日本を代表する焼物のひとつである「有田焼」。白磁に藍色や赤・黄・金など鮮やかな色で装飾された、硬く丈夫な器です。
そんな有田焼の特徴やお得に入手できる「有田陶器市」の魅力、幸楽窯の工房で有田焼を宝物探し感覚で行える「トレジャーハンティング」の楽しみ方などを紹介。
有田焼は400年の歴史を持つ焼き物。ぜひ、日本の伝統文化のひとつとして有田焼を知っていただければと思います。
有田焼の特徴とは?
美しい模様が描かれた有田焼の壺
有田焼(ありたやき)とは、佐賀県有田町とその周辺地域で製造される焼き物のことを指します。その有田焼の歴史は豊臣秀吉の朝鮮出兵にまで遡り、朝鮮半島から連れてこられた李参平(り さんぺい)らによって日本で初めて、磁器が焼かれたのがこの有田焼です。
本来、焼き物は陶磁器と呼ばれ使われる原料によって大きく「陶器」と「磁器」に分けられますが、有田焼はその中でも磁器に分類されます。白い地肌と呉須(藍色の顔料)の模様や上絵の具を用いた絵が特徴的。耐久性が高く、軽いため美術品から日用品まで様々なものが生産されています。
有田焼は、出荷が始まった当初、伊万里(いまり)港を積み出しとしていたため、伊万里焼とも呼ばれていたことも。現在は、佐賀県伊万里市内で製造されているものを伊万里焼、佐賀県有田町で製造されているものを有田焼と大別しているそうです。ヨーロッパでは「白い金」と称されるほど人気を博しました。
そんな有田焼には製造時期や様式によって特徴が異なり、3つに大別されます。
初期伊万里様式
初期の古伊万里様式のことで江戸時代に作られました。初期伊万里様式の器には厚みがあり、下磁に下絵を藍色模様を描いた染付(そめづけ)を中心とした素朴な絵柄が特徴的です。
柿右衛門様式(かきうえもんようしき)
有田の地で活躍した酒井田柿右衛門が考案。赤・黄・緑・青を用い、線で花や鳥などの景色を左右非対称で表現したものが多く見受けられ、美しい色合いが特徴です。柿右衛門様式の有田焼はヨーロッパに多く輸出されました。
金蘭手様式(きんらんでようしき)
江戸時代の町人文化が栄えた元禄文化から始まったとされる金蘭手様式。濃い染付や赤色や金色の絵の具がふんだんに使われ、花模様などをダイナミックに描いているのが特徴。ヨーロッパ諸国にその様式が好まれ、世界の美術館や城でも使われている。
有田焼をお得にゲットするなら「有田陶器市」
有田焼の食器などがお手軽に手に入れられる「有田陶器市」
有田陶器市は毎年春(4月下旬〜5月上旬)に開催される、有田町全域で行われる日本最大級の焼きもの市。
メイン通り(有田駅〜上有田駅)と大型専門店のアリタセラを含めると、ガイドマップに掲載されてるお店は160店以上にもなり、それらのお店の陶磁器製品を割引価格で入手可能。全国から120万人以上もの人が有田焼を求めて訪れます。
有田は弘法大師開山の黒髪山に来るお遍路たちの通り道。有田の商人たちは彼らに商品を売ろうとしたそんな風景が、賑わう市場に発展していきます。明治29年、深川左衛門(ふかがわ えいざえもん)と田代呈一の主催で陶磁器品評会が開かれ、その後品評会と同時に開催されるようになった大売り出しが、「有田陶器市」の始まりとされています。
買い物が楽しめるほか、パレードやスタンプラリーのイベント、期間限定のグルメなども味わうことができ、陶磁器に興味がない方でも有田の町の魅力を楽しむことができるでしょう。高級なイメージがある有田焼をお得にゲットしたい方は、この有田陶器市へぜひ足をお運びください。
秋の季節(11月下旬〜)には、「秋の有田陶磁器まつり」も有田の町内で開催されます。有田焼の食器類が購入できるほか、窯焚きの公開、飲食店では期間限定メニューなど楽しむことができますよ。
【有田陶器市基本情報】
住所:佐賀県有田町全域
開催時期:春(4月下旬〜5月上旬)・秋(11月中旬ごろ〜)
アクセス:佐賀空港→【佐賀駅】JR佐世保線→【有田駅】下車
駐車場:あり
公式サイト:有田陶器市、秋の有田陶磁器まつり
有田焼の制作工程について
藍色が美しい有田焼
有田焼は、陶磁器の原料である陶土で形を作る工程「成形」をしたのち、成形し乾燥させた素地を約900℃の低い温度で焼く「素焼き」を行います。素焼きのあと、藍色に発色する呉須という絵の具で絵付けをする「下絵付け」を施し、ツヤを出すガラス質の液体である釉薬(ゆうやく/うわぐすり)をかけます。1300℃ほどの高温で焼き上げる「本焼成」という工程を経て、呉須のみで飾られた染付けと呼ばれる製品は完成します。
本焼成の後は、赤・緑・黄・金など、藍色以外の絵の具を表面に施す「上絵付け」を行うことで、鮮やかな色彩を持つ有田焼が仕上がります。そしてこの一連の工程を、有田焼では伝統的に複数の窯元が分業し作っているのです。
つまり、藍色の呉須のみで装飾されたシンプルな有田焼は「本焼成」という焼きの工程を経て完成しますが、カラフルな有田焼はさらに「上絵付け」を施す必要があるということです。
有田焼の「トレジャーハンティング」とは?
数ある有田焼の中から自分のお気に入りを見つける「トレジャーハンティング」
続いてご紹介する有田焼の「トレジャーハンティング」とは、150年以上の歴史を持つ有田焼の窯元「幸楽窯 徳永陶磁器(株)」で体験できるアクティビティ。倉庫に積まれた数えきれないほどの有田焼の中から自分が気に入った器を選びカゴに詰めていくという、まさに宝探しのようなスタイルで有田焼を購入できるプログラムです。
佐賀県有田町に立つ「幸楽窯 徳永陶磁器(株)」がトレジャーハンティングを行っている
幸楽窯トレジャーハンティングのコースは「5,500円コース」と「1,1000円コース」の2つ(いずれも税込価格)。
5,500円コースでは白磁に藍色の装飾が施されたシンプルな有田焼を、11,000円コースではさらに赤・黄・金など華やかな装飾が施された有田焼を選ぶことができます。
宝探し感覚でお気に入りの有田焼を探すというトレジャーハンティングは、日本人だけでなく外国人観光客からも多くの支持を得ているそう。トレジャーハンティングでカゴに詰めた有田焼は海外発送もしてくれます。
トレジャーハンティング提案はブラジル出身のアーティストから
トレジャーハンティングの誕生のきっかけはブラジル出身の日本へとやってきたアーティストからでした。
上絵付け前の「仕掛かり品」の美しさを見出す
アーティストインレジデンスのプログラムで幸楽窯にやってきたピメンタ氏
トレジャーハンティング誕生のきっかけを作り出したのは、ブラジル出身のアーティストであるピメンタ・セバスチアオ氏。彼は、窯のさまざまな設備を使って作品制作ができる「アーティストインレジデンス」(文化庁)という長期滞在型の制作活動プログラムを活用し日本にやってきたアーティストのひとりでした。
ちなみに取材日は、イギリス人のアーティストが幸楽窯の「アーティストインレジデンス」を活用し、1カ月の滞在で作品制作を行なっていました。本プログラムでは、敷地内にある宿泊施設「HAPPY LUCKY GUEST HOUSE」(ありたさんぽ)に宿泊・滞在しながら作品制作をできるそうです。
制作活動するイギリス人アーティスト。数カ月以上滞在する人も
さて、当時ブラジルから訪れたピメンタ氏は、幸楽窯で作品制作をするためのいい場所がないかと探していたとき、上絵付けがすぐにできるようにと本焼成後の有田焼(仕掛かり品)が大量に積まれた倉庫を見つけたそう。積まれた有田焼はどれも色鮮やかな上絵付けは施されていませんが、「現代的に見える」とピメンタ氏はこの仕掛かり品たちを売りたいと社長に直談判します。
仕掛かり品の有田焼たち
もちろんすぐにはうまくいかず、社長からは「未完成品だから」と難色を示されてしまいます。そこで、この仕掛かり品たちをピメンタ氏が撮影しネットにアップすると、外国人の仲間から好反応を得られたため、社長に再度提案し、販売を計画することに。
整然と棚やテーブルに並べて販売するのではなく、あえて箱の中に入ったままの状態で販売しているのも、ピメンタ氏が「高く積まれた有田焼の中から宝探しのようにお気に入りを見つけるのが楽しい」と提案したためです。
こうして2014年1月、上絵付け前の仕掛かり品を販売する「幸楽窯トレジャーハンティング」がスタートしました。
日本各地だけでなく海外からの観光客も多く訪れる幸楽窯トレジャーハンティング
その後、ピメンタ氏による情報発信により、ブラジル、アメリカ、オーストラリア、アルゼンチンなどの九州在住の外国人たちが少しずつトレジャーハンティングをしに訪れるように。かつての有田焼の仕掛かり品が「モダンで美しい」と人気を博し、トレジャーハンティングを楽しむ人たちが増えていきます。
今では多数の観光客が訪れる幸楽窯トレジャーハンティング
幸楽窯トレジャーハンティングは日本でも旅行サイトやブログ、SNSなどで取り上げられるようになり、今では日本人だけでなく、韓国、台湾などアジア系外国人も多く訪れるのだそう。週末は1日あたり100人以上が幸楽窯トレジャーハンティングを楽しみに訪れています。
幸楽窯トレジャーハンティングの魅力と楽しみ方
今回は特別にピメンタ氏に案内してもらいながら、幸楽窯トレジャーハンティングの楽しみ方を紹介していきます。
幸楽窯トレジャーハンティング発案者・ピメンタ氏に案内してもらう
幸楽窯トレジャーハンティングの開始時間は10時と13時。制限時間90分の間で自分のお気に入りの有田焼を見つけカゴに入れていきます。有田焼の量がカゴの高さを大きく上回った時は、追加料金を支払い持ち帰ることも可能。
トレジャーハンティングのコースは前述の通り「5,500円コース」と「11,000円コース」の2種類ありますが、どちらのコースを選ぶかは、一通り倉庫内を見て回ってから決定してもOKとのこと。
幸楽窯トレジャーハンティングエリアには「トロ箱」と呼ばれる木箱にたくさんの有田焼が
トレジャーハンティングエリアに入ると、昔、水産業者などが海産物を出荷する際に使っていた「トロ箱」がたくさん多く積み上げられています。有田焼は、このトロ箱の中に詰められています。
トレジャーハンティングエリアに積み上げられたトロ箱
有田焼のストックや出荷用にトロ箱のサイズがぴったりだったことから、海産物用で使っていたトロ箱を中古で入手し乾燥させ、魚の臭みを取り除いた上で使っていたそうです。現在はストックや出荷時にトロ箱を使うことはありませんが、数十年前の有田焼の工場の雰囲気をこのトロ箱からも感じられますね。
トレジャーハンティング最大の魅力は「自分だけの有田焼」を発掘できること
ここからお気に入りの有田焼をピックアップしていく
トレジャーハンティングの最大の魅力は、数えきれないほどの有田焼の中から自分の感覚にあった器を発掘していくこと。ピメンタ氏もコースを回りながら、「これはこういう雰囲気の時に使えますよね」と器から色々な発送が浮かんでいる様子でした。
器を手に使い方のイメージを膨らませていく
通常はゲストが自由にコースを回っていきますが、ピメンタ氏の手が空いているようだったらぜひ器を片手に相談してみてください。器の使い方の新たなアイデアが出てくるはず。
もちろん、積み重なったトロ箱を移動させながらお気に入りの器を探していくことも可能。隠れたトロ箱の中に、運命の有田焼との出会いが待っているかもしれませんよ。
ピメンタ氏に教わりながら有田焼を包む
購入を決めた器は、ピメンタ氏からレクチャーを受けながら、1つ1つ自ら新聞紙で包み、箱詰めします。箱詰めしたものを持ち帰るか、宅配便で送ることができます。
11,000円コースでは他の窯の有田焼も扱う
色彩豊かな有田焼や他の窯の有田焼も探せる11,000円コース
今回筆者は11,000円コースのエリアも案内してもらいます。ここでは前述の通り、幸楽窯で作られた色彩豊かな有田焼も多く積まれています。有田焼制作を商社から受注した際、幸楽窯では不良品が出ることを見越して受注数よりも多めに器を作りますが、余分に完成した正規品の器は引き取られずに残ってしまうのだとか。11,000円コースでは、在庫として残ってしまったそれらの一級品の有田焼をハンティングできるのです。
ちなみに、もともとこのエリアは、トレジャーハンティングのための場所ではなかったそう。ですが、他の有田焼の窯元から、色付けされたものを含む食器をトレジャーハンティングで販売してもらえないかと打診があり、新たなコースとして作られました。ピメンタ氏は「有田焼には様々な技法があるため、ここでは幸楽窯とは違う器も探してもらえるんです」と話します。
実際に幸楽窯トレジャーハンティングに訪れた人は……?
この日は、山口県から来たというご家族が幸楽窯トレジャーハンティングを楽しんでいました。新居で使う器を探すために足を運んだそう。
新居で使う新たな食器を探しにトレジャーハンティングに訪れたご家族
「新居で使うものを求めて来ましたが、掘れば掘るほど、『こんな器もある!』と驚きばかりでした。お気に入りも見つけることができ、とってもおもしろかったです」と笑顔のご夫婦。90分間をたっぷり使い、トレジャーハンティングで自分たちの生活にぴったりな有田焼を見つけられたようです。
幸楽窯ではアウトレットの有田焼なども販売
トレジャーハンティング以外にもアウトレットなどの有田焼も販売している
幸楽窯にはトレジャーハンティング以外にも、同窯で作られた正規品の有田焼を扱うコーナーや、通常使用には全く問題ないちょっとした傷、色やデザインのズレで正規品から外れた「アウトレットコーナー」もあります。高品質な有田焼をちょっとおトクに手にすることができるかもしれません。
【幸楽壺 有田焼トレジャーハンティング基本情報】
住所:佐賀県有田町丸尾丙2512
開催時期:毎日10時・13時開始
アクセス:【有田駅】→有田町コミュニティバス【丸尾住宅前】下車→徒歩(3分)
駐車場:あり
公式サイト:幸楽壺
有田焼で感じる日本の伝統文化
400年以上の歴史を持つ日本の磁器、有田焼の歴史や魅力をお伝えてしてきました。有田焼をお得に手に入れられる有田陶器市や、自分に合った有田焼を探す楽しさを味わえるトレジャーハンティングなどでぜひ、有田焼を実際に手に触れてみてはいかがでしょうか。
Edit:Ako Kobayashi/Kaoru Maki
参考:ありたさんぽ/有田陶器市/五感にひびく有田の町/幸楽窯