井の頭公園などの緑にあふれ、生活の便も非常に良い吉祥寺エリア。観光地としても人気のエリアですが、住みたい街としても高評価を得ています。
今回は、そんな吉祥寺に位置している「器」のお店を4つピックアップ。どれも日本で作られた器を取り扱うお店で、日常生活を鮮やかに彩ってくれる器や道具、骨董品たちが揃っています。自分のお気に入りの器を探しに、吉祥寺に足を運んでみてはいかがでしょうか?
吉祥寺にはおしゃれな器屋さんが点在
都心から好アクセスな吉祥寺エリアは、常に観光客で賑わっている
長年住みたい街No.1として人気を誇り、昨今は観光スポットとしても名高い吉祥寺エリア。東京や新宿などの定番観光地と並ぶほどの人気を博していながら、どこか生活に根ざしたような落ち着き感も感じられる街です。
そんな吉祥寺にはどういうわけか、手仕事品を扱う雑貨店や器屋といったお店がたくさん点在しているのです。駅からちょっと歩いた中道通りや、サンロード商店街の奥の細道などに佇むそれらのお店は、吉祥寺に住まうおしゃれな人々の憩いの場。日常生活をちょっと上質なものに彩ってくれる雑貨や器が手に入るとして、足繁く通う人も多くいます。
吉祥寺のお店でとっておきの器を探そう
吉祥寺で器探しを楽しもう
今回紹介するのは、そんな吉祥寺エリアに店舗を構える4つの器屋さん。どれも日本生まれの食器たちを扱うお店です。地方で作られた手仕事の道具も扱っていたり、手料理のような心温まるご飯をいただけるカフェが併設されていたりと、プラスアルファの魅力が備わったお店ばかりを集めました。
1.器と道具 つみ草
最初に紹介するのは、吉祥寺駅公園口から徒歩約6分に立つ「器と道具 つみ草」。風情ある木造の建物の中には、日本各地で作られた手仕事品や若い作家の器など、全国の「いいもの」が取り揃えられています。
東京でも有数の器や道具を扱うお店「器と道具 つみ草」
北は北海道、南は沖縄まで。日本各地に直接赴いて仕入れているという器たちは、経年変化で深みを増した木棚の上で、心地好さそうに並んでいます。取り扱うのは器だけではありません。毛が細かく使いやすいタワシや、ホウキ、手にしっとりとなじむ木のカゴといった道具たちも。
中央は沖縄県の竹カゴ。今では数も少なく、何年も探しやっと見つけた職人から買い付けたもの
長年地方で伝統を守りながら熟練の職人たちに作られてきた手仕事品は、後継者も少なくいつ買い付けができなくなってしまうか分からないようなものも多数。ここでしか出会えない名工の思いと技術が詰まった手仕事品たちを、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
風鈴やガラスの器など季節に合わせて商品も変わる
盛夏のこの日は、ガラス食器や風鈴など、夏らしいアイテムが揃っていました。秋・冬の頃には、土鍋など寒い時季にぴったりのアイテムたちが並ぶそう。器はどれも窯元と提携し直接仕入れているものばかり。若い作家から直接買い付けしているものもあります。味のある器たちは、自宅用としてはもちろんプレゼントとしてもおすすめです。
さまざまな県から直接買い付けた手仕事品と出会う
お気に入りの郷土玩具を探してみて
つみ草が取り扱うアイテムのなかでも、特に力を入れているのが「郷土玩具」。郷土玩具とは、各地方や地域で伝統的に作られてきた玩具(おもちゃ)のことです。
愛らしい郷土玩具たち
最古の郷土玩具と言われている京都府の「伏見人形」や、お土産としても人気の高い福島県の「赤べこ」などが挙げられます。つみ草に並ぶ郷土玩具たちも、もちろん各地域で買い付けたもの。
この日は浜松張子や琉球張子など、なんとも色あざやかな張子たちが並んでいました。玄関やリビングに置けば、インテリアとして住まいを彩ってくれる愛らしい張子たちが揃い、なかには若手作家が作るモダンでスタイリッシュなデザインの張子も。つみ草だけの、一期一会の出会いを探しに訪れてみてください。
2.Vada antiques
吉祥寺住宅街に佇む「Vada antiques」
吉祥寺駅東口から徒歩約4分、静かな住宅街の一角に佇む建物の地下1階に店舗を構える「Vada antiques」。同店では、沖縄県の器「やちむん」を中心とした食器類を取り扱っています。
手前のお椀は「富士山柄に見える」と、外国人からも人気
オーナーの和田さんに話をうかがうと、以前は都内の別の場所にお店を構えヨーロッパのアンティーク雑貨などを取り扱っていたそう。
「僕の地元の北海道で、作陶している作り手にお会いしたのが始まりでした。沖縄で12年間修行されていた方で、作っている器が大ぶりで、温かい印象に惹かれたんです。それが沖縄のやちむんとの出会いです」と和田さん。その出会いをきっかけに、お店でもヨーロッパのアンティークものだけでなく、徐々にやちむんも取り扱うようになっていきました。
店内ではやちむんのほか、オーナーの出身地・北海道の木彫りのクマなども取り扱う
そして、現在の吉祥寺へとお店を移した2013年から、本格的にやちむんを販売することに。店内に並ぶやちむんはすべて沖縄県へ足を運び、作家から直接買い付たもの。東京都内から遠く離れた沖縄県でやちむんを作る作家たちの思いを、和田さんがそのまま買い手へと伝えてくれます。
ヨーロッパに赴き買い付けをしているアンティーク家具や雑貨
Vada antiquesでしか手に入らないやちむんで食卓を鮮やかに
並ぶやちむんの中には、和田さんが作家と共作したオリジナル商品も。作家と一緒に考えデザインした器たちは、どれもやちむん特有のぼてっとした質感とエネルギッシュさをそのまま残した愛らしい器たち。同店でしか手に入らないやちむんに出会えます。
食卓の華となるやちむんの大皿たち
器は料理を盛り付けるもの。「料理が美味しそうに感じるのは、85.5%が視覚と言われています。エネルギーと温かさにあふれたやちむんを使えば、なんてことない家庭料理も温かみを感じられる一品になります」と和田さんは話します。沖縄県の柔らかい土を使って作られた大ぶりのやちむんを、ぜひ毎日の食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。
3.四歩
吉祥寺駅東口から徒歩約10分、「四歩(しっぽ)」は、サンロード商店街を超えた先に広がる住宅街に位置します。
シンプルな看板が目印
店の前には中古の食器が並ぶ
同店では、和食器や日用品、古道具だけでなく、ランプシェードといったインテリア品や家具も販売しています。
店前には鮮やかな器たちが揃い、店内には食器のほか、選りすぐりの良品ばかりが揃います。野田琺瑯のケトルや、中川政七商店の生活を彩る日用品、なかには外国製の愛らしいカップも。
日用品や衣服など、日常的に使えるさまざまなアイテムを販売
スタッフが選び抜いたアイテムは、土地柄や年代を問わず、お店の雰囲気に合うようなデザインを中心にピックアップしているそう。どれも住まいや暮らしをちょっと上質にしてくれるものたちです。
福島県の「起き上がり小法師の箸置き」はひとつひとつ表情が異なる
もともとは家具やインテリア用品を扱うショップの一角に、雑貨店としてお店を構えていた同店。わずか4帖ほどのスペースからスタートしたということもあり、「四歩」という名前がついたそう。
オーナーの宮崎さんが家具やインテリア用品にも精通していることから、同店では家具修理も受け付けています。椅子の革が破れてしまった、棚が壊れてしまったなど、思い入れの家具が傷んでしまった時はぜひお問い合わせを。
店内のカフェでのんびりランチ
ゆったりとくつろげるカフェ
四歩の魅力は物販だけではありません。店内にはカフェが併設されており、ランチには実家で味わうような心温まる料理を提供してくれます。
時折、実際に店内で販売しているものと同じ食器を使いながら、日替わりのランチメニューを用意。カフェでのんびりとくつろいだら、店内の品々を眺め、住まいに似合う器たちとの出会いを楽しむ。そんな自分の生活に向き合う、贅沢な時間を過ごすことができます。
「日替わりごはんセット(1,080円)」(写真提供:四歩)
4.吉祥寺PukuPuku
次に紹介するのは、吉祥寺に2店舗を構える骨董品屋「吉祥寺PukuPuku」。江戸時代〜昭和時代に作られた日本生まれの器たちを扱っており、歴史ある骨董品たちがリーズナブルに購入できると器好きの間では有名なお店です。2店舗にお邪魔し、それぞれの特徴や魅力を探ってきました。
吉祥寺PukuPuku 西公園前店
江戸時代の器が手に入ると人気のお店
吉祥寺駅東口から徒歩約8分。中道通りをまっすぐ進んだ先に「吉祥寺PukuPuku 西公園前店」は立ちます。
かわいらしい看板が掛けられたこちらは、吉祥寺に2店舗ある「吉祥寺PukuPuku」のうち最初に誕生したお店。店前には水を張った甕や、藍色が美しい日本食器が並べられていました。
店内には数々の磁器が並ぶ
同店で取り扱う食器は、明治以前、今から200〜300年以上前に作られた江戸時代のものが多数。簡単には手に入れられない、本物の骨董品たちが見つかるとっておきのお店です。白地に藍色で染付された磁器は、「古伊万里」と呼ばれる昔の伊万里焼を中心としたラインアップ。300年の時を経て並ぶ日本の器たちは、どれも保存状態がよく、かつての美しい色味をそのまま残しています。
慶事に使われていた鮮やかな装飾のうつわたち
これらの多くは、全国各地の蔵や古民家の奥深くに眠っていたものだそう。目利きの良い店主が骨董品の市場で買い付けし、店頭に並べられます。同じ柄のお皿がいくつも重ねられているのも、蔵や古民家からまとめて発見されるからだそう。昔は来客や家族とともに大人数で食卓を囲むことが多かった日本人は、同じ柄の器をまとめて購入し保管していたのです。
漆器は蓋つきのものも多数。蓋は外して小皿としても活用できる
もちろん江戸時代・明治時代・大正時代と器に制作年月が刻まれているはずもなく、全て骨董品を知り尽くした店主やスタッフが器の柄や色味を見て年代を判別しているというから驚き。
「柔らかく淡い発色をしている磁器は、江戸時代のものが多いです。染付に使う染料が明治以降になると変わっていくため、発色が鮮やかなものは明治以降に作られたものと判断できます。あとは釉薬の質感とか、高台の形などからも時代を判別しています」とスタッフの本多さん。
まだ転写技術が発展していなかった江戸時代のころの器は、ひとつひとつ手描きで絵付けをしていたため、同じ柄でも器ごとに若干絵の表情が異なるのもおもしろいところ。1枚1枚じっくり眺めて、お気に入りの絵柄を見つけてみるのもいいですね。
吉祥寺PukuPuku 中道通り店
家具や磁器が店前に並ぶ
こちらは、吉祥寺駅東口から徒歩約6分に立つ「吉祥寺PukuPuku 中道通り店」。西公園前店から吉祥寺駅方面に約3分ほど進んだところに位置しています。店前には深い色合いを持つ家具や和食器が並び、思わずふらりと立ち寄りたくなる様子。
味わい深い中古の家具たち
同店で取り扱う骨董品は、西公園前店よりも年代の若い、明治時代〜昭和時代に作られた器たち。こちらには磁器・陶器だけでなく、漆器やガラス器も並んでいます。
日本人にとっては懐かしい昭和時代のグラス
店内にずらりと並んだ器たちを手に取ってみると、どれもとってもリーズナブル。約100年以上前に作られた大正時代の器は、500円という安価なものも。骨董品というだけで高価なイメージを抱いてしまいますが、現代の器よりもずっと安く購入できるのです。
時代により色彩や器の厚みが異なる
手頃な価格で明治時代以降の器が購入できる理由は、この時代の絵付け技術の発展にも由来しています。前述の通り、江戸時代以前は手描きですべて絵付けをしていましたが、明治時代以降になると「印判」と呼ばれる転写技術が普及していくことに。
印判は転写シートに描いた絵柄を器に転写し焼き付けることで絵付けを行うという技法で、これにより同じ柄の器を大量生産できるようになったのです。転写技術だけでなく、描ける色味がどんどん増えていったのも明治時代以降のこと。藍色以外の美しい色味が添えられた器たちは、食卓を華やかに彩ってくれます。
「気軽に昔の器を楽しんでほしい」と、かわいらしいポップがそこかしこに
<知っておきたい 日本食器の絵柄>
今でこそシンプルで土本来の味を生かした器が人気ですが、古来日本の器(和食器)は絵付けが施されたものが多くありました。四季折々、時季や暦にあわせて器を使い分けたり、初春のおめでたい日には華やかな器が使われたり。ここでは、そんな「日本の器」の絵柄を紹介します。
■Vol.1 枝垂れ柳と蛙
今回紹介するのは、こちらの「枝垂れ柳と蛙」が描かれた器。一見「梅雨らしい器」と思えるシダレヤナギとカエルの組み合わせですが、この絵柄には、ある逸話があるのです。
シダレヤナギとカエルが描かれた絵皿
時は平安時代に遡ります。小野道風(おののとうふう)という書家の達人が、まだ達人として名を広める前の話。道風は、何度書いても自分の字に納得が行かず、自分の才能に自信が持てずにいました。今でいう、スランプに陥っていたようです。
雨の降っている日のことです。気晴らしに散歩していた道風は、シダレヤナギの枝に飛びつこうとしているカエルの姿を見つけます。何度失敗しても、何度でも飛び続けるカエル。その様子を見て、自分も少しうまくいかないからと筆を捨ててはならない、諦めてはならないのだと道風は気づきます。
こうして道風の話は「何度失敗しても挑戦する姿勢」を教えてくれる逸話のひとつとして語り継がれ、シダレヤナギとカエルが共に描かれた器が作られるように。この話は花札の絵柄にもなっていますね。
ヤナギの絵柄のひとつとして花札にも描かれている
吉祥寺へ器探しの旅に出かけよう
日本の器はとっても奥深いものです。絵柄に意味が込められていたり、作り手の思いが詰まっていたり。そんな一期一会の出会いを叶えてくれる器屋さんや骨董品屋・道具屋が吉祥寺にはたくさんありました。
ぜひ吉祥寺観光に訪れた際には、足を伸ばして4つのお店に訪れてみてください。店主やスタッフと器について語り合ったり、どんな風に料理を盛り付けたらいいか相談してみたり。吉祥寺でとっておきの時間を過ごすことができるはずです。