沖縄の伝統工芸「やちむん」を知っていますか?「やちむん」とは、沖縄の言葉で「焼物」のこと。那覇市に位置する「壺屋やちむん通り」は、やちむんの文化・伝統を今に伝える場所です。赤瓦屋根の古民家や石畳道という沖縄ならではの町並みを残す通りには焼物を購入できるお店が立ち並び、多くの観光客や地元の焼物ファンで賑わいます。
今回は壺屋やちむん通りの楽しみ方や、おすすめのショップ・グルメ情報をご紹介。沖縄が誇るやちむんの魅力に迫っていきます。
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「やちむん」とは?
沖縄の人たちから長年愛されてきたやちむん(写真提供:craft house Sprout)
土や釉薬(ゆうやく)、塗料など土地の自然を素材として、そこに生きる人々の生活や文化を色濃く反映する「焼物」。日本では各地域でさまざまな焼物が作られていますが、沖縄の焼物「やちむん」もそのひとつ。南国ならではの風土や歴史、文化に育まれてきました。
やちむんの特徴は?
魚が描かれたやちむん。ぼってりとした厚みが特徴(写真提供:Craft・Giftヤッチとムーン)
沖縄本島北部で生まれた「古我知焼」や読谷村で作られた「喜名焼」など、やちむんの生産地は県内各地に。この記事では、やちむんの発祥とされている、壺屋という地域で誕生した「壺屋焼」について紹介します。
壺屋焼は“ぼてっとした”素朴なフォルムと色彩が特徴的。沖縄の土の特色や色合いが反映され、器や壺に沖縄の豊かな自然がうつしこまれたようなダイナミックな絵付けがされているのも魅力の一つです。
やちむんの2つの焼き方
壺屋焼は「荒焼(あらやち)」と「上焼(じょうやち)」という2つの焼き方に分かれます。
荒焼は、釉薬をかけずに約1120度で焼き上げた焼物のこと。装飾はほとんど施されず、陶土の風合いをそのまま生かしていることや、名前の通り見た目の荒さが特徴的です。
反対に、釉薬をかけて焼き上げるのが上焼。釉薬には水濡れや汚れを防ぐ効果があるため、日用品に使われる壺屋焼の大半は上焼が占めています。
土そのものの風合いを生かして作る荒焼のシーサー(写真提供:やちむん家)
上焼は釉薬を使うことで鮮やかな色彩を持つやちむんとなりますが、土の風合いそのままに焼き上げる荒焼もやちむんならではの魅力を感じます。ぜひ比較して楽しんでみてください。
器から骨壺まで焼物の種類が豊富!
上焼で仕上げた骨壺(写真提供:骨壷の店・たかえす)
やちむんは器や瓶、置物といった一般的な焼物の製品だけでなく、沖縄の風習や文化から生まれた多種多様な用途・形があります。特に、沖縄のお酒「泡盛」に関する酒器はやちむんを語る上で忘れてはならない存在。泡盛を持ち運べるようにと作られた「抱瓶(だちびん)」は、体に沿うように胴の横断面が三日月形をしています。
沖縄の暮らしに根付いたやちむん「抱瓶」
他にも「カラカラ」と呼ばれる注ぎ口が細いとっくりや、泡盛を祝儀贈答するときの容器「嘉瓶(ユシビン)」、仏壇を拝むときに泡盛を入れて使用する「対瓶」など沖縄の人々の暮らしに根付いたやちむんが豊富にあるのです。
泡盛のとっくり「カラカラ」
現在確認されている古い泡盛の器には、上焼の色鮮やかなものなど陶工が腕によりをかけて作った逸品が多くあり、やちむんを通して泡盛と沖縄県民との繋がりを感じられます。
那覇市立壺屋焼物博物館内展示の厨子甕
もう一つ個性的なやちむんが、骨壺の「厨子甕(ずしがめ)」。
沖縄では、昔から亡くなった人の遺体をいったん墓におさめ、数年後に骨を洗う「洗骨」という風習がありました。洗った後の骨は火葬せずに甕に入れるのですが、そこで使われていたのが厨子甕。現代の一般的な骨壺よりかなり大きなサイズで作られていました。
焼物の厨子甕は色鮮やかに加飾を施した御殿形からシンプルな形状のものまでさまざま。ただ、沖縄県内でも現在は多くが火葬を採用しており、その変化に伴って大きな厨子甕の需要はほとんどありません。
やちむんで作られる「シーサー」
壺屋やちむん通り近く、新垣家のチブルシーサー
沖縄の焼物といえば「シーサー」。沖縄県内を散策していると、あらゆる場所でシーサーを見かけます。
シーサーは、火災防止のために集落に置かれた石獅子が起源と考えられています。集落の守り神の役目をしていた石獅子が焼物となり、広まっていくことに。焼物のシーサーが作られ始めたのは、明治22年以降で、荒焼のチブルシーサー(チブルとは沖縄の言葉で「頭部」の意。頭部分のみのシーサー)がはじまりとされています。
全身像は大正〜昭和時代にかけて作られるようになり、戦後は色とりどりの釉薬をほどこした上焼シーサーも多く手がけられてきました。
オスとメスのシーサーを対で置くのが一般的(写真提供:やちむん家)
シーサーは、2体1組で置くのが一般的。右側に口を開けているオス、左側に口を閉じているメスを置くものとされています。オスは沖縄の悪霊「マジムン」を追い払い、大きく開けた口から幸福を呼び込む役割を担います。メスは今ある幸せを逃さないという意味が込められているそうです。
沖縄の焼物「やちむん」の歴史
壺屋やちむん通りにある「那覇市立壺屋焼物博物館」
沖縄の暮らしや風習と密接に関わり、変化してきたやちむん。
次は、やちむんがどのような歴史を辿ってきたのかを見ていきましょう。今回は、壺屋やちむん通りにある「那覇市立壺屋焼物博物館」にお邪魔して話を伺ってきました。
壺屋焼物博物館屋外にある「北の宮(ニシヌメー)」
壺屋焼物博物館は、壺屋やちむん通りに建つ博物館。やちむんの誕生から、壺屋でやちむんが発展し現在に至るまでの貴重な歴史的焼物を展示しています。有名陶工の作品や、土地の守り神「土帝君(トーティークン)」などを祀った北の宮など見どころ満載。やちむんの歴史と魅力に触れるためには外せない観光スポットです。
朝鮮人陶工により新たな製陶技術が琉球王国に伝えられた
博物館内展示の土器
沖縄の焼物のはじまりは、6,600年前につくられた土器といわれています。北山・中山・南山という3つの勢力が台頭していた三山(さんざん)時代になると、それぞれの勢力が独自で貿易網を築き上げ、中国や朝鮮、タイ、ベトナムなど国外から陶磁器を輸入していました。そのような盛んな海外貿易の影響を受けて、焼物の技術が発展していったのです。
その後、1429年に尚巴志(しょうはし)により三山が統一され、琉球王国が誕生。王府のもと、1600年代には薩摩から招いた朝鮮人陶工が指導を行い、新たな製陶技術が伝えられたと考えられています。このようにして琉球王国、つまり沖縄県のやちむんの基礎が築かれました。
やちむんの窯場が「壺屋」に集結
王府主導の下、窯場が壺屋へ統合
1682年、王府は県内に分散していた知花、宝口、湧田といった複数の窯場を那覇市壺屋(現在の「壺屋やちむん通り」周辺)に統合。当時は瓦の需要が増大した時期と考えられ、薪や粘土など焼物に必要な資源を効率よく使用し、瓦を増産していくため窯場の統合が行われたとされています。
こうして、壺屋焼が誕生しました。
その後、琉球王国は1879年、廃藩置県で沖縄県が設置されるまで続きます。中国や日本と貿易を盛んに行いながら、王府のもとで壺屋焼の製陶技術・技法や独自性は向上。沖縄のやちむん文化はさらに発展をしていきました。
戦後、那覇市で最初に米軍占領から解放された壺屋
戦後初めて焼かれた碗「イッチン菊花文碗」
1940年代、沖縄県は太平洋戦争の戦火に巻き込まれ、激しい地上戦が行われることに。しかし、壺屋地域周辺は奇跡的に戦火を逃れていたのです。
終戦後、アメリカ軍の占領下となった沖縄では生活必需品の碗や皿が不足する事態に。壺屋に使用できる窯が残っていたことから、陶工たちはアメリカ軍に壺屋に帰れば陶器を作れると訴え、各収容所の陶工たちが解放され壺屋へ集められます。こうして、壺屋でやちむん作りが再開。「那覇市の戦後復興は壺屋からはじまった」と、壺屋陶工たちの解放は語り継がれています。
沖縄の台所と呼ばれる「第一牧志公設市場」(2019年移設前)
陶工たちが戻ったことをきっかけに、壺屋には多くの人々が集住するように。すると、戦後壺屋のすぐ近くに闇市場ができていきました。現在壺屋やちむん通りからすぐの場所には「沖縄の台所」として有名な牧志公設市場がありますが、ここは違法な闇市場を取り締まるために那覇市が設置した市場。現在は地元客はもちろん、多くの観光客が訪れる人気スポットとなっています。
壺屋やちむん通りでお気に入りのやちむんを探そう
壺屋やちむん通りに訪れたらぜひ立ち寄ってもらいたい、おすすめの場所やお店を詳しくご紹介していきます。
骨壷の店・たかえす
荒焼窯「南ヌ窯」を背にして立つ「骨壷の店・たかえす」
初代・髙江洲オトにより戦後すぐの時期に開かれた店「骨壷の店・たかえす」。当初は荒焼の甕を販売していましたが、現在は骨壺を中心に展示販売を行なっています。戦後当時、店は周辺の人々に「カーミマチ(=甕の町という意味)」と呼ばれていたそうで、戦後復興時、壺屋エリアのシンボル的な存在であったことがうかがえます。
骨壺には入る人の名前が書かれる
現在は県内唯一の壺屋焼骨壺専門店となった同店。ネイビー、茶色、グレーなど、豊かな色味を持つ骨壺が店頭に並びます。骨壺は大人用・子供用など用途によって大きさも色々。沖縄県内のみならず、県外から訪れた人も購入するといいます。
craft house Sprout
craft house Sprout
「craft house Sprout(クラフトハウス スプラウト)」は、古典的・伝統的な焼物を作り出す作家を中心に作品をセレクトしたお店。「これぞ壺屋焼!」というような色彩や加飾が施されたものから、沖縄の焼物らしい“ぼてっとした”味わい深いデザインの作品が多数並びます。焼物ツウも足繁く通う人気店です。
沖縄の美しさを表現するやちむんの皿
沖縄の土の風合いをそのまま表現したような、やさしい印象のお皿を発見。染め付けは廃藩置県後に導入された上焼の釉薬原料「コバルト」を使用。沖縄の鮮やかな海のイメージと重なります。
佇まいが愛らしい一輪挿し
こちらの作品は、読谷村の窯で技術を磨き上げた作家さんによる一輪挿し。壺屋以前の古い焼物に触発され陶芸を志したという作家さんの思いが、古典的な色合いや風合いから感じられます。
伝統あるやちむんの継承を行い、新しい感覚を吹き込んだ凛々しい作品たちが並ぶ店内。入手困難な人気作家の作品や、県外作家の作品も多く取り扱っています。
ヤッチとムーン
現代風のデザインも多く取り扱う「ヤッチとムーン」
「ヤッチとムーン」は、やちむんを取り扱うセレクトショップ。築50年以上の「沖縄のおうち」にびっしりと並べられたやちむんたちが迎えてくれます。伝統的な作品だけでなく、時代に合わせた新たなデザインの作品も多数揃えています。
大きな絵柄が特徴的な「マカイ(5寸)」
こちらは、沖縄最大の登り窯で昔ながらの手法により作られた「マカイ」(=沖縄の言葉で「碗」の意味)。壺屋焼らしいダイナミックな絵柄が食卓を華やかに彩ります。
「日本豆皿(すもう)」ほかオリジナルデザインがそろう
気軽に食卓にやちむんを取り入れたい人には、小さな豆皿がおすすめ。キュートな力士が描かれた豆皿は、自社工房で絵付けされたものです。手頃な価格でお土産にもぴったり。
写真内左はヤッチとムーンの人気商品「waveシリーズ(6寸)」(ほか5寸・7寸サイズや色展開あり)。やちむんらしい深みのある色彩がモダンな印象を与えます。
Craft・Giftヤッチとムーン店内
日常の暮らしがふわりと色づくようなやちむんを探しに足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
壺屋やちむん通りおすすめのグルメを紹介!
沖縄に訪れたら、素敵なやちむんで絶品グルメを堪能したいですよね。壺屋やちむん通りにある雰囲気も味も抜群なおすすめグルメを紹介します。
琉球料理 ぬちがふぅ(命果報)
築70年の古民家が魅力的な「琉球料理 ぬちがふぅ(命果報)」(写真提供:Instagram miku319様)
沖縄県産のオーガニック食材を使用した贅沢ランチが食べられる「琉球料理 ぬちがふぅ(命果報)」。沖縄初のラジオ局として建てられた築70年の古民家で、内装も外装も沖縄の雰囲気を存分に堪能できます。国の重要文化財である登り窯を眺めながらお食事ができるのは、壺屋やちむん通りだけの特別な空間です。
沖縄風天ぷらや豚肉の煮込み、ゴーヤチャンプルー、沖縄そばなどのメイン料理に加え、4種類の小鉢と盛りだくさんな御膳。無添加・無農薬の食材を使い、身体にやさしく調理された絶品沖縄料理を壺屋やちむん通りでぜひご堪能ください。
琉球料理 ぬちがふぅ(命果報) 基本情報
住所:沖縄県那覇市壺屋1-28-3
営業時間:
【ランチ】11:00~14:30(LO14:00)
【ディナー】17:30~21:00(LO20:00)
定休日:月曜日
アクセス:
①壺屋やちむん通りから徒歩約2分
②国際通りから徒歩約10分
③ゆいレール「牧志駅」より徒歩約15分
公式サイト:琉球料理 ぬちがふぅ(命果報)公式サイト
うちなー茶屋&ギャラリーぶくぶく
お茶やぜんざいが楽しめる「うちなー茶屋&ギャラリーぶくぶく」(写真提供:Instagram aki2023.01.01様)
こだわりのやちむんで、お茶やぜんざいをいただける「うちなー茶屋&ギャラリーぶくぶく」。沖縄伝統のお茶「ぶくぶく茶」は茶筅で立てた薫り高い泡を玄米茶の上に乗せ、泡と一緒にお茶を楽しみます。みんなで鼻の上に泡を乗せて写真に残せば、素敵な思い出になること間違いなしです。
他にも人気のメニューが「沖縄氷ぜんざい」。沖縄の「ぜんざい」といえばかき氷なんです。氷の下には白玉と黒糖で煮詰めた金時豆が入っており、かなりボリューミー。壺屋やちむん通りでゆっくりお茶がしたいという方におすすめです。
うちなー茶屋&ギャラリーぶくぶく 基本情報
住所:沖縄県那覇市壺屋1-22-35
営業時間:11:00~18:00(LO17:30)
定休日:火曜日
アクセス:ゆいレール「牧志駅」より徒歩約10分
公式サイト:うちなー茶屋&ギャラリーぶくぶく 公式サイト
「壺屋やちむん通り」を巡って沖縄の歴史や暮らしを感じる旅へ
400mという短い通りながら、沖縄の魅力がたっぷりつまった「壺屋やちむん通り」。やちむんと壺屋焼を知ることで、沖縄の歩いてきた歴史を学ぶことができます。那覇市の中心に奇跡のように存在している壺屋へ、自分だけのやちむんに出会いに訪れてみてはいかがでしょうか。
Edit:編集部