日本で伝統的に食べられている発酵食品「納豆」。
近年、納豆は栄養価や健康効果の高さから、日本のスーパーフード(※)であると認められ、世界中で注目を浴びています。
そこでこの記事では、元研究者でもある納豆大好きライターが、日本の納豆の栄養価や健康効果などを、歴史をまじえながらわかりやすく紹介していきます。
※スーパーフードとは、「栄養バランスがよく栄養価が高い食品」または「一部の栄養・健康成分が突出して多く含まれる食品」を指す。参考:スーパーフードとは|(一社)日本スーパーフード協会
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納豆はどうしてすごいの?
スーパーフードとされる日本の納豆。では具体的に、どんな点で優れているのかについて説明していきます。
身近な納豆でも、意外と知らなかったことが紹介されているかもしれませんよ。
納豆と日本人
さまざまな時代の人々に親しまれてきた日本の納豆
日本の伝統的な納豆は、煮た大豆を納豆菌の力で発酵させて作るもの。
この製造方法が確立されたのは大正時代に入ってからですが、それ以前にも、納豆は日本国内各地で作られ、人々に親しまれてきました。
これには、納豆に含まれる成分が解明されるよりも前から、人々が経験として「納豆を食べると体の調子が良くなる」と知っていた背景があると考えられています。
納豆のすごいポイント
納豆には体の調子を整える成分がたくさん
納豆に含まれる納豆菌。実は、納豆菌は大豆の栄養を使うことで、ビタミン類やナットウキナーゼなどのさまざまな健康成分を作り出すことができます。
その際、納豆には大豆由来の成分に加え、納豆菌が発酵する際に作り出す成分も含まれています。
納豆を食べると、大豆に元々含まれるレシチンやサポニン、イソフラボンなどの健康成分とともに作り出されたさまざまな成分が、私たちの体の調子を整えてくれるのです。
納豆は特殊な加工物?
納豆以外の日本の伝統発酵食品。みそ、しょうゆ、さけかすなど
納豆菌の大きな特徴は、熱にとても強く、雑菌を含めたほかの多くの菌よりも増殖速度が速いこと。
そのため、ほとんどの発酵食品は、塩分や糖分などで雑菌繁殖を抑制しながら発酵させる必要がありますが、納豆はこの限りではありません。
こうした納豆菌の特徴のおかげで、納豆は塩を含まない「無塩(むえん)発酵食品」として、「血圧上昇への影響が低く健康に良い」といわれてきたのです。
納豆の栄養成分と健康成分
ここからは、大豆と納豆菌が合わさることで生まれる、納豆の栄養成分と健康成分について紹介していきます。
ちなみに栄養成分とは、五大栄養素「たんぱく質」「脂質」「糖質(炭水化物)」「ビタミン」「ミネラル(灰分)」のこと。
健康成分とは、基本的には五大栄養成分以外の健康に寄与する成分を指します(栄養成分も一部含みます)。
納豆の栄養成分
納豆菌がもたらす栄養成分は、食物繊維、ビタミン類、ミネラル分(カリウム、マグネシウム、セレン、亜鉛、モリブデンなど)など。
食物繊維は腸内フローラの改善に役立ち、ビタミン類、ミネラル分は正常な代謝をおこなう働きがあります。どれも健康維持には欠かせない栄養成分ですね。
納豆から得られる栄養素の数々
また、納豆菌が作り出す酵素によって大豆のたんぱく質が分解され、たんぱく質の吸収性が上がるため、納豆は栄養補給にもおすすめ。
煮た大豆のたんぱく質の吸収性は65%程度なのに対して、納豆では80%以上になることからも、納豆菌のすごさが分かります。
納豆の健康成分
もともと大豆に含まれるサポニンやポリアミン、レシチンなどの健康成分に加え、納豆菌が作り出すのは、ナットウキナーゼ、ジピコリン酸、ビタミンK2、レバン、ポリガンマグルタミン酸、ビタミンB2、ビタミンB12、大豆ペプチド、葉酸など。
納豆から得られる健康成分の数々
サポニンやレシチンには脳機能改善効果が、ナットウキナーゼには血栓溶解作用が、ジピコリン酸には殺菌作用が、それぞれ備わっています。
こうしてみると、納豆には、納豆菌が作り出すさまざまな健康成分が凝縮されていることがよく分かりますね。
納豆の健康効果
納豆に含まれる成分が分かったところで、ここからは納豆に含まれる健康成分のはたらきと、納豆を食べることで期待できる健康効果について紹介していきます。
血栓を溶かす「ナットウキナーゼ」
納豆にしか含まれないナットウキナーゼは、血栓溶解作用があり、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症を防ぐ効果が期待されています。
ナットウキナーゼは、1980(昭和55)年、倉敷芸術科学大学の名誉教授である須見洋行(すみひろゆき)博士によって発見されました。
当時シカゴの研究所で血栓症と酵素の研究をしていた須見博士は、納豆のネバネバと血栓に関連性があると考え、実験の結果偶然ナットウキナーゼを見つけたそうです。
納豆を食べると、納豆に含まれるナットウキナーゼで血栓予防に
ナットウキナーゼには、血栓症の治療薬として使われるウロキナーゼという酵素と同等か、それ以上の血栓溶解作用があることが分かっています。
偶然発見されたナットウキナーゼが、健康維持に大切な存在とされ、現在世界中で健康食品として販売されているのは、なんだか面白いですね。
アンチエイジングの「ポリアミン」
ポリアミンは豆類やキノコ類、小魚、納豆などに豊富に含まれる、アンチエイジング効果を持つ成分です。
ポリアミンは細胞が生きるために必須の成分であり、加齢とともに減少することが分かっています。
ポリアミンのアンチエイジング効果発見は、埼玉県央病院病院長の早田邦康(そうだくにやす)教授の研究によるもの。
実験のイメージ
2009(平成21)年に発表された論文によると、大豆より2~3倍多くポリアミンを含むえさを長期間与えたネズミは、寿命が延び、病気の進行も緩やかだったそうです。
また、同期間にポリアミン抜きのえさを食べていたネズミと比べ、ポリアミンを含むえさを食べていたネズミは、毛艶も毛並みもきれいで、そのほかの検査でも老化が抑制されていることが確認されました。
こうした実験により、ポリアミンがネズミの寿命を延長することや、アンチエイジング効果を示すことが確認されました。
また、健康な高齢男性が納豆を毎日食べると、血中のポリアミン濃度がほとんどの人で増加することも、研究によって明らかになっています。
このことから、ポリアミンを豊富に含む納豆を毎日食べることも、アンチエイジングにつながると考えられます。
はつらつとしたシニア生活に、納豆が役立つ
食中毒予防の「ジピコリン酸」
ジピコリン酸は納豆菌の仲間が作る抗菌作用をもつ成分で、強い抗菌力が特徴です。
有名な話で「杜氏はお酒の仕込み期間中は納豆を食べることを禁じられる」というものがあります。これは、ジピコリン酸が、酒の発酵に必要な麴菌を殺してしまうため。
納豆は抗菌にも効果的
またジピコリン酸には、食中毒の原因となる大腸菌「O-157」の殺菌効果があることも分かっています。
実際に戦前の日本海軍では、赤痢菌やチフス菌による食中毒の予防のため納豆がよく食べられており、その効果が確認されたという記録も残っています(※)。
現在でも、海外出張する自衛隊の常備食として、フリーズドライの納豆が指定されています。このことからも、納豆が含むジピコリン酸の大きな健康効果がうかがえますね。
※参考:金澤醫科大學十全會雜誌39巻7号 p.1660-1664,1934、伊丸岡政彦「青森県の納豆の歴史-有限会社かくた武田-」青森県立郷土館研究紀要 第39号 p.127-142, 2015
出血&骨折予防の「ビタミンK2」
ビタミンK2は納豆に多く含まれる、ビタミンKの1種。
ビタミンK2は血液凝固に関連するはたらきもあり、出血予防効果が期待できます。そのため、新生児には必ずビタミンK2シロップが投与されます(※1)。
また、ビタミンK2には骨密度を高めるはたらきもあり、骨粗しょう症の治療薬としても使われます。
納豆食による実験結果のイメージ
2001(平成13)年、東京大学大学院の医学系研究科老年医学講座、金木正雄先生は、納豆のビタミンK2が骨折予防に効果があると発表しました(※2)。
金木先生は実験により、納豆食が多い東京の女性は、納豆食が少ない広島の女性よりも、血中ビタミンK2濃度が5倍ほど高いことを発見しました。
また金木先生は、東日本では西日本よりも大腿骨や頸部の骨折が少ないことから「納豆のビタミンK2が骨折予防に効果がある」とも推察。
こうした金木先生の考察は、後年の国内の納豆研究の場でも支持されています。
ちなみに、野菜に含まれるビタミンK1などと比べると、ビタミンK2は効果も高く、体の中で活発にはたらきます。ビタミンKを取るなら、納豆を食べるのがおすすめですよ。
※1…腸内細菌のはたらきで作られるビタミンK2が、新生児では不足するため、出血による死亡を避ける目的でビタミンK2を投与する
※2…参考:M Kaneki et al. (2001) Nutrition. Japanese fermented soybean food as the major determinant of the large geographic difference in circulating levels of vitamin K2: possible implications for hip-fracture risk, 17(4), 315-321, doi: 10.1016/s0899-9007(00)00554-2.
そのほかの納豆の健康効果
そのほかの健康成分と、納豆を食べることで期待できる健康効果を簡単に紹介します。
レバンとポリガンマグルタミン酸
腸管免疫を刺激し、アレルギーを低減させる効果があります。
ビタミンB2
エネルギー代謝や物質代謝に関与するため、ダイエットや美肌などの効果が期待できます。
ビタミンB12と葉酸
赤血球形成や脳神経の形成に必須な成分です。
セレンや亜鉛などの微量元素
代謝に必須の成分であり、味覚や免疫を正常に保つはたらきがあります。
納豆を美味しく食べるアイデア
ここからは、栄養たっぷりの納豆を美味しく楽しく食べるアイデアを紹介していきます。
日本各地の特色ある納豆、お店で食べられるユニークな納豆メニュー、自宅で作れるアレンジレシピ……。
興味がわいたら、ぜひ納豆を食べる際の参考にしてくださいね。
郷土の文化から生まれた:ご当地納豆
茨城県のご当地納豆、塩味の乾燥納豆「ほし納豆」。糸は引かず、ガリガリとかみ砕いて食べます
スーパーで目にすることが多い、白い発泡スチロール入りの納豆は、一般的には「糸引き納豆」と呼ばれるもの。
そんなポピュラーな「糸引き納豆」以外にも、納豆にはさまざまな種類・形状があるのをご存知ですか?
納豆の生産量トップは茨城県ながら、実は昔から現在に至るまで、日本全国で特色ある納豆が作られています。
地域の文化と密接に結びついた納豆を通して、ぜひ現地での生活や納豆の奥深さを感じてみてはいかがでしょうか。
名産地・茨城で食べる:ユニークな納豆料理
納豆が苦手な人にもおすすめの「納豆ハヤシオムライス」(写真提供:instagram shiori.さん)
「納豆はごはんと食べるもの」、なんとなくそう思っている人は多いのではないでしょうか。
国内での納豆生産量トップである茨城県、その中心・水戸市では、「当たり前」を覆すユニークな納豆料理を食べることができます。
モデルコース内では、納豆がけのとんかつや納豆入りのオムライスが食べられるお店を紹介。茨城観光の際にはぜひお立ち寄りください。
苦手克服や食べ飽き防止に:納豆レシピ
納豆を使った山形県の郷土料理「ひっぱりうどん」(写真:農林水産省Webサイト)
健康に良いとはいえ、いつも同じ食べ方では飽きてしまいますし、そもそも納豆が苦手な方はなかなか手が出しづらいと思います。
そこで、納豆を使ったご当地の伝統料理や、納豆大好きライター考案の納豆アレンジなど、納豆の食べ方に幅をもたせるレシピを紹介。
納豆の独特の匂いや風味をおさえた商品も掲載しているため、納豆嫌いを克服したいと考えている方はぜひお試しを。
どのレシピも特別な材料は必要ないため、思い立ったときに作りやすいのがポイントです。
納豆で美味しく健康に
納豆の健康効果やその発見の流れを紹介してきました。
塩を含まない発酵食品である納豆は、栄養豊富なうえ、高血圧を引き起こす心配も少ないスーパーフード。
ぜひ継続して納豆を食べてみましょう。
Text:額田善之(ぬかだ・よしゆき)
北海道と東北以外の県はすべて旅行した旅ライター。オートバイでツーリングをして名物や銘菓を食べるのが趣味のアウトドア派。岡山県出身。納豆の健康効果を紹介する個人ブログ「納豆人甚Gene」を運営中。健康や旅行、武道、キャンプなどのSEOライティング執筆を受託。少林寺拳法有段者で「武道・道場ナビ」でも執筆中。
Edit:SakuraTakahashi
Photo:PIXTA/いらすとや/Canva
参考文献:
須見洋行『納豆は効く−解明された納豆パワーの秘密−』(ダイナミックセラーズ出版/2010年)
須須見洋行『奇跡の納豆パワー』(日東書院本社/2013年)
参考:
日本ナットウキナーゼ協会「納豆菌」/有限会社羊蹄食品公式サイト「納豆の製造革命 北大農学部」/納豆WiKi「松村博士」/日本納豆情報PRセンター公式サイト「納豆百科事典 縄文人も知っていた納豆の味」/日本納豆情報PRセンター公式サイト「納豆百科事典 「栄養」と「機能性物質」を含んだ健康食」/Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi,高ポリアミン食による哺乳類のアンチエイジング61(12), 607-624, 2014/商標結審データベース/青森県の納豆の履歴「有限会社かくた武田」/Japanese fermented soybean food as the major determinant of the large geographic difference in circulating levels of vitamin K2:Possible implications for hip-fracture risk. Kaneki et al.,Nutrition,2001,17:315–321/納豆の歴史と機能成分 日本味と匂学会誌 Vol.14 No,2 PP.129−136 2007 年 8 月/日本食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 16(4), 221-230, 1999/納豆人甚Gene「【納豆おすすめレシピ】健康効果を活かしたおやつを紹介!」