徳島県の西部「にし阿波」(美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町)では、標高1955mの「剣山」の山麓に張り付くように集落が点在しています。
険しい山々に囲まれたこのエリアは平坦な土地が少なく、米作りにはあまり向いていません。その土地柄ゆえに、そばの実や雑穀・お茶やさまざまな野菜を育て、世界的にも珍しい「傾斜地農耕」という技術が大切に受け継がれてきました。
山に張り付くような家々を眺めつつ、この集落を守ってきた人々の暮らしに思いを馳せ、山々に育まれた「祖谷そば」や野菜・ジビエなどをいただく。そんな体験ができるのが「にし阿波」の魅力でしょう。
「にし阿波」の中でも、祖谷地区は魅力的なスポットがいっぱい! 代表的なスポットを紹介しましょう。
時間に余裕のある方は一泊して、ゆっくり巡りたいですね。
※本記事に掲載の情報は2023年11月時点のものです。諸事情により変更となる場合がありますので、お出かけの際は各公式サイト・公式SNS等で最新情報をご確認ください
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祖谷地方は「源平合戦」(治承・寿永の乱。1180年~1185年)で敗北した平氏の一族・平教常(たいらののりつね)が落ち延び、源氏の追手から身を潜めたことでも知られています。車窓から見える山々は険しく、恐らく落人も「さしもの源氏もここまで追ってはこれまい!」と考えた……のでしょう。
この記事で紹介しているスポット一覧MAP
【小便小僧】─ この小僧、度胸がある!
祖谷の小便小僧
祖谷川沿いの断崖絶壁にある「小便小僧」は、谷底まで200mの断崖絶壁の上に立っています。かつてはこの場所で、道路工事の作業員や子どもが度胸試しで用を足していたことから、徳島県の彫刻家、河崎良行(かわさき りょうこう)氏の制作でこの像が建てられたのだとか。
小便小僧は柵で仕切られ、少し離れた場所から眺めることができます。くれぐれも柵を乗り越えないように、祖谷川の深い谷をバックにした「小便小僧」撮影をお楽しみください。
小便小僧
●場所:三好市池田町松尾~三好市西祖谷山村
●関連サイト:小便小僧/阿波ナビ
【ホテル祖谷温泉】─ ケーブルカーでかけ流しの源泉へ!
ケーブルカーで下っていくときの風景はこんな感じ。傾斜角42度の斜面をゆっくりと降ります
ぬめりがあり、まったりとした感触の温泉。川のせせらぎを聞きながら湯につかれます
祖谷温泉は北海道・ニセコ温泉、青森・谷地温泉とともに「日本三大秘湯」と呼ばれています。温泉の源泉は川の谷底にあり、「ホテル祖谷温泉」では全長250m、高低差170mの専用ケーブルカーで温泉場に向かいます。
ホテル祖谷温泉の泉質は、pH値9.1の「アルカリ性単純硫黄温泉」。石鹸を使わなくてもお肌がツルツルになるという、まさに「美人の湯」です。一泊したら、2度・3度と入りたいものですね。
ホテル祖谷温泉
●場所: 徳島県三好市池田町松尾松本367-28
●公式サイト:ホテル祖谷温泉
※JR大歩危駅より送迎バスあり(予約制/1日1便)。詳細はこちら:アクセス|【公式】ホテル祖谷温泉
【かずら橋夢舞台】─ 飲み物やお土産のお買い物はここで
かずら橋夢舞台ではいろいろなお土産が購入できます(写真:宮武和多哉)
屋台で焼かれていた玉こんにゃく(写真:宮武和多哉)
「かずら橋夢舞台」には豊富なお土産がそろい、山の幸を味わえる食堂「かずら橋亭」などもあります。お土産は定番の「祖谷そば」やこんにゃく餅、ご当地の味噌や醤油、徳島県の特産・すだちを使った「すだちサイダー」などもあります。また、店の前には川魚や五平餅などを売る屋台も。はるか谷底の祖谷川を眺めながらいただく、渓流育ちのヤマメ・イワナの串焼きは格別です。
かずら橋夢舞台
●場所: 徳島県三好市西祖谷山村今久保345-1
●時間:4月~11月 9:00~18:00
12月~3月 9:00~17:00
●関連サイト:かずら橋夢舞台/大歩危祖谷ナビ
※編集部しらべ
【祖谷のかずら橋】─ かつては2つの集落を繋いでいた
祖谷のかずら橋。橋を渡った先、左に50mくらい行くと、落差約40mの滝「琵琶の滝」があります(写真提供:大歩危祖谷ナビ)
川からの高さは約14mほど(写真提供:大歩危祖谷ナビ)
長さ45m、幅約2m、シラチクカズラ(※)という植物のツルで編んだ橋です。祖谷川の流れは10m以上の深い谷底にあり、両岸の集落の移動手段として架けられました。今は近くにコンクリート橋が架けられ、生活移動手段としては、役目を終えています。
※別名「サルナシ」。祖谷に自生するマタタビかの植物
祖谷のかずら橋
●場所:徳島県三好市西祖谷山村善徳162-2
●時間:年中無休 日の出~日没
●料金:大人500円 子ども400円
●関連サイト:祖谷のかずら橋/大歩危祖谷ナビ
※編集部しらべ
【つづき商店】─ そば打ち体験ができる!
つづき商店でいただく祖谷そば。そばは筆者が打ったもの(写真:宮武和多哉)
土地が狭く米の栽培が難しい祖谷では、育てやすくて短期間で実が穫れるそばの実を栽培し、長らく主食としてきました。「祖谷そば」は少し太めで、地元のそば粉を100%使った風味豊かな香りと力強い食感を楽しむことができます。
祖谷そばのお店「つづき商店」に併設している「奥祖谷めんめ塾」で、「祖谷そば」の手打ち体験(古式手打ちそば体験)ができます。(前日までの予約制)
そば打ちは、まずはそば粉を石臼でじっくり挽くところからはじまり、水を入れながら鉢の中でこねて、それを伸ばし棒で伸ばして細く切り、さっと茹でれば完成。こう書くと時間がかかりそうですが、祖谷そばのそば粉は水を入れてもまとまりやすく、この道数十年のベテランのおばあちゃんが教えてくれるので、とても簡単にできます。
伸ばして畳んだそば生地を細く切る(写真:宮武和多哉)
そばの実を石臼で引く作業は重労働で、昔はお祝い事があるたびに嫁・姑が徹夜で粉を挽いていたのだとか。一晩かかる作業の合間に歌われた「♪嫁じゃ嫁じゃと 嫁のなしょたてなよ かわい我が子も人の嫁よ サーヨイヨイヨー」という「東祖谷の粉ひき歌」を、おばあちゃんが歌ってくれる……かもしれません。手打ち体験では、石臼引きは体験するものの、ほとんどの粉は事前に準備されています。
ゆで上げて水で締めた「祖谷そば」は弾力があり、軽く噛むとそば粉の香りがふわっ、と広がります。すすって食べるだけでは気づかない、十割そば(そば粉だけで仕上げ、小麦などの〝つなぎ〟を使わない)そばの香りや旨味を味わうのもよいでしょう。
なお、「奥祖谷めんめ塾」では、「古式そば打ち体験」以外にも、フジ・アケビなどのかずら(蔓)を使ってカゴやリース、オブジェを作る「かずら工芸体験」なども行っています。それぞれの予約は、「つづき商店」への電話(0883-88-5625)、もしくは予約専用フォームからどうぞ。前日の18時まで予約可能です。
つづき商店
●場所:徳島県三好市東祖谷若林84-1
●時間:9:00~18:00
●定休:不定休
●公式サイト:つづき商店
※編集部しらべ
【落合集落】─ 奥祖谷の絶景
展望台から見る落合集落
約390mもの高低差がある山肌に70戸近い家屋や段々畑が山肌に張り付き、見事な茅葺の家や石垣を、遠くからでもしっかり確認できます。かつてはこの段々畑でとれた野菜やタバコの葉を、路線バスで池田町の市街地やタバコ工場(専売公社池田工場)に運んでいたのだとか。
祖谷川を挟んだ対岸に、落合集落を一望できる展望台があり、そこからの眺めは絵画のような美しさ。トイレも整備されています。
落合集落
●場所:徳島県三好市東祖谷中上80(落合集落展望所)
●関連サイト:落合集落/大歩危祖谷ナビ
【たばこ資料館】─ たばこの街を今に伝える
阿波池田うだつの家・たばこ資料館(写真提供:三好市)
三好市池田町(旧・三好郡池田町)は、周辺の山々で穫れるたばこを「刻みたばこ」に加工して出荷する街として発展。全盛期には100戸以上の刻みタバコ業者が軒を連ねていたそうです。たばこ産業で繁栄した裕福な商家は競って「うだつ」を建てました。「うだつ」とは隣家との間に造られた袖壁のことで、防火などの役割があります。
「阿波池田うだつの家・たばこ資料館」は、100年近くにわたって行ってきたたばこの製造工程や、たばこ産業が華やかなりし頃の帳簿や運搬具、レトロなたばこのパッケージなどを200点以上展示する資料館。かつては「阿波刻み」と呼ばれた刻みタたばこの歴史や、たばことともに発展してきた池田町の歴史を、ここで学んでいきましょう。
阿波池田うだつの家・たばこ資料館
●場所:徳島県三好市池田町マチ2465-1
●時間:9:00〜17:00
●定休:水曜、12月28日〜1月4日
●関連サイト:阿波池田うだつの家・たばこ資料館/阿波ナビ / うだつの町並み・阿波池田うだつの家たばこ資料館/大歩危祖谷ナビ
【阿波池田バスターミナル】往年の甲子園ファンには懐かしい!?
阿波池田バスターミナルにある蔦文也のレリーフ(写真:宮武和多哉)
街の中心部にある池田高校の野球部は、春・夏通算で17回も甲子園(高校野球全国大会)に出場、1987年夏・1988年春には連続で優勝を果たした強豪として知られています。一定の年代層であれば、甲子園球場で何度も流れた「♪輝く池高、われらが池高」という校歌を覚えている人も多いでしょう。「阿波池田バスターミナル」には、約40年間にわたって野球部を率いた蔦文也(つた ふみや)監督のレリーフが建てられています。
阿波池田バスターミナル
●場所:徳島県三好市池田町サラダ1612-27
●関連サイト:-
アクセス情報:祖谷には定期観光バス or 高速バス or 路線バスで行けます
バスを使った、祖谷のかずら橋までのアクセスは次の通り。なお、祖谷のかずら橋から徒歩で行けるスポットは限られています。いろいろなスポットを巡りたい方は、四国交通の定期観光バスを予約するか、車で巡るのがいいかもしれません。
高速バスの場合
祖谷への公共交通機関でのアクセスは、四国交通の高速バス「Grela(グリラ)かずら橋号」がおすすめです。「Grelaかずら橋号」は土日祝限定で、JR三ノ宮駅(兵庫県神戸市)にほど近い「神姫神戸三宮バスターミナル」〜「かずら橋夢舞台」を直通約4時間半で繋ぎます。最後の1時間少々は、温泉むすめ・祖谷メグリが観光情報をアナウンスしてくれます。徳島県内からは[アヲアヲナルトリゾート前][高速鳴門]からも乗車が可能です。
路線バスの場合
●JR阿波池田駅・阿波池田バスターミナルから
……四国交通の路線バス「祖谷線(久保行き)」に乗車。「かずら橋夢舞台」の前の道路上にある「かずら橋」停留所を経由する路線です。1日4往復、「阿波池田バスターミナル」〜「かずら橋 」停留所間の所要時間は約70分です。「かずら橋」停留所から祖谷のかずら橋までは徒歩約5分。
●JR大歩危駅から①
……四国交通の路線バス「祖谷線(久保行きまたはホテル祖谷温泉行き)」に乗車します。久保行きでは「かずら橋」停留所で下車。JR大歩危駅〜「かずら橋」停留所間の所要時間は約30分です。ホテル祖谷温泉行きでは「ホテルかずら橋」停留所で下車し、徒歩約20分。JR大歩危駅〜「ホテルかずら橋」停留所までの所要時間は約20分です。久保行きは1日4往復、ホテル祖谷温泉行きは1日3往復しています。
●JR大歩危駅から②
……三好市営バス「かずら橋・大歩危線」(かずら橋行き)も運行しています。1日2往復、JR大歩危駅〜「かずら橋」停留所間の所要は約50~60分です。
いずれも本数が少ないので、帰りの時刻には注意しましょう。
【時刻表リンク】
●四国交通路線バス:路線バス 時刻表・運賃表/四国交通株式会社
●三好市市営バス(西祖谷地区):市営バス(西祖谷地区)/三好市
おわりに
険しい山々に集落が広がる「にし阿波」の農村は、厳しい自然環境の中でも生活を営んできました、そんな「にし阿波」の風景は、日本の農村の原風景ともいえるものです。
1000年の時を経てきた「にし阿波」祖谷地区を、時間がある方は1泊・2泊して、ゆっくり巡ってみましょう。
Text:宮武和多哉(みやたけ・わたや)
鉄道全線完乗、路線バス1800系統乗車、フェリーなど船舶60航路乗船(いずれも国内・2023年現在)。47都道府県で通勤ラッシュ巻き込まれ&100km以上ドライブを経験。モードにこだわらず「乗りもの」全般をカバー。
全国で食べ歩いた駅弁・駅そば・ご当地料理は数知れず。おうちで再現レシピの作成も得意としており、NHK『さし旅』では〝再現料理人〟として指原莉乃さんと共演。
香川県高松市出身。兵庫県・大阪府・高知県・東京都・神奈川県などに在住経験あり。著書に『全国“オンリーワン”路線バスの旅(1・2)』、『路線バスで日本縦断! 乗り継ぎルート決定版』(いずれもイカロス出版)がある。
Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA