「商売繁盛で笹もって来い!」
そんなかけ声が飛び交う、活気あふれる「十日戎(とおかえびす)」。
十日戎は「えべっさん」とも呼ばれ、関西では知らない人はいない新年の恒例行事です。
関西生まれの私にとって「えべっさん」はとても身近な行事。初詣の厳かな雰囲気とは違い、賑やかで庶民的なお祭りです。
この記事では、「大阪のえべっさん」について詳しく解説するとともに、大阪で「十日戎」を開催している神社とその特徴について紹介します。
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【大阪のえべっさん】十日戎ってどんな祭り?
十日戎には、ほかの祭や初詣にはない、独自の「決まり事」があります。まず、十日戎の基本情報について解説しましょう。
開催日程や祭りの概要と意味
「十日戎」とは毎年1月10日に、恵比寿様に商売繁盛を祈願して開催されるお祭りのこと。
一般的に1月9日〜11日の3日間行われ、9日を「宵えびす」、10日を「本えびす」、11日を「残り福」と呼びます。
恵比寿様をあしらった縁起物の数々
「商売繁盛で笹もって来い!」の掛け声とともに、「福笹」や「熊手」などの縁起物を買い求める参拝客で賑わいます。境内にはさまざまな屋台が並び、餅まき行事や神楽の奉納が行われることもあります。
恵比寿様は、古くは「漁業の神様」として漁師の間で信仰されていましたが、大阪が商人の町として発展するとともに、海から福を運んでくる「商売の神様」として親しまれるようになりました。
漁師たちと地元の商人たちから始まった「十日戎」。鉄道の発達により都市部から一般客を呼び込み、華やかなイベント的要素も加わることでより発展していったといわれています。
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福男、福むすめ、えびす娘って?
では、十日戎に華を添える「福男」「福むすめ」「えびす娘」とはいったいどんな人でしょうか?
■福男
その歴史は古く、公式には鎌倉時代が起源だといわれています。
「福男選び」は、えびす信仰の総本社、兵庫県の西宮神社の神事。毎年ニュースで取り上げられているためご存じの方もいるのでは?
西宮神社では、1月10日「本えびす」の早朝、参拝者が一斉に一番福を目指し230m離れた本殿へと駆け上がります。到着順に1番から3番までがその年の「福男」に認定されます。福男とは「つかんだ1年の福を分け与える人」という意味があるのだとか。
1953(昭和28)年の西宮神社での福男選びの様子(写真:にしのみやオープンデータサイト )
■福娘
福娘は、十日戎のためだけに一般公募から選ばれた10~20代の美しい女性たち。
おそろいの着物に「千早」と呼ばれる白い羽織を着て、頭には金の烏帽子(えぼし)といういでたちで、福笹など縁起物を参拝者に授ける「ご奉仕」を行います。また関係各所への表敬訪問やPR活動も大切な仕事です。
福娘に選ばれるのは大変名誉なこと。特に今宮戎神社では最高倍率75倍の狭き門を勝ち抜いたこと、福をさずける縁起の良さから「関西女子アナの登龍門」といわれています。
並んで参拝者を待つ今宮戎神社の福娘たち(写真:公益財団法人 大阪観光局)
■えびす娘
今宮戎神社の「福娘」の最終選考に残った人のこと。「十日戎」の期間、福娘とともにご奉仕を行います。
欠かせない「福笹」「吉兆」
えべっさんにおける必須アイテム「福笹(ふくざさ)」「吉兆(きっちょう/きっきょう)」とは何でしょう?それぞれ説明していきます。
■福笹
十日戎の縁起物として欠かせない「福笹」ですが、笹が使われる理由は、笹(竹)は古代から強い生命力や神秘性から「神霊が宿る」とされているため。また恵比寿様が手に持つ竿に似ているからという説もあります。
吉兆の飾りで彩られた福笹
■吉兆
福笹につける飾りのこと。「あわびのし」「銭叺(ぜにかます)」「銭袋(ぜにぶくろ)」「末広」「小判」「丁銀」「打ち出の小槌」「大福帳」「烏帽子(えぼし)」「臼」「米俵」「鯛」などがあります。
神社によって、あらかじめ笹に吉兆を付けた状態で売られている場合と、境内で配布されている笹に、福娘が吉兆をつけてくれる場合があります。
■飾り方
持ち帰った福笹は、笹の正面が南か東を向くようにして、神棚、もしくは目線より高く清浄な場所(玄関も可)に立て掛けるか、壁に貼りつけると良いとのこと。御札の場合と同じですね。
【大阪のえべっさん】大阪の主な「十日戎」10選!
ここからは、大阪府内で「十日戎」を開催している主な10つの神社を厳選し、所在地や特徴などについてご紹介します。
大阪市・今宮戎神社「十日戎」
大阪で最も有名な「えべっさん」、今宮戎神社。御祭神として天照皇大神(あまてらすおおみかみ)、事代主命(ことしろぬしのみこと=恵比寿様)、外三神をお祀りしています。
多くの人で混雑する今宮戎神社の境内(写真:公益財団法人 大阪観光局)
今宮戎神社では十日戎の3日間で、なんと100万人以上の参拝者が訪れ、入場制限がかかることもしばしば。
今宮戎神社で「福笹」を買う場合、まず境内にて無料で配られている笹を受け取りましょう。次に「吉兆」と呼ばれる飾り物を選び、最後に福娘に吉兆を笹に結びつけてもらうと完成。福娘に吉兆をつけてもらうには、長時間行列に並ぶ覚悟が必要です。
吉兆を福笹に結びつける福娘(写真:公益財団法人 大阪観光局)
また「本えびす」の日には、華やかな「宝恵(ほえ)かご行列」が開催されます。歌舞伎俳優や芸妓衆、芸能人やスポーツ選手など各界のスターに加え福娘も参列。戎橋から今宮戎神社まで約1時間かけて巡行する一大伝統行事です。
「宝恵駕籠(ほえかご)」とは200年以上前、大阪ミナミの芸妓衆が派手に籠をくり出し、今宮戎神社に参詣したのが始まりです。
かごに座る福娘(写真:公益財団法人 大阪観光局)
今宮戎神社
住所:大阪府大阪市浪速区恵美須西1-6-10
公式サイト:今宮戎神社
大阪市・大阪天満宮「天満天神えびす祭」
地元では穴場として知られる「えべっさん」、大阪天満宮。十日戎の間は混み合う神社が多い中、大阪天満宮ではゆったり十日戎を楽しめるそう。
大阪天満宮の天満天神えびす祭
というのも、大阪天満宮での十日戎は過去に一度途絶えており、最近になって復活したといういきさつがあるのです。
もともと、大阪天満宮内の「蛭児遷殿」にて江戸時代から開催されていた十日戎は、昭和20年代後半ごろから取止めに。しかし2006(平成18)年に「天満天神繁昌亭」が開館したのをきっかけに、福笹の授与などが行われる現在の「天満天神えびす祭」が復活したのだとか。
奉納されたタイに硬貨を張り付けて願をかけることができます
大阪天満宮の福娘は「招福娘」と呼ばれ、前年の11月頃に一般公募で選ばれます。祭での縁起物の授与はもちろん、関係各所への挨拶回りやPRなどの広報活動もこなします。
天満宮は「学問の神様」菅原道真を祀っているため、招福娘は大学生・大学院生に限定しているそうですよ。
大阪天満宮
住所:大阪市北区天神橋2-1-8
公式サイト:大阪天満宮
大阪市・野田恵美須神社「宝の市大祭」
野田恵比寿神社の御祭神は、事代主大神(恵比寿様)、天照皇大神、八幡大神。創建は諸説ありますが、今から900年以上の昔、野田の地に住みついた漁民たちが、自分たちの信仰するえびすの大神をお祀りしたのが起源だそうです。
野田恵美須神社の本殿
祭りの3日間は「新年の幸運」「商売繁盛」を祈願し、多くの参拝客が訪れます。福娘は福島区の花「藤の花」をあしらったかんざしをつけ、参拝客に福笹などの縁起物を授与します。
境内には太鼓と鯛鉾(たいほこ)が展示され、地車ではお囃子が奏でられるなどお祭りムードを盛り上げます。
野田恵美須神社
住所:大阪市福島区玉川4-1-1
公式サイト:野田恵美須神社
大阪市・堀川戎神社「十日戎」
商売繁盛の神、蛭子大神(えびすのおおかみ)を祭神とし、「堀川のえべっさん」と慕われる堀川戎神社。1400年以上の歴史のある由緒正しい神社です。
堀川戎神社の境内で見られる十日戎の看板
「ミナミの今宮、キタの堀川」と並び称され、十日戎の時期には数十万の人々で賑わいます。参拝客には連日福笹が授与され、盛大に浪速神楽が奉奏されます。
夜になると境内や参道の提灯が灯り、天神橋筋商店街から梅田にかけて100軒を超える夜店の灯りが浮かび上がります。この光景が大変幻想的なので、ぜひ日が落ちる頃に出掛けてみてくださいね。
参拝客で賑わう堀川戎神社の境内
堀川戎神社では、十日戎の3日間は門を閉じません。福笹の授与も夜を徹して行われるため、11日の「残り福」には売り切れ必至。くれぐれもご注意ください。
堀川戎神社
住所:大阪市北区西天満5-4-17
公式サイト:堀川戎神社
東大阪市・布施戎神社「十日戎」
「布施のえべっさん」と呼ばれる布施戎神社。起源は1954(昭和29)年、西宮神社から戎大神(ひるこの尊)の御霊代が分祀されたのが始まりとされています。
さらに1988(昭和63)年には大阪の今宮戎神社から事代主命(恵比寿様)の御霊代が分祀されました。
境内に入ると「日本で一番大きなえびすの像」がお出迎え。小さな神社ですが、「十日戎」になると、参道にはさまざまな屋台が並び、「商売繁盛」を願う多くの参拝客が福笹を求めて列をなします。
タイを釣る恵比寿様の像
布施戎神社の「福娘」は毎年コンテストで選出され、入賞者は「宝船」に乗って商店街をパレードします。
布施戎神社
住所:大阪府東大阪市足代1-15-21
公式サイト:布施戎神社
堺市・堺戎神社「戎祭」
堺戎神社は「南大阪随一のえべっさん」と呼ばれ、「豊漁」「商売繁盛」「豊作」にご利益があるのだとか。
「大阪の1年はえべっさんから始まる」といわれ、堺戎神社にも3日間で数十万人の参拝者が詰めかけます。境内は、福娘が授与する福笹や熊手など縁起物を求める人々であふれかえり賑やかに。一石餅(150kgのもち米でついた餅)の奉納も有名です。
菅原神社の境内にある堺戎神社本殿
堺戎神社の起源は、1664(寛文4)年に現在の戎島町付近に突然島が出現し、海中から石像が発見されたこと。
この石像をお祀りして近くに宮祠を作りましたが、後に戎之町の事代主神社と合併。1951(昭和26)年からは、石像は菅原神社の境内に祀られるようになりました。
堺戎神社
住所:大阪府堺市堺区戎之町東2-1-38
公式サイト:菅原神社・堺戎神社
枚方市・片埜神社「えびす祭」
「商売繁盛」「家内安全」「社運隆昌祈願」のご利益があるといわれる片埜(かたの)神社。御祭神として、建速須佐之男命(たけはやすさのをのみこと)・菅原道真公・事代主大神(恵比寿様)をお祀りしています。
片埜神社は、豊臣秀吉が大阪城を築城する際に鬼門鎮護の社として定めた由緒ある神社。国の重要文化財にも指定されています。
片埜神社の本殿
「えびす祭」の期間中、境内には焼きそばや、たい焼きなどの屋台がズラリ!福笹などの縁起物を授かると、福娘がしゃりんしゃりんと鈴を鳴らし、福をまいてくれます。
縁起物を購入すると福引が引けるので、運が良ければ素敵な景品が当たるかも。舞台で披露される「福娘」による「えびす舞」も見どころの一つです。
片埜神社
住所:大阪府枚方市牧野阪2-21-15
公式サイト:片埜神社
茨木市・茨木神社「茨木十日戎」
茨木神社の境内にある末社、「恵比須神社」は事代主命(恵比寿様)、大国主命を御祭神としています。
1617(元和3)年、里の商人が田舎より買い求めた俵の中から恵美須神の御絵像が現れ、この絵を御神像として商家で持ち廻り、お祀りしていたのが始まり。
後に商売繁盛を願って茨木神社内で祈祷を行うようになり、1879(明治12)年、境内に社殿が建てられ「恵比寿神社」となったそうです。
1月9日〜11日に開催される「茨木十日戎」では、「商売繁盛」「家内安全」を願う大勢の人で賑わいます。福笹や吉兆の販売はもちろん、1日2〜3回行われる餅まきも楽しみ!
10日の「本えびす」には、福娘が乗った「宝恵籠(ほえかご)」が市内各所を巡行します。
茨木神社
住所:大阪府茨木市元町4-3
公式サイト:茨木神社・恵比寿神社
貝塚市・脇浜戎大社「十日えびす」
泉州最古のえびす様。脇浜戎大社は、泉州地方の人々から「脇浜のえべっさん」と呼ばれ親しまれています。
古くは網曳御厨(あびこのみくりや)(※)の守護として創祀され、御厨の領地内2ヶ所に「事代主命」が、えびす神として祀られてきました。
(※)現在の大阪府南西部にあたる和泉国(いずみのくに)海岸部に点在したとされる、水産物を天皇の食事として納めるための場所
十日えびすの3日間、福娘による福笹や吉兆の授与を目当てに、毎年約4万人もの人が訪れ、境内は活気にあふれます。
1月10日の「本えびす」には、「無病息災」を祈願し炭火の上を歩く「柴灯大護摩供(さいとうおおごまく)」が行われることでも知られています。
お祭り期間中は甘酒の奉仕もあるそうですよ。
脇浜戎大社
住所:大阪府貝塚市脇浜3-34-1
公式サイト:脇浜戎大社・高龗神社(たかおかみじんじゃ)
池田市・呉服神社「池田えびす」
呉服(くれは)神社はその名通り「呉服(ごふく)」の語源となった神社。呉織(くれはとり)、穴織(あやはとり)という姉妹がこの地に住み、機織・裁縫の技術を伝えたとされ、現在でも服飾関係者の信仰を集めています。
1900(明治33)年、近隣にあった「えびす社」が呉服神社境内に合祀され「えびす祭り(十日戎)」が始まったといわれています。
呉服神社の正殿
「池田えびす祭」が行われる1月9日~11日にはたくさんの人で賑わいます。期間中は多くの屋台が並び、金の烏帽子をかぶった福娘が「福笹」「福箕」「福さらえ」などの縁起物を授与し「商売繁盛」を祈願します。
そのほか、餅まき、えびすステッカー授与、ご神茶振舞、神酒拝戴などもお楽しみください。
呉服神社
住所:大阪府池田市室町7-4
公式サイト:呉服神社
【大阪のえべっさん】で2024年スタート!
関西地域ではなじみ深い「えべっさん」こと「十日戎」。私も、しばらくはコロナ禍で足が遠のいていましたが、2024年のスタートは商売繁盛を願って地元の「えべっさん」に足を運んでみようと思います。
せっかく行くなら一番有名な「今宮戎神社」に行きたい!混雑は苦手だから、郊外にある神社の「残り福」にしようか…。など
大阪観光のついでに、気になる「えべっさん」を体験してみてはいかがですか。
Text:酒徳 留美(さかとく・るみ)
大阪在住、神戸生まれのおでかけ情報ライター。「美味しい&楽しい!」を求め大阪・京都・神戸に出没。趣味はカフェ巡りと愛犬とたわむれること、そしてフラ(ダンス)。最近は、関西のカフェ取材・愛犬とのおでかけスポット紹介・ハワイ文化を紹介するコラムの執筆など、好きなことが仕事につながる幸せを感じている。
Text:Rumi Sakatoku Edit:Sakura Takahashi
Photo(特記ないもの):PIXTA/写真AC
参考文献:
国立歴史民俗博物館『国立歴史民俗博物館研究報告 第155集 旅-江戸の旅から鉄道旅行へ-』(国立歴史民俗博物館/2010年)
参考:荒川裕紀(2019年)「西宮神社十日戎の福男はいかにして生まれたか――初代福男のライフヒストリーから ――」(2023年10月18日閲覧)/遠藤慶太(2004年)「和泉のミヤコ―― 和泉監の構成要素 ――」(2023年10月18日閲覧)/”十日戎”とは|ウェザーニュース/十日戎|コトバンク/エビスマガジン/にしのみやデジタルアーカイブ/各社公式サイト