江戸時代の能書家の近衛信尹(このえのぶただ)により始まったという説
などがあり、はっきりした記述がありませんが、おそらく近世初頭に始められたのではないかといわれています。
【大文字焼き】2024年京都開催はいつ?
「京都五山送り火」は、2024年も例年同様、お盆最終日の8月16日(金)に開催されます。日が沈むと、京都市内をぐるりと囲む5つの山に、雄大な炎の文字が浮かび上がります。5つの送り火それぞれが京都市登録無形民俗文化財です。
京都の大文字焼きの種類
20:00に東山 如意ヶ嶽(大文字山)にある「大」の文字に点火されると、続いて松ケ崎に「妙」と「法」の文字が、西賀茂に「船形」、大北山に「大」の文字、そして嵯峨に「鳥居形」が次々にオレンジ色の炎によって浮かび上がります。
「大文字」とは、最も有名な東山の「大」の文字を指し、大北山にあるもう一つの「大」の文字は「左大文字」と呼んで区別しています。また「京都五山送り火」そのものを単に「大文字焼き」と呼ぶ場合もあります。
「京都五山送り火」基本情報
★五山送り火鑑賞マップはこちら
開催日時:2024年8月16日(金)
送り火 | 場所 | 点火場所 | 見物できるエリア |
---|---|---|---|
大字文 | 東山 如意ヶ嶽(大文字山) | 20:00~ | 鴨川付近(丸太町橋~御薗橋)、京都御苑 |
妙・法 | 松ケ崎西山
松ケ崎東山 | 20:05~ | 北山通(京都ノートルダム女子大学付近)
高野川付近(出町柳より上流)、北山通(松ヶ崎駅より東) |
船形 | 北区 西賀茂 | 20:10~ | 賀茂川付近(北山大橋〜西賀茂橋付近) |
左大文字 | 北区 大北山 | 20:15~ | 西大路通(円町~金閣寺) |
鳥居形 | 嵯峨 曼荼羅山 | 20:20~ | 渡月橋付近・松尾橋付近・広沢池 |
「京都五山送り火」見どころ
「京都五山送り火」の見どころは、京都の市街地から5つの送り火が鑑賞できること。
もともと各エリアがばらばらに行っていたお盆の行事を、一度に見物できるように整備したことで、古都京都を代表する祭りのひとつになりました。
とはいえ、5つ全ての送り火を予約なしで気軽に鑑賞できる場所は多くはありません。そんな中、地元の穴場スポットとして知られているのが「イオンモール京都五条」。屋上駐車場からは大文字、妙・法、舟形、左大文字、鳥居形の全ての送り火を一望できます。
当日は点火時間に合わせて、京都市内のネオンや広告灯などが一斉に消されます。漆黒の闇に浮かび上がる5つの送り火の炎は厳かで神秘的。その雰囲気に、きっとあなたも魅了されるでしょう。
京都五山送り火「護摩木」について
送り火の際「護摩木」に自分の名前と病名を書いて焚き上げてもらうと、病が癒えるという信仰があります。また消炭を煎じて飲むと持病が治るとか。
奉納した護摩木は、住職らがお経をあげた後、送り火の点火資材として焚き上げられます。護摩木の受付は当日まで。数に限りがあるためお早めに。
【大文字焼き】全国各地の開催情報
(青森県)雲谷大文字焼き ※2024年中止
雲谷(もや)高原夏まつり最終日の夜に開催される「雲谷大文字焼き」。山の斜面を照らす炎と夜空を彩る打ち上げ花火は、青森市街からも見ることができます。毎年8月16日、祖先の精霊を送るとともに、残された家族の「無病息災」を祈願するための行事。当日は、先着30人まで松明行列に参加することができます。
雲谷大文字焼きと花火
日時:2024年は開催中止
会場:青森県青森市雲谷(モヤヒルズ)
アクセス:JR青森駅からJRバス東北(モヤヒルズ行き)で約45分
※イベント等は中止・延期・変更となる場合があります。
(岩手県)平泉大文字送り火
岩手県の平泉では、毎年8月16日に束稲山(たばしねやま)駒形峰にて「平泉大文字送り火」を行っています。京都の東山の送り火になぞらえ、全長約100mの「大」の文字が夜空に浮かび上がります。東日本大震災物故者慰霊、藤原四代衡・源義経主従の追善、先祖代々供養のための行事です。
日時:2024年8月16日(金)20:00点火
※荒天時は8月20日に延期
会場:岩手県西磐井郡平泉町内(束稲山)
アクセス:東北本線「平泉駅」
(秋田県)大館大文字まつり
日本一の大きさと美しさを誇る大館(おおだて)の「大文字」。文字のサイズは第一画目が120m、第二画目が180m、第三画目が150m。遠くから見ても「大」の文字が美しく見えるよう、意図的に傾斜の大きな山肌に描かれています。
大館大文字まつり
夜になると、大館市内を流れる長木川エリアに約2000発の花火が打ち上げられます。同時に市の東に位置する鳳凰山に巨大な「大」 の火文字が浮かび上がり、先祖への感謝と地域の発展を祈願します。
鳳凰山の大文字焼きは、1968(昭和43)年に当時の大舘市長、石川氏の発案で実施され、従来から開催されていた花火大会とあわせて「大館大文字まつり」となりました。
日時:2024年8月11日(日祝) 20:00点火
会場:長木川河川敷花火会場
(群馬県)大島の火まつり
「大島の火まつり」の起源は古く、奈良時代(和銅年間)まで遡ります。領民から信頼が厚かった城主、羊太夫宗勝(ひつじだゆうむねかつ)が謀反の疑いをかけられ落城した際、住民たちが百八燈の文字を捧げて、城主の御霊を祭るとともに、住民の願いを込めて行ったのが始まりです。
毎年8月16日、山肌に浮かぶ送り火と、1000発の花火が富岡の夜空を彩ります。また送り火の文字は毎年変わり、当日まで誰にもわかりません。祭りの当日、地元の人たちがその年にちなんだ文字を決定するからです。
昨年の文字には、景気の上昇を願って「上」が選ばれました。2024年はいったいどんな文字が選ばれるのでしょうか?
日時:2024年8月16日(金)19:30点火
会場:群馬県富岡市田島
アクセス:上信電鉄「上州一ノ宮駅」から車で約10分
(神奈川県)箱根強羅温泉大文字焼
箱根三大祭りのひとつ、「箱根強羅(ごうら)温泉大文字焼」は、箱根の夏の風物詩として開催100回を超える歴史ある祭事。1921(大正10)年に避暑で箱根を訪れる観光客を楽しませるために始まりました。現在は箱根全山の有縁無縁の精霊の冥福を祈り、うら盆の送り火として開催されています。
点火前の箱根強羅温泉大文字焼
見どころは、明星ヶ岳の山腹に燃え上がる雄大な大文字焼きと、美しい花火が同時に楽しめること。箱根の夜空が幻想的な光に包まれます。2023年からは数十年ぶりに強羅音頭が復活し、さらに盛り上がりを見せることでしょう。
日時:2024年8月16日(金)19:30点火
会場:神奈川県足柄下郡箱根町強羅
アクセス:箱根登山鉄道「強羅温泉駅」
箱根強羅公園・箱根ロープウェイの早雲山駅周辺からも見ることができます。
(山梨県)甲斐いちのみや大文字焼き
「甲斐いちのみや大文字焼き」は、江戸時代にお盆の送り火として行われていた行事を、約150年ぶりに復活させた笛吹市一宮町の祭り。大文字焼きの前々日、8月14日(水)に露天出店やステージイベントなどを伴う前夜祭が開催された後、大文字焼き当日には花火の打ち上げとともに祭りのクライマックスを迎えます。
にぎやかな甲斐いちのみや大文字焼き
祭りのメインイベントはもちろん大文字焼き。毎年8月16日に山の斜面に巨大な「大」の字が浮かび上がります。以前は松明による点火だったのですが、2017年からは電気の点灯のみとなっています。
日時:2024年8月16日(金)20:00点火
点火場所:大久保山中腹(東新居地区)
会場:いちのみや桃の里ふれあい文化館前
(山梨県笛吹市一宮町末木921-1)
※イベントは2024年8月14日(水)~16日(金)19:00~22:00
(大阪府)がんがら火祭り
「がんがら火祭り」は、江戸時代から大阪府池田市に伝わる伝統的な火祭り。起源は1644(正保元)年「火難厄除け」「家内安全」を願い始まったとされています。2010年1月には府の無形民俗文化財にも指定された貴重な祭事です。
御神火と呼ばれる大きな松明を持って練り歩く青年たち
見どころは、池田市のシンボル五月山の斜面に燃え上がる大文字と大一文字。さらに愛宕神社から移した100㎏にもなる御神火が市内を約3kmにわたって練り歩きます。日が落ちた町中に激しく燃え上がる大松明の炎、その熱気と迫力に圧倒されることでしょう。
日時:2024年8月24日(土)19:30〜22:00
会場:大阪府池田市綾羽
アクセス:能勢電鉄「絹延橋駅」、阪急電鉄「池田駅」
(奈良県)奈良大文字送り火
奈良大文字送り火は、戦没者慰霊のため1960(昭和35)年に始まりました。毎年終戦記念日である8月15日に行われ、現在は災害などで亡くなった方々の慰霊とともに、世界平和を祈る行事となっています。
若草山の南側、高円山の中腹に浮かび上がる「大」の文字は、日本最大級の大きさを誇り、第一画目が109m、第二画目が164m、第三画目が128mにもなります。文字を作る火床の数は、煩悩の数と同じく108基。
奈良公園の浮見堂越しに見る大文字送り火が人気
送り火は、平城宮跡や奈良公園一帯など、市内各所から見ることができます。
日時:2024年8月15日(木)20:00点火
会場:奈良県奈良市高円山
アクセス:近鉄「奈良駅」
(高知県)四万十の大文字の送り火
高知の小京都と呼ばれる四万十市間崎地区の盆行事。あたりが暗くなると、十代地山の中腹に約25m四方のオレンジ色の大文字の炎が浮かび上がります。
その歴史は古く、約500年前に応仁の乱を逃れこの地に下った一條教房の息子、房家が、教房と祖父兼良の精霊を慰めるため「京都五山送り火」にならって始めたといわれています。
日時:2024年8月19日(月)19:00点火
会場:高知県四万十市間崎
アクセス:土佐くろしお鉄道「中村駅」より車で約25分
まとめ
「京都五山送り火」で有名な「大文字焼き」は、お盆に先祖の御霊をお送りするための伝統行事。暗闇に浮かび上がる巨大な炎の文字は幻想的で人々の心を動かします。
実は、「大文字焼き」は京都以外にも日本全国で行われています。花火大会や盆踊りと組み合わせたものや、その年を表す文字を当日に選び、送り火を作る地域もあります。
2024年も各地で個性豊かな大文字焼きが開催される予定。気になったら、お盆休みに足を運んでみるのもいいですね。
Text:mauimana01 Edit:Sakura Takahashi
Photo:PIXTA(特記ないもの)
参考文献:
『絵でつづるやさしい暮らし歳時記』(新谷尚紀監修/日本文芸社)
『日本の365日を愛おしむ−毎日が輝く生活暦−』(本間美加子著/東邦出版)
『知っておきたい日本の年中行事事典』(福田アジオ、菊池健策、山崎祐子、常光徹、福原敏男著/吉川弘文館)
参考:
京都観光オフィシャルサイト/京都観光Naviぷらす/大文字五山の送り火|京都市/京都新聞/ジャパンナレッジ/全国旅行情報サイト「ジャパン・ヨンナナ・ゴー」/広報あおもり 令和5年8月1日号|マイ広報誌/ひらいずみナビ/岩手県観光ポータルサイト/大館市/大文字2023/東北のまつり/富岡市観光ホームページ/群馬県観光公式サイト/JRおでかけネット/箱根強羅観光協会/箱根町観光協会公式サイト/箱根ナビ/池田市/池田市立図書館/ふえふき観光ナビ/富士の国やまなし/Nara Travelers Guide/奈良観光.jp/四万十市観光協会/四万十市シティポロモーション/朝日新聞(2023年8月3日閲覧)/高知NEWS WEB| 日本放送協会(2023年8月3日閲覧)