トロッコ列車で知られる「わたらせ渓谷鐵道」は、群馬県桐生市から栃木県日光市足尾町までを約1時間半でつなぐローカル線。今回は桐生駅で乗り込み、約44kmの鉄道を旅します。乗り鉄や撮り鉄さんにもおすすめしたい「わ鐵の旅」ですが、
今回は、わたらせ渓谷鐵道の魅力だけでなく、名物の駅弁や駅併設の温泉などのモデルコースをご紹介します。
「窓ガラスのない車窓」トロッコ列車に乗ってローカル線の旅へ
トロッコ列車の「わたらせ渓谷鐵道」の車窓からはのんびりとした田舎の景色が見え、さらに旅情をかき立ててくれます。春は桜、花桃、菜の花が咲き乱れ、色とりどりの風景が楽しめます。
わたらせ渓谷鐵道で運行しているトロッコ列車は2種類。「トロッコわたらせ渓谷号」と「トロッコわっしー号」があります。トロッコわたらせ渓谷号は群馬県の桐生駅から、栃木県の足尾駅までを、トロッコわっシー号は群馬県の桐生駅から、栃木県の間藤駅までを運行。どちらも、野山の姿が間近に見える「渓谷」の中を進んでいきます。
わたらせ渓谷鐵道のトロッコわっしー号
木製のテーブルと椅子が並ぶ車内は、素朴な雰囲気
トロッコ列車の特徴は「窓ガラスがない」こと(トロッコわっしー号は冬になると窓ガラスがはめ込まれます)。窓ガラスを隔てずに咲き誇る花を愛でられるのは、春のわ鐵ならでは! 野山の空気を通じて、春を感じてみてください。
今回は、トロッコわっしー号に乗って桐生駅を出発!車内の天井には、マスコットキャラクター「わ鐵のわっしー」の姿を見つけました。
トロッコわっしー号の天井
車内では公式グッズを購入することもできます。わっしーのぬいぐるみやキーホルダー、その他にもドロップ、桐生織布製品などを販売。お土産にもちょうどよさそうです。
トロッコわっしー号車内の売店
1号車の先頭には、模擬運転台を取り付けた子ども向けの展望席があります。めったに見られない運転台に、大人でもワクワクしますね。
わっしー号の展望席
ここからは、トロッコ列車で訪れるいくつかの駅の見どころについて見ていきましょう。列車旅の見どころでもある駅弁をいただいたり、栃木県「足尾銅山跡」に訪れたりと、レトロな駅舎の景観とあわせて楽しむ、ディープな沿線の旅を紹介していきます。
また、トロッコわっしー号は下り・上りともに12月~3月は1日1往復、4月~11月は1日2往復のみの運行。必要に応じて普通列車や路線バス、もしくは自由に予約ができるみどり市の乗合バス「電話でバス」を利用しながら移動するのがおすすめです。みどり市内は利用可能ですが、東町では利用できないためご注意ください。
※みどり市の乗合バス(デマンドバス)「電話でバス」はこちらをチェック
※トロッコ列車は毎日運行ではありません。
※トロッコ列車は定員制です。整理券がないとご利用できません。
1. わたらせ渓谷鐵道の車両基地「大間々駅」で渓谷散策
わたらせ渓谷鐵道の大間々駅
最初に訪れるのは、桐生駅からトロッコ列車に乗った2つ目の停車駅「大間々(おおまま)駅」。構内に車両基地を構えています。車両基地とは、車両の整備や組成を行う場所のことです。
引退した展示車両が常設
大間々駅から徒歩で美しい渓谷「高津戸峡」へ
駅を出て線路沿いに北に向かって歩くと、約5分で「はね瀧道了尊」という天狗を祀った仏教施設に出ます。
はね瀧道了尊
了尊は子育ての仏様で、心の捻じれた子を立ち直らせてくれるといいます。さらに道なりに右に歩いていくと、三角形の白い橋「はねたき橋」が見えてきます。
はねたき橋
この橋から広がる「ながめ公園」横の高津戸橋までが、渓谷「高津戸渓」に整備されている「高津戸遊歩道」です。
高津戸遊歩道(写真提供:みどり市産業観光部観光課)
遊歩道の長さは約500m。川岸まで降りて、緑に染まる高津戸峡の渓谷美を眺めてみてください。「美しい日本の歩きたくなるみち500選」に選ばれているのも納得の美しさです。この辺りは人家に近い場所にも関わらず、一歩足を踏み入れれば、幻想的な渓谷が広がっているのです。
高津戸峡の美しい渓谷(写真提供:みどり市産業観光部観光課)
2. 大正時代の駅舎を「上神梅駅」で見学
大間々駅でトロッコ列車から下車したため、次は乗合バス「電話でバス」を使って隣駅「上神梅(かみかんばい)駅」まで移動。電話だけでなく、WEBでの予約も受け付けているため、気軽に利用できますよ。乗車するバス停を指定して、バスに乗り込みます。
わたらせ渓谷鐵道の上神梅駅
わたらせ渓谷鐵道沿線に12ある無人駅の一つ、大正時代の古い駅舎が現役の上神梅駅です。趣のあるレトロな木造駅舎はローカル線の旅ならでは。駅舎およびプラットフォームは、国の登録有形文化財に指定されていて、静かな時間が流れています。
同駅にはトロッコ列車は止まりませんので、列車で訪れる場合は大間々駅から普通列車を利用しましょう。
地元の小学生の絵や習字が額装された駅構内
3.「神戸駅」で花桃観賞と駅弁を楽しむ
上神梅駅から普通列車に乗り込み向かうのは、「神戸(ごうど)駅」。今回は大間々駅でトロッコ列車を下車しましたが、そのまま乗車していれば、大間々駅から2つ目の停車駅にあたります。車窓から見える景色は渓谷らしい野山の情景に。神戸駅に向かう途中、トンネルを抜けた左側に小さな滝が見えました。
神戸駅までに見られる美しい小さな滝
トロッコ列車では車内アナウンスがあり、滝を見るためにスピードを落としてくれます。どこか哀愁を抱かせる風景が通り過ぎていき、神戸駅に到着。上神梅駅同様、レトロさを感じさせます。
神戸駅舎
「花桃(はなもも)」が2000年に植えられて以来、神戸駅の名物となりました。桜とほぼ同じタイミングで咲くそうで、満開時の見応えは言わずもがな。思わずカメラを構えてしまう、フォトジェニックなスポットです。
美しい花桃とトロッコ列車(写真提供:わたらせ渓谷鐵道)
桜並木を駆け抜ける花桃号(写真提供:わたらせ渓谷鐵道)
列車のレストランで駅弁を味わう
日本の列車旅ならではの楽しみといえば、駅弁は外せません。わたらせ渓谷鐵道で有名な駅弁は、「トロッコ弁当(1,000円)」「やまと豚弁当(1,100円)」「山うなぎ弁当(1,080円)」以下の3つ。神戸駅では「トロッコ弁当」と「やまと豚弁当」が食べられます。
わたらせ渓谷鐵道の「やまと豚弁当(1,100円)」
今回はやまと豚弁当を注文。 豚の焼き肉に醤油ダレがかかっていて、パンチが効いてご飯が進みます。マイタケが歯ごたえと風味をプラス。ご当地メニューが、より一層旅気分を盛り上げます。
お弁当とセットで路線図入りの手ぬぐいがついてくるのがツウ好みの計らいですね。
駅弁は原則予約制。あらかじめ電話で予約し、神戸駅に停車したときにお弁当を購入し、受け取ります。
ただし、例外として列車「トロッコわたらせ渓谷3号」だけは大間々駅〜神戸駅間で駅弁を車内販売しているそう。数に限りがあるため、こちらも電話予約がベターです。詳細はこちらを参照ください。
ちなみに、神戸駅舎には古い東武鉄道の車両をそのまま再利用した「列車のレストラン清流」もあり、引退した車両の中で駅弁をいただくことができるんです。ここでは、予約せずとも駅弁を購入できます。
駅舎併設の「列車のレストラン清流」
「列車のレストラン清流」内観
レストランに使われている車両は、東武鉄道で使われていた1720系DRCのモハ1724とモハ1725です。懐かしい電車で食事ができるとは、鉄道好きでなくともワクワクしますね!
4.「ダム湖百選」に選ばれた草木湖周辺を散策しながら次の駅へ
お腹もふくれたところで、ここからは体を動かしながら、自然の中を散策していきます。目指すは、次の駅「沢入駅」まで。2時間ほどで、「神戸駅〜琴平トンネル〜わらべ橋〜東運動公園〜童謡ふるさと館〜草木ダム〜沢入駅」のルートを辿っていくことができます。その見どころを簡単に紹介していきます。
神戸駅を出てすぐの場所に広がる「渡良瀬川」
神戸駅前に広がる「渡良瀬川(わたらせがわ)」沿いに歩みを進めながら、自然豊かな景色を楽しみます。
琴平トンネル
1973年まで列車が通っていたという琴平トンネルは、神戸駅から徒歩約25分。昔、列車が走っていたところを歩くというだけで、心が躍りますね。
わらべ橋から東運動公園の北側にかけては、美しい桜並木が広がっています。
橋の上から桜の姿を楽しむことも(写真提供:みどり市産業観光部観光課)
歩みを進めていくと、「草木ダム」に到着。長時間歩くのが難しいという人は、路線バスを使っての移動もおすすめです。渡良瀬川を堰き止める役割をしている草木ダム。春にはダム周辺に桜が咲き、桜越しに広大なダムの姿を見ることができます。
草木ダム(写真提供:みどり市産業観光部観光課)
草木ダムから30分ほど歩いたところには、事故により手足の自由を失った画家、星野富弘氏の作品を展示する「富弘美術館」があります。この美術館は1991年に、星野さんの故郷であるこの地に開館しました。
※公式HPはこちら
富弘美術館
さらに足を伸ばし、国民宿舎の「サンレイク草木」の手前の桜並木まで歩いてみるのもおすすめです(富弘美術館前に広がる草木湖の反対岸に位置しています)。
第一渡良瀬川橋梁
歩みを進めていくと、第一渡良瀬川橋梁に差し掛かったところで、草木湖が視界に飛び込んできます。ここは絶好の撮影ポイントで、この橋を走り抜けるわ鐵の写真を目にしたことがあるという人も多いでしょう。草木湖沿岸は日光に向かうドライバーが一休みする場所。大々的な観光地というわけではありませんが、紅葉が美しい場所として知られています。静かな場所でのんびり散策してみてはいかがでしょうか。
沢入駅
徒歩で約2時間、沢入駅に到着しました。長いハイキングコースですが、大自然の清々しい空気を味わいながら歩けば、日常の喧騒から離れリフレッシュした気分に。沢入駅はログハウス風の小さな駅で、渡良瀬川に向かって小さな公園「沢入駅ふれあいパーク」も整備されています。
5. 列車に乗り込み産業遺産「足尾銅山跡」へ
沢入駅から列車に乗り込み、わたらせ渓谷鐵道沿線で全国的な知名度の高い「足尾銅山跡」へ。沢入駅から2つ目の「通洞駅」で下車します。
ちなみに、わ鐡沿線の車窓からの眺めがもっとも美しいのは、沢入駅から隣駅「原向駅」の間といわれています。ぜひ車窓からの景色に目を凝らしてみてください。
今回訪れる「足尾銅山」といえば長い坑道で有名な鉱山ですが、現在は閉山されています。今では坑道を見学しながら、歴史を学べるつくりになっています。
通洞駅までの景色
列車が通洞駅に近づくと、左側の窓いっぱいに鉱山施設(通洞選鉱所)が。その迫力に圧倒されます。右手には、屋根が崩れた通洞動力所や通洞変電所を確認することができます。
通洞駅
やがて列車は通洞駅に停車。ここは足尾町の中心街に近く足尾銅山観光の最寄り駅で、銅山が閉山するまでは大勢の人が住み、賑やかだったそうです。
往時に思いを馳せながら、銅山観光に向かいます。駅を出たら右に進み、徒歩約6分で足尾銅山跡に到着します。
足尾銅山入り口ゲート
足尾銅山にはとても分かりやすいゲートが設けられているので、すぐに見つけられるはず。
ログハウスの奥にはトロッコ乗り場があります。トロッコは、鉱山の通洞坑(作業トンネル)向けの小型の車両。トロッコに乗り込んで、通洞坑に入っていきましょう。
トロッコで通洞坑へ
坑道は全長1,234kmで上に20番、下に16番の多重構造ですが、現在は閉山しているため、通ることができる部分はわずか。約6分で終点に到着し、ここから先は歩いて進みます。
坑道内はひんやりと冷たい空気が漂います。そこかしこに採掘作業を再現したマネキン人形が設置され、臨場感たっぷり。
坑道内で働く人を再現
ふんどしを締めた江戸時代から、ヘルメットを身に付けた昭和まで。400年間稼働していたという銅山の各時代の様子がよく分かります。
休憩する坑夫の様子
坑道の散策は20分ほどで終了。最後に映画の上映やジオラマ、鉱石の展示などがあります。
足尾銅山で採掘された鉱石
時間に余裕があれば、通洞坑周辺に点在する銅山の遺構もぜひ見学してくださいね。
6. 終点の「間藤駅」へ
わたらせ渓谷鐵道の間藤駅
通洞駅から再びわ鐵に乗り込んで、終点の間藤(まとう)駅までやってきました。「カモシカの見られる駅」ともいわれており、運が良ければカモシカに会えるかも知れません。
間藤駅の列車止め
この列車止めを見ると、「最果てに来た!」ということを実感しますね。
間藤駅は栃木県日光市に位置し、駅前のバス停から日光駅行きのバスが出ています。わ鐵で桜並木を楽しんだ後は、そのまま日光観光に行くのもおすすめです。
先ほど立ち寄った通洞の町からも日光方面へのバスが出ており、降車して日光東照宮や中禅寺湖へ向かう方が多いようです。
7. 水沼駅でいただく「山うなぎ弁当」も絶品!
わたらせ渓谷鐵道沿線の駅紹介は、間藤駅で終了。ですが、上り列車で桐生駅に向かう途中、「水沼駅」で下車してみるのもおすすめです。水沼駅は、ホームに温泉があるという全国的にも珍しい駅なんです。
水沼駅でいただける「山うなぎ弁当」
水沼駅では、名物「山うなぎ弁当」がいただけます。ご飯のうえに山芋と鶏肉がのっており、特製のタレで味付されています。テイクアウトして列車でいただくのもいいですね。
春の列車旅で満開の花を!
哀愁感じるレトロな駅が点在しているわたらせ渓谷鉄道の沿線。気になる駅はありましたか?
トロッコ列車に乗って旅をスタートさせれば、ノスタルジックな気分に存分にひたれること間違いなし!春の景色はもちろんのこと、秋の紅葉シーズンにも訪れたい、自然あふれる沿線です。