みなさんは、「谷根千」というエリアにどんなイメージを抱いていますか?
古い建物と緑が残る下町情緒あふれる印象から、都内にいながらほっこりと懐かしい旅が楽しめると人気の谷根千エリア。谷根千で観光をするなら、谷中銀座商店街で食べ歩きをして、神社に行って帰宅するだけではもったいない。このエリアは、宿泊してこそ奥深い魅力を知れる場所でもあります。
今回ご紹介するのは、谷中に立つ宿泊施設「hanare」。「まち全体がホテル」をコンセプトに掲げているこのホテルは、谷根千の本当の魅力を体験できるアイデアが詰まっていました。
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コンセプトは「まち全体がホテル」。下町谷中に佇むホテル【hanare】とは
モダンな外観を有したhanare
谷中といえば、東京の下町情緒が残るエリアとして人気の「谷根千」で根津・千駄木と並ぶひとつ。古い建物や車が一台ギリギリで通れるくらいの細い路地、道路に影を落とす木々が並び、昭和の面影をそのまま残しています。
日中は多くの観光客が訪れ、谷中銀座商店街で食べ歩きを楽しんだり、近くの根津神社でお参りをしたりといった鉄板観光コースが人気ですね。
今回お邪魔したのは、そんな谷中の裏路地にひっそりと佇む「hanare」。「ゲストに本当の谷中の魅力を感じてもらいたい」という思いのもと、木造アパートを改装し2015年11月にオープンしました。
コンセプトは「まち全体がホテル」。一体どういうことでしょうか?
宿泊し、街へ繰り出してこそわかる谷根千の魅力
hanareという宿泊施設は、あくまで宿として寝泊まりをする場所。チェックインも朝ごはんも、お風呂も夕飯も、すべて谷根千の街に足を伸ばす必要があります。チェックインと朝ごはんは、宿から徒歩1分に場所に立つ「HAGISO」という施設で。お風呂は谷根千の銭湯を。夕飯は谷根千の夜のお店へ。
澄んだ空気の中いただくHAGISOでの朝食
「まち全体がホテル」とは、つまり、宿泊以外の食事や入浴などをすべて宿泊施設の外で行うということ。まちに泊まる。それが「hanare」が提案するスタイルです。
夜の街に繰り出してみると、昼間の谷根千とは違う魅力に気がつくはず。しんと静かな路地をのんびりと歩きながら、柔らかい明かりを放つ飲食店で店主や常連さんと会話をしながら食事を楽しむ。地元民も多く通う銭湯に足を伸ばして、熱めのお湯に浸かる。
「観光地」としてではない、地元の人たちが生活を営む本来の谷根千の姿を垣間見ることができるのです。
hanareでの過ごし方
それでは、実際にhanareにお邪魔して、その魅力を探っていきましょう。
チェックインは「HAGISO」で
HAGISOも木造アパートを改装し生まれた
チェックインは、JR日暮里駅から徒歩約5分の場所に立つ「HAGISO」という施設で行います。この建物も、かつて木造アパートだった建物をリノベーションし誕生した施設。2階の部屋のひとつが、hanareのレセプションスペースになっています。
部屋のひとつがhanareのレセプション
レセプションスペースに入ると、hanareコンシェルジュがウェルカムドリンクと共にお出迎え。名前を告げて、チェックインを済ませます。
hanareの高級ホテルを思わせるカウンターにうっとり
チェックイン時にコンシェルジュからいただける小さなファイル。ここにhanareの楽しみ方のヒントが隠れています。中には、ご宿泊の心得、銭湯チケット、朝食チケット、そしてhanareオリジナルの谷根千町歩きマップが入っています。
中央に「hanare」と書かれているのがオリジナルマップ
このマップが、hanareならではのおもてなしのひとつ。「千駄木 / 団子坂 / よみせ通り」「根津 / へび道」「谷中銀座商店街 / 日暮里」「さんさき坂 / 上野桜木」で区分した4エリアそれぞれの、コンシェルジュたちがおすすめするランチ、カフェ、ショップ、体験スポットなどの店舗を掲載し紹介しています。
表面には昼間に楽しめる店舗を、裏面には、飲み歩きにぴったりな夜営業の店舗を掲示。「こんな雰囲気のお店にいきたい」「魚料理が食べたい」などの要望をチェックイン時にコンシェルジュに伝えれば、マップを見ながら希望に沿ったおすすめのお店を教えてくれるのもうれしいですね。
日本文化体験予約もhanareで
体験オプションの一部をレセプションスペースに展示
hanareのレセプションスペースでは、谷根千もしくは周辺地域で提携している体験アクティビティの予約も可能。尺八体験や湿板写真撮影などの日本文化に触れることができます。体験オプションは、いずれもhanare宿泊者なら特別価格に。気になる人はぜひhanare公式HPでチェックしてみて。
チェックインが完了したらhanare宿泊棟へ
hanareの六角形のロゴが飾られた外観
HAGISOでのチェックインが完了したら、いよいよhanareの宿泊棟へ。HAGISOから徒歩約1分、コンシェルジュが案内してくれます。シンプルな外壁に、hanareのロゴが上品に飾られたこちらが宿泊棟。「丸越荘」という木造アパートを改装し、5部屋の宿泊棟へと生まれ変わりました。
入り口には説明書きが。当初はおしゃれな外観から「何屋さん?」と尋ねてくる人も多かったそう
入り口に入ってすぐ、左に置かれているのがアパート時代に使われていたという下駄箱。経年変化で濃く色づいた下駄箱の上には、谷中銀座商店街の「濱松屋はきもの店」で購入したという下駄が並んでいます。
風情を残す下駄箱と下駄に胸が高鳴る
空を走る梁や入り口からすぐの階段、窓ガラスなども当時のまま。古き良きものと新しいものが見事に融合した空間が広がっていました。
玄関すぐに階段がある設計が昭和の木造アパートならでは
部屋は全部で5つ。「YATSUDE」「KONOHA」「HIKARI」などと名付けられた宿泊部屋は、それぞれ窓の磨りガラスの模様から命名しているのだそう。
唯一3名が泊まれる「YATSUDE」
葉の先が5つに分かれるヤツデ。磨りガラスの模様が昭和らしい
宿泊部屋は窓枠に床の高さを揃え、視線が外へとスムーズに抜け開放感を感じられる設計に。天井は木造の躯体を現しにし、木の風合いを楽しめる仕上がりになっています。壁は白やグレーで統一することで、琉球風畳や柱の風合いと調和。「和」のテイストを程よく残した落ち着きのある室内で、旅の疲れを癒してくれます。
hanare宿泊棟には洗面台・トイレ・シャワールームも完備
宿泊部屋に到着したら、小さなテーブルの下に置かれた重箱を探してみてください。ここにもhanareならではのおもてなしが隠れています。
hanareのロゴが添えられた特注の重箱を開けると…
アメニティやオリジナルグッズが整然と収められている
hanareのロゴがスタンプされた重箱の中には、せっけん、歯ブラシ、オリジナル手ぬぐい、旅の思い出を綴れる小さなノートとえんぴつが収められています。もちろんすべてお持ち帰りOK。日本らしい重箱を使ったアメニティのプレゼントがとっても粋ですね。
室内にかけられた銭湯バッグも持ち帰り可
夜の谷根千へ繰り出そう
畳の部屋でゆったり休憩したら、いざ、谷根千の街へ繰り出しましょう。夕飯はオリジナルマップから見つけた気になるお店へ。「hanareで紹介してもらって」と店員に告げれば、すぐに話題が広がるはずです。
銭湯チケットで足を運べるのは全部で4つ。オリジナルマップにお湯の温度も記載されてますので、参考にしてみてください。ほか、マップにはコインランドリーの有無も記されており、長期の宿泊も安心です。
飲み歩きをするもよし、銭湯巡りをするもよし。思い思いに夜の谷根千を楽しみましょう。
朝はHAGISOで「旅する朝食」を
「旅する朝食」第9期は鹿児島県
ひとしきり夜の谷根千を楽しんでゆっくり休んだ次の日、朝はレセプションスペースのあったHAGISOへ足を運んで朝食をいただきます。味わえるのは「旅する朝食」。フードコーディネーターが実際に現地に赴き、そこで見つけた各地域ならではの食材たちが使われています。この日は、鹿児島県の食材で作られた朝食をいただけました。
味噌汁には地元の味噌蔵から取り寄せた麦味噌を使い、具材は鹿児島県産のえのき。お米ももちろん鹿児島県産です。食材だけでなく調味料もその地域のものを使用しているこだわりぶり。東京にいながら、全国の味が楽しめる朝食。まさに「旅する朝食」です。
HAGI CAFEで食材の販売も行なっている
ちなみにHAGISOの店内では、その日使った食材や調味料の販売もしています。気に入った食材があったら、手に入れてみては。
手がけたのは谷中の最小文化複合施設【HAGISO】
hanareをつくり上げたのは…
まち全体をホテルとすることで、観光地としてではない本当の「谷根千」を発見できる宿泊施設「hanare」。手がけたのは、最小文化複合施設「HAGISO」を運営しているメンバーです。2階の一部屋をhanareのレセプションスペースとして活用しているほか、宿泊者の朝食もこのHAGISOでいただくため、hanare宿泊者は必ず訪れる建物でもあります。
HAGISOが誕生したのは、hanareオープンの2年前、2013年。当時築55年以上の木造アパートを改装し造られました。指揮を執ったのは、株式会社HAGI STUDIO代表取締役 宮崎晃吉氏。彼はHAGISOが木造アパート「萩荘」だったころに、同じ芸術大学に通う学生同士でシェアハウスをしていたうちのひとりでした。
入り口入ってすぐに飾られた「萩荘」の看板は木造アパート時のもの
「愛着のある建物を残したい」萩荘からHAGISOに
HAGISOの誕生は、2011年の東日本大震災がきっかけ。各地で古い空き家を壊す動きが盛んとなり、この谷中エリアに立つ萩荘も、その対象となったのです。
失われてしまう前にきちんと萩荘に別れを告げるセレモニーを行おうと、かつてここで学生時代を過ごした仲間たちが立ち上がり、建物全体を展示スペースにした展示会「ハギエンナーレ」を開催することに。この展覧会を機に、萩荘の運命は大きく変わります。
2012年の冬、地域住民含め多くの人が来場したこのイベントは大盛況で終了。その様子を見ていた萩荘の大家さんの考えが変わったのです。古びた木造アパートながら、若者の手によって多くの人が集い、かつての活気を見せた萩荘。歴史を抱えた木造アパートのポテンシャルを目の当たりし、大家さんは「取り壊すのはなんだかもったいない」と話したそう。
その言葉を聞き、自身で建築デザインを学んでいた宮崎氏が萩荘のリノベーションを提案。
こうして、取り壊し寸前だった萩荘が「HAGISO」として新たに時代を歩みはじめたのです。
展示スペースとサロンと、カフェ
HAGISOは谷中の「最小文化複合施設」
2013年、「最小文化複合施設」として新たな命を宿したHAGISO。1階には展示スペースとカフェ、2階にはサロンとhanareのレセプションスペースが配されています。
展示スペース「HAGI ART」はかつて学生たちが住んでいた頃、アトリエとして使用していた場所。開放感のある吹き抜けと、コンクリートの床が展示作品を引き立ててくれます。展示は随時入れ替えを行い、現代芸術家たちの幅広い作品を見ることができます。
この日は「多次元的展覧会」が行われていた。カラフルな柱は展覧会の作品
隣に広がるカフェスペースは床を一段高くし、扉を介さずともアトリエとの空間の境目を作り出しています。床には木材を使うほか、壁はアトリエの白に対し、深みのある暗色を採用。ダウンライトの暖かい明かりに包まれるカフェです。
HAGI CAFE
萩荘時代の柱などを残し躯体をそのままにリノベーションを行うことで当時の面影が残る施設に。かつて下駄箱だった棚をカフェスペースの本棚に作りかえるなど、建物の歴史を残しながら新しい姿へと生まれ変わらせました。
アパート時代に使われていた2階廊下もそのまま
2階にはhanareのレセプションスペースと、その奥にはリラクゼーションサロン「HAGI salon」が設けられています。曜日ごとに店主が変わるこのサロンでは、整体やアロマトリートメント、フェイシャルエステが受けられます。事前予約も受け付けていますので、ぜひチェックしてみてください。
HAGI salonでは曜日ごとに異なる施術が受けられる
時代の変遷に触れながら、夜の下町谷中を満喫してみよう
谷中に古くから立つ木造アパートを改築し、魅力的なスポットとなった「hanare」と「HAGISO」。この街を愛す人たちの手によって、町の魅力を伝える拠点として生まれ変わりました。
hanareに宿泊し昼間とは表情の違う本当の谷根千を楽しんだら、HAGISOで展示作品を鑑賞したりカフェでくついだりして過ごすのもステキ。谷根千エリアのディープな観光を楽しんでくださいね。