「焼酎王国」鹿児島。その理由は?
薩摩焼酎の蔵元を見学してみよう
薩摩酒造 花渡川蒸溜所「明治蔵」
濱田酒造「薩摩金山蔵」
白金酒造「石蔵ミュージアム」
ツウがおすすめする薩摩焼酎の楽しみ方
まとめ

独特の風味と深い味わいから、鹿児島だけでなく全国や海外にもファンが多い「薩摩焼酎」。今回は多くの人に愛される薩摩焼酎の由来や特徴をはじめ、鹿児島県内各地にある焼酎蔵の中から気軽に見学できる3つの蔵をピックアップして紹介していきます。

それぞれの蔵の特徴だけでなく、おすすめの銘柄もあわせてご紹介。地元民だけでなく今では日本全国で愛されている薩摩焼酎について、その魅力を探っていきましょう。

「焼酎王国」鹿児島。その理由は?

鹿児島の特産品として高い知名度を誇る「薩摩焼酎」。特に2000年代の焼酎ブーム以降は、日本酒やビールなどと同様、全国の酒屋や居酒屋にも多く並ぶ定番のお酒となっています。

そもそも焼酎とは、国内外のあらゆる場所で昔から造られている蒸留酒の一種です。麦・米・芋など原料はさまざまですが、蒸留方法の違いにより、原料由来の香りを残した「本格焼酎」と、酎ハイなどに使われるクセのない焼酎とに分けられます。薩摩焼酎とは一般的に、サツマイモの香りが豊かな本格焼酎のことを指します。

薩摩焼酎イメージ

鹿児島を代表する特産品「薩摩焼酎」

薩摩焼酎の生みの親は「島津斉彬」

鹿児島で薩摩焼酎が生み出されたのは、19世紀の半ば、いわゆる幕末のことです。1951年に薩摩藩(現在の鹿児島県)藩主に就任した島津斉彬は、富国強兵・殖産興業の一環として「集成館事業」と呼ばれる洋式産業を推進しました。その中に含まれていたのが洋式銃の開発で、特に銃び起爆剤製造に必要な大量のアルコールを確保する手段として、従来の米焼酎より安価な芋焼酎の開発が行われたのです。

当初は工業用として生み出された芋焼酎ですが、その後の品質改良により、やがて薩摩の特産品として親しまれるようになりました。

尚古集成館

「尚古集成館」として現存する集成館事業の機械工場

良質なサツマイモから造られる薩摩焼酎

薩摩(鹿児島)で芋焼酎を安価に製造できた背景には、鹿児島の豊かな自然の恵みがあります。サツマイモの原産地は南米といわれていますが、大航海時代以降に東南アジアに伝えられ、それが沖縄経由で鹿児島にやってきました。水はけの良い火山灰を含む鹿児島の土地はサツマイモ生産に最適で、現在でも国内のサツマイモ生産量の30%以上は鹿児島県産が占めています。

理想的な環境で造られるサツマイモは高品質で、そのまま食べるほか料理に使うのはもちろん、焼酎のベースとしてもぴったり。鹿児島が焼酎王国として発展したのも当然と言えるでしょう。

さつまいも畑

鹿児島の大地に広がるサツマイモ畑

薩摩焼酎の蔵元を見学してみよう

鹿児島には、現在114カ所の薩摩焼酎の蔵元があります。多くの施設で随時見学を受け付けていますが、ここでは、常設の見学施設を備えている蔵元を3カ所ピックアップして紹介します。

薩摩酒造 花渡川蒸溜所「明治蔵」

薩摩酒造は、薩摩半島南部の枕崎市にある蔵元です。明治時代から続く焼酎蔵は現在でも現役の工場として使われると同時に、見学者向けの施設を備えた資料館「明治蔵」として無料公開されています。

明治蔵

明治時代からの焼酎蔵が連なる「明治蔵」

施設の中には、焼酎づくりをユーモラスに描いたジオラマをはじめ、実際に焼酎づくりに使われていた古道具も豊富に展示されています。なかでも圧倒されるのは、蒸気機関車の先頭を思わせる巨大な石炭ボイラー。「わが国初の溶接工」と称される金本福松が制作した貴重な歴史資料です。

/Boiler

蒸気機関車のような石炭ボイラー

歴史の重みを感じさせる大きな木桶蒸留器は、実は現役の蒸留器です。明治蔵ならではの手造り焼酎は、これらの特別な道具を使って生産されています。

焼酎造りの木樽

手造り焼酎に欠かせない木桶蒸留器とかめ

大きなホールの床にずらりと埋め込まれた巨大なかめは、明治時代の職人が手造りしたもので、その数なんと99個。9月〜12月にかけての時期には、職人による実際の仕込作業を間近に見学できます。

並ぶ甕

タイミングが合えば仕込作業を間近に見学できる

■薩摩酒造のおすすめ銘柄
薩摩酒造を代表する「さつま白波」は「しっかりした濃い甘さと、芋らしい香り」が特徴の薩摩焼酎。芋焼酎独特のクセや風味を楽しみたい人におすすめです。明治蔵の売店では、ここだけで販売しているオリジナル銘柄も取り揃えています。

さつま白波

薩摩酒造の主力銘柄「さつま白波」

伝統的な薩摩焼酎以外にも麦焼酎やそば焼酎などを製造する薩摩酒造。特にユニークなのは、サツマイモビール(酒税法上は発泡酒)です。ピルスナータイプや黒ビールタイプなど3種類をラインナップしているため、ビール好きにもぜひ試してほしい商品です。

薩摩発泡酒

「薩摩RED」「薩摩GOLD」「薩摩BLACK」を用意

濱田酒造「薩摩金山蔵」

多くの金鉱があり、今も商業規模で金の採掘が行われている鹿児島県。濱田酒造は、そんな金鉱のひとつ「串木野鉱山」の跡地を焼酎造りに活用している蔵元です。1990年代の操業停止まで300年以上にわたり金を産出し続けた坑洞の一部は、「薩摩金山蔵」として一般公開されています。

薩摩金山蔵

串木野鉱山跡に建つ「薩摩金山蔵」

こちらは、見学用の坑洞へ向かうトロッコ。金鉱山時代から使われる「本物」の軌道を駆け抜ければ、まるでインディー・ジョーンズの世界に迷い込んだような冒険気分が味わえます。乗車料は税込で、大人720円、子供(3~12歳)310円。予約は必要ありませんが、出発時間は一日4便(10:30 / 11:30 / 13:30 / 14:30)なので乗車希望の場合は事前にチェックするのを忘れないで。

見学用トロッコ

トロッコに乗車して見学用の坑道へ

坑洞の中では、金山の歴史を紹介するガイドの案内で進みます。見学ルートには鉱夫たちが使っていた本物の道具や機械、採掘された鉱石が当時の状態で展示されていて、迫力満点。

坑洞の様子

坑洞には金鉱石の採掘に使われた機材が今も残っている

坑洞内の気温は一年を通して19℃前後で、夏は涼しく、冬は暖かく感じられます。温度や湿度が一定で紫外線がまったく入らない安定した環境は、実は焼酎造りにも理想的。坑洞の奥には熟成用の巨大なかめが、視界のはるか先までずらりと並んでいます。

甕が並ぶ様子

熟成用のかめが坑道に沿ってびっしりと並ぶ

■濱田酒造のおすすめ銘柄
薩摩金山蔵の主力銘柄「金山蔵」は、もちろん坑洞の中で熟成された薩摩焼酎です。フルーティーな甘みとまろやかな風味が特徴で、芋焼酎の初心者にもおすすめ。施設に併設されたショップでは、この金山蔵をはじめ複数の焼酎を試飲できます。

金山蔵焼酎

薩摩金山蔵を代表する銘柄「金山蔵」

濱田酒造では、なんと鹿児島で唯一の日本酒「薩州正宗」も生産しています。鹿児島トップクラスの焼酎メーカーが造る清酒を、ぜひ味わってみては。

日本酒「正宗」

鹿児島で唯一製造されている日本酒「薩州正宗」

白金酒造「石蔵ミュージアム」

1869年創業の白金(しらかね)酒造は、鹿児島県内でも最古級の蔵元です。現在は「石蔵ミュージアム」として一般公開されている石蔵にも、1877年の西南戦争の際、西郷隆盛が訪れて蔵の焼酎をすべて買い上げたという逸話が残っています。

石蔵ミュージアム

西郷隆盛も訪れた石蔵を見学できる「石蔵ミュージアム」

石蔵は一年を通して温度や湿度の変化が少ないため、焼酎づくりに向いているのだそう。ちなみに石蔵ミュージアムの1階では実際に焼酎の仕込が行われていて、9月〜12月には作業の様子を間近で見学できます。

石蔵ミュージアム内観

天井の太い梁が歴史を感じさせる

壁面にずらりとディスプレイされる陶器の瓶は、かつて実際に使われていたもの。昔の薩摩焼酎はガラス瓶の代わりに、このような陶器の瓶で売られていたんですね。展示フロアには、焼酎づくりの工程を紹介するパネルや映像資料、蔵と西郷隆盛の関わりを紹介する歴史資料が数多く並んでいます。

焼酎ボトル

実際に使われていた陶器の焼酎瓶がずらりと並ぶ

ユニークな展示のひとつが、専用のゴーグルを使ったVR(バーチャル・リアリティ)。焼酎の製造工程を全天球動画で楽しみながら学べます。ほかにも科学実験のような蒸留体験、砕いた焼酎瓶を使ったステンドグラスづくりなど、「見て」「感じる」展示が多く、飽きることなく焼酎の製造について知ることができます。

VR体験も可能

焼酎が出来るまでを全天球動画で楽しめるVR体験コーナー

■白金酒造のおすすめ銘柄
白金酒造の主力銘柄「白金乃露」は、1912年から販売されているロングセラー。芋本来の甘みと旨味、雑味のないさっぱりした飲み口が特徴で、本格的な薩摩焼酎を日常生活の中で気軽に楽しみたい方におすすめです。

白金乃露

白金酒造を代表する銘柄「白金乃露」

時代のニーズを敏感にキャッチした商品が多いのも白金酒造の特徴です。ハイボールに合わせて独自のチューニングを施した「ハイボール向け芋焼酎」は、ハイボールのベースとしてウイスキーの代わりに使ってみてほしい一品。

ハイボール用焼酎

ハイボール専用の芋焼酎「Platina Barrel」

ツウがおすすめする薩摩焼酎の楽しみ方

一人ひとりの好みに合わせてさまざまなスタイルを楽しめるのが薩摩焼酎の魅力。とはいえ焼酎初心者にとって、本場の「ツウ」がどのような飲み方をしているかは大いに気になるところでしょう。ここでは、薩摩焼酎に精通した濱田酒造の広報担当者にうかがったおすすめの飲み方を紹介していきます。

ロック

あらかじめ冷蔵庫で冷やしておいたグラスに、大きめの氷を入れて焼酎を注ぐ飲み方です。焼酎本来の香りが引き立つだけでなく、時間の経過とともに氷が少しずつとけて穏やかな味わいに変化する様子も楽しめます。

ロック

すっきりとして飲みやすい「ロック」

お湯割り

薩摩焼酎ならではの芋の香りが一番強く感じられる飲み方です。鹿児島では、まず80℃くらいのお湯をカップに注ぎ、それからゆっくりと焼酎を注ぐ飲み方が「特に芋の香りが感じられる」として好まれています。お湯と焼酎の割合はお好みで。

焼酎お湯割り

薩摩焼酎の風味が香り立つ「お湯割り」

水割り

こちらもお好みの割合で楽しむ飲み方です。焼酎を先にグラスに入れ、後から水を注ぐため好みや体調に合わせて調整しやすいのも大きなメリット。あらかじめ前日に水割りをして一晩寝かせる「前割り」なら、水と焼酎がより馴染んでいっそうまろやかな風味が楽しめます。

焼酎水割り

好みに応じて調整しやすい「水割り」

ほかにも好みや料理に合わせて炭酸割りや緑茶割り、薩摩焼酎をベースにしたカクテルなど、さまざまな飲み方があります。いろいろ試しながら、自分にぴったりの飲み方を見つけてみてください!

本場・鹿児島で薩摩焼酎を楽しもう

鹿児島の歴史や自然と深い関わりのある薩摩焼酎。最近はインターネットでもさまざまな銘柄の薩摩焼酎を購入できますが、本場鹿児島で、地元の料理とともに味わう薩摩焼酎は格別のおいしさです。すでに薩摩焼酎のファンだという人も、これから焼酎デビューする人も、ぜひ一度鹿児島に足を運んで、お気に入りの蔵元を探してみてください。