スーパーなどでよく目にする「土用の丑の日」の文字。なんとなくうなぎを食べるということは知っていても、なぜそのような文化が生まれたのか、どうしてうなぎを食べるのか、という意味や歴史まではなかなか知らないですよね。
2024年の「土用の丑の日」は、7月24日(水)と8月5日(月)の2回。
この記事では、そもそも「土用」ってなに?「丑の日」って?という人のために、その由来やうなぎ以外の風習について紹介します。
土用の丑の日とは?
「土用」の意味
陰陽五行説の相関図
「土用」とは立春、立夏、立秋、立冬直前の約18日間を指す言葉。古代中国の陰陽五行説(いんようごぎょうしそう)において、「この世のすべては、木・火・土・金・水の5つの要素でできている」とされてきました。
それを季節に当てはめた場合、木は新緑の春、火は燃えるような熱さから夏、金は実りをあらわす秋、水の流れる音のように静かな冬となり、余った「土」を季節の変わり目に割り当て「土用」と呼ぶように。
これらのことから土用は年に4回ありますが、夏の土用は梅雨明けや暑さから体調を崩しやすい、ということで最も重要視されるようになったのです。
2024年の立秋は8月7日(水)。その直前が夏の土用なので、2024年の夏の土用は7月19日(金)から8月6日(火)までです。
「丑(うし)の日」の意味
十二支と丑の日の関係とは?
では「丑の日」とは? これは干支の十二支からきています。十二支は年にもありますが日にもあり、こちらでは日にちを十二支に割り当てた「丑」の日のことを指します。
すると約18日間の土用の期間中に丑の日が1〜2回発生。これが土用の丑の日というわけです。
ちなみに、土用の期間内に土用の丑の日が2日ある場合は、1回目の丑の日を「一の丑」、2回目を「二の丑」と言うこともあるそうです。
2024年・2025年・2026年の「土用の丑の日」はいつ?
7月のカレンダーで丑の日を確認しよう
2024年の土用の丑の日は、7月24日(水)と8月5日(月)です。
また前述のことを踏まえると、土用の丑の日は以下のように毎年日付が異なります。
●2023年の土用の丑の日
7月30日(日)
●2024年の土用の丑の日
[一の丑]が7月24日(水)
[二の丑]が8月5日(月)
●2025年の土用の丑の日
[一の丑]が7月19日(土)
[二の丑]が7月31日(木)
●2026年の土用の丑の日
7月26日(日)
来年2025年も、土用の丑の日が2回ある年になります。
土用の丑の日はなぜうなぎを食べる?ー由来を紹介
丑の日によく見るうなぎと書かれている旗
そもそも「土用の丑の日はなぜ重視されているの?」「土用の丑の日にうなぎを食べる風習ができたのはいつから?」と気になりますよね。その由来は奈良時代まで遡ります。
①うなぎは精がつく食べ物として昔から知られていた
うなぎは昔から精のつく食べ物として知られていました。ビタミンAやビタミンB1・B2、ビタミンDなど、疲労回復や美容に欠かせないビタミン類がうなぎには豊富。カルシウム、ミネラルやコラーゲン、DHAやEPAも含まれています。うなぎは日本古来のスタミナ食材として知られていて、体調を崩しやすい夏の土用の期間にうなぎを食べていたという説があります。
●大伴家持(おおとものやかもち)の歌にも登場
奈良時代の万葉集
奈良時代の和歌集『万葉集』には次の歌があります。
「石麻呂(いはまろ)に われ物(もの)申(まを)す 夏痩(やせ)に 良(よ)しといふ物そ 鰻(むなぎ)取り食(め)せ」(巻16-3853番歌)
「痩(や)す痩(や)すも 生(い)けらばあらむを はたやはた 鰻(むなぎ)を取ると 川に流るな」(巻16-3854番歌)
これは、大伴家持(おおとものやかもち)が生まれつき痩せていた吉田老(よしだのおゆ)に宛てた歌で「石麻呂に私は申し上げたい。夏痩せによいというものですよ。うなぎをとって召し上がりなさい。」「痩せながらでも生きている方がいい、万が一うなぎを捕ろうとして川に流れてはいけないよ。」と少し吉田老をからかうような歌であることが分かります。
このように奈良時代にはすでに、夏バテ防止にうなぎが効くことが知られていたんですね。
出典・参考:奈良県 はじめての万葉集
②平賀源内(ひらがげんない)がうなぎ屋にアドバイス
平賀源内
もともと夏にはうなぎを食べていたけれど、土用の丑の日にうなぎを食べるようになったのは、平賀源内のすすめが発端といわれています。
時は江戸時代。もともと、天然のうなぎの旬は秋〜冬。しかし、夏にもうなぎを売りたいうなぎ屋は困っていました。そこで、讃岐国出身の蘭学者である平賀源内に相談をすると、源内はうなぎ屋の壁に「本日土用の丑」という張り紙を貼っていきます。そこから土用の丑の日にはうなぎを食べる、という習慣ができ、これが現在まで長く続いているのだとか。
土用の丑の日の縁起が良い食べ物[うなぎ以外]
夏バテ防止のために土用の丑の日にうなぎを食べる
夏の土用の丑の日には「う」のつく食べ物を食べると夏負けしないという言い伝えがあり、縁起が良い食べ物でもあります。うなぎはその代表例。
うなぎ以外にも夏バテ予防にいい「う」のつく食べ物や、土用の丑の日に食べるといいとされる食べ物はたくさんあります。2024年の土用の丑の日はこれらの食べ物を食事に取り入れてみるのもいいかも。
うどん
土用の丑の日に冷やしうどんを食べる
さっぱりとしていて喉越しが良く、食欲のない時でもツルッと食べられる「うどん」。炭水化物がしっかり取れ、消化にも良いことから、夏にはとても重宝されています。夏には冷たいうどんに、ネギやミョウガなどの薬味を加えると食欲が増進されなお良いでしょう。
梅干し
土用の丑の日に梅干しを食べる
クエン酸をたっぷりと含んだ「梅干し」。「疲れているときには酸っぱいもの」というように、クエン酸は柑橘類の酸っぱさと同じ成分で、疲労回復に効果的とされています。
ウリ類
土用の丑の日にきゅうりを食べる
夏に収穫を迎える、きゅうりやスイカ、カボチャ、ゴーヤ、ズッキーニなどのウリ類。栄養価が高く、利尿作用で体内を整えたり体の熱を取ったりと、夏に食べたい食材です。
またウリ類はカリウムを多く含むことも夏にぴったりの理由。カリウムは汗や排せつとともに体外へ出されてしまうもので、特に夏にはカリウムが不足しがち。カリウムが不足すると筋肉疲労が溜まりやすくなったり、食欲が減退したりといわゆる夏バテ状態となります。これらを防ぐためにもカリウムを多く含むウリ類を食べることが効果的です。
土用しじみ
土用の丑の日にしじみを食べる
オルニチンというアミノ酸を豊富に含み、夏と冬の2回旬を迎える「しじみ」。しじみの産卵期は夏で、高い栄養価から夏バテ防止に適していることから「土用しじみ」として夏に重宝されています。
土用卵
土用の丑の日に卵を食べる
昔から滋養食として食べられるほど栄養価の高い「卵」。夏の土用の時期に生まれた卵は栄養豊富だということから、「土用卵」と呼ばれるようになりました。
土用の丑の日にすると縁起が悪いこと
丑の日に「うのつく食べ物」を食べると縁起がよく、無病息災を願うという習わしがありました。しかし、土用の期間にしてしまうと縁起が悪いこともあるようです。
土いじり、土を動かすこと
土用の期間中は陰陽道の土を司る神「土公神(どくしん・どこうしん)」が支配する期間と言われています。そのため、神様がいる期間には、土をいじるような行為(草むしり・井戸ほり・穴掘り・増改築など)は縁起が良くないようです。
しかし、土公神が土を離れて天上界へ向かう日があります。その日のことを「間日(まび)」といい、「卯の日」「辰の日」「申の日」が間日。2024年は7月19日、7月26日、7月27日、7月31日とされています。
新しく何かを始めること
医学が発達していない昔の人たちは、夏の土用の時期は体調を第一に静かに過ごすことがよいと考えていました。そのため、土用期間には生活環境が変わるような新しいことは避けるべきといわれていました。例えば、新居購入、就職、転職、結婚や結納などは避けたほうが良いといわれています。
場所を移動すること
土用期間はどの方角も縁起が良くないようです。旅行や引っ越しはできる限り避け、静かに過ごすことが好ましいとされています。特に凶とされる方角(土用殺)というものがあり、夏の土用は南西の方角が気をつけるべき方角となっています。
土用の丑の日の風習3選
風で揺れる風鈴
食べ物以外にも、土用の丑の日にはさまざまな風習があります。例えば次の通り。
土用干し
土用の丑の日に衣類を外に乾かしている様子
夏の土用入りは梅雨明けと重なるため、衣類や書物を風にあて湿気をとる風習があり、これを「土用干し」と言います。土用の時期に陰干しすることで虫に食われないようになる、という言い伝えから「土用の虫干し」と呼ぶことも。
丑湯
土用の丑の日によもぎが入ったお湯に浸かる
土用の丑の日に薬草を入れたお風呂に浸かる風習を「丑湯」と言います。江戸時代には桃の葉を入れたり、よもぎ、緑茶、ドクダミも薬草として使われていたのだとか。
夏はパパッとシャワーだけで済ませがちですが、暑い夏こそお風呂にしっかりと浸かり、疲れを取ることをおすすめします。
きゅうり加持
土用の丑の日にきゅうり加持を行う
梅雨が明け本格的な暑さが始まる土用の丑の日に、無事に夏を乗り越えられるようにと寺院で行われる「きゅうり加持」。
きゅうりの中に災いや病気を封じ込める祈祷を行い土に埋めます。その埋めたきゅうりが土に還る時、災いも一緒に消えるのだとか。