日本橋ってどんなところ?
日本橋で歴史感じるフォトジェニックな写真を撮ろう
金融ビルのさきがけ「三井本館」
細部の装飾も見どころ「日本橋三越本店」
堅牢さがうかがえる辰野金吾設計「日本銀行本店」
明治〜大正時代の傑作「日本橋」
日本橋の二大建築のひとつ「日本橋高島屋」
まとめ

背の高いビル、おしゃれなフォトスポット、きらびやかなイルミネーション…東京都内には、「今」を体現するスタイリッシュな建築物がさまざまあります。

そんな中、独特の雰囲気を残し、「レトロ」な建物が今なお残るエリアのひとつが「日本橋」。ここには、思わず写真を撮りたくなってしまう、現代に溶け込みながらも異彩を放つ建築物がたくさんあるのです。

今回紹介するのは、そんな日本橋で絶対に外せない素敵なレトロ建築物5選。それぞれの時代を遡りながら建築的な魅力を探り、歴史を感じる壮大な造りを写真に収める旅に出かけましょう。

日本橋ってどんなところ?

かつて日本の中心・東京の、そのさらに中心であった「日本橋」。江戸時代にはこのエリア一帯がほかに類を見ない繁華街として栄え、その面影を残しながら明治〜大正時代には大手の百貨店が立つように。ずっと江戸〜東京の中心として輝き続けてきた日本橋エリアは、今もなお老舗の商店が多く立ち並ぶ、気品にあふれた街です。

日本橋周辺の様子

モダンさとレトロさが漂う日本橋エリア

そんな日本橋には、明治〜昭和時代までに建てられた名建築が多くあります。商業の要点として日本の流通を支えてきた日本橋。そこに佇む名建築は、現代でもなお品格を持ち、多くの建築ファンを魅了し続けています。

今回紹介するのは、5つの日本橋の建造物たち。時代背景まで掘り下げながら、その特徴・魅力を探っていきます。カメラを片手に、日本橋の「昔」と「今」を体現するステキな建造物を歩いてみてみましょう。

日本橋で歴史感じるフォトジェニックな写真を撮ろう

今回歩いたルートは以下の通り。歩いて写真を撮るだけなら、所要時間はおおよそ1時間。気になる建造物は、ぜひ予約して見学したり、気になる装飾を探したりともっと理解を深めてみてください。

■START:東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅 A7出口
1:三井本館
↓徒歩すぐ
2:日本橋三越本店
↓徒歩(約3分)
3:日本銀行本店
↓徒歩(約7分)
4:日本橋
↓徒歩(約5分)
5:日本橋高島屋 本館
■FIN:東京メトロ銀座線・東西線 日本橋駅(高島屋から直結)

金融ビルのさきがけ「三井本館」

旅のスタートは、東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅のA7出口駅から地上に出てすぐに目に入る壮麗な建築物「三井本館」。関東大震災後の1929年に建造され、日本の金融ビルのさきがけとも言われてる名建築です。

三井本館正面

7階建ての三井本館。現代のビルに比べると高さはさほどないものの、気品にあふれたデザイン

現在のビルは2代目。初代(1902年)を手がけたのは、アメリカの書籍で鉄骨構造を学び、それを基に設計した横河民輔(よこがわ たみすけ)でした。初代の三井本館も、ドームが乗った洋風な建築として名を馳せた名建築だったのです。

関東大震災によって躯体は残ったものの、内部は全焼。当時の三井合名理事長であった團 琢磨(だん たくま)により、再建が決定されました。この時、團が当館のコンセプトとして提示したのが、「壮麗・品格・簡素」の3つ。それをそのまま体現する形で設計しなおし、造り上げたのは、アメリカのトローブリッジ&リビングストン社でした。構造設計も施工もアメリカの会社にお願いするというこだわりぶりです。

コリント式のジャイアントオーダー

柱頭に装飾されたコリント式オーダー。内部にはシンプルなドリア式を採用

目を引くのは、3階部分まで突き上げたコリント式のジャイアントオーダーです。柱頭に程よい装飾が施されたオーダーが外壁を囲み、館内1階の柱には簡素なドリア式を採用するという、古典建築をバランスよく散りばめた設計が魅力的(実際の階数は3階ではなく5階。当時は中2階を加えておらず、3階という数え方)。

三井本館のレリーフ

南面のレリーフ。写真右の秤と鍵は「財政・為替・公平・確実・財宝の保管者」を示す

各外壁の上部には、三井が手がけていた事業を表す12つのメダリオン(レリーフ)を飾り、見る人へその権威を伝えます。レリーフが飾られている4階(実際の6階)部分のさらに上、5階(実際の7階)部分はわずかに全体を後退させ、建物としてのバランス・安定感も重視。外壁には建築石材として多用される強固な花崗岩を用いることで、「壮麗・品格・簡素」を併せ持つ独特の景観ながら、見事に周囲の建造物と調和しています。

写真を撮るなら、全体を収めるのがベター。レリーフや柱頭にフォーカスした写真も、三井本館ならではのショットに。

周囲に溶け込む三井本館

ベーシックな花崗岩の壁に、ゴールドの「三井住友信託銀行」の文字が映える

細部の装飾も見どころ「日本橋三越本店」

日本橋三越本館

建築当初は「スエズ運河以東最大の建築」と称された日本橋三越本店

三井本館のすぐ隣にたつ百貨店「日本橋三越本店」。こちらは、三井本館の初代建築と同じく横河民輔により設計された百貨店ビルです。何度も補修や改修を重ねて現在の姿になっていますが、施工は横河民輔による現在の「横河建築設計事務所」が一貫して行っています。

壮麗な正面玄関

ゲストを迎え入れる日本橋三越本店正面玄関は気品にあふれる。金のマーキュリー像が印象的

1914年完成の同建築は、当時の日本にとってはまさに新しい風。19世紀にパリの紳士淑女を魅了していた「百貨店」という文化が、三井の手によって日本へと入ってきたのです(「三越」の元は、「越後屋・三井呉服店」。三井グループが手がけた百貨店です)。関東大震災を経て大改修が行われますが、規模の大きさや優美さは現代にまで受け継がれています。

ランプの羊の装飾

正面玄関を彩るルネサンス様式を思わせる華やかな羊モチーフのランプ

アール・デコ調の柱

日本橋三越本店のアール・デコ調の柱

お隣の三井本館とは異なり、大人が買い物を楽しむ場として造られた同館は非常に装飾的で華やか。館内では、5階まで大きく吹き抜けたホールを中心に、囲むようにしてショップが並びます。アール・デコを基調とした、細部の装飾も見逃せません。

館内吹き抜けホール

日本橋三越本店の広々とした吹き抜けホール

そんな吹き抜けホールの中央に立つ輝く天女像は、約11mの高さを持ち、見る者を圧倒します。これは、日本芸術院会員の佐藤玄々が京都府の妙心寺内のアトリエで約10年の歳月を費やし制作されたもの。「寺院」と聞くと妙に納得できるような、東洋の心を感じるデザインです。

その奥、階段に設けられたバルコニーには、米国ウーリッツァー社から購入したパイプオルガンを配置。全部で852本のパイプが左右に収められています。このパイプオルガン、毎週金・土・日曜に1日3回、実際に演奏されています。

奥に見えるパイプオルガン

音楽家たちがパイプオルガンを実際に演奏。ホール中に美しい音色が響き渡る

そして、ステンドグラスのように陽光を受けて輝くアーチ状の天井が、さらに空間全体に広がりをプラス。周囲を囲む東洋風で色鮮やかな天井にも、ぜひ目を向けてみてください。

ちなみにこのホールを囲う大理石の壁には、アンモナイトの化石が含まれています。さまざまな箇所で見つけることができるため、目を凝らして探してみては。

天井周りの装飾

東洋風の装飾を施した天井

三越といえば、忘れてはいけないのが正面入り口のライオン像。1914年の初代建築とともに置かれた2頭のライオンは、ロンドンのトラファルガー広場にある4頭の獅子像がモデルとされています。1914年に誕生してから何年もの間、待ち合わせ場所としてはもちろん、合格祈願などのご利益がある像として親しまれ、そして何人もの人によって撫でられてきたであろうライオン。その光沢から感じる歴史の深さを楽しみながら、ぜひ記念撮影をしてみてください。

ライオン像すぐそばには詩人の谷川俊太郎氏による詩が飾られている

堅牢さがうかがえる辰野金吾設計「日本銀行本店」

三井本館と日本橋三越本店の間を通る道を進んでいくと、その先に見えてくるのが、日本初の国家プロジェクトとして建築された「日本銀行本店」。日本橋を代表する建造物と言っても過言ではないこの建物は、1896年、ジョサイア・コンドルから学びを受けた一期生でもある日本建築の重鎮・辰野金吾によって設計されました。

日本銀行全景

非常にシンプルなデザインが、日本橋の矜持を感じさせる日本銀行本店

日本のお金を守る至極大切な建築物というだけあって、とにかく堅牢さが魅力です。

設計当初は総石造を計画していたものの、1891年に発生した濃尾地震を受け、軽量化に努めることに。1階部分は石造のまま基盤を残し、2・3階はレンガ造りになっているのです。そして、レンガ部分の上から石を貼り付け、総石造に見えるように仕上げているという不思議な建物。よくみてみると、1階部分とその上では目地の深さが異なることが分かります。

日銀別角度

南門側。門のアーチの上部には、日本銀行のシンボルマークである「めだま」を抱えた紋章が

開放感の感じられない日本銀行本店ですが、当時は西南戦争から約10年ほどしか経っていないころ。おそらく外部からの襲撃にも耐えうるように、と重厚感を重視した設計に落ち着いたといわれています。

広場とポーチ部分

中央に広がる広場部分

日本銀行本店は、上から見ると日本の通貨を示す「円」という字に見える、と言われています。ですが、同館が建てられた当時の日本では「円」ではなく「圓」を用いていたこともあり、真意は謎のまま。

ちなみに日本銀行本店は、西門から実際に内部の見学が可能。1億円という大金を実際に持ってみたり、営業場の見学ができたり。ただし事前予約が必須です。西洋化へと歩みを進めていた日本の記念すべき建築とも言える同館を、内部までじっくりと覗いてみるのもいいですね。

明治〜大正時代の傑作「日本橋」

日本銀行本店から徒歩約7分ほど。日本の流通の拠点として造られた「日本橋」へと足を伸ばします。名に「日本」と冠しているだけあり、その風貌はほかの橋とは大きく異なり、威風堂々とした装飾が施され、伝統と歴史を感じます。まさしく日本で一番有名な橋ですね。

日本橋の麒麟像

日本橋を象徴する麒麟像

創架は1603年。東海道・中山道・奥州道中・日光道中・甲州道中という江戸幕府時代の5つの陸上交通路の起点として定められ、誕生しました。周辺には魚市場が立ち並び、現在とは打って変わって繁華街のような賑わいを見せていたのです。江戸時代の日本橋は、もちろん木造。歌川広重画『東海道五十三次』の一枚にもある通り、曲線の木造橋でした。何度も川に流され、火に燃えて形を失ってきた日本橋は、1911年、現在の姿へと生まれ変わります。

東海道五十三次

歌川広重画『東海道五十三次』の一枚

石造アーチの橋へとデザインを一新させたのは、日本を代表する建築家・辰野金吾とほぼ同世代の建築家・妻木頼黄(つまき よりなか)でした(棟梁設計は米元晋一)。最大の特徴は、麒麟(きりん)や龍といった和風のモチーフを、バロック風の尖りの強い彫刻で仕上げている点にあります。

麒麟像

「日本の道路の起点である日本橋から飛び立つ」という意味を込めて翼がつけられた

「和(漢)洋折衷」といってしまえばそれまでですが、本来は融合しないバロック風彫刻と和漢のモチーフが、まとまりを持ってそこに佇んでいることは異色とも言えるでしょう。

ルネサンス様式の石造アーチの橋に、異彩を放つブロンズの装飾。これが見事に融合していることが、「日本橋」最大の魅力なのです。

獅子の像

ヨーロッパの「盾を持つライオン像」も参考に造られた。手に持つのは盾ではなく東京市の紋章

日本橋全景を写真に収めたいなら、ぜひ1本隣の橋からの撮影に挑戦してみてください。日本銀行前の通り「日銀通り」を日本橋方向にまっすぐ進んでいくと、ちょうど日本橋の1つ隣の橋に繋がります。明治時代に生まれた日本の歴史を語る日本橋と、その上を走り、現代の日本を繋ぐ首都高を同時に収めることができますよ。

日銀通り看板

日本銀行前を通る日銀通り

隣の橋から見た日本橋

日本橋の上には首都高が走る

また、日本橋の脇、階段を降りた先に広がる小さなスペースから撮影すれば、首都高に掲げられた「日本橋」の文字も撮影できます。ここの柵にも翼を持った麒麟像が隠れていますので、ぜひ探してみて。

日本橋アップ

首都高に見える「日本橋」の文字は、徳川慶喜が書いたものを横にして掲示

広場のフェンス

脇の広場にも麒麟像の姿が

日本橋の二大建築のひとつ「日本橋高島屋」

日本橋を渡り、この旅最後に足を伸ばすのは、三井本館と並ぶ日本橋の二大建築のひとつとして評された「日本橋高島屋」。ひと目みてその品の良さがうかがえる、日本橋らしい独特の高級さ・由緒を携えて佇んでいます。

高島屋全景

昭和時代に誕生した「日本橋高島屋」

高島屋看板

歴史を感じる青銅の看板

完成は1933年。片岡安、高橋貞太郎、前田健二郎による「東洋趣味を基調とする現代建築の創案」というテーマを重視したコンペの当選設計案を元に建築し、戦後以降は、その基調を受け継ぎながら、村野藤吾が増築し今の姿へと移り変わっていきます。「東洋趣味を基調とする現代建築の創案」。なんだか小難しいテーマですが、そのポイントは、西洋の近代建築様式を積極的に取り入れ、日本の持つ和の雰囲気をそこにプラスさせること。門に、柱を繋ぐ欄間に。随所に和洋を感じる装飾が施されています。

高島屋門の装飾

和洋折衷のモチーフがあしらわれた鉄門

高島屋天井

漆喰の格天井は、華やかな装飾を施している

2009年に百貨店建築として初の重要文化財を受けた同館ですが、今でもエレベーターガールによる手動のエレベーター操作がなされているのも、伝統を受け継ぎ増改築・発展を繰り返してきた同館ならではの魅力といえるでしょう。6基のエレベーターは創建時のカゴをそのまま、改修を重ねながら、現役でゲストを運びます。

高島屋エレベーター

今でも現役で可動するエレベーター

毎月第2金曜には、コンシェルジュによる重要文化財見学ツアーを開催しています(要予約)。時間は11時〜、15時〜。江戸末期に京都で創業した高島屋が、日本橋に日本初の冷暖房完備の店舗を構えた1933年から90年弱。華やかな建築でゲストをもてなすその様を、コンシェルジュによる説明とともにじっくりと鑑賞してみては。

日本の西洋化への歩みを写真に収めて

今回の日本橋建築ツアーは、ここで終了。建築を楽しむコツは、全体を俯瞰してみることと、細部の装飾まで意識を向けてみること。特に日本橋の建造物たちは、和風と洋風が見事に調和したものが多いため、細部をよく覗いてみると、西洋のモチーフと東洋のモチーフの違いがはっきりと見えてきます。

カメラ片手に、それぞれの建造物が造られた時代背景まで思いを馳せながら、日本橋エリアをゆったり散策してみてくださいね!