ここ数年ですっかり定番になった日本のウイスキー。「ジャパニーズウイスキー」とも呼ばれる日本のウイスキーは、世界の権威ある賞を数多く受賞し、スコッチウイスキーやアイリッシュウイスキーと並んで世界5大ウイスキーに数えられるほど。
この記事では、日本のウイスキーの魅力に迫るとともに、その製造工程を間近で見ることができる工場見学の情報をお届けします。
日本のウイスキーは世界5大ウイスキーのひとつ
ずらりと並ぶ日本のウイスキー
世界には、「5大ウイスキー」と呼ばれる代表的なウイスキーの生産国があるのをご存知でしょうか。
・スコットランド(スコッチウイスキー)
・アイルランド(アイリッシュウイスキー)
・アメリカ(アメリカンウイスキー)
・カナダ(カナディアンウイスキー)
そして日本(ジャパニーズウイスキー)です。
これらのウイスキーは技術・品質・生産量ともに世界で高い評価を受けていますが、そのひとつに日本も数えられています。ジャパニーズウイスキーというと、2014年に放映されたNHK連続テレビ小説『マッサン』でも知られていますね。
世界のウイスキー
2001年には、イギリスのウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が主催したコンテストで、ニッカウイスキーの「ニッカシングルカスク余市10年」が1位、サントリーの「響21」が2位に輝き、2015年には世界で最も権威ある賞として有名な「ワールド・ウイスキー・バイブル」で、サントリーの「山崎シェリーカスク2013」が世界最高のウイスキーとして認定されました。
あまりの人気ぶりにネットでも入手困難なほど品薄となった銘柄もあるとか。有名ブランドにはオークションで数千万円の値がつくこともあるそうです。
ウイスキー造りを見に行こう-工場見学ツアーのある蒸留所
ワールドクラスにまで上り詰めた「ジャパニーズウイスキー」。飲む意外に、「工場見学」という楽しみ方もあります。
日本のウイスキーについての基礎知識を解説していく前に、自分の目でウイスキー造りが見られる蒸留所をご紹介します。2カ所ご紹介しますが、どちらも日本を代表するウイスキーの製造会社ですね。
サントリー山崎蒸留所
大阪府三島郡島本町にある「サントリー山崎蒸留所」。日本で最初の本格的なウイスキー蒸留所です。
サントリー山崎蒸留所 外観
山崎は、日本名水百選にも選ばれた「離宮の水」が湧き出る名水の地。安土桃山時代の茶人・千利休もこの地の水を愛し、秀吉のために茶室を構えたほど。豊かな自然に囲まれ、桂川・宇治川・木津川が合流する独特の地形が生み出す湿潤な環境は、ウイスキー造りに最適な場所と言えます。
山崎蒸留所では、仕込から発酵、蒸溜、そして貯蔵(熟成)に至るまで全ての工程で多様な原酒のつくり分けが行われています。こうした生産工程は世界でも稀。専属のブレンダーが、多い時には1日に数百種類のテイスティングを行い、樽ごとの原酒のピークを見極めながら管理しています。
工場に併設された山崎ウイスキー館では、ウイスキーにまつわる様々な展示を鑑賞したり、世界中のウイスキーや希少なウイスキー原酒を試飲したりすることができます。
サントリーの商品や世界中のウイスキーの展示
有料のツアーに参加すれば、製造工程の現場を見学することも可能。ウイスキーの素となる「もろみ」を造る発酵槽や、ポットスチルと呼ばれる黄金色の窯が連なる蒸留室など、普段目にすることができないウイスキーの製造過程を生で見ることができます。
ポットスチル
貯蔵室に入ると、目の前に広がるのはずらりと並んだ木樽。樽の中には原酒が入っていて、中には100年近く前に造られた物も保管されています。樽の形状・容量・材質・置かれる場所によって原酒の仕上がりに違いが生まれるので、見学の際には樽ひとつひとつに注目して見てみましょう。
木樽がずらりと並んだ貯蔵庫
ウイスキーの製造工程やニッカウヰスキーの歴史などを丁寧に紹介してもらえるガイドツアーは、人気なため満席が続くこともしばしば。もちろん見学の最後にはウイスキーの試飲もできます。早めに予約をしてから工場見学に向かいましょう。
また、サントリー山崎蒸留所限定グッズなども豊富に揃っています。
工場見学だけでなく、日本のウイスキーの歴史を知ることができる展示やテイスティングカウンターなど、多彩な楽しみ方ができるサントリー山崎蒸留所。普段ウイスキーを飲まない人もぜひサントリー山崎蒸留所へ行ってみては。
【サントリー山崎蒸留所 基本情報】
住所:〒618-0001 大阪府三島郡島本町山崎5-2-1
電話:075-962-1423(9:30〜17:00)
見学時間:10:00〜16:45(最終入場16:30)
休業日:年末年始・工場休業日(臨時休業あり)
入館料:無料(ツアー参加料:1,000円/人)
アクセス:JR 山崎駅より徒歩(約10分)
阪急京都線 大山崎駅より徒歩(約12分)
公式HP:サントリー山崎蒸留所
ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所
北海道余市郡余市町にある「ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所」。ウイスキーの父・竹鶴政孝が創業したウイスキー蒸留所です。NHK連続テレビ小説『マッサン』の舞台でもあります。
ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸留所 外観
もともとの社名は「大日本果汁株式会社」。略称して「ニッカ」と名付けられました。
余市に工場が造られたのは、その風土環境がウイスキーの本場であるスコットランドと似ていたから。北に日本海、三方を豊かな自然に囲まれた余市はスコットランドに似た冷涼で湿潤な気候で、余市川を流れる清らかな雪解け水にも恵まれていました。豊かな水源と清らかな空気を兼ね備え、ウイスキー造りに必要な条件が揃った環境が、ここ余市だったのです。
冬は真っ白な雪に包まれる余市
貯蔵庫を改装した「ウイスキー博物館」では、「ウイスキー館」と「ニッカ館」の2つの棟で、ウイスキーの製法やニッカウヰスキーの歴史を映像やパネルで鑑賞することができます。創業者である竹鶴政孝とその妻リタ夫人の遺品の展示や、リタ夫人の生家のリビングを再現したコーナーもあり、見どころがたくさん。
見学の最後には、試飲コーナーで余市モルトや世界のウイスキーをテイスティングしてみましょう。本格的なバーのような雰囲気の中で、ニッカの製品だけでなく世界中のウイスキーも味わうことができます。
一部有料の試飲もあり、ここでしか味わうことのできないウイスキーもあります。年代物のウイスキーは無くなり次第終了。ウイスキーとの一期一会の出会いをしてみてはいかかでしょうか。
また、子どもやドライバーも楽しめるように、ジュースやお茶も提供されます。
ウイスキー館
事前にツアーの予約をすれば、無料で工場内を見学することも可能。麦芽(モルト)を造る乾燥棟(キルン塔)や、しめ縄の飾られたポットスチルが立ち並ぶ蒸留棟など、実際のウイスキー製造に使われる施設を臨場感たっぷりで見ることができます。
お酒造りは神様が見守ってくれているという創業者・竹鶴政孝の考えのもと、ポットスチルにはしめ縄が飾られています
工場の敷地内にある緑色の屋根が特徴の家は、竹鶴夫妻が結婚後の生涯を過ごした私邸「旧竹鶴邸」。内部には和室をはじめとした和風の意匠が随所に取り入れられ、2005年にはキルン塔や蒸溜棟などと共に国の登録有形文化財に認定されました。
一般公開は玄関ホールと庭園のみですが、玄関に飾られた夫妻愛用のハイティーセットなど展示品の数々からは、仲睦まじかった夫妻の暮らしぶりをしのぶことができます。
旧竹鶴邸
ウイスキーの原酒の直売所や、レストランなど施設が非常に充実しており、観光地としてとても人気です。また、余市蒸溜所限定のブレンデッドウイスキーの販売もあるので、ぜひ購入されてみては。
【ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所 基本情報】
住所:〒046-0003 北海道余市郡余市町黒川町7-6
電話:0135-23-3131(9:00〜17:00)
見学時間: 9:00〜17:00
入館料:無料
アクセス:JR 小樽駅 → 北海道中央バス / 倶知安・岩内・美国・余別・余市梅川車庫行き
→【余市駅前】バス停 より徒歩(約2〜3分)
JR 新千歳空港駅 → 余市駅 より徒歩 (約2〜3分)
公式HP:ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所
日本のウイスキーの特徴は?
スコッチウイスキー
ここからは日本のウイスキーの特徴や、日本のウイスキー造りの歴史についてご紹介していきます。
まずは、風味について。
日本のウイスキーは、スコッチウイスキーを源流としています。そのため、ベースとなる風味はスコッチウイスキーに似ていますが、スコッチよりも煙臭が少なく、香味が穏やかで風味のバランスが良いのが特徴。日本人の舌に合うよう、飲みやすくマイルドに作られています。
日本のウイスキーが世界で称賛される理由
日本のウイスキーが称賛される理由は大きく分けて4点あります。
「大手メーカーが手がけているため品質が安定している」「複雑で繊細な味わいを生み出すことのできる技術を持っている」「様々な原酒を造り分けるノウハウがある」「ウイスキー造りに適した環境・気候である」という4点です。
品質の安定
スコットランドと比べ、蒸留所の数が少ない日本。しかし、日本ではひとつひとつの蒸留所の規模が大きいため、大手メーカーが手がけています。大手企業は大きな資本を持っているので、品質の安定はしやすくなるのです。
また、研究のためにも多く投資することが可能であるので設備だけでなく、知識も充実しているため安定した品質のウイスキー造りが可能になるのです。
高度で繊細な技術
ウイスキーは複数の樽の原酒を混ぜて製品化します。原酒を作る技術だけでなく、原酒を混ぜる技術を持っていなければ製品化させることが出来ません。
日本の各メーカーには有名なブレンダーが在籍しており、日本人の好みに合わせたブレンドのウイスキーを世の中に送ることができるのです。
原酒の造り分けのノウハウ
日本は他国とは違い、原酒造りから瓶詰めまでのウイスキーの製造工程を一貫して自社で行っています。
そのため、各工程の経験値が蓄積され、高い技術力を保有しています。なので、様々なタイプの原酒を造り分けるノウハウを獲得することができ、繊細な味わいのジャパニーズウイスキーを造り出す事が可能なのです。
ウイスキー造りに適した環境・気候
日本のウイスキーが製造されている場所は本場のスコットランドの気候とよく似た「冷涼で湿潤な気候」である場所です。つまり、ウイスキー造りに適した環境・気候であるという事がわかります。
日本のウイスキー造りの歴史-キーマンは竹鶴政孝
日本にウイスキーが最初に伝えられたのは1853年。ペリー総督率いるアメリカ艦隊の浦賀来航時とされており、1871年には海外から初めてウイスキーが輸入されました。
1911年に関税自主権が復活すると、外国産のウイスキーが高騰。ウイスキーの国内製造が目指されます。
その立役者となったのが、寿屋(現サントリー)の創業者・鳥井信治郎と、鳥井氏が蒸留技師として招き、後に大日本果汁株式会社(現ニッカウヰスキー)の創業者となった竹鶴政孝。1918年、本場でウイスキー造りを学ぶためにスコットランドに留学した竹鶴は、その技量を鳥井に買われ、寿屋が造るウイスキー蒸留所の技師として雇われます。
そして1924年、2人の尽力により大阪府山崎に日本初の本格的なウイスキー蒸留所が誕生しました。
竹鶴政孝とその妻リタの像
その後、東京醸造やニッカウイスキーなど多くの企業がウイスキー事業に参入。戦後の洋食文化の広がりによって、ウイスキーはますます人々の間に浸透していきます。
しかし、1983年には酒税法改正による市場の縮小、若者のウイスキー離れにより、ウイスキー事業は一転して苦境に立たされます。そんな中、2014年にニッカウイスキーの創業者・竹鶴政孝氏とその妻リタをモデルにしたNHK連続テレビ小説『マッサン』が放送されると、国内では再びウイスキーブームに。
今や日本のウイスキーは国内外から注目を集め、日本が誇る文化のひとつともなっているのです。
日本のウイスキーの種類
日本のウイスキー
日本のウイスキーは、主原料によって大きく3つの種類に分けられます。それぞれ味わいに特徴があるので、ぜひ自分好みのウイスキーを見つけてみてください。
シングルモルトウイスキー
シングルモルトウイスキーとは、大麦若葉だけを使用して、ひとつの蒸留所で造られたウイスキーのこと。「モルト」とは、ウイスキーの原料となる大麦若葉を指します。通常、ウイスキーはいくつかの蒸留所で生産されたモルトを混ぜて造られますが、シングルモルトウイスキーが造られるのはひとつの蒸留所のみ。そのため、蒸留所ごとの個性ある味が楽しめるのが特徴です。
グレーンウイスキー
グレーンウイスキーとは、穀物を主原料としたウイスキーのこと。個性の強いモルトウイスキーが「ラウド(声高な)スピリッツ」と呼ばれるのに対し、グレーンウイスキーはクセがなく、「サイレント(静かな)スピリッツ」と呼ばれます。味や香りが少なく、飲み口はすっきりとしているのが特徴。
ブレンデッドウイスキー
ブレンデッドウイスキーは、大麦若葉が主原料のモルトウイスキーと、穀物が主原料のグレーンウイスキーを混ぜて造られたもの。様々な原酒をブレンドさせるため、バランスの取れた味に仕上がります。ウイスキーを飲み慣れていない人や、初めて飲む人におすすめの原酒です。
日本のウイスキーを味わおう
ニッカウヰスキー
日本のウイスキーは、ウイスキー造りに適した冷涼で湿潤な環境と、様々な原酒を造り分け、繊細で複雑な味わいへとブレンドする職人たちの技術の結晶です。ストレートやロック、ハイボールなど、お好みの飲み方で、日本のウイスキーの魅力を味わってみてください。