宮城県仙台市は、冬は寒さが厳しいエリアながら、意外にも雪はほとんど積もりません。ここでは、冬が深まるこの時期だけ出会える郷土料理や伝統行事たちが盛りだくさん。古くから宮城県の伝統を受け継いできた郷土料理・伝統行事は、仙台観光に訪れたならぜひ楽しんでおきたいところ。
今回は、冬にこそおすすめしたい、仙台エリアの楽しみ方を紹介していきます。
【郷土料理編】仙台周辺の冬の楽しみ方
宮城県はカキが豊富に採れることでも有名
冬に旬を迎えるグルメが、宮城県にはたくさんあります。そのなかでも、今回は仙台市およびその周辺で楽しめる冬の料理だけをピックアップ。仙台周辺の観光で外せない郷土料理ばかりです。
長い根っこを持つ本場の「せり鍋」
長く伸びた「セリ」
競り合うように太陽に向かって成長することから「セリ」と名付けられたとの説がある春の七草のひとつ「芹(せり)」。宮城県での生産量は日本一で、名取市では約400年前から生産されている伝統野菜です。
この「仙台せり」は、市内に流れる名取川のきれいな伏流水をひいての水耕栽培によって育ちます。腰まである水田でせりを栽培しているため、根っこは白くて長いのが特徴。郷土料理である「せり鍋」は、白くて長いこの根っこまで、仙台せりをまるごと使った鍋料理。実は、根っこを食べるようになったのはここ数年のことで、もともと地元の生産者も名取市民も根っこは捨てて食べていなかったそうです。
■名取市「スズタケ」でせり鍋をいただく
今では宮城県の郷土料理として有名な「せり鍋」ですが、そのブームの火付け役となったのは、名取市にある「スズタケ」というお店。「スズタケ」の元オーナー(現・せり農家)に話を聞くと、せり鍋のルーツは秋田県名物「きりたんぽ鍋」にあるといいます。
きりたんぽ鍋では、根っこまでせりを鍋に入れ、食べるのが基本スタイル。これをアレンジして、名取市オリジナルのせり鍋ができあがり、2014年、2015年「仙臺鍋グランプリ」2連覇、「ニッポン全国鍋グランプリ」審査員特別賞などを受賞することでじわじわと全国区になっていったそうです。
長い根っこまで丸ごといただく
せり鍋を本場である名取市でいただくと、その根っこの「長さ」に驚きます。全国に流通しているせりのほとんどは「Mサイズ」という丈の長さですが、地元名取市で提供されるセリは農家との直接取引のため、「2L」サイズ。お店に出すためだけに、根っこが長く成長するのを待って届けられます。根っこがついている「根せり」は、3月までが柔らかく美味しく食べられます。※4月~10月はシーズンオフ
お店ごとに異なるダシ
お店ごとに秘伝のダシがあり食べ歩くのもおすすめ。名店「スズタケ」のしょうゆベースの味わい深いダシは、せりの風味が引き立つよう、お雑煮をイメージして味付けされています。鶏肉、えのき、しめじ、人参、豆腐にちくわ。そして最後に仙台せりを入れ、せり鍋のできあがり。柔らかく香り高いせりの味を堪能してみてください。
オーナーとの会話も弾むアットホームな店内
【概要】
店名:スズタケ
住所:〒981-1232 宮城県名取市大手町1-1-2
電話:022-384-1222
営業時間:17:00~23:00(LO. 22:30)
定休日:日曜、祝日
アクセス:JR東北本線 名取駅 西口より 徒歩(約4分)
お正月にいただくハゼが入った「仙台雑煮」
ハゼの焼き干しが入った「仙台雑煮」(写真提供:宮城県観光課)
お正月にしか登場しない仙台の郷土料理、「仙台雑煮(仙臺雑煮)」にも注目を。千切りにしただいこん、にんじん、ゴボウをゆでたあと、焼きハゼでとった出汁としょうゆで味を調え、焼き角餅を入れた、おめでたい郷土料理です。
松島湾の食文化「ハゼの焼き干し」は、地元漁師に代々受け継がれているもので、ハゼを串にさして炭火で焼いたあと、稲わらで結んでつるし干し(外干し)して完成します。
地域によってはいくらやすじこ、せりなどのトッピングをアレンジする家もありますが、最後に焼きハゼを飾るのが仙台雑煮の特徴です。
焼き干ししたハゼ(イメージ)
【伝統行事編】仙台周辺の冬の楽しみ方
仙台周辺には伝統行事もさまざま
冬の仙台に訪れたら、ぜひ伝統行事などもチェックしてみて。毎年12月末まで開催されている仙台市の大規模イルミネーション「光のページェント」はもちろんですが、1月以降の仙台では、歴史を感じられる冬の伝統行事が目白押しです。
日本最大級の「どんと祭」
お正月飾りや神棚に飾ってある古神札を持ち寄って御神火とし、その炎にあたることで新年の無病息災を祈る祭りとして知られている「どんと祭」。全国各地でお正月が明けた1月半ばごろに開催されますね。宮城県内では、岩沼市の竹駒神社、仙台市の大崎八幡宮、塩竃市の塩竃神社など多くの神社で行われます。
勢いよく炎が上がるどんと祭
この「どんと」という言葉には「炎の勢い」という意味があるようで、ほかの地域では「どんどん焼き」「左義長(さぎちょう)」などとも呼ばれています。お正月に豊作や幸せを届けに来る年神様が、この御神火の煙に乗って帰られる、と考えられています。
全国各地で開催されるどんと祭やどんと焼きですが、実は宮城県では日本でも最大級のどんと祭が行われます。
特徴は、この正月送りの行事はただ御神火を焚くだけでなく、「裸参り」も行われている、ということ。仙台市内の大崎八幡宮「松焚祭(まつたきまつり)」をはじめ、北部の登米市迫町・津島神社の「佐沼どんと祭裸参り」、南部角田市の「かくだどんと祭り裸参り」など、雪が舞うこの時期に、各地で下帯姿の男衆が裸参りを行うのです。
ここでは、全国最大級三百年の歴史をもつ、仙台市の無形民俗文化財大崎八幡宮「松焚祭(まつたきまつり)」を紹介します。
■大崎八幡宮「松焚祭」
大崎八幡宮の公式サイトによると、江戸時代、仕込みに入る酒杜氏が醸造安全・吟醸祈願のために参拝したのが松焚祭のはじまりとされているそうです。
男性は白いはち巻きに白さらし、女性は白法被姿で参加。右手に鐘、左手に提灯、白足袋・わらじの装束、口には私語を慎むための「含み紙」をくわえるというのが正装です。2019年1月の松焚祭では、地元企業や町内会、大学のゼミなど116団体約3,200人が参加しました。
寒さを感じさせない熱気を感じられる「裸参り」(写真提供:宮城県観光課)
仙台駅からほど近いアーケード街でもその姿を見ることができ、鐘を鳴らしながら静かに大崎八幡宮を目指す男性たちに出会えます。
毎年1月14日夜から翌15日未明にかけて行う裸参り。気温がマイナス0度を下回るこの時期に、裸で大崎八幡宮を目指す参加者たちの熱い心意気を感じられます。
【概要】
行事名:松焚祭 裸参り
住所:〒980-0871 宮城県仙台市青葉区八幡4-6-1(大崎八幡宮)
開催日:2020年1月14日(火)
TEL:022-234-3606
古くからの伝統行事「日本刀打初式」
刀が打たれるその様子に圧倒される「日本刀打初式」(写真提供:Saburo Hokke)
刀匠が大槌を振るい、熱した玉綱を叩く。そんな伝統的な日本刀打ちの様子を見たことはあるでしょうか?毎年1月5日、宮城県大崎市松山で「日本刀打初式」が行われます。
平安時代後期、現在の岩手県平泉町には豪族、藤原氏が拠点を置いていました。陸奥国一帯を支配していた奥州藤原氏の栄華を支えていたのが「奥州刀鍛冶」と呼ばれる刀工集団です。優秀な日本刀などの武器を藤原氏に提供していました。
藤原氏の滅亡後はその武器が全国の武将たちの戦利品となって日本中に広まり、技術提供のため「奥州刀鍛冶」たちは連れ去られ、刀工たちはのちの大和伝保昌派(日本刀の1種)の流れに乗り、「大和鍛冶(やまとかじ)」として質実剛健な刀を作り続けたのです。
厳かな雰囲気の打初式(写真提供:Saburo Hokke)
ここ宮城県大崎市松山にも、大和伝保昌派の刀匠、法華三郎信房さんの工房があり、新春恒例の「日本刀打初式」が行われます。日本全国に残る刀工200余人の中で、大和伝保昌派の鍛法を続けているのは、法華三郎信房さん・栄喜さん父子だけ。貴重な「日本刀打初式」を宮城県で見ることができるんです。
【概要】
行事名:「日本刀打初式」(大崎市無形文化財)
住所:宮城県大崎市松山千石南亀田76
開催日:1月5日 ※毎年同日
TEL:0229-55-2106(法華三郎日本刀鍛錬所)
仙台周辺の新しい冬の楽しみ方を探してみて
今回紹介した冬の仙台の楽しみ方は、ほんの一部。温泉にスキーリゾート、海鮮なら牡蠣小屋にマグロ、カニ、クジラなど…あげるとキリがありません。春夏秋冬どのシーズンでも、季節ならではの楽しみ方ができる仙台とその周辺エリア。ぜひ伝統行事や郷土料理もチェックしながら、冬ならではの魅力を見つけてみてくださいね。