古くからの北海道の玄関口・函館。現在では新千歳空港や新函館北斗駅などにその役目を譲りがちですが、駅前に立つと、そびえる函館山と観光客でにぎわう朝市などから、独特の雰囲気を感じられます。
今回は、この函館駅から始まる函館本線の鉄道旅をご紹介します。
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TOP画像:内浦湾(噴火湾)沿いを走る函館本線キハ40形の普通列車。2022年撮影(写真:PIXTA)
※本記事に掲載の列車時刻、その他記載の情報は2024年3月18日時点のものです。また写真は2024年2月以前のものです。列車時刻含め掲載の掲載の情報は、最新の状況と異なる場合があります。お出かけの際は各公式サイト、時刻表等で最新情報をご確認ください
函館本線はどんな鉄道路線?:路線図と概要
函館本線の経路とおもな駅。青色=今回の旅で経由する駅
函館本線は函館と旭川の間を、倶知安(くっちゃん)・小樽・札幌を経由して結ぶ路線です。
そのうち渡島半島(おしまはんとう)を中心とした北海道南西部にあたる道南の区間、具体的には函館~長万部の間は、駒ヶ岳(北海道駒ヶ岳)や噴火湾などの景色を望めるほか、全国にその名を轟かせる名物駅弁が味わえる、目でも舌でも楽しめる区間です。
噴火湾沿いに走る函館本線
函館本線の起点はもちろん函館駅。函館市は人口約24万人(2024年1月時点)を誇る北海道第3の都市であり、道南最大の都市。函館朝市や函館山、その麓に広がる元町地区やベイエリア、五稜郭に湯の川温泉、さらにはトラピスチヌ修道院など観光スポットも目白押しです。
グルメも、新鮮な海産物のほか、北海道三大ラーメンの一つ・函館塩ラーメン、全国的に有名なチャイニーズチキンバーガーを販売するハンバーガーショップ「ラッキーピエロ」や、店内で調理する焼き鳥弁当が有名なコンビニ「ハセガワストア」など、函館でしか味わえないものがたくさんあります。
左:ハセガワストア ベイエリア店、右:ラッキーピエロ ベイエリア本店
1. 旅の始まりは函館駅から
旅のスタート地点、函館駅で注目したいのは駅弁。函館駅では1936(昭和11)年創業の「函館みかど」が13種類にも及ぶ豊富なラインナップの駅弁を販売しています。
定番は幕の内弁当「函館色彩幕の内」。イクラやカニが贅沢に盛り込まれた「函館大漁すし」も外せません。1966(昭和41)年の発売開始以来、人気を集め現在でもナンバーワンを誇る「鰊(にしん)みがき弁当」は、ニシンの甘露煮と数の子がご飯の上に鎮座する、素朴ながら味わい深い逸品です。鉄道の旅では、駅弁を買い込み列車に乗って楽しむのも醍醐味ではないでしょうか。
「函館みかど」の鰊(にしん)みがき弁当
2. まずは大沼公園へ
JR函館駅
それでは、出発しましょう。乗車するのは8:18発の普通列車です。
残念ながら乗車する列車は普通列車のため、「旅立ちの鐘」を聞くことはできませんが、早めにホームへ入ると、7:37発の特急列車があります。こちらの列車が出発する際には流れるので、こちらを利用して大沼公園へ先回りするのもいいでしょう。
特急北斗。「旅立ちの鐘」が聴けるのはこの列車が出発するとき(写真:筆者)
函館駅から一つ先の五稜郭駅までは、五稜郭駅〜木古内駅とを結ぶ第3セクターの鉄道「道南いさりび鉄道」も乗り入れています。五稜郭駅を出ると、上り列車が走る線路と、下り列車が走る線路の間の間隔が開き、その間にはJR貨物の車両基地・五稜郭機関区が現れます。
五稜郭機関区では、青函トンネルを挟む区間や北海道内を走る貨物列車を牽引する機関車たちの姿をみることができます。
貨物列車を牽引するDF200ディーゼル機関車
また右手の車窓からは、五稜郭駅から分岐し、東方へと進む路線として計画されたものの、完成することなく未成線となった「戸井線」の路盤なども確認できるでしょう。
函館の隣町・七飯町の七飯駅を過ぎると、線路は二手に分かれます。
一方は左手方向へ進み、新幹線の車両基地の横をすり抜ける形で新函館北斗駅へと進んでいくルートで、特急列車を含むほとんどの旅客列車がこちらを通ります。新函館北斗駅から先は急こう配を上り、仁山駅を経由して大沼駅へと至ります。
もう一方は通称「藤城線」といい、七飯駅を出ると高架橋へと駆け上がり進路を右手へと向けます。札幌方面へと向かう貨物列車と、大沼・森方面へと向かう普通列車のうち1日3本だけが走るルートです。藤城線は仁山経由の急こう配を避けるため、のちに敷かれた走りやすい線路なのです。
七飯駅から大沼駅までの二つのルート。今回の旅では左ルートを経由(地図:地理院地図Vector)
仁山付近を通過する列車の窓から見える亀田平野や函館山も美しいですが、藤城線の高架橋上を進む列車の右車窓いっぱいに広がる函館や七飯の市街地と函館山、さらには津軽海峡を望む景色は一層の魅力があります。
藤城線の線路と函館本線
今回のプランでは新函館北斗駅を経由する列車を利用していますが、時間が合えば、藤城線経由の列車を利用してみるのもいいでしょう。
二手に分かれた線路は大沼駅の手前、左車窓に小沼や駒ヶ岳の雄大なパノラマが広がる地点で再び合流します。しかしその後、大沼駅を通過すると再び函館本線は二つのルートへ分岐します。
一つは駒ヶ岳の東側を進み、鹿部駅や渡島砂原(おしまさわら)駅を通るルート。もう一つは、ほぼ全ての特急が通り、大沼公園へのアクセスも抜群な大沼公園駅を経由して駒ヶ岳の西側を通るルートです。
大沼駅から長万部方面までの二つのルート。今回の旅では左ルートへ(地図:地理院地図Vector)
観光で大沼公園を訪れる際には、大沼公園駅で下車すると便利なため、今回のプランでは大沼公園駅を経由するルートを利用します。大沼公園駅には9:13着です。
3. 大沼国定公園で途中下車
大沼国定公園は大沼・小沼・蓴菜沼(じゅんさいぬま)と、背後にそびえる駒ヶ岳とを含む国定公園で、四季折々の自然の景色を目にすることができます。公園内では沼に浮かぶ島々を散策できるよう、橋が架けられ遊歩道が整備されています。
夏季、天気がいいときの大沼国定公園
シーズンには遊覧船が運航されているほか、貸しボートの営業もありレジャーを楽しめます。列車の車窓からは、蓴菜沼を見ることはできませんが、小沼を中心に一部区間では右車窓に大沼の姿も見ることができます。
冬季、車窓から見える小沼(写真:筆者)
三つの湖沼の背後に姿をみせる駒ヶ岳は標高1131mの活火山で、渡島半島のシンボル的な存在です。1640年の大噴火で剣ヶ峰、砂原岳といった複数の急峻な頂となだらかな裾野を合わせ持った現在の姿となりました。この駒ヶ岳は、見る位置によってその見え方が全く異なります。
大沼の名物には大沼牛やわかさぎがありますが、特にオススメしたいのが「大沼だんご」。大沼公園駅近くに店を構える1905年創業の「沼の家」では、「元祖 大沼だんご」が販売されています。あん・しょうゆ、ごま・しょうゆの二つの組み合わせがあり、大沼公園散策後のおやつやお土産にピッタリです。
「沼の家」の「元祖 大沼だんご」
4. 「いかめし」で知られる森駅へ
2時間ほどの大沼公園散策を楽しんだのち、11:15発の特急列車を利用して森駅へと向かいます。所要時間は約20分。
大沼公園駅を出ると右手の茂みの奥に大沼が見え隠れし、その向こうには駒ヶ岳の姿もうかがえます。列車はクネクネとしたカーブの多い区間を走るため、駒ヶ岳も左に見えたり右に見えたりするようになります。
車窓から見る大沼(写真:筆者)
ちなみに大沼駅から渡島砂原駅経由の列車(分岐ルートのもう一方)を利用するのであれば、常に左車窓に駒ヶ岳が姿を見せ続けます。
また、沿線には間欠泉で有名な鹿部町があります。鹿部駅と鹿部町の中心市街地の間は7kmほど離れていますが、時間があれば、道の駅「しかべ間欠泉公園」を訪れるのもいいでしょう。
道の駅 しかべ間欠泉公園。しぶきを上げて間欠泉が吹き出します
5. やっぱりコレを食べないと:森のいかめし
デパートの催事でも大人気、全国的に有名な「森のいかめし」。現地でいかめしを購入するためには、森駅で一度下車しなければなりません。駅を出て左手すぐの場所に、いかめし阿部商店があります。
森駅からすぐの阿部商店。3代目社長の今井麻椰(いまい まや)さんはバスケットボールのリポーターやMCとしても活躍しています
いかめしの誕生は1941(昭和16)年、当時豊漁だったスルメイカを活用できないかと考案されました。開発当時、名産品のじゃがいもをいかに詰めるなど、試行錯誤が重ねられ、完成したのがご飯を詰めた「いかめし」でした。
きれいに洗ったいかに生米を詰めボイル、そして秘伝のタレで味付けされます。こうしてできたシンプルで素朴な味わいのいかめしは全国に多くのファンを抱えています。
阿部商店のいかめし(写真:編集部)
6. 噴火湾沿いを進む
森駅でいかめしを購入した後は、再び13:02発の特急列車に乗車して、この旅のゴール・長万部(おしゃまんべ)駅へと向かいます。長万部駅にも、言わずと知れた名物駅弁があるのです。
列車は車窓右手に見える噴火湾(別名・内浦湾)に沿って進んでいきます。噴火湾は室蘭市~渡島半島の砂原町付近に囲まれた巨大な湾で、その面積は2485㎢にも及びます。周囲に火山が多いことから名付けられ、湾内ではホタテの養殖などの漁業が盛んに行われています。
車窓から見る噴火湾と北海道駒ヶ岳(写真:筆者)
森駅を出発してすぐの区間や、落部周辺では列車も海岸線ギリギリを走っていきます。天気が良ければ右前方に有珠山(うすざん)や昭和新山が、右後方に駒ヶ岳が見える絶景の区間です。
7. これも外せない! 長万部のかにめし
森駅から特急で40分、長万部駅には13:43に到着します。
JR長万部駅に停車する函館本線
長万部駅を出てすぐ、「かなや本店」で販売されているのが、「かにめし」です。かにめしの誕生は1950年。噴火湾で大漁だった毛ガニを用いて開発されました。50種類以上の試作品を開発した結果、現在の「かにめし」が出来上がりました。
ご飯の上に載る「カニ具」は、カニの身をほぐし、たけのことともに炒ることによって独特の香ばしさとふんわり感、そしてたけのこの食感を引き出しています。そして甘辛く味付けしたしいたけが3切れ。これはカニの足をイメージしているのだとか。
付け合わせの佃煮や漬物もかなやのオリジナル。とてもいいアクセントになっています。
かなや本店のかにめし
おわりに
今回は古くからの北海道の玄関・函館を起点とした鉄道の旅をご紹介しました。景色にグルメに盛りだくさんの区間ですが、北海道には今回ご紹介した路線に負けないほどの魅力を持った路線がたくさんあります。今後もご紹介していけたらと思います。
記事中に登場する店舗情報
駅弁の函館みかど JR函館
●住所:JR函館駅改札口(北海道函館市若松町12-13)
●時間:6:00~18:00
●定休:年中無休
●公式サイト:駅弁の函館みかど
※編集部しらべ
沼の家(ぬまのや)
●住所:北海道七飯町大沼町145
●時間:8:30~18:00(売り切れ次第閉店)
●定休:12月30日~1月1日
●関連サイト:沼の家|大沼ップ
※編集部しらべ
株式会社いかめし阿部商店
●住所:北海道森町御幸町112
●時間:9:00~18:00
●定休:日曜
●公式サイト:いかめし阿部商店
※編集部しらべ
*楽天市場でお取り寄せ:元祖森名物 いかめし 2尾入 140g 2個セット 阿部商店 送料無料
かなや本店
●住所:北海道長万部町長万部40-2
●時間:8:00~16:00
●定休:火曜・第3水曜(変更になる場合あり)
●公式サイト:かにめし本舗かなや
※編集部しらべ
*楽天市場でお取り寄せ:かなやのかにめし 北海道駅弁名物
Text:JYK_R
フリーライター、日本観光士会認定観光プランナー。北海道出身・在住。学生時代を東京・茨城で過ごしたため関東成分も少し。旅行&鉄道好きが高じて地理・観光を学んだことから、その二つの分野のほか、旅行や都市、文化などに関する記事を中心に執筆。
Edit:Erika Nagumo
Photo(特記ないもの):PIXTA