高野山の麓「高野下駅」に「駅舎ホテル」が登場!
駅舎ホテル 趣の異なる2つの客室
乗務員の待機スペースに誕生した2人部屋「天空」
乗務員の宿直室を改装した4人部屋「高野」
朝食はとなり駅の「おむすびスタンド くど」へ
電車を利用した高野山へのアクセス方法
高野下駅・九度山駅周辺のおすすめスポット
まとめ

和歌山県・伊都郡の標高約800mに位置する和歌山・高野山。仏教の聖地として多くの人が日々訪れる高野山ですが、実はそのすぐ近くの駅「高野下駅」に、2019年11月、ユニークな「駅舎ホテル」が誕生したことをご存知ですか?無人駅の駅舎を改装し、センスあふれる「電車」を散りばめたデザインで誕生したホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」。

今回は駅舎ホテルに設けられたたった2つの客室をはじめ、その魅力について徹底的に紹介していきます!

(メイン写真提供:NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI)

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【高野山】空海が築いた仏教の聖地

和歌山県 < 高野山

高野山金剛峯寺

【高野山】空海が築いた仏教の聖地 1,200年の歴史が息づく世界遺産「高野山」。和歌山県高野町に位置する、弘法大師・空海によって開かれた日本仏教の聖地です。高野山金剛峯寺は真言宗の総本山。紀伊山地の霊場と参詣道として世界遺産に登録された人気の観光名所となっています。

神社・寺

高野山の麓「高野下駅」に「駅舎ホテル」が登場!

高野下駅

高野下駅。後ろに駅舎が見える

「紀伊山地の霊場と参詣道」として、世界遺産に登録されている高野山。2015年に開創1200年を迎えた、仏教の聖地です。そんな高野山へ電車で訪れる際に、必ず通る麓の駅。それが、今回新たに誕生した駅舎ホテルのある「高野下駅」です。1925年に改称するまでは当駅が「高野山駅」と呼ばれており、高野参詣道である「槇尾道」入口の最寄り駅であったため、宿場町として栄えていました。

遮断機を通って高野下駅改札へ

遮断機を通って高野下駅改札へ

そんな歴史ある高野下駅に内設されているのが、今回訪れる駅舎ホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」。日本各地に点在する古民家などを、歴史的背景を守りながらリノベーションし、新しい価値を持った施設に生まれ変わらせる「NIPPONIA」という取り組みのひとつとして誕生しました。

高野下駅舎

駅舎ホテルのある高野下駅舎

大正時代に誕生し、高野山へと向かう人々を迎え入れる玄関口として賑わっていた高野下駅。その歴史を残したままホテルに生まれ変わらせることにより、ゲストは「宿泊」を通して、高野下駅周辺ののどかな自然や温かな地域性を感じながら、高野山へと向かう旅への入り口を開くことができるのです。

高野下駅の駅舎ホテル 趣の異なる2つの客室

駅舎の一部がホテルに

高野下駅切符売り場の横にある駅舎ホテルの一室

ホームに降り立って高野下駅の駅舎に向かうと、駅舎には真新しい扉が2つ。駅舎の機能を残したまま、乗務員が使っていた部屋をホテルに改装し、2つの客室へと生まれ変わりました。

「天空」「高野」と名付けられたホテルの客室には、約半世紀に渡り走り続けた電車の、扉・網棚・座席・つり革などがそれぞれインテリアとして使用されているのも大きな特徴。

扉を開けた先には、どんな空間が広がっているのか。その内部を見ていきましょう。

乗務員の待機スペースに誕生した2人部屋「天空」

天空のプレート

高野下駅の駅舎ホテル「天空」のルームプレート

まずは、2人部屋の「天空」を見てみましょう。ここはかつて、乗務員の待機所だった場所。17㎡ほどのコンパクトなスペースをリノベーションし、ダブルベットを1つ設けた客室へと生まれ変わりました。

「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」は、チェックインやチェックアウトをするレセプションスペースなどのない無人ホテル。予約確定時にメールで届いたパスワードが、客室の扉を開けるキーになっています。

扉を開けた先

駅舎のルームドアを開くと…

駅舎の扉の向こうには、駅舎時代の内装を生かしつつ新しさを取り入れた空間が広がっていました。床の木材はすべて張り替え、ナチュラルで上品な雰囲気に。部屋の中心に据えられた真っ白なベッドと調和しています。真っ赤なカーテンや、カウンターテーブルの下に収められたスツールから、大正ロマンの趣が感じられます。

かつては真壁造りだったのでしょうか、一部柱とヒビの入った塗り壁が残されており、歴史を物語っていました。抜ける視線の先には乗務員たちが出入りしていた磨りガラスの扉をそのままに、その横にはつり革が配されているなど、駅舎・電車の歴史をしっかりと残したユニークな造り。腰壁の一部が木材に張り替えられていますが、絶妙になじみ、違和感は覚えません。

駅舎ホテルメイン

駅舎ホテル「天空」室内全体

ベッドのヘッドボードの奥には引き違い窓が配されており、そこからふんだんに陽光を取り込める設計。室内は、たっぷりの穏やかな光に包まれています。どうやら窓も以前の駅舎のままのようで、今は作られていない「ネジ式」の鍵が、時代の流れを感じさせました。

天空の窓から電車が見える

駅舎ホテル「天空」の窓から見る電車

この窓から見える景色も、駅舎ホテルのひとつの醍醐味。

近づいてくる電車の音に誘われ窓辺に寄ると、ちょうど窓の向こう数m先を、電車が走り抜けていきました。ベッドの隣には窓の向こうがちょうど覗けるように、かつて電車で使われていた座席を配するといううれしい仕掛けも。ホームを行き来する電車の音や姿を、この座席に座りながら、ベッドに横になりながら、存分に満喫できるのです。

ベッドサイドの電車の椅子

電車の座椅子

このように、客室内のそこかしこに、「電車」を感じさせるユニークなインテリアが配されているのが「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」の大きな特徴。

例えば、ベッドの向かい側に備えられたカウンターテーブルには、電車の計器がありました。計器には、「ATS切忘れ注意」の文字が。実際に使われていた計器をそのままインテリアとして残しています。

計器

駅舎ホテルの室内に残る計器。ATSとは、自動列車停止装置のこと

ほかにも、網棚や手すりなどがさりげなく室内を飾っています。もちろんどれも、かつて実際に電車に使われていた部品たち。実際に触って、使って、その歴史や情緒を味わってみてください。

天空室内の水回り

新しく清潔感あふれる水回り

新旧のインテリアデザインが調和した、どこか懐かしさを覚える客室「天空」。リノベーションに伴い、水回りもすべて新しくしているため、快適に宿泊できます。ユーモアを感じるインテリアに囲まれて、かつて高野山駅として栄えた高野下駅に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

乗務員の宿直室を改装した4人部屋「高野」

高野の入り口

高野下駅の駅舎ホテル「高野」の入り口

続いては、駅舎ホテルのもうひとつの客室「高野」へ。こちらは、乗務員が仮眠や待機をするための部屋「宿直室」を改装して造られています。「天空」よりも広々とした44㎡の空間にはダブルベッドを2つ用意し、最大4名まで宿泊可能です。

大正ロマンのテーブルと椅子

視線の先にはテーブルとチェアがのぞく

扉を開いた視線の先には、フリースペースに配された大正ロマン感じるテーブルとチェアが。スツールも「天空」と同じデザインで、大正時代の面影を残します。実際に使われていたものなのか、リノベーションの際に新しく取り入れたのかは定かではありませんが、現代ではなかなか見られないトグルスイッチを使っているのもおしゃれ。細部へのデザインのこだわり・統一感が感じられます。

高野の室内

高野下駅の駅舎ホテル「高野」室内全体

壁だけでなく、「高野」の室内には柱も数本、そのまま残されていました。経年変化で深みのある色合いとなった柱には、時代を反映するキズだけでなく、組木の跡も。駅舎の宿直室時代、どのようにこの柱が使われていたのか、かつての空間に思いを巡らせるのも楽しいかもしれません。

高野室内の柱

歴史が刻まれた駅舎の柱

窓の奥の景色

駅舎ホテル窓からは高野下駅のホームをのぞける

「高野」の窓も、もちろんかつてのものをそのまま利用。ここからは、線路と駅のホームまでも眺めることができます。「電車が近すぎて睡眠の妨げになるのでは?」という心配はご無用。アメニティに耳栓も備わっていました。

アメニティの耳栓

アメニティには耳栓も

もちろん「高野」の室内も、さまざまな電車の部品が配されています。2人掛けの座席を壁に取り付けているほか、網棚やつり革はこちらでも見ることができます。そのなかでもぜひチェックしてほしいのが、室内数カ所に貼られたプレート。「東急車輌」と書かれた写真のプレートのほか、クローゼットの扉やベッドサイドなど、さまざまな場所に隠れていますので、ぜひ探してみては。

室内に貼られたプレート

室内にいくつか貼られたプレート

スペースを最大限に生かし、ゆったりとした空間をデザインした「高野」。かつてここで乗務員が仮眠を取ったり、電車運転の待機をしたりしていた姿を想像しながら、電車や人の行き交う様子を眺める贅沢なひとときを過ごしてみてください。

朝食は高野下駅のとなり駅の「おむすびスタンド くど」へ

高野下駅の駅舎ホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」にはレセプションスペースなどはありませんが、おもてなしの心を感じられるうれしいプレゼントも。そのプレゼントは、各客室に置かれた1つのチケットです。

朝食切符

「#駅舎に泊まったー」記念の切符

手にとって見ると、チケットには“「#駅舎に泊まったー」記念”と書かれています。となりの九度山駅への往復分の切符と、九度山駅の「おむすびスタンド くど」で朝食をいただけるサービス「朝食切符」が添えられています。これは宿からの贈り物。電車にちなんだ切符のデザインが、とっても粋!

どんなおにぎりがいただけるのでしょうか、宿を出て、九度山駅へと向かいましょう。

九度山駅のホーム

和紙が張られカラフルな駅の天井

実はこちらの「おにぎりスタンド くど」も、NIPPONIAの取り組みの一環で誕生した施設のひとつ。2019年11月、高野下駅の駅舎と同時に、九度山の駅舎もリノベーションにより、新しく生まれ変わったのです。九度山駅も、高野下駅同様、高野山へ続く道の要所。参詣道「町石道」の起点があることから、昔から多くの人々が利用する駅でした。

そんな九度山駅の駅舎に誕生したのが、「おむすびスタンド くど」。かまどで炊いた九度山産のお米と、和歌山の食材を使った「和歌山の味」にこだわったおにぎりがいただけます。

駅ホームのおにぎりスタンドくど

「おむすびスタンド くど」と駅の表示板

「朝食切符」でいただけるのは、2つのおにぎりと、味噌汁と漬物。かまど炊き本来のお米の味を楽しめる「塩むすび」と、日替わり具材で作ったおにぎりがいただけます。

今回はスタッフの女性におすすめをうかがい、筆者好みのおにぎりを2ついただくことに。「黒米菜の花くるみ味噌」と「黒米ごましお」を注文しました。具材は旬のものを使用しているため、季節や日によって変動します。訪れるたびに異なる旬の食材と出会えるのも魅力のひとつです。

くどの釜

米を炊くために並ぶ3つの釜

おにぎりはでき上がったら席まで持ってきてくれるそうで、その間に改装で生まれ変わった駅舎を歩いてみましょう。

駅舎には、いくつかのフリースペースが設けられています。休憩スペースとして使うのはもちろん、「くど」で購入したおにぎりも、好きな席でいただけます。

電車の扉がついた建物

オープンスペースの一角に、電車のドアがついている建物が

席を探していると、デッキのようなオープンフリースペースの一角に、電車の扉が付いた建物を発見しました。無機質な金属の建物の中に足を踏み入れ進むと、その先にも電車の扉!この建物にも、駅舎ホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」と同様、引退した電車のパーツを使ったユニークなデザインが施されているようです。

電車の扉

奥に進むと、さらに電車の扉が迎えてくれる

扉を開くとその向こうには、真っ赤なベロア生地を使ったチェアが。その周りの壁には味のある木の板が貼られ、レトロな光景が広がっていました。

温かみのある建物内部

温かみを感じる建物内部

室内にはかつて使用されていた信号の制御盤もあり、自由に触ってOK。子どもを連れて訪れるのもいいかもしれません。

制御盤

建物奥にある信号の制御盤

駅舎内を歩きながら過ごしていると、できたてのおにぎりが届きました。

黒米は白米よりも、一粒一粒の主張が強く、ぷりっとした食感です。甘じょっぱい味噌に、菜の花の苦味がアクセントを添えてくれている「黒米菜の花くるみ味噌」。「黒米ごましお」は黒米の甘さを塩が引き締めてくれるシンプルな味つけ。黒米の食感と合わさり、これまで食べたことのない味わいのごましおおにぎりでした。

2つのおむすび

右 /「黒米菜の花くるみ味噌」、左 /「黒米ごましお」

電車を利用した高野山へのアクセス方法

和歌山県の山奥に広がる日本仏教の聖地「高野山」への行き方はさまざま。ここでは、電車を使ったアクセス方法を紹介します。

特別な電車「天空」で風景を楽しむ

大阪方面から高野山へ行く場合、和歌山県の「橋本駅」から出発し、「極楽橋駅」で乗り換え、「高野山駅」へ向かいます。

特別列車「天空」

線路を走る電車「天空」(写真提供:南海電気鉄道株式会社)

橋本駅から極楽橋駅までは、南海電鉄高野線の特別列車「こうや花鉄道 天空」で行くのががおすすめ。

「天空」の座席

「天空」の指定座席(写真提供:南海電気鉄道株式会社)

「天空」は、座席指定の列車。列車のサイドには大きな窓を採用しており、自然豊かな景色を眺めながら高野山へと向かうことができます。季節の花々やトンネルの数々、迫力ある大自然の移り変わりを楽しめます。自分と向き合う高野山の旅のはじめにぴったり。

ケーブルカーで一気に高野山へ

高野山を走るケーブルカー

斜面を走る「高野山ケーブルカー」(写真提供:南海電気鉄道株式会社)

天空に乗って「極楽橋駅」まで行けば、あと一駅で高野山。

最後は、「高野山ケーブルカー」で一気に上ります。全長約800m、その高低差は328m。東京タワーと同じくらいの高さを、約5分という速さで上っていきます。高野山に流れる神聖な雰囲気を、ぜひ感じてきてくださいね。

高野下駅・九度山駅周辺のおすすめスポット

最後に、駅舎ホテルに訪れたらぜひとも立ち寄りたいおすすめの観光スポットを紹介します。いずれも高野下駅・九度山駅からアクセスしやすいスポットのため、気軽に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

高野下駅駅舎ホテルで特別な高野山体験を

大正時代から続く歴史を残しながら、新しい高野山への拠点として誕生した高野下駅の駅舎ホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」。引退した電車のパーツを使うというユニークな発想で、電車好きという人にとっても大満足な旅ができるはずです。

「駅舎に宿泊する」という体験は、きっと高野山参詣前・後のあなたの心を癒す贅沢な時間になるでしょう。高野山はもちろん、高野下駅・九度山駅周辺の散策も合わせて、自然豊かで真言密教のパワーにあふれたステキな町を楽しんでみてはいかがでしょうか。