錦江湾(鹿児島湾)の中心に、まるで浮かんでいるように見える「桜島」。鹿児島市の一部として約4,000人の人口を抱える一方で、実は「日本で最も活動的な火山」としても知られています。観測が開始されてから60年以上噴火しつづけている桜島は、自然の力強さや雄大さを感じられるスポットが多く残り、通年多くの観光客が訪れる鹿児島県の定番観光スポットでもあります。
今回は、そんな桜島の成り立ちや、鹿児島県在住の筆者がおすすめする見どころ、桜島とそこに住む人々の生活との関わりについて紹介します。
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鹿児島のシンボル【桜島】
「洋上に浮かぶ美しい単独峰」「毎日のように噴火や爆発を繰り返す火山」「世界最大の大根と、世界最小のみかんの産地」「鹿児島のシンボルで県内屈指の観光資源」などなど、桜島にはさまざまな顔があります。
夕焼けと桜島
一方で、全国的には桜島の知名度はいまひとつです。ニュースなどで断片的に報道される内容から「危険な火山」というイメージを持っている人も少なくありません。しかし実際のところ、桜島は地球の息吹をリアルに「安全に」体感できる、魅力あふれるスポットです。
「桜島」は島?
鹿児島県外の多くの人が誤解している点ですが、桜島は「島」ではありません。南東のわずかな部分で大隅半島とつながっているため、桜島全体がひとつの「半島」になっているのです。ではなぜ桜「島」という名前がついているのでしょうか?
現在は陸続きの桜島(桜島ビジターセンターの展示より)
実は今から約100年前ほどまで、現在陸続きになっている部分には幅400m、深さ約100mの「瀬戸海峡」があって、桜島は文字通りの「島」でした。しかし1914年1月に発生した大噴火(大正大噴火)の際、火口から流れ出た溶岩が海峡を埋め立てて、今のような姿になったそうです。ちなみにこの噴火では島の東側にある黒神地区が2mもの火山灰や軽石で埋まったほか、火山灰の一部は東北地方、さらにはロシアの極東にあるカムチャッカ半島まで流されたと言われます。
「桜島」には人が住んでいる
鹿児島県外から来た観光客に、「桜島には人が住んでいる」と話すと驚かれることがあります。これは「桜島は活発に噴火を繰り返す火山」というイメージが強すぎるせいかもしれません。
しかし実際のところ、桜島には4,000人ほどの人が住んでいて、県営住宅や一戸建ての民家、ホテル、病院、さらにはスーパーマーケットやコンビニエンスストアまであります。ちなみに「桜島に住んでいて危なくないの?」という質問もよく聞きますが、島内に住んでいる人によると「観測態勢も噴火予測もしっかりしているから不安はない」とのこと。
住民が安心して日常生活を行える桜島は、観光地としても「安全・安心」な場所と言えるでしょう。
桜島の県営住宅と生活道路
五感で【桜島】を体感しよう!
住民にとっては「生活の島」である桜島も、旅行者にとっては珍しい「観光地」です。鹿児島市の中心市街地から10km弱という至近距離にあり、しかもエリア内にも人が住んでいる「活火山」というのは日本はもちろん世界中を見ても非常にまれ。実際に桜島へ渡るフェリーターミナルのまわりでは、バックパックを背負った欧米人を毎日のように見かけます。
では、初めて桜島を訪れる旅行者にとって、桜島の魅力を存分に感じられる見どころはどんなものがあるのでしょうか?ここでは鹿児島県在住の筆者がおすすめする、代表的な5つのスポットを紹介します。
桜島は世界的にも珍しい場所
1.「桜島溶岩なぎさ公園」で足湯を堪能
火山といえば温泉ですが、フラッと訪れた旅行者にとって温泉に入浴するのは少しハードルが高いものです。そこでおすすめなのが「足湯」。桜島フェリーターミナルから徒歩10分のところにある「桜島溶岩なぎさ公園」には、日本最大級・全長100mの足湯があります。少しぬるめのお湯に足を浸して錦江湾を眺めれば、旅の疲れも吹き飛びます。
タオルを忘れた場合には、オリジナルのタオルを購入も可能です。公園に隣接する「桜島ビジターセンター(500円)」や「国民宿舎レインボー桜島(200円)」に行ってみましょう。
全長100mの足湯
足湯を楽しんだ後は、全長3kmの遊歩道にぜひ挑戦してみてください。生まれたての原始の地球を思わせる、荒々しい溶岩と雄大な錦江湾のコントラストが楽しめますよ。
溶岩原に延びる散策路
2.「湯之平展望所」から市街地を一望
地元民もおすすめする絶景ビューポイントが、「湯之平展望所(ゆのひらてんぼうじょ)」です。
桜島(北岳)の4合目、標高373mの高さにある展望台は、一般の人が登ることのできる桜島の最高地点。目の前には錦江湾と鹿児島市街地、背後には荒々しく迫る桜島の山肌を眺めることができます。
標高373mの湯之平展望所
なお桜島フェリーターミナルから湯之平展望所までは車で15分ほど。一番お手軽なアクセス方法は「サクラジマアイランドビュー」という周遊バスの利用です。またタイミングが合えば市営の定期観光バスも利用できます。その他、島内でレンタカーを借りる、レンタカーごとフェリーで桜島に渡るという手もあるので、自分に合った方法を見つけてみてください。
荒々しい山肌を見せる桜島の北岳
3.「有村溶岩展望所」の溶岩原を歩く
大正大噴火で流れ出た、比較的「新しい」溶岩を360°のパノラマで観察できるのが「有村溶岩展望所」。今も活発に噴火活動を繰り返す桜島(南岳)の火口がすぐ目の前にあり、山肌の大きなくぼみから水蒸気や噴煙が湧き上がる様子など、リアルな迫力を間近に味わえるのが大きな特徴です。
有村溶岩展望所の入り口
桜島の南にある有村溶岩展望所までは桜島フェリーターミナルから車でおよそ20分。公共交通機関は市営の定期観光バスか路線バスしかないので、旅行者にとっては少しハードルが高いかもしれません。どうしてもゆっくり見学したいという場合は、レンタカーの利用も検討してみましょう。
大正大噴火で流れた溶岩を観察できる
4.「黒神埋没鳥居」で大正の大噴火を感じる
黒神埋没鳥居と案内看板
大正大噴火の痕跡を辿るなら、絶対に外せないのが「黒神埋没鳥居(くろかみまいぼつとりい)」。看板の奥にあるのは、一見すると高さ1mのミニ鳥居ですが、実はこの鳥居、もともとは高さ3mだったとのこと。大正大噴火の際に火山灰や噴石が2mの高さまで降り積もり、このような姿になりました。
上部1m部分だけが地表から顔を覗かせている
黒神埋没鳥居までは桜島フェリーターミナルから車で約25分。アクセスの際は公共交通機関なら市営定期観光バスか路線バス、もしくはレンタカーを使うのが一般的です。
5.「桜島火の島めぐみ館」で地元の食材に舌鼓!
桜島にはギネスブックに認定された特産品がふたつあります。
ひとつは世界一大きい大根「桜島大根」、もうひとつは世界一小さいみかん「桜島小みかん」です。桜島小みかんは甘味と香りの強さが特徴で、いくらでも食べられてしまうおいしさ。桜島大根は繊維が少なく柔らかい食感のため、煮物などに最適です。
その両方を味わえるのが、道の駅「桜島火の島めぐみ館」です。
桜島の恵が味わえる、道の駅火の島めぐみ館
館内では一番人気のお土産「桜島大根味噌漬け」や、旅行者に大人気の「桜島小みかんソフトクリーム」を購入できます。また桜島では小みかん以外にも極早生みかん(ごくわせみかん)などさまざまな柑橘類が栽培されています。旅行のお供にいかがでしょうか。
桜島では柑橘類が豊富に栽培されている
【桜島】を理解するための2つの施設
桜島の爆発回数をリアルタイムで案内(桜島ビジターセンターより)
桜島について理解するためには、主なスポットを回るだけでは物足りないかもしれません。桜島の成り立ちや歴史、火山の噴火が自然に与える影響を学んだり、火山災害から地元の人々の暮らしをどのように守っているかなどを知るには、専門の施設を訪れるのがおすすめ。
ここでは桜島を代表する施設として「桜島ビジターセンター」と「桜島国際火山砂防センター」を紹介します。
桜島ビジターセンター
霧島錦江湾国立公園の一部でもある桜島。桜島ビジターセンターは、そんな桜島への理解を深めるために設置された施設です。館内には映像資料や模型、パネルなどさまざま展示がなされていて、桜島の概要についてしっかりと学べます。
スタッフの中には実際に桜島に住んでいる方もいるので、島内のアクセスはもちろん、桜島についてのさまざまな疑問や質問に対して的確な情報がもらえるのもうれしいところ。
桜島フェリーターミナルから徒歩10分と便利な場所にあるので、桜島を訪れたらまっさきに立ち寄ってみましょう。
アクセス良好な桜島ビジターセンター
展示物の中には桜島の模型や地層断面の実物大模型、実物の火山礫(砂利状の火山岩)や火山灰も展示されており、桜島の歴史や火山の営みをリアルに実感できます。また間近ではなかなか見ることのできない噴火の様子を上映する「噴火映像コーナー」は迫力満点。
模型やパネル表示で桜島を解説
桜島についてじっくり勉強してみたいという人には、桜島関連の書籍類もおすすめです。館内で販売している書籍の中には、桜島の写真集や桜島をモチーフにした絵本もあるので、お土産にもぴったり。
桜島に関する書籍類も豊富
桜島国際火山砂防センター
桜島国際火山砂防センターは、桜島の人々の生活を守る「砂防事業」の拠点です。砂防事業では土石流などによる被害を防ぐため、上流から土砂が流出するのを防いだり、流れてきた土砂を取り除いたりする工事を行います。しかし噴火が活発な桜島での監視や工事やは危険が伴ううえ、火口から2km圏内は立入禁止になっているため砂防事業は非常に困難とのこと。
なお3階建ての砂防センターは、1階が応急復旧や情報収集用の車両保管庫、2階が展示施設、3階が島内に設置した各センサーの集中管理室になっています。
住民の生活を守る桜島国際火山砂防センター
展示室に展示されているのは、これまでに桜島で発生した土石流の監視映像や、過去の土石流被害の記録写真、砂防事業についてパネルなど。またこのフロアは、火山噴火時や土石流発生時に住民の緊急避難場所としても使われます。
多言語対応の案内表示
砂防センターのすぐ横は二級河川の「野尻川(のじりがわ)」。現在でも年間20回ほど土石流が発生しているとのことで、常に砂防工事が行われています。「土石流観察ゾーン」では野尻川を見下ろす位置から、砂防工事について学んだり実際に工事の様子を観察することができます。
砂防工事の様子を間近に見学できる
アクセス
桜島のアクセスは、桜島へ渡るためのアクセスと、桜島島内のアクセスに大きく分けられます。なお以下で紹介する交通機関を利用する際は、市内の観光案内所やフェリーターミナルで「CUTE(キュート)」という共通利用券(1日券:1,200円 / 2日券:1,800円 / 子どもは半額)を購入しておくと便利です。
鹿児島市側のフェリーターミナル
桜島フェリー
鹿児島市内から桜島へ渡るには、基本的に車かフェリーを利用します。ただし車で陸路を渡る場合は、霧島市経由で約2時間のドライブ。時間を有効に使いたい一般的な旅行者であれば、桜島へのアクセスは実質的に「桜島フェリー」一択です。
桜島フェリーは鹿児島市民の生活の足でもあるため、基本的に24時間運行しています。片道約15分の航路を1時間に1〜4本の頻度で往復していて、特に日中はそれほど待たずに乗り込むことができます。運賃は片道200円(1歳〜小学生までは100円)。現金のほか、クレジットカードやSuicaをはじめとする電子マネーでの支払いも可能です。あらかじめCUTEを購入しておけば乗り放題ですよ。
桜島側のフェリーターミナル
サクラジマアイランドビュー
桜島島内で便利な公共交通機関としておすすめしたいのが、巡回バス「サクラジマアイランドビュー」。桜島フェリーターミナル(桜島港)を起点に、桜島ビジターセンターや道の駅火の島めぐみ館、桜島国際火山砂防センター、湯之平展望所などを30分間隔、計15便が巡回しています(桜島国際火山砂防センターを経由する便は1時間おき)。
外国人の利用者も多いサクラジマアイランドビュー
運賃は乗車区間によって120〜440円(小児半額)。こちらもCUTEが使えますが、サクラジマアイランドビューだけの一日乗車券も500円(小児半額)で販売されています。
市営定期観光バス
桜島の見どころをバスガイドの解説付きで楽しみたいなら「市営定期観光バス」がおすすめです。サクラジマアイランドビューと違い、湯之平展望所だけでなく、有村溶岩展望所や黒神埋没鳥居など桜島の南側や東側のスポットも見学できるのが大きな魅力です。
桜島の主な見どころを回る定期観光バス
ただし1日2便という本数の少なさに加え、運賃も1,800円(小児850円)とやや高め。CUTEも利用できません。加えて、見学時間がきっちり決められているので団体ツアーが苦手な人には少し不向きです。
路線バス
桜島の島内には、市営と民営の路線バスも走っています。市営バスはCUTEが使えるため、路線バスで回るのもおトクです。地元の人たちと一緒にバスに揺られるのも、良い旅の思い出になるでしょう。
レンタカー・レンタサイクル
桜島港の目の前にある「桜島レンタカー・レンタサイクル」では、軽自動車4,800円、乗用車6,500円(どちらも2時間以内、延長は1時間あたり1,500円)で車を借りることができます。ガソリン代・保険代も込みなので、複数の人数で動くならかなりおトク。レンタサイクル(ママチャリ)は1時間あたり300円です。
また桜島ビジターセンターでもレンタサイクルを取り扱っています。こちらはスポーツタイプで、3時間まで2,500円、延長は1時間あたり500円です。
桜島の道路はアップダウンが厳しいので、よほど脚力や持久力に自信がない限り、自転車で有村溶岩展望所や黒神埋没鳥居など遠くのスポットに行くのは厳しいかもしれません。
桜島の魅力を全身で感じよう
市街地に近い活火山として世界的にも珍しく、しかも見どころ豊富な桜島。鹿児島観光をするなら一度は訪れてほしい場所です。どんな場所を見るか、どのアクセス手段を使うかなどをしっかりと計画したら準備は万端。ぜひ桜島の魅力を自分の五感で味わってみてください。