日本五大飯のひとつ【深川めし】とは?
日本五大飯とは?
深川めしの歴史と魅力を探りに発祥の地・深川の老舗へ
まとめ

日本各地には、地域に根付いた「郷土料理」というものが存在しています。秋田県のきりたんぽ、愛知市の味噌カツ、宮城県のセリ鍋…などなど。もちろん、大都会・東京都にだって、江戸時代から受け継がれてきたとっておきの郷土料理があります。そのひとつが、アサリを使った炊き込みご飯「深川めし」。日本五大飯のひとつにも選ばれています。

今回は、そんな深川めしについて、発祥の歴史や種類を紹介していきます。さらに絶品深川めしが味わえる老舗「深川宿」に、そのこだわりやおすすめのメニューを教えてもらいました。

日本五大飯のひとつ【深川めし】とは?

東京都生まれの郷土料理として知られている「深川めし」。名前は聞いたことがあるけど食べたことはない、という都民も多いのではないでしょうか。深川めしとは、アサリを使ったぶっかけご飯・炊き込みご飯のことで、日本五大飯のひとつにも選ばれています。

深川めし発祥の歴史は漁師飯から

辰巳好み

深川めし(写真提供:深川宿)

深川めし発祥の歴史は遡ること江戸時代。その名の通り、深川で生まれた食べ物です。当時、江戸の南方は深川浦と呼ばれ、砂洲が広がるエリアでした。ここでは潮が引けば砂が姿を見せ、そこからは、アサリをはじめ、アオヤギ、ハマグリなどさまざまな貝類がとれていたそう。深川は、新鮮な貝類がリーズナブルに手に入るエリアだったのです。

深川エリアの桜

現在の深川エリアは、桜の名所としても知られている

江戸幕府より命を受け、深川浦で漁業を許可されていた深川の漁師たち。彼らのいわゆる「漁師飯」として誕生したのが、深川めしです。漁師飯とは、漁の合間や港へと戻る合間に船上で、とれたての魚介類を使って漁師たちが作っていた手軽にできる即席料理のこと。大分県の「ぶりのあつめし」や千葉県の「なめろう」といった郷土料理も、漁師飯が発祥とされています。

深川の漁師たちは当時、よくとれていたアオヤギ(バカガイ)を塩茹でしたものをご飯と食べたり、アサリと長ネギと豆腐を使ったすまし汁をご飯にかけたいたとされています。その「貝とご飯を組み合わせた漁師飯」が発展していき、徐々に味噌ベースや醤油ベースのダシに貝を入れ旨みを出し、白米にぶっかけるスタイルに。これが「深川めし」のルーツです。

アオヤギ

アオヤギ(バカガイとも呼ばれる)

「ぶっかけ」「炊き込み」深川めしの2つの食べ方

そんな歴史ある深川めしですが、実は2つの食べ方があることをご存知ですか?どちらもアサリとご飯を使った料理ですが、ちょっとルーツが異なるのです。

ぶっかけ

ひとつは漁師飯をルーツとする、ぶっかけの深川めし。味噌やしょうゆベースの出汁に新鮮なアサリを入れ少し煮立たせたら、そのまま白米にかけていただくタイプです。

ぶっかけ深川めし

アサリの入った汁をごはんにかけていただく「ぶっかけ」深川めし

一番シンプルなのは、そこにもともとの漁師飯同様、長ネギを入れるスタイル。今では深川エリアにさまざまな深川めしのお店があるため、入れる材料や出汁の味はさまざまありますが、ごはんに汁をかけて食べるスタイルは、総じて「ぶっかけ」と呼ばれています。

炊き込み

新鮮な魚介類を手早く調理し、船の上でいただくのが漁師飯の基本ですが、深川めしにはもうひとつ、アサリをごはんと炊いた「炊き込み」タイプがあります。

炊き込み深川めし

アサリの旨みがごはんに染み込んだ「炊き込み」深川めし

こちらは、深川エリアの家庭料理として食べられていたのがルーツとされています。深川浦でとれたリーズナブルなアサリを使ってご飯を炊き込み、アサリの旨みを白米がたっぷり吸い込んだ一品。ぶっかけは江戸時代後期に生まれたとされていますが、炊き込みは明治時代に入ってから家庭で作られるようになったそう。当時、家庭では「お袋の味」として親しまれていました。

日本五大飯とは?

江戸の下町で生まれ、庶民たちに広く愛されてきた深川めしは、日本五大飯のひとつ。日本五大飯とは、全国の歴史ある郷土料理のなかでも代表的なご飯ものの料理として、1939年に宮内庁から選ばれた5つ。「日本五大銘(名)飯」とも呼ばれています。

深川めし以外には、どんな歴史ある料理があるのでしょうか?ここでは、4つの「日本五大飯」について紹介していきます。

埼玉県小川町「忠七めし」

江戸時代末期から食べられている「忠七(ちゅうしち)めし」。ネギ、ワサビ、ユズをご飯に乗せ、その上から土瓶に入ったカツオダシのつゆをかけて食べる、素朴で滋味深い味わいが特徴の郷土料理です。ご飯にノリをかけるのが一般的ですが、当時はノリもカツオ節もまだまだ高価な時代。忠七めしは当時ではごちそうでした。

「忠七めし」という名称は、料理人・八木忠七(やぎ ちゅうしち)の名前から取られたものです。剣や書の達人であった山岡鉄舟(やまおか てっしゅう)がこの小川の地に足を運んだ際、忠七から振舞ってもらい好んで食べていたことから誕生したとされています。

Chushichimeshi

歴史ある日本五大飯のひとつ「忠七めし」(写真提供:@banicoco115

岐阜県可児市・御嵩町「さよりめし」

岐阜県の可児市・御嵩町を中心に、中濃・東濃エリアで古くから食べられてきた「さよりめし」。秋の収穫を祝うための郷土料理でもありました。「さよりめし」は「さより」と名前がついていますが、使われているのはサヨリではなく「サンマ」。そもそもサヨリの旬は晩秋〜冬にかけてのため、秋の収穫を祝うための料理に使うものではなさそうです。では、なぜサンマを使っているのに「さよりめし」と呼ばれているのでしょうか?

実は、岐阜県には海がなく、細長い魚を総じて「さより」と呼んでいたそう。そのため、秋に旬を迎えるサンマも、「さより」という名前で親しまれ、その名前がついたのです。

さよりめし

歴史ある日本五大飯のひとつ「さよりめし」(イメージ)

さよりめしは、サンマと銀杏などをご飯と一緒に炊いた炊き込み飯。当時は新鮮なサンマを手に入れられなかったことから、塩で味付けし日持ちを長くしたサンマを使っていたそう。サンマの塩気がご飯によく合います。

大阪府「かやくめし」

「かやくご飯」とも呼ばれる日本五大飯のひとつ「かやくめし」。実はこのかやくめしは、いわゆる「五目ご飯」や「炊き込みご飯」のことを指すのです。

かやくめし

歴史ある日本五大飯のひとつ「かやくめし」(イメージ)

カツオや昆布などの合わせ出汁を使い、ニンジンやゴボウ、油揚げなどとご飯を一緒に炊く「炊き込みご飯」。日本全国で広く親しまれている家庭料理のひとつですが、大阪ではこの炊き込みご飯を「かやくご飯」と呼び、庶民の味として人気だったのです。

ちなみに「かやく」というのは、漢字で「加薬」と書き、炊き込みご飯の具のことを指します。

島根県津和野町「うずめめし」

島根県生まれの郷土料理「うずめめし」。その名の通り、ご飯の下に具をうずめて隠した状態で提供される「うずめめし」は、食べる際に上から出汁をかけ、ご飯を崩して具と混ぜて食べるという、ちょっと変わった食べ方をする料理です。ご飯を崩すと、中から細かく切られた色とりどりの野菜や肉といった具材が登場。具材は事前に薄めの醤油で煮て味をつけており、そこに出汁とワサビ、三つ葉などが合わされば、素朴ながら奥深い味わいに。

江戸時代中期ごろに誕生したとされているうずめめしですが、誕生の理由は諸説あります。「庶民は質素な暮らしをしなければならない時代に、役人から咎められないようご飯の中に具を隠した」とか、「肉を食べてはならない時代だったから、役人にバレないようご飯の下に肉をうずめた」とか。いずれにせよ、豪華な食材をわざわざご飯にうずめて隠したのは、江戸時代の庶民の身分が関係しているようです。

Uzume-meshi

歴史ある日本五大飯のひとつ「うずめめし」(写真提供:@banicoco115

深川めしの歴史と魅力を探りに発祥の地・深川の老舗へ

ここからは、日本五大飯のひとつ「深川めし」の老舗「深川宿」に、深川めしの作り方へのこだわりや、深川宿の歴史、おすすめの食べ方などをうかがっていきます。

深川宿本店外観

深川宿 本店(写真提供:深川宿)

深川宿は江東区三好に立つ「本店」と、江東区富岡に鎮座する「富岡八幡宮」境内に立つ「富岡八幡店」の2店舗を構える、深川めしの名店。昼夜問わず、ピーク時には絶品深川めしを求めて多くの人が列を作ります。

深川宿 富岡八幡店

深川宿 富岡八幡店(写真提供:深川宿)

一度は消えかかった「深川めし」の味を再び

深川宿誕生の歴史は、今から20年前。1986年にオープンした、「深川江戸資料館」がきっかけでした。

江戸時代の深川の漁師や家庭に愛されてきた深川めしでしたが、都市開発により東京湾の埋め立てが進むとともに、深川浦の水質も悪化し、漁ができない環境に。1962年の漁業権放棄により、深川の漁師たちはいなくなってしまいます。それに伴い、深川めしの歴史や文化も徐々に薄れていってしまうことに。

そんななか、1986年に江東区に深川江戸資料館がオープン。もともと参詣客や行楽客で賑わっていた深川エリアでしたが、江戸時代の深川の歴史ある町並みや暮らしぶりをリアルに再現し展示した深川江戸資料館は、またたくまに深川の名観光スポットに。

それを機に、江戸時代の文化であった深川めしを復活させようと、同店の先代が立ち上がります。一度消えかかった「深川めし」という郷土料理を復活させるべく、家庭で深川めしを食べていたという人や、漁師飯として深川めしを食べたという人の話を聞いてまわり、その情報から当時の味を蘇らせたのです。

こだわりは新鮮なアサリの旨みを引き出す調理法

深川宿が使うのは、冷凍保存などをしていない生のアサリ。臭みのない新鮮な状態にこだわり、作り置きはせず、注文を受けてからひとつひとつ深川めしを作ります。

深川めしで使うアサリ

深川めしのアサリは新鮮なもののみを使用

ぶっかけのスープには、赤味噌と白味噌を独自でブレンドしたあわせ味噌を使用。アサリの旨み・甘みを感じられるよう、何度も試行錯誤を重ねて作り出したこだわりのあわせ味噌です。

アサリを入れる

煮立ったスープにアサリを投入(写真提供:深川宿)

この味噌を使ったスープを煮立たせてからアサリを入れ、味を染み込ませます。スープにアサリの旨みが溶け出し、アサリには香り高い味噌の味が染み込んだころ、ネギを入れて煮込んで完成。

ネギを投入

こだわりのブレンド味噌のスープにネギを入れる(写真提供:深川宿)

煮立たせる

ネギのシャキシャキ感をほどよく残して出来上がり(写真提供:深川宿)

アサリが新鮮なため、臭み取りのショウガなどは不必要。あつあつのごはんにぶっかけて、出来上がりです。長時間煮込むとアサリがかたくなってしまいますし、すぐに火を止めるとアサリとスープがなじみません。この絶妙な加減により、まろやかで濃厚な絶品深川めしが完成するのです。

ごはんにぶっかける様子

ごはんに濃厚なスープが染み込んでいく深川めし(写真提供:深川宿)

「浜松風」と名付けられた炊き込みの深川めしは、ほんのり香ばしいしょうゆの香りが鼻孔をくすぐるやさしい味わい。アサリ、ネギとごはんを一緒に炊いて作ったメニューです。アサリの柔らかい磯の味に、青ノリの香りがマッチしています。

「ぶっかけ」「炊き込み」どちらも楽しめる深川めしメニューも用意

深川めし

深川めし「辰巳好み(2,150円)」(写真提供:深川宿)

ぶっかけと炊き込み、どちらの深川めし頼もうか迷ってしまったら、ぜひ同店の「辰巳好み(たつみごのみ)」を試してみてください。こちらは、ぶっかけと炊き込みの深川めし両方をそれぞれ茶碗1杯分楽しめるメニューです。

「辰巳」とは、江戸時代に深川で活躍した「辰巳芸者」から拝借しているそう。深川めしは彼女たちが好んで食べていたとされており、辰巳好みは、「ちょっとずつ色々食べたい」という女性心に応えてくれる御膳なのです。

滋味深いアサリの味を深川めしで堪能してみて

漁師飯として生まれた深川めしは、一度はその文化が消えかかってしまうものの、深川の歴史と伝統を残そうとする地元の人々の力により、かつての輝きを取り戻しました。深川めしは今では日本五大飯のひとつにも数えられ、東京都を代表する郷土料理に。

東京観光の際には、ぜひ深川めしの味を確かめに深川に足を運んでみてはいかがでしょうか。