日本の伝統食・納豆。栄養や健康効果だけでなく、私のようにそのおいしさの虜になっている人もいるでしょう。
この記事では、納豆大好きライターが、納豆はいつ生まれたのか・いつから食べられているのか・どんな過程で流通するようになったのか……、そんな納豆の起源や歴史について解説します。
この記事を読んで、日本の伝統食であり健康食でもある納豆について、興味を持っていただけたら幸いです。
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納豆とは?その起源や歴史に迫る
古くから日本で食べられてきた納豆。その起源と歴史に迫り、どんな流れで現在に至るまで食べられ続けてきたのかをひも解いていきます。
日本の納豆の種類
身近な糸引き納豆(写真左)、黒色が印象的な塩辛納豆(写真右上)、麹や昆布などを混ぜ込んだ五斗納豆(写真右下)
現在の日本では、多くの方が「納豆」ときくと「糸引き納豆」を思い浮かべることでしょう。
糸引き納豆は、煮た大豆に納豆菌を加えて発酵させた栄養価の高い発酵食品。スーパーなどでいつでも購入でき、栄養成分だけでなく、健康成分も多く含むため、「健康維持に役立つ」と人気です。
そんな糸引き納豆に代表される日本の納豆ですが、実はほかにも種類があることをご存知ですか?ここからは、糸引き納豆を含めた3種類の日本の納豆について説明していきます。
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糸引き納豆
納豆菌による発酵によって糸を引く納豆のことで、大きく分けて、丸大豆納豆とひきわり納豆があります。特にひきわり納豆は、江戸時代以前から青森・秋田・岩手などで作られていました。
大豆の大きさ(大粒、中粒、小粒、極小粒など)や種類(青大豆、黄大豆、赤大豆、黒大豆など)で、より細かく分類することもできます。
ちなみに、糸引き納豆に塩を混ぜ、小麦粉や片栗粉をまぶして乾燥させると、お茶うけにぴったりな「干し納豆」が出来上がります。
塩辛納豆
納豆菌ではなく、塩を加えて麴菌で発酵させた納豆で、「寺納豆」「唐納豆」とも呼ばれています。
保存性が高く、調味料のように使うことが多いです。産地では、おつまみとしても食べられます。京都の大徳寺納豆や静岡の浜納豆などが有名です。
五斗納豆
ひきわり納豆に麴菌と塩などを加えた保存性の高い納豆。山形の郷土料理で、雪割納豆として販売されています。
納豆の起源
稲わらに入った納豆
糸引き納豆よりも歴史が古いといわれる「塩辛納豆」は、中国から日本に伝わったもの。
ひきわり納豆に塩や麹を加えて作る「五斗納豆」は、その製法から、糸引き納豆より後に日本で生まれたと考えられてます。
では、私たちにとって一番身近な「糸引き納豆」は、いつどこで生まれたものなのでしょうか?ここからは、糸引き納豆の起源について説明していきます。
糸引き納豆の起源は?
実は、糸引き納豆の起源ははっきりと分かっていません。しかし現在、古文書や言い伝えなどから、糸引き納豆は日本生まれとする説が支持を集めています。
世界に数多く存在する糸引き納豆の仲間、塩を使わない「無塩発酵食品」の起源は中国の雲南省といわれています。
しかし糸引き納豆については、中国から持ち込まれたという記録がなく、かつ日本各地に残る納豆発祥にまつわる言い伝えがどれも似ていることから、日本起源のものと考えられるのです。
日本の納豆起源についての言い伝え
●飛鳥時代、聖徳太子が馬に飼料として煮豆を与えた際、残った煮豆をわらに包んでしばらく置いておいたところ、「おいしい納豆になった」というもの。
●平安時代に八幡太郎義家が出兵した際、ふいに敵襲を受けた。慌てて、食料として煮豆を俵詰めにし、馬にのせて出陣。翌日見てみると、香ばしいにおいがする納豆ができていた。
●八幡太郎義家が奥州の伝統食であった納豆に感激し、京都に帰る道すがら、作り方を各地に教えたことから広まった。「秋田」「山形」「仙台」「福島」「会津」「水戸」「東京」「近江」「京都」などは現在の納豆産地でもあり、ナットウロードと呼ばれる。
●安土桃山時代に、加藤清正の軍が朝鮮に渡った際、俵に煮豆をつめていたところ、「香ばしい納豆(※)ができた」というもの。
(※)熊本では「香ばしい豆」が「香る豆」となり、「こる豆」に変化し、昭和40年代ごろまでは納豆を「こる豆」と呼んでいたそう。また、干した納豆を「こる豆」と呼ぶ地域もある。「こる豆」は、納豆に塩を加えて小麦粉をまぶし、4日間ほど干して作る熊本の伝統保存食
どの言い伝えも、少し似ているように感じませんか?どれも内容は「煮た大豆を稲わらで包んでいたところ、芳醇な香りのする糸を引くものができ、おいしかった」というもの。
干し草を食べる馬
熊本大学や山梨県立博物館の研究により、縄文時代にはすでに日本で大豆栽培が行なわれていたことが分かっています。 昔は馬の餌に煮大豆を使っており、馬小屋には稲わらを敷いていたことから、自然と納豆ができやすい環境がそろっていたのでしょうね(※)。
(※)糸引き納豆の製法を考慮すると、昔の馬小屋では、煮豆が枯れ草や植物の葉に生息する枯草菌(納豆菌も含まれる)に触れ、納豆ができる可能性が高かった
納豆の発祥地について
現在、日本各地に納豆の発祥地とされる地域がありますが、なかでも代表的な地域を紹介します。
●秋田県取手市の金沢安本館
取手市の金沢安本館(かねざわやすもとだて)には、「おはよう納豆」で有名なヤマダフーズが「納豆発祥の地」碑を建立。実際、近年のさまざまな研究から、現在最も糸引き納豆の発祥地である可能性が高いと予想されます。
●宮城県仙台市
仙台市は「近代納豆発祥の地」といわれています。これは、衛生的な納豆の製法を確立した三浦二郎氏が、仙台で納豆を作っていたことに由来します。
●京都府京都市の京北エリア
京都市京北の常照皇寺(じょうしょうこうじ)に伝わる光厳法皇(こうごんほうおう)の伝説から、「納豆発祥の地」といわれています。当時、常照皇寺に身を寄せていた光厳法皇は、村人から献上された「わらに包まれた煮豆」が糸を引いていることに気づき、塩をかけて食べたら美味しかったそうです。
●熊本県
加藤清正の軍が朝鮮に渡った際、俵に煮豆をつめていたところ、「香ばしい納豆(こる豆=納豆)」ができたという伝説が残っています。
しかし説明してきたように、恐らく糸引き納豆は「偶然にできた食べ物」と考えられるため、どこか1カ所を発祥地として特定するのは、個人的には難しいのではと考えています。
どんなときに納豆を食べていたの?
東北地方の郷土料理・納豆餅
弥生時代にはまだ納豆の製法が解明されていませんでしたが、平安時代以降は不完全な製造方法ながら納豆が作られており、兵士や庶民たちに好まれていたようです。
昭和初期までは、納豆は東北地方におけるハレの日の特別な料理でした。当時は、正月前に納豆を作り、納豆餅や納豆汁として食べる風習があったようです。
かつては神仏に納豆をお供えする風習もありました。なお、1月7日の人日の節句(じんじつのせっく)に、七草がゆの代わりに7種の具材を入れた納豆汁を食べる風習は、現在でも山形県に残っています。
江戸時代には納豆売りがいた?
江戸時代の納豆売り(画像:『人倫訓蒙図彙』4,だるまや書店,大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション )
江戸時代の人々は納豆が大好きで、納豆ブームが起こったほどでした。最初にブームが起こったのは、当時の流行最先端・京都。
ブームと同時に、京都には「納豆売り」なる人々が出現。1690(元禄3)年に京都で発刊された『人倫訓蒙図彙(じんりんくんもうずい)』には、次のような記載があります。
(叩納豆)薄ひらたく四角にこしらへ、こまごまな菜、豆腐を添へる也。値安く、早業のもの。九月末より二月中売りに出る。富小路通四条上ル町
(現代語訳:叩納豆というのは江戸時代に納豆汁を作る前に、包丁で納豆を細かくつぶす作業のこと。叩納豆を薄く四角に成形したもの、菜っ葉等の野菜類、豆腐がセットになった商品で、値段も安く、煮れば納豆汁ができるという「納豆汁の素」という便利なもの。9月末から2月中旬まで売られる富小路通四条上ル町の商品。)
しかし、やがて京都では豆腐が流行り出し、納豆人気は下火になりました。その後、今度は江戸で納豆ブームが巻き起こったようで、当時の川柳は納豆が登場するものもたくさん。
納豆を 帯ひろどけの 人が叫び
(現代語訳:納豆売りの掛け声を聞き、急いで外に飛び出したおかみさんの服ははだけ、帯も引きずっていた)
納豆と しじみに朝寝 起こされる
(現代語訳:納豆売りとしじみ売りはどちらも早朝にやってくるので、早朝に叩き起こされる)
納豆汁
江戸では冬に納豆を包丁で叩いて、みそ汁に入れる納豆汁が大人気で、早朝から納豆売りの声で起こされていたのでしょう。
それにしても帯も結ばず買いに出るとは、よほど好まれていたのですね。そんな納豆ブームもあり、江戸時代後期になると、納豆は一年中売られるようになりました。
納豆も 叩きあきると 春がくる
(現代語訳:納豆を朝、叩く日々を続けていて、飽きた頃に春が来る)
江戸時代中期まで、納豆は秋から冬に作られる食べ物だったため、「納豆を食べ飽きた」と思う頃に春が来るという方は、意外と多かったのかもしれませんね。
また、有名な俳人も納豆にまつわる俳句を詠んでいます。
松尾芭蕉「納豆 きる音しばしまて 鉢叩」
(現代語訳:師走の夜に念仏僧が托鉢をしているので、納豆汁の準備の手を休めて、耳を澄ましてその音を聞きなさい)
与謝野蕪村「朱にめづる 根来折敷や納豆汁」
(現代語訳:朱色が美しい根来塗[ねごろぬり]の膳で出される納豆汁)
鉢叩は冬の季語で托鉢する念仏僧を指します。根来塗は鎌倉時代から室町時代にかけて、主に社寺や上流階級で使われた黒い漆塗りの上に朱色の漆を重ね塗りした什器です。
ついに!納豆製造技術の確立
納豆を安定的に量産できる時代へ
これほどまでに人々の生活に根付いていた納豆ですが、安定的かつ衛生的に納豆を製造する技術確立までには長い時間を要しました。
不衛生な環境で作られた納豆による食中毒事件も後をたたず、納豆を作るための適切な菌の発見や、衛生的かつ安定的に納豆を作る方法が望まれる……。
ここからは、そんな状況下で、どのように納豆製造技術の確立が行われたのかについて見ていきましょう。
納豆菌の発見
各地で納豆を作る菌についての研究が行われていましたが、ついに東京帝国大学農科大学の沢村真(さわむらまこと)博士が稲わらから納豆菌を分離することに成功し、Bacillus natto Sawamuraと命名します。1905(明治38)年のことでした。
納豆菌の培養と工業化
村松舜祐(まつむらしゅんすけ)博士が納豆菌の純粋培養に成功し、成瀬金太郎(なるせきんたろう)氏と共に工業的な納豆製造の礎を築きました。
松村博士の分離した納豆菌は現在でも「成瀬菌」として販売され、日本各地の納豆メーカーで使用されています。
なお、日本では、「宮城野菌」「成瀬菌」「高橋菌」の3種類が多くのメーカーで使用され、複数の菌を併用するメーカーもあるそうです。
安心安全な納豆製造
経木入りの納豆
多くの雑菌が棲息する稲わらを使って納豆を作るのは、衛生上問題があるとして、稲わら以外で納豆を作る研究をしたのが、北海道大学農学部の半沢洵(はんざわじゅん)博士と三浦二郎(みうらじろう)氏でした。
半沢博士らは、1918(大正7)年に、松村博士が純粋培養した納豆菌で作った納豆を、殺菌可能な経木(きょうぎ)(※)で包装することで、衛生的に納豆製造ができることを証明しました。
(※)経木…薄い木の板であり、日本では大和時代から使われてきた伝統的な包装材
ついに日本で安心安全な納豆の製造方法が確立されたのです。
それでも、不衛生な環境で納豆作りをする業者が後を絶たず、戦後の1948~1956年の間で食中毒事件が立て続けに起こり、死者を出すような大事件も発生。そこで納豆製造を許可制としたことで、本当に安心安全な納豆作りがはじまりました。
後年、オートフォーメンション化が進んだ工場では発泡スチロールの容器が開発され、現在に至ります。私たちが美味しく納豆を食べられるのは、彼らの功績と納豆メーカーの努力のおかげですね。
納豆の歴史博物館に行こう
ここまで、おおまかに日本の納豆の歴史を紹介してきました。
さらに深く納豆について知りたいという方は、ぜひ納豆の博物館や展示場に行ってみてはいかがでしょうか?
ここからは、納豆大好きライターおすすめの、納豆の歴史や作り方などの展示スポットを紹介します。
タカノフーズ納豆博物館
納豆の歴史や作り方など幅広い展示をしているのですが、現在、コロナの影響で工場および納豆博物館の見学や入場は休止中です。
ただし公式サイトでは、豆腐や納豆などの大豆製品の作業工程を解説したアニメーションや動画を公開中。現地での見学にも引けを取らないボリュームで、見応え抜群です。
再開が待ち遠しいですが、それまではサイト上での工場見学を楽しみましょう。
【タカノフーズ納豆博物館】
●住所:茨城県小美玉市野田1542
●公式サイト:タカノフーズの工場見学
納豆なんでも展示館
茨城県水戸市にある「水戸天狗納豆株式会社 笹沼五郎商店」が運営する、「納豆なんでも展示館」。
納豆なんでも展示館では、納豆の歴史や作り方、おいしい食べ方などの情報に関する展示を見ることができます。建物の2階が展示会場になっており、1階には納豆の直売所が。茨城観光のお土産購入先としてもおすすめです。
見学は無料ですが、団体の場合は予約必須。個人の場合は自由に見学できます。
【水戸天狗納豆株式会社 笹沼五郎商店】
●住所:茨城県水戸市三の丸3-4-30
●電話:029-225-2121(予約先)
●公式サイト:水戸天狗納豆株式会社 笹沼五郎商店
納豆を楽しむ旅に出かけましょう
この記事では、日本の納豆の起源や、人々の間に納豆が根付いた経緯や歴史などを解説しました。
秋田、宮城、京都、熊本などの発祥地や本場とされる茨城などを訪れ、ご当地納豆や納豆料理を食べるのも楽しいでしょう。
この記事で、納豆をはじめとする大豆食品に少しでも興味が湧いたり、 より毎日の食生活に納豆を取り入れようと思ったりしていただけたらうれしいです。
Text:額田善之(ぬかだ・よしゆき)
北海道と東北以外の県はすべて旅行した旅ライター。オートバイでツーリングをして名物や銘菓を食べるのが趣味のアウトドア派。岡山県出身。納豆の健康効果を紹介する個人ブログ「納豆人甚Gene」を運営中。健康や旅行、武道、キャンプなどのSEOライティング執筆を受託。少林寺拳法有段者で「武道・道場ナビ」でも執筆中。
Edit:Sakura Takahashi
Photo:PIXTA(特記ないもの)
参考文献:
渡辺杉夫『納豆入門』(日本食糧新聞社/2009年)
木山芳大『なにかとナットウ・ブック』(勁文社/1997年)
永山久夫『納豆万歳』(一二三書房/2004年)
石塚修『納豆のはなし』(大修館書店/2016年)
横山智『納豆の食文化誌』(農山漁村文化協会/2021年)
参考:
こる豆(こるまめ)|農林水産省/本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)|国立国会図書館デジタルコレクション/おかめ納豆サイエンスラボ/納豆百科事典(全国納豆協同組合連合会納豆PRセンター)/ひきわり納豆ってどんな納豆?|株式会社ヤマダフーズ/納豆発祥の地・京北|牛若納豆/平泉文化のルーツをめぐる旅(納豆伝説コース)|取手市ホームページ/納豆餅 京都府|農林水産省/日本における稲ワラ納豆の消滅|のう地/【納豆の栄養-02】豊富に含まれる健康成分「ジピコリン酸」を徹底解説!|納豆人甚Gene/【納豆のすごい効果のまとめ】健康維持に役立つ理由を徹底解説!|納豆人甚Gene